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ŪNDER WΦRLD  作者: 赤神裕
Scene 09:Despair ―絶望―
75/85

Episode 68:歪んだ愛情

みなさんおはこんにちばんわ

第68話になります


それでは続きをお楽しみください

「……そうか。ならば、この傷を見るがいい」


 王が漆黒の冑に触れると、その冑が緑の粒子となって消え去る。王は目を見開くと自身の目を指さした。


「この傷は私がまだ幼き頃、人間につけられた傷だ。あの日、幼き私は王子の身でありながら無知故、どうしても人間と遊びたくて一人の子供を村から連れ出した」


 王が目を閉じる。


「その子供の名はマトハ。彼はすぐに私と友達になってくれた。そして毎日、密かに村から呼び出しては森の中で遊んでいたのだ。ところがある日、それが一人の男の村人にバレてしまった。恐らく親だったのだろう。強引に連れ帰ろうとした結果、抵抗したマトハは井戸へ落ちてしまった」


 男の子が見た光景だった。王は、男の子が夢の中で見たことをそっくりそのまま語っていた。


「男は私達に言った。『お前らが殺したのだ』と。その時、この傷を負わされたのだ。私は罪滅ぼしのつもりでマトハを井戸から救い出し、看病していた。ちゃんと村に返すために。だが、彼らは違った。我々の隠れ家に火を放ち、妙な看板を立てて結界を張り、我々を森の奥へと追いやったのだ」


 王様がここまで話してため息をつき男の子の顔を見ると、彼は泣いていた。ぽろぽろと涙を流していた。先ほども泣いていたが、それとはまた違う涙。静かな涙だった。


 王はそれを見てびっくりした。まさかこの話を聞いて泣くとは思っていなかったのだ。そこにあたたかさを感じる。


「……似ておる。幼き日のマトハに、そなたは似ておる」


 王がそう言って優しく微笑んだ。


「な、なりませぬ王様ァ! 人間は我々に何をしたのかお忘れなのですかァァ! 我々は人間を支えてきた。王様はまだ幼かった為、存じ上げないかもしれませぬ。しかし、我々は旧王戦争の時も反乱軍の一員として共に戦ったのですぞ!」


 騎士団総長は声を荒げている。あふれ出た言葉は止まることを知らず、騎士団総長の口からボロボロと漏れていく。


「だのに……。だのに人間共は我々を追い出し、この辺境の地へと追いやったのですぞォ! もう我慢なりませぬ。理想郷計画から反撃の狼煙を上げるべきです王様ァ! どうか、どうかお考え直しください王様ァ!」


「どうかお考え直し下さい王様!」


 騎士団総長の言葉の後に騎士たちも復唱した。すかさず王が反論する。


「黙れ総長! そなたは私の計画に反対だったと申すのか。人間との共存ではなく、人間を一人残らず殺めよと申すのか!」


「そ、そうではありませぬ。我々は騎士ゆえ、その尊厳を守ろうと……」


「もう良い。そなたの言い訳は聞きたくない。憎しみは憎しみしか生まぬ。それが、ようやく解ったのだ」


「王様ァ……」


 緑色の粒子が王の身体を包み、鎧が、大剣が、ガントレットが、粒子と共に消え去った。


「人間の子よ。私はずっと悩んでいた。森の奥地まで追いやられ、人間界に居られなくなった我々はオビリオンに閉じ籠められた。人間が憎らしかった。だが、憎らしいながらも我々は人間を守ろうとしていた」


 王が俯く。


「だが、天災の時。我々の力は人間界に届かなかった。故に救うことができなかったのだ。何故救おうとしたのか。それは、憎らしいと思っていながらも人間を愛していたからだ。人間界が美しかったからだ。人間界を壊したくなかったからだ……」


 王はため息をつき、さらに続ける。


「しかし、私はいつしか心を見失っていた。初めてここに訪れた人間の子を、マトハを受け入れていたのに。私はここに落ちてきた人間の子を、人間と共存するための必要悪と自身に言い聞かせ、器の糧として殺してしまった。とても許されることではない」


 人間に対する歪んだ愛情だった。王は人間を心から愛していた。だが、その愛が重すぎた。歪みすぎた。故に、彼を奇行に走らせてしまったのだ。男の子は俯いた。アストロは、ドリウスは、ルフェルは、申し訳なさそうな顔をしていた。


「闇を抱えていたのは人間ではなく、我々だったのかもしれんな……」


 王は呟くと深いため息をついた。誰一人、誰一匹として口を開かなかった。辺りが静まり返っている。皆が俯いていた。男の子は王の言ったことが解った気がした。そして何より、王は残虐な化物ではない。それがハッキリと解った。


 男の子は王に近づく。王は上目遣いで男の子を見た。男の子はそのまま王の手をギュッと握る。両手に納まらないとても大きな手だったが男の子はその手を重ね合わせた。王が男の子を優しく撫でる。とても柔らかいなでなでだった。


「我々の思いはそなたに託す。人間と化物が共存できるその時まで、そなたが人間たちに語り続けてくれぬか。我々は許されぬことをした。だが、それは人間を想うが故の行動だったと。本当は人間を愛しているということを」


「うん。化物は怖くない。優しいんだよって、ぼくがみんなにお話しする!」


 王はゆっくりと頷いて男の子の顔を見る。凛々しく、勇ましく、逞しい。決心に満ち溢れた顔だった。


「そなたが齢を取っても、そなたの子の代になっても尚、その時はこないかもしれぬ。だが、そなたならきっとマトハのようにはならぬだろう。何故ならこんなにも決心に満ち溢れているのだから。私は少し焦り過ぎていた。時が来るまで、ジッと待つとしよう。約束だ」


「うん。約束。ゆびきーりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます!」


 男の子は楽しそうに王の小指に自分の小指を絡めて言った。王はこの人間独特の約束の仕方を知らなかった。だが、男の子が楽しそうにしているのを見て自身も楽しくなっていた。


「不思議なものだな。こんなにもあたたかいとは……」


 王が呟いて目を閉じると、その前に一つ眼の箱型の化物がふわふわと飛んできた。突然、王が声を大にして言い放つ。


「オビリオンの皆の者、聞こえているか。我々は現時点を以って計画を放棄、および人間の精神の解放を宣言する! 戦いは終わった。人間の子を捕まえる必要はもう無い。我々はオビリオンで平和に暮らそう。そして人間がここへ迷い込まぬよう、道を封鎖するのだ!」


 騎士団総長が目を瞑った。剣を床に転がす。


「皆の者。剣を捨てよ! 戦いは終わったァ! 剣を捨てよォ!」


 騎士団総長の声で騎士たちは剣を床に投げ捨て、ワーッと声をあげる。剣を捨てて終戦を喜ぶ者。喜びながら泣く者。様々であったが皆が喜びの声をあげていた。騎士団総長が手招きをして一匹の騎士を呼び寄せる。


「伝令騎士よ。オビリオンに終戦の知らせを、王様のご意向を伝えるのだ! 急げェ!」


 騎士団総長が叫ぶと騎士たちの中から何匹かが勢いよく部屋を飛び出して行った。


「お前さん。よくやったな」


 アストロが笑いながら男の子に向かって言った。男の子はにっこり微笑み頷いた。王が男の子を見て嬉しそうに目を閉じた。


「さ、フレウを解放してもらうよ!」


 ルフェルが言う。王は頷いて一匹の騎士にカギを渡し、フレウを解放するよう命じた。それと同時にハッと何かを思い出したように踵を返し奥の部屋と向かう。


「そなたは兄を探していたのだったな。ここにいる」


 王は奥の部屋の鍵を開け勢いよく開け放った。

読了お疲れ様でした

いかがでしたでしょうか


ついに決着がついた。

終戦の時だ。

男の子は『化物は怖くない』ということを後世に伝え続けることを約束した。

王はお兄ちゃんを解放するべく奥の扉を開け放った。

ようやくお兄ちゃんに会える……。

感動のフィナーレは第69話で!


それではまた次回お会いしましょう!!

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