Episode 46:テステ・ペルテの崩壊
みなさん、おはこんにちばんわ
第46話になります
続きをお楽しみください!!
医療団は騎士たちの治療に追われた。まだ辛うじて息はあったからだ。とりあえずの応急処置を施すが、いつルタナスのように痙攣を起こすかわからない。デドロがもしかしたら治せるのではないか、そう思ったもののフォラスはまだデドロを警戒していた。
男の子に目を移す。デドロは相変わらず男の子の上に乗ったまま頭を擦り付けていた。男の子が騎士たちを指差した。そしてデドロに問う。
「治せる?」
デドロはカチカチと歯を鳴らして男の子の腕から飛び出すと倒れている騎士たちに足を伸ばしていった。緑の光を放つ。騎士たちは倒れこんだままだが息はしている。男の子はニッコリとデドロに微笑んだ。デドロは嬉しそうに歯を鳴らした。
「これ、本当に治るのかよ。治したように見せかけて、弱らせて後で食っちまおうってんじゃねぇだろうな?」
「治るもん! クロは治せるんだもん!」
イポが顔をしかめて言うと男の子は怒った。イポは面倒くさくなったのか不機嫌になり腕を組んでそっぽを向いた。ベリスが肘でつつくとイポは更に後ろを向いた。
「んなに怒るこたァねぇだろ……」
イポの目線の先に何かが映る。その途端イポは言葉を失ってベリスを小突いた。ベリスがやや面倒くさそうな顔をしてそちらを向いた。
「何です?」
「あ、あれを、見てみろよ……」
イポが指さす方。城がある方を向くとベリスもまた言葉を失う。テステ・ペルテの上空を黒い渦が覆っている。その渦がまるで髑髏のように見えたからだ。
「何ですかあれは!?」
フォラスが叫ぶ。髑髏はこちらを向いて嘲笑っているように見えた。
「あっ!」
男の子が短い声を上げる。先ほどのデドロと思われる黒い塊が男の子の腕を離れ、髑髏の方を向きながら飛び跳ねた。
「あれ、なかま!」
黒い塊は飛び跳ねながら嬉しそうに言う。男の子は黒い塊を両手でしっかりと捕まえた。すると、黒い塊は振り向いて男の子の方をジッと眺めたかと思うと、歯をカチカチと鳴らして言葉を発した。
「なかまのとこ、い、行きたい!」
「ダメ!」
男の子は黒い塊の申し出を拒否した。黒い塊はジッと男の子の方を向いて答えが変わるのを待っている。男の子は何だか胸が痛くなった。だが、それでも答えは変わらない。
あの髑髏は何か悪いものだ。だってあんなにも恐ろしいんだもの。男の子の直感はそう告げていた。
「ム。あのままではテステ・ペルテが呑み込まれてしまいますぞ!」
ブルエが声を荒げて言う。髑髏はテステ・ペルテの町を呑み込もうとしてガパリと口を開けていた。そして徐々に降下していく。
ブルエが巨大槍を構えて戻ることを提案した。だが、フォラスは首を横に振って、走り出そうとしたブルエの進路を塞いだ。
「ダメです。お兄様を置いては行けません。お嬢もまだ眠ったままです」
「ぐぬぬ……。目の前で町が飲まれていくのをただ見ているだけとは、もどかしいですな……」
イポとベリスは顔を見合わせたがお互いに首を横に振った。危険であると判断したのだ。また、髑髏に対して恐れも抱いていた。
テステ・ペルテは髑髏のガパリと開けた口に飲み込まれていく。その場にいる全員が唇を噛んだままその様子を見ていることしかできなかった。
そういえばドリウスはどうなったのだろう。男の子はふと思った。まだテステ・ペルテにいるのだろうか。それとも先ほど追ってきたアビゴイルとブールに敗北してしまったのだろうか。
先ほどまで平気だった男の子だが、ドリウスのことを思うと一気に悲しさが押し寄せてきた。
「ドリウス……」
男の子が呟くと黒い塊がカチリと歯を鳴らして再度、男の子の方を向いた。男の子の悲しさという感情に反応しているようだ。男の子は今にも泣きだしそうだった。目に涙をためながら必死に泣くのを堪えていた。
「退いておくんなせぇ!」
その時、その横を二足歩行の馬が白い布のかぶせられた荷車を引いて小走りに通っていった。テステ・ペルテに向かって一直線に走って行く。だが異変に気付いたのか、すぐにその足を止めてバックしてくる。
「こりゃあ、一体全体何があったでやんすか!?」
二足歩行の馬は振り返って恐ろしいものを見たような、歯をむき出しにした馬面で尋ねてきた。
「テステ・ペルテは、デドロたちに呑み込まれてしまいましたぞ……。今行くのは危険ですな」
「なんてったって、そんなことになったんで?」
ブルエが状況を説明すると馬は顔をしかめて更に尋ねてくる。
「誰かが仕組んだんだ。ルタナスおじさんがそう言ってた。山が突然爆発してデドロたちが外に飛び出して、テステ・ペルテに――」
「ゆっくりだがドンドン集まってきてよ。何体かは騎士や他の奴を呑み込んじまった。外から見て、まさかあんなになってるとは思わなかったぜ……」
シャラボラの言葉を遮り、イポが思ったことを口にした。それが気に食わなかったのか、シャラボラはイポの方をキッと睨んだ。
「なるほど。こりゃあ迂回しないとダメみたいでやんすねぇ。ちぃと遠回りになっちまうけど仕方ねぇや」
「何処へ向かうのです?」
フォラスが尋ねる。馬は歯をむき出しにして笑いながら小馬鹿にするように口を開いた。
「何処へってそりゃあ、城に決まってるでやんす。王様への献上品でやんすよ。へへっへ」
「献上品……。それでは、そこに、人間もいるのですか!?」
フォラスは荷車に被せてある白い布を捲ろうとした。馬は慌ててフォラスを突き飛ばしてそれを制した。力はものすごく強かった。フォラスが尻から地面につき、そのまま背中、頭ときて後転がえりをしたくらいだ。
「勝手に触らないでほしいでやんすねぇ。それに、人間なんてとんでもねぇ。そんなもん気持ち悪くて献上なんかできないでやんすよ。ほら、皮を剥いで内臓取り出して丸焼きにして食ってるなんて噂もあるくらいで……」
馬が言うとそれを聞いた男の子は身体を震わせた。男の子にとってこの馬が言ったことは恐怖でしかなかった。王様は人間を捕まえて食べている。イアノスの難しい話よりもこちらの方が理解しやすかったのだ。男の子は口を開く。
「王様は、ぼくを、こ、殺すの?」
「え、いやぁ。何で? まさか、この子は人間でやんすか!?」
馬はビックリして声を張り上げた。フォラスたちが焦る。それもそのはずだ。もしこの馬の気が変わり、報酬目当てで王様に人間を差し出すと言い出したら、力づくでもこれを阻止しなければならない。それが医療団としてのもう一つの務めだからだ。馬は嘗め回すように男の子を見て頷いた。
「間違いねぇや。王様に報告はしてないんでやんすか?」
「……していません」
フォラスは警戒しながら言った。この一言で馬が攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
「ははぁ、なるほど。訳アリでやんすか。じゃ、このことは黙っておくでやんすよ」
「え?」
「いや、ワッチらは商人ですぜ。等級の高いもんを売るのが商売ってもんよ。訳アリなんか売れやしねぇや」
馬はまた歯をむき出しにして小馬鹿にするような馬面で唾を飛ばしながら言った。そして肘を荷車の取っ手にかける。ガタンと荷車が傾き、白い布が少しずれた。
「おっといけねぇ。遠回りしなきゃいけねぇし、そろそろ失礼するでやんすよ。あぁーと、今度会ったら人間界の情報をくれねぇかい。外界の噂ってのは高く売れるんでね。へへっへ」
馬は荷車を押さえると、男の子に下手くそなウインクをして笑った。
馬にとってはそちらが目的だった。人間を献上すれば多額の報酬がもらえるが、それは一時でしかない。ずっと稼ぎが欲しいこの馬にとって、人間を王様に渡したら勿体ないと思ったのだろう。金に汚い馬面である。
「じゃあな。そいつは最後まで守り通してくれや。ワッチの飯代のためにさぁ。へへっへー」
馬はニヤニヤと笑いながらテステ・ペルテへ向かう道を大きく逸れて脇道へと入って去っていった。先ほど馬がいた所に何か光るものが落ちている。
「……ありゃ?」
その存在に気付いたシャラボラはそれが何なのか確認するために手に取った。丸い輪に小さな羽根が3つ付いた首飾りだった。
読了お疲れ様でした。
いかがでしたでしょうか。
テステ・ペルテが呑み込まれてしまいました。
ドリウスは大丈夫なのでしょうか。
男の子も心配でなりません。
そして、あの馬面が落としていったものとは何なのでしょうか。
続きは47話で!!
それではまた次回お会いしましょう!!