Episode 71:カオス王
みなさんおはこんにちばんわ
第71話になります
それでは続きをお楽しみください!
カオスはふよふよと力なく浮いていた一つ目の箱型の化物を手に取り、その化物に向かって笑いかけた。
「オビリオンの皆、聞こえているかな。この時をずっと待っていたんだよ。人間を、人間界を破壊できるこの時を」
カオスが笑っている。
「気付いていないと思うけど、いいや、気付かないフリをしているのかな。皆、心の奥底では人間を恨んでいる。ぼくはその恨みを皆に代わって実現させるんだよ。ゼロス王の時代は終わった。今日からこのカオスが王となり、神となるんだ。アハハハハハ。救世主だよ! 皆が望んでいた救世主さ! アハハハハ!」
狂っていた。カオスは狂っているように笑っていた。あちらこちらから黒いものが飛んでくる。それらはすべて黒く渦巻くものに吸い込まれていった。
男の子は歩き始めた。山を登り始めた。山頂に行くために。人間界を、オビリオンを、マトハを救うために。男の子はクロをショルダーバックの中に入れて先を急いだ。道中には幾匹ものデドロが漂っていた。男の子に見向きもせず山を登っていくデドロたち。男の子は先を急いだ。
急斜面が見えてくる。男の子は足に力を入れて踏ん張りながら山を登っていく。地面が大分湿っており、ぬかるんでいる場所や滑る場所もある。男の子は何度も滑り落ち、服や身体をドロドロにしながらも登っていく。
男の子の腕は、足は、身体は、限界が近かった。足を上げるともう片方の足が痺れだす。手をかけるとその手が痺れだす。滑る。ぬかるみに突っ込む。ドロドロになる。それを何度も繰り返しながらどんどん登っていく。
もう少し、あと少しで頂上だ。そのとき空気が揺れた。地面が揺れた。体勢を崩してズルズルと滑る。黒く渦巻くものの上にポッカリと穴が開いていた。カオスが笑っている。
「時は来た。目覚めろ器ども。人間界への復讐の刻だ」
カオスがそう言うと黒く渦巻くものからニュッと足が生え研究所の方へ伸びていく。
研究所にあったカプセルが順に割れていき、精神を分離させられた人間の器が外に出た。それらは最初、生まれたての小鹿のように立つことさえできなかったが、器の胸に空いた穴に黒い足が入り込むと操り人形のように浮遊しながら奇妙に研究所の外へと出て行く。
「さぁ、こっちへおいで。ぼくと一緒に人間界を滅ぼそうじゃないか」
カオスが言うと研究所の方から器が飛んできた。それらが黒く渦巻くものに飲まれていく。男の子は山を登ることを再度試みた。最後の一段に手をかけてよじ登る。そこには無慈悲に器を飲み込んでいく黒く渦巻くものとカオスがお兄ちゃんを携えて浮いていた。
「丁度いいところに着たね。その目で見届けるといい。人間界が壊れていく様をね!」
カオスがそう言うと黒く渦巻くものから足が伸びてきて男の子を捕まえようとした。
「坊や。強く想う、のよ。決心を、強く、強く、掲げるの……」
ピースから微かに声が聞こえる。イアノスの声だった。とても苦しそうだ。男の子はピースを握り締めて強く願った。
「あぁ、坊や。届いたのね、私の、声が……」
ピースは弱弱しく光を放っている。その光に黒く渦巻くものから伸びた足が触れると綻びていった。伸ばした足をスッと引っ込める。男の子は願っていた。皆が無事に生きられるように、マトハが救われるように、人間界が壊れないように。願っていた。
「止めろ! そのピースをよこせ!」
カオスがナタを振りかぶり、男の子目がけて振り下ろす。パキンと音がしてナタが折れた。カオスが吃驚した顔をして舌打ちした。男の子は強く願う。光が少し強くなった。
「やめろ!」
カオスが手を伸ばす。伸ばした手が黒い煙となって消え去る。カオスは距離を置く。
「アァァアァァァアアア!! お前の闇を、ぼくによこせえぇぇぇぇぇ!」
男の子は首を横に振って強く願った。カオスが姿を変える。二つの目がついた影の姿になった。王の側近を演じていた時の姿だ。その影はお兄ちゃんの中に入り込む。男の子は願うのを止めてしまった。
「お兄ちゃん!」
男の子が叫ぶ。お兄ちゃんは目を開けると奇妙にニタリと笑い男の子に手を伸ばした。男の子のこめかみが掴まれる。ギリギリと男の子のこめかみを握り締めていく。
「やだぁ。いたい、いたいよお兄ちゃん!」
男の子が必至に抵抗する。だが、その手が緩むことはない。
「やめてよお兄ちゃん!」
男の子が叫んだ。途端に金色の光が風と共に男の子を中心に広がる。お兄ちゃんが、カオスが吹っ飛んだ。男の子はその場で手を離され地面に落ちる。
よろよろと立ち上がりカオスに近づいていく。カオスは右手を前に突き出した。その手から黒い光線が放たれる。その光線は真直ぐに男の子の方へ飛んでいったが金色に輝く光を前に、黒い光線は虚しく消えていった。
「チッ!」
カオスが右手を黒く渦巻くものに向けて黒い光線を放った。黒い光線は黒く渦巻くものに取り込まれる。黒く渦巻くものの中から無数の器が這い出てきた。それらは地を這う蜘蛛のようにゾロゾロとカオスの方へと集まっていく。
集まった器はカオスの体内に入っていく。あまりにも奇妙でグロテスクな光景に男の子は歩みを止めて、その場で動けなくなってしまった。
読了お疲れ様です
いかがでしたでしょうか
カオスは人間の器を使って、人間界への侵攻を始めようとした。
男の子はイアノスにもらったピースを使って対抗する。
するとカオスは器を自身の身体に取り込んでいき……
続きは72話で!!
それではまた次回お会いしましょう!!