Episode 72:闇の正体
⚠️残酷描写が含まれる回です。心臓の準備を整えて闇を抱えずに読んで下さい。カオスが闇を奪いに来ますよ……
みなさんおはこんにちばんわ
第72話になります
それでは続きをお楽しみください。
カオスは黒いオーラに包まれた。そのオーラはさなぎのような形になり、パキリと音がして割れる。その割れ目からおぞましい空間が姿を現した。虹色の不規則な模様が生まれ、その模様が漂いながら別の形になる。そんな“カオスな空間”が広がっていたのだ。
その空間の中に黒い煙が漂っている。実体はない。黒い煙は漂いながらそれらしき姿を形成しているだけだ。一人の細い女性のような姿に、一人の大柄な男性のような姿。それらは空間の中で不気味に揺らめいていた。辺りがその空間に飲み込まれる。
黒く渦巻くものは上空に開いた穴に少しずつ吸い込まれていく。人間界に通じる穴に確実に吸い込まれていく。空間の中に声が反響する。
「こレが、闇の正体ダ。闇は即チ混沌。混沌は即チ空の集合体ト負の集合体。生きル者の精神に備わっタ不純物。さァ、オ前の混沌をこチら二渡セ!」
カオスの声は女性の声と男性の声が入り混じり、不協和音を奏でていた。ファイの右腕が男の子に向けられ黒い光線が放たれた。男の子はピースを胸に当てて祈る。金色のガラスのような盾が男の子を守るように展開される。
パリン。何かが割れた音。男の子が吹っ飛んだ。一瞬で金色の盾が割れて弾け飛んだのだ。蜘蛛のようにファイが地を這い、マクロンがその後を追うように浮遊し、男の子との間合いを詰めてくる。
男の子はもう一度祈った。弱弱しく金色の光が波動のように広がる。ファイが後退しマクロンが盾となるように前へ出た。波動がマクロンの身体に当たり、かき消されたと同時に、マクロンが後退しファイの方が左腕を伸ばして男の子をなぎ払った。
とてつもない力だった。男の子が飛んでいく。男の子の頬がパックリと斬れた。そこから血が溢れ出る。男の子は恐怖していた。胸がざわつく。モヤモヤする。男の子はぶんぶんと首を横に振りピースを握り締めた。ピースが弱弱しく光る。
「まダ抵抗すルのカ。オ前に勝目はなイ。諦めロ」
カオスが言う。男の子は首を横に振った。
「嫌だ! 約束したもん! かならず救うって約束したんだもん!」
男の子は祈る。マトハを助けて。そう祈った。ファイが近づいてくる。ファイが男の子に飛びかかろうとした。男の子の周りにドーム状のバリアが展開される。
ファイはバリアに張り付き、ガパリと大きな口をあけてバリアを食い破ろうとしていた。おぞましい姿だった。ずらりと並んだ歯がバリアに突き立てられビシビシとヒビ入る音が鳴り響く。
男の子は恐怖する。光が弱くなっていくにつれてバリアも薄くなっていく。そしてすぐに耐えきれなくなりバリンと大きな音を立てて弾け去った。男の子がその衝撃で吹っ飛び、地面に叩きつけられた。その途端――
――メギィッ!
「ヴあぁアアアあああァァッあああッあぁぁあああッ!」
男の子が言葉にならない声をあげて泣き出す。左肩から地面に着いてしまい脱臼していた。ぷらんと脱力した左腕はもう使えない。男の子は猛烈な痛みと恐怖で押しつぶされそうになっていた。
「恨メ、憎め、憎悪しロ。そシて、お前ノ闇をヨコセ!」
男の子は右手でピースを握り締めた。光が大分弱くなっている。
「マだ抗うノか! イい加減ニしロ!」
カオスが怒鳴り散らすと、光はある一点に集まっていった。ファイがその光に向かって黒い光線を放つ。黒い光線は光を包み込みその力を押さえ込んでいき、包まれた光はどんどん小さくなっていった。
男の子はもう動けなかった。声を出すことも、指一本動かすことも、息をすることさえも難しかった。カオスは高らかに笑っている。女性の声と男性の声の不協和音を奏でながら高らかに笑っている。
「モう、イいダろウ。諦めロ」
カオスが男の子を取り込もうと近づく。男の子が持っていたピースが地面に転がっている。もう光っていないし声も聞こえてこない。ファイがそれを踏みつけた。マクロンが男の子に手を伸ばし頭を掴んだ。マクロンの手は男の子の頭を片手で包み込めるほど大きかった。
男の子は既に泣くこともできなかった。止めてと懇願することも、頭を振ってマクロンの手を振りほどくことも、ただただ首の据わらぬ赤ん坊のように項垂れることしか彼にはできなかった。
――死ンだカ……。抵抗シなケレば、傷付かズに済ンだもノを
男の子は黙ったままだ。
――下らナい時間だっタ
男の子は黙ったままだ。
――こレで、終わル。人間界も、こノ世界も
男の子は黙ったままだ。
――後に残ルのは、ボクト、わたしと、選バれタ者だケ
男の子は右手の人差し指をぴくりと動かした。
――これデいいンだ。こレで……
男の子は右手の中指をぴくりと動かした。
――でも……
――ドウシタ?
ファイとマクロンは自問自答をしている。
――ざわつくのは何故?
――何ガダ?
ファイとマクロンは自問自答をしている。
――彼はまだ生きているの?
――死ンデイル
ファイとマクロンは男の子を見た。
――本当に?
――アァ、本当ダ
――それなら、早く
『食べテしまオう!!』
ファイとマクロンがそれぞれ男の子の足と頭を持ち、大きな口を開けた。
読了お疲れ様でした
いかがでしたでしょうか
カオスは空を司るファイと負を司るマクロンという二つの精神から成っていた。
これは闇だ。生きる者が持つ精神に宿った闇だ。
男の子はこの闇に打ち勝てるのか……
続きは73話で!!
それではまた次回お会いしましょう!!




