Episode 76:あたたかいハグ
みなさんおはこんにちばんわ
第76話になります
それでは続きをお楽しみください
暫くして二人とも落ち着いた頃、マトハは男の子に謝ると同時にずっと隠してきたことを話し始めた。
「ボクはキミが住む村でずっと昔に生きていた人間で、キミの遠いおじいちゃんに当たる。ボクが幼い頃、まだ化物と人間が一緒に暮らしていた頃。誤って井戸に落ちたところを助けてくれたのがゼロス。今の王様なんだ」
王の間で王が言っていたことだ。だが、マトハは更に自身が男の子の先祖であることを語る。これには男の子と王以外の皆が驚いた。シンと静まり返った気まずい空気に押し黙り、王に視線を送るマトハ。王もまたマトハを見て続けるように促した。
「でも、汚い大人たちは化物がボクを襲ったと言い出して、助けてくれたゼロスも他のみんなも森の奥に追い込んだ。そしてあの噂が生まれたんだ。ボクは化物のせいではないことを必至に伝えたけど、信じる人はいなかった」
マトハが井戸に落ちる原因を作ったのは紛れもない一人の男性だ。マトハの父親だ。だが、自分が化物たちと遊ぶマトハを無理やり連れて帰ろうとして井戸に落ちてしまったという事実を周りの村人に知られてしまうのを恐れたそいつは、この一連の事件を化物のせいにして村中に広めたのである。
噂というものは例え捻じ曲げられていたとしても、それが事実であるのかは伝わらない。方や村の大人。方や村の子供。子供と大人であれば当然大人の意見の方が尊重されてしまう。子供が言うことなどただの妄想や遊び程度にしか思わないのである。
更にその場所が悪かった。マトハが暮らしていた村はド田舎の小さな村だ。村人同士の団結力はかなり強く、噂も広まりやすい状態にあった。相手は化物という自分らとは異なる生物。理由はそれだけで十分だった。十分に嘘の情報を信じてしまう環境にあったのである。
「ボクが言うことなんて誰も信じてくれない。村の人たちに嫌気が差したボクはオビリオンを訪れ、住むようになった。ボクを探すためか、あるいは興味本位か、大人たちがオビリオンを訪れたけど、皆死んでしまった。でも、ボクは幼かったから深い闇を抱えていなくて死ぬことはなかったんだ」
マトハがため息をつく。オビリオンでは純粋無垢な子供であれば死ぬことはない。その身に宿した闇が大きい大人がその身を滅ぼしていくのだ。
とはいえ、マトハは闇を抱えていた。死ぬことはなくてもその闇は徐々にマトハを蝕んでいた。それが完全な闇となるまでに時間があっただけに過ぎない。
「ボクがある程度大きくなって過去のことは忘れて、もう一度人間界での暮らしを考えた頃、前王様のクルノースが死んで、ゼロスが王様になっていたんだ。ゼロスは反対した。長い間消えていた人間が何事もなかったかのように現れたら人間たちが吃驚するだろうって。でもボクは化物が悪者ではないことを伝える決心をしてたから、ゼロスの反対を押し切って人間界へ行ったんだ」
マトハは身も心も成長していた。村の人間に対して『許す』という余裕が生まれるほどに成長していた。マトハは望んでいた。人間界に行き、化物が敵ではないこと、昔みたいに共存したいという思い、それらを伝えてまた昔のように人間と化物が互いに手を取り合うその時を夢見ていた。
しかし――
「成長したボクの意見に村の人たちは、一度は耳を傾けてくれたんだ。でも、その後たまたま起きた天災を前に、みんなはすぐに化物の仕業だと言ってきた。結果的に化物を悪く言われ闇を更に抱え込むことになってしまったんだ。その闇が『カオス』だ。深い闇を背負ったボクはまた、オビリオンへと逃げ込んだ。でももうボクの身体はオビリオンの環境に順応できなくて、死を迎えたんだ」
マトハは必死に訴え続け、何とか大人たちを説得できた。だが、噂というのはすぐに払拭できるものではない。一度消え去ったものであっても、その根の奥の深い部分ではまだ確かに存在している。いずれそれは別の問題と結びつけられて再燃してしまうものなのだ。小さな村で発生した、天災というたまたま訪れた脅威が、化物の噂と結びつけられてしまい再燃してしまったのだ。
「でも、その時イレギュラーが起きた。そのまま死ぬのではなく、カオスとボクが分かれてしまったの。カオスは大量の闇を抱えたままオビリオンを彷徨う化物となり、ボクはその個体で闇を抱えた化物『デドロ』となってしまった。デドロはボクから生まれたんだ。だから、終末喰滅の最後のデドロ――クロはこのボクの中に残っていた最後の闇だったんだ」
デドロはマトハから生まれた。正確にはマトハ本体に根付いた闇がデドロの正体である。その闇が他の死んでいった化物や人間の闇と影響し合い、その個体を増やしていたのである。
しかし、マトハには闇の他にまだ優しさが残っていた。その闇と優しさの双方を持ち合わせたデドロが『クロ』である。デドロでありながら優しさが混じり合った存在は、男の子に触れることによって、徐々に優しさを取り戻していったのである。
闇だけを抱えた『カオス』。マトハの身体に根付いた闇の変異体『デドロ』。その中でも優しさを持ったマトハの本当の心とも言える存在『クロ』。この三匹が母体であるマトハから生まれ、オビリオンを侵食していたのである。
「全部……ボクのせいなんだ。ごめんなさい……」
マトハはまた深々と頭を下げた。一方で男の子はきょとんとしながら聞いていた。しかし、マトハが謝ると男の子は微笑んで、ギュッと抱きしめた。
男の子にとっては難しい話だったのだろう。だが、いずれ解る時がくる。マトハはそう信じて、あたたかいこのハグに応えるように男の子の背へ手を回し、暫しの余韻に浸ることにした。
読了お疲れ様です
いかがでしたでしょうか
今回の話は今までの謎をグッとまとめた真相パートでした
殆どが話の途中に出てきたものでしたが、新しい情報も含まれていましたね
マトハは男の子の遠い遠いおじいちゃんに当たる人物でした。これ途中で分かった方いました?
皆さん「え!?」ってなったと思うんですよね。もし、これ読んで予想外の展開だったと思った方はコメント下さいな。
もちろんそれ以外のこともコメント募集しておりますので、よろしくお願い致します。
そうそう。話変わりますけど、噂って簡単に立つのに、なかなか消えないですよね。
根も葉もない噂なのにそれを信じてしまったり、面白半分でそれに乗っかる人間って本当に多いですよね。一度消えてもまた同じようなことがあるとすぐに結び付けて再燃したりとか。人間って、醜いですね……。
一人の人間を単なる噂で追い込んでしまわないよう、皆さんちゃんとソースをぶっかけましょうね。じゃなくて、ソースを調べましょうね(←台無し
さて、ようやくここまでたどり着きました。
ゴールはもう目の前です。果たして男の子は無事に帰ることができるのか!?
続きは第77話で!!(←ラッキーセブンや!
それではまた次回お会いしましょう!!