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ŪNDER WΦRLD  作者: 赤神裕
Scene 09:Despair ―絶望―
73/85

Episode 66:王の理想郷計画

みなさんおはこんにちばんわ

第66話になります


それでは続きをお楽しみください

 アストロは再度ため息をついた。


「ドリウス、今は兄弟喧嘩をしている場合じゃない。俺はあの子に賭けているんだ。俺たちにはどうしようもできない。だが、あの子ならきっと達成してくれる」


「それであの子がもし、死ぬ羽目になったらどうするのだ」


 ドリウスだってアストロと喧嘩をしている場合ではないことは知っていた。だが、どうしても兄貴の行動の意味が分からなかった。


「その時は、俺たちが守ってやればいい。今は抑えろ、いいね?」


「だが……」


「ドリウス。ぼくは、大丈夫。喧嘩はやめて」


 ドリウスが口を開きかけると男の子が言った。そちらに目をやると男の子が首だけで振り返って勇ましく立っていた。王は特に何か仕掛けてくる様子もなく突っ立っている。


「しかしだな……」


「ぼくは皆を守りたい。だからやめてってお話しするの。それだけだから、大丈夫」


 男の子は反論さえも聞き入れようとしない。それだけ覚悟が決まっているということだ。だが、ドリスは自分だけが蚊帳の外にいるような、仲間はずれにでもされたような、そんな感覚だった。


「……兄貴のやる事は、時々分からない。兄貴の目的は何なのだ」


 ドリウスは一番聞きたかったことを聞いた。唐突の質問にアストロは黙り込む。何か良からぬことでも企んでいるんじゃないか。そう考えざるを得なかった。ドリウスにとって今までのアストロの行動は理解できないものが多かった。ウソをついたり、突然刃を向けてきたり、かと思えば守ったり。


「教えてくれ。兄貴は何をしようとしているのだ」


「皆と同じさ。俺は人間と化物の未来を変えたいだけだ。王の理想郷計画に反対しているのも、お前さんに嘘をついたのも、すべてはあの子を守って未来を変えるため。それだけさ」


 アストロは笑いながら言う。


「信じていいのか。本当に、それだけなのか。やっぱり兄貴が考えていることはよく分からない。だが、兄貴がそう言うのならそうなんだろうな。兄貴のやり方は賛同できないものが多いが、いつも正しい選択をしている。それは分かっているつもりなんだ」


「何も俺に合わせる必要はないんだぜ。お前さんは、お前さんの信じたようにやればいい。それが一番ドリウス、お前さんらしい。だが、今はあの子に任せるんだ。人間の事は人間であるあの子が一番よく知っている。俺たちが騒ぐより遥かに言葉が通じるだろう。俺はそこに賭けている」


 アストロは真剣な声で言った。その言葉を聞いてドリウスはアストロが男の子を王の前に送り出した行動の意味が分かった。人間の事は人間が一番よく知っている。単純なことだった。


「おい、お前はオレ様のライバルなんだからな。負けたらこのオレ様が許さないぞ!」


「ドリウス、ありがとう」


 男の子は手を振って右手の親指をグッと立てた。それはドリウスがよくやっていた指サインだった。意味は『オレ様に任せておけ』だ。それに対し、ドリウスは左手の親指をグッと立てて返事した。


「幸運を祈る」


 ドリウスはそう言うといつでも男の子の前へ飛び出していけるように構えた。アストロもまた、ローブを一度バサッと払うと、その戦いの行く末を見守る。


「よくぞ逃げずに前へ出た。その勇気、認めよう。そなたの声を、魂を、存分にぶつけるがよい」


 王がそう言うと冑の下半分がカシャンと開き、オオカミの高い鼻と口が見えた。大きく息を吸って声を発する。


「聞け、人間の子よ!」


 一言。たったその一言でその場に緊張が走り、空気が震えた。重々しいプレッシャーに男の子はその場で蹲る。ドリウスとアストロは吹き飛ばされないようにその場に踏ん張った。気を抜けば壁を突き破って吹っ飛んで行きそうなほど強いプレッシャーがあった。


「私は、人間と仲良くしたい。また昔のように戻りたい。それだけが私の望みだ。だが、人間はどうだ。私たちを見て人間は、どう思うのだ。答えよ!」


「うぅ……」


 男の子は唸るのがやっとだった。この重いプレッシャーは男の子に最大の恐怖を与えた。蹲りながら涙を流す。覚悟は決まっていても男の子はやはり涙が出てしまった。だが、声を出して泣くのだけは堪えている。必死に泣き止もうとしている。


「答えられぬか。私が怖いか、人間の子よ!」


 王の問いに男の子は蹲ったまま首を横に振った。恐怖があるにはある。だが、それを認めてしまえば仲良くなんかなれるはずがない。男の子は幼いながらもこれを理解していた。


「ぼくは、怖くない。うぅ、怖くない!」


 男の子はそう言って顔を上げ、王の顔を見た。その顔を見て王は少したじろく。覚悟を決めた男の子の表情は涙を流していながらも凛々しく、勇ましく、逞しくあった。


「私が怖くないだと。偽りを申すな! そなたも、人間界の人間と同じであろう。人間とは違う私たちのこの姿が恐ろしいのであろう!」


「怖くないもん!」


 王が吼えると空気の渦が男の子に向かって飛びだした。それに対し男の子が即座に反論すると、手にしているピースが金色に光った。王が放ったシャウトはこの金色の光によってかき消されていく。


「なぜシャウトを使わぬ!」


「約束したから! もう力は使わないの。ぼくは、ぼくの声でお話しするの!」


 アストロとの約束はこれだった。シャウトを使わずに王と話をすること。男の子はちゃんとそれを守ろうとしていた。王は右足で地面を踏み鳴らす。


「化物は人間界へ行ってもある程度なら問題はない。だが、オビリオンに落ちた人間はみな闇の増幅により死んでゆく。住む世界が違うのだ。人間はこの環境に対応できぬのだ。共に暮らすためには、我々が人間界へ行くしかない。だが、行けば人間どもは我々を攻撃する!」


 王は叫んだ。ピースから放たれている金色の光によりシャウトはかき消されている。だが、かき消されるたびに金色の光は弱まっていった。


「人間と共に暮らすためには、どうしても人間の子の器が必要なのだ! その中に入れば人間は我々を攻撃しない。同じ人間の姿だからだ。いずれオビリオンに住むすべての化物が人間界へ行き、共に暮らし、困難が及んだ時は真っ先にそれを助ける。それが我々の求める理想郷なのだ!」


 王のシャウトはまだまだ続く。その胸に込めた熱い思いがシャウトに乗って男の子へとぶつけられる。


「ぼくは、怖くない。かっこが違くても、みんなもちゃんとお話すれば分かってくれるよ!」


 男の子は懸命に反論した。感情を爆発させないように、あくまでも冷静に、それでいながら力強く。


 シャウトを使わないように強い思いを伝えるという行為は男の子にとってかなりの苦痛を与えた。だが、男の子はくじけなかった。拙い言葉でも、話がかみ合ってなくても、ちゃんと真っ直ぐに思いを伝えようとしていた。


「そなたは、姿が違えども分かり合えると。本気でそう思っておるのか!」


「思ってる! ぼくが皆に言うもん。化物は怖くないって! 分からなかったら、分かるまでぼくが言うもん! だから、だから……」


 男の子はそこまで言って俯いた。王は次の言葉を探していた。それと同時に男の子のその後の言葉を待っていた。


「だから……。仲直り。ごめんなさいして、ありがとうってして、お友達になるの」


「お友達……」


 男の子が真っ直ぐ目を見て言うと、王はその単語を呟いて俯いた。心が少し揺らいだ。だがすぐに頭を横に振って、先ほど投げ捨てた大剣を拾った。


「なれぬ。人間は我々の姿を恐れている。仲良くなるにはあまりにも時間がかかり過ぎるのだ。それでは、人間を守ることができぬ。事が起きてからでは遅いのだ……」


 王が大剣を構えると、冑の下半分が閉じた。そしてゆっくりと男の子に近づいていき、大剣を男の子の首にあてがった。

読了お疲れ様です

いかがでしたでしょうか


王はついに理想郷計画に対する強い思いを言い放ちました。

人間の姿で、人間と共存し、人間を守ること。これが王の求めた理想郷計画です。

しかし、男の子は化物の姿でも人間と仲良くなれると言い張ります。

対立する一人と一匹。どうなってしまうのか……!?

続きは第67話で!!


それではまた次回お会いしましょう!!

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