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ŪNDER WΦRLD  作者: 赤神裕
Scene 09:Despair ―絶望―
74/85

Episode 67:ぼくたちは、戦わない

みなさんおはこんにちばんわ

第67話になります


それでは続きをお楽しみください

「怖くないのか?」


「……怖くないもん」


 王はチラリと横に目をやるとアストロを見つけて、そちらに大剣を投げた。


「グアッ!?」


「兄貴!」


 突然の王の行動に対応できず、大剣はアストロの左肩にめり込んで後方へ吹き飛ばした。男の子がバッとそちらを向くと、アストロに駆け寄っていくドリウスとルフェルの姿が見えた。


「や、やめて! お願い!」


 男の子は懇願しながら王の足元に近寄ろうとした。その瞬間、また首元に大剣があてがわれ、動きを止める。あと少し遅ければ首が吹き飛んでいただろう。男の子は恐怖する。


「くそっ!」


「なんだいコイツら!」


 ドリウスとルフェルの声が聞こえてゆっくりと振り返ると、いつの間にか彼らの背後を取っていた騎士たちに捕らわれていた。ロヴェもまた複数の騎士に抑え込まれている。


「ねぇ、やめて!」


「これでもまだ怖くないのか」


 王は男の子の要求を無視して質問する。男の子は泣くのをグッと堪えて首を横に振った。王は大剣を引っ込めると声を張った。


「その者どもを殺るのだ。反逆者は生かしておけぬ!」


「やだやだやだ! やめて、お願いだからぁああ!」


 男の子のはとうとう泣き出した。王の脚にすがって助けを乞う。だが、王は聞き入れなかった。騎士たちが高く剣を掲げる。


「や……や……やめてーーーーーーー!」


 男の子は大きな声で叫んだ。その瞬間、男の子の周りを強い風が包み込み一気に爆発した。その爆発は突風を生み、王を後方へ大きく吹き飛ばした。ガーンと王は壁に打ち付けられて大剣を落とす。


「王様ァ!」


 騎士団総長が叫んだ。王は壁に凭れ掛かったまま動かなくなった。


「うわぁぁぁああん!」


 男の子が泣いている。結局最後の約束も守れなかった。シャウトを使ってしまった。それに対する罪悪感と、アストロたちが傷ついたこと、それに加えて王までをも傷つけてしまったことに耐えられなくなった男の子は大きな声で泣いた。


「き、貴様ァァァァ! 現行犯だ。殺してやる、殺してやるぞ!」


 騎士団総長は刀を構えて大きく振り上げながら男の子の方へと走って行く。そこに青い槍が飛んできた。アストロが放った槍だ。アストロはボロボロになりながらも男の子を守るために青い槍を放ったのだ。


「この死に損ないめがァァ!」


 騎士団総長がアストロに向かって走り出す。


「止めよ!」


 太く低い声が雷のように打ち付けられ広い空間にこだました。空気が震えている。男の子を含めその場にいる全員の神経を緊張させた。男の子の涙が一瞬で止まったくらいだ。呼吸をすることさえも忘れてしまうほどの威厳に満ちた声だった。その声の主は王だった。


「騎士どもは、彼らを解放せよ。これは王命である」


「お、王様ァ!?」


 王は騎士たちにドリウスやルフェルを解放するよう命じた。騎士団総長はそれが意外だったのか驚きの表情を隠せない。


「聞け、人間の子よ。そこに大剣が転がっているであろう。それを、こちらへ持ってきてほしい」


 王は男の子に対して大剣を持ってくるように命じた。すると騎士団総長が前へ出て大剣を拾おうとする。


「総長、お前ではない。その子に持ってきて欲しいのだ。下がれ」


「お、王さ……」


「下がれと言っている。聞こえぬのか?」


 王にピシャリと言われた騎士団総長は、訳も分からないまま言われた通り後ろに後ずさった。男の子が立ち上がり大剣に近づいていく。


「そうだ。それだ。重たいかもしれぬが、それをこちらへ」


 男の子は大剣を両手で持った。とても重くて剣先を引き摺らないと運ぶことができなかった。それを見て騎士団総長が声を荒げる。


「貴様! 王様の大事な剣を粗末に扱うとは!」


「黙れ、総長! 気にするな。そのまま、こちらへ持ってくるのだ」


 男の子は言われた通り大剣を引き摺りながらゆっくりと王の前まで運んでいく。何かの罰を受けているようだった。男の子にとって重い大剣を運ぶというのは拷問よりも辛いものだった。鼻水を垂らして嗚咽を漏らしながら、それでも投げ出すことなく王の元へと大剣を運んだ。


「そうだ。よくやった。その忍耐力、認めよう……。その大剣は不思議なものでな。持つ者の心を表すという。構えてみよ」


 男の子は大剣の柄を持ち上げて構えようとした。だが、剣先が持ち上がらない。その姿を見て王は首を横に振った。


「違う。そうではない。力ではなく、心で剣を持つのだ」


 男の子は言われた意味がよく分からなかった。だが、彼なりに色々と試そうとしている。そして真っ先にお母さんを思い浮かべた。たまに怖いけど、優しくて男の子の事をいつも心配してくれる大切なお母さん。


 次にお兄ちゃんを思い浮かべた。あまり話さないけど、やっぱり男の子を大事に思ってくれている大切なお兄ちゃん。


「花、か」


 王が呟いた。大剣から蔓が伸びてピンクの花が咲いていた。不思議と大剣は徐々に軽くなっていく。剣先が少し浮いた。


 次にアストロを思い浮かべた。出会った時は怖くて泣いちゃったけど、お友達になったらいつもそばにいてくれて守ってくれた大切な化物。白い花が咲いていく。


 次にドリウスを思い浮かべた。カッコよくてオレ様だけど、ちょっとおバカで面白い。男の子をライバルだと言って何かと気にかけてくれる大好きな化物。赤い花が咲いていく。


「ほう……」


 王がまた呟いた。


 次にルフェルを思い浮かべた。初めは男の子を捕まえようとしていたけど、悪い化物じゃなかった。今は男の子を必死に守ろうとしてくれている優しい化物。赤紫色の花が咲いた。


 次にロヴェを思い浮かべた。背が高くて強くて、でも何を考えているのかよく分からない。それでも男の子から大切なものを学んで、今度は男の子を守ろうとしてくれている化物。銀色の花が咲いた。


「こちらに向けて構えてみよ」


 男の子は胸の中にたくさんの化物を思い浮かべて剣を振るった。剣先がヒョイと持ち上がった。だが、その剣先は丸みを帯びていてとても大剣と呼ぶにはほど遠い姿になっていた。


「そんな剣では私を殺せぬな」


 王が呟くと男の子は首を横に振って口を開いた。


「ぅ、ぞんなこど、じない、ょ」


 鼻水混じりに言った。その顔はクシャクシャになっている。それでも男の子はくじけなかった。嗚咽を漏らしながら、しゃくり上げながら、カッコ悪く、それでも強く。


「そなたは私がここまでしても、それでも受け入れるというのか?」


 王が男の子に問うた。男の子が俯く。ルフェルは男の子に近づいて、その頭をポンと叩くとにっこりと微笑んで頷いた。男の子も頷く。


「ぅ、ぼくは、ぁ、みんなが、大好ぎ。ぅぅ、だからぁ、ぼくは、ぅ、戦わないの゛!」


 男の子の言葉には決心があった。強い決心。戦わないという決心。優しい決心。友達になろうとする決心。男の子はクシャクシャな顔で王に微笑みかけた。


「その言葉、誠か?」


 王が低い声で男の子に尋ねた。男の子は身体をビクリと震わせたが、コクリと頷いた。


「ぅぅうぞじゃないもんっ!」


「俺たちは、戦わない。そうだろ?」


 アストロが左肩を押さえながらドリウスに支えられて、男の子に近づきながら意見をフォローする。男の子は俯いた。その頭をアストロの硬い手が優しく触れて撫でまわした。


「怒って、ないさ。結局、約束は破られちまったが、仕方ない、ことだ。よくやった」


 男の子は元気よく頷いた。アストロが頷き返す。ドリウスもルフェルも、ロヴェも頷いた。そして各々が武器を手放した。

読了お疲れ様でした。

いかがでしたでしょうか


男の子は戦わない選択をする。

その決心に王の心は次第に変わっていく。

頑張れ男の子。

続きは第68話で。


それではまた次回お会いしましょう。

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