Episode 45:おまえ、なかま?
みなさん、おはこんにちばんわ
第45話になります
続きをお楽しみください!
ブルエが口を開く。
「先生、これは一体……。お兄殿は死ぬのですか」
ブルエがフォラスの方を見ながら言った。
「……解りません。私にも、解りません!」
フォラスが唇を噛みそっぽを向いている。ブルエが先ほど縫合した糸を解き始めた。
「ブルエくん、何を!」
ブルエは無言で糸を解き、患部を広げた。中から黒い煙が噴出す。取り除いたはずの黒い細胞が復活していた。先ほどとは比べ物にならないほど大きな塊となっていた。黒い塊は心臓に纏わり付いていた。
ブルエが黒い細胞に小刀を当てる。突然黒い塊がガパリと開き、歯のようなもので小刀を噛み砕いた。吃驚してブルエは小刀を落としてしまう。
「気持ちわりぃ! 何だコイツは」
イポが顔をしかめて言う。バリボリと音を立てながら小刀を噛み砕いて食べている。見たこともない化物だった。
「イリリリリリィィィィ……。ウ、ウマイ、こ、これ、ウマイ。クレ、も、もっとクレ!」
黒い塊が奇声を上げて話す。フォラスがその声を聞いてハッとする。黒い塊の正体に気付いたのだ。
だが、あり得ない。黒い塊が口を聞くことはあっても小刀を、物体を歯のようなもので噛み砕くなど聞いたこともない。
それだけではない。化物の身体に乗り移ることはあっても、それは精神的な意味で乗り移るのであって身体の中に巣食うなどということも聞いたことがない。フォラスは混乱していた。
「こ、これは、恐らくデドロです」
フォラスが言う。デドロという言葉を聞いてその場にいる皆が身構えた。
「デドロですと! しかし先生。これは今までのとは違いますぞ!」
ブルエは声を張り上げた。実際に見たことがある者もそうでない者も、デドロがどういうものであるかの知識は持っていた。だが、その知識には含まれない特徴が目の前のデドロにあった。
歯があること。ドロッとした塊ではないこと。心臓に纏わり付いていること。ルタナスの心臓に纏わり付いているデドロは歯をガチガチ鳴らしながらこちらを見ている。
男の子がワッと声をあげた。皆が男の子の方を振り向くと歯をガチガチ鳴らせている塊が男の子の方を向きながら地面に転がっていた。ルタナスが先ほど血と共に吐き出した黒い塊だった。
「お、おまえ、なかま……?」
地面に転がっているデドロが歯を鳴らしながら男の子に問うた。男の子はふるふると首を横に振る。レフォルがデドロに黄色い液体が入ったビンを投げつけた。デドロの身体から黒い煙が立ち上り地面にのた打ち回る。
それを見たルタナスの心臓に絡み付いているデドロが歯を鳴らしながらレフォルの腕にローブ越しから噛み付いた。ルタナスの心臓がグイと引っ張られる。動脈が切れそうだ。
レフォルは腕に噛み付いているデドロをもう片方の手で引き剥がそうとする。だが、ガッチリと腕に食らいつき離さない。容赦なく引っ張られるルタナスの心臓。
ブルエが引き剥がそうとデドロを掴んでルタナスの心臓の方向へ引っ張る。腕がミチミチと音を立てレフォルは痛さで反射的に腕を引っ込めようとする。
「レフォルくん、それ以上離れたらお兄様の心臓が!」
レフォルは額に汗をかきながらローブに血を滲ませ引っ張らないように耐える。
「やめてー!」
男の子が叫んだ。その声にハッとしたようにレフォルの腕に噛み付いていたデドロが口を開けてルタナスの心臓の方へと戻っていった。男の子の方をジッと見て様子を伺っている。男の子がルタナスの方へ歩いていった。
「離れて!」
男の子がピシャリとルタナスの心臓に絡み付いているデドロに言った。デドロはガチガチと歯を鳴らしながら心臓に絡めた足を引っ込めて行く。引っ込めた先から出血した。デドロは足を血管に突き刺していたのだ。
「ブルエくん急いで止血を!」
フォラスが言うよりも早くブルエは破れた血管を治す作業に取り掛かっていた。デドロが一本一本足を引っ込める度に出血する。フォラスもレフォルも血管を塞ぐことに尽力していた。
最後の一本が血管から抜けるとデドロは地面に落ちて、のた打ち回るデドロと合体し大きくなった。黒い煙が出ているもののデドロは落ち着きを取り戻したのか男の子の方をジッと見ていた。
「な、なかま……。ぼ、ぼく、だれ……?」
デドロが男の子に尋ねた。男の子は後ずさりをする。イポとベリスが男の子の前に立ちふさがった。デドロが歯を鳴らす。イポがデドロを鷲掴みにするとデドロが暴れた。
「やめて。降ろしてあげて」
男の子が言う。イポが吃驚した。
「オメェ。コイツを許すってのか?」
イポが尋ねる。男の子は首を縦に振った。
「襲ってきたんですよ? なぜ助けるのですか?」
ベリスもまた尋ねた。男の子は俯いている。ベリスが男の子に近づき跪いた。そして諭すように助ける必要はないと言った。だが、男の子は首を横に振る。
「だって、クロは優しかったもん。この子も寂しいだけだもん」
ベリスは首をかしげた。言っている意味が理解できなかった。イポも同じだった。だが男の子は揺るがなかった。歯の生えたデドロに少しだけ恐怖を抱いているだけだった。
デドロがさらに暴れてイポは思わず手を離した。地面に落ちたデドロがイポを睨んでいる。だが襲うことはしなかった。男の子がイポとベリスを押しのけデドロの前に出る。
「クロ、知ってる?」
「く、クロ? それ、なまえ? し、しらない」
男の子はデドロに問う。デドロはそう言うと男の子の方へと飛びかかった。そのまま男の子の腕の中にすっぽりと入る。イポとベリスが構えた。突然シャラボラが叫んだ。イポとベリスは反射的にシャラボラの方を見る。ルタナスの身体が痙攣していた。
「オッサン! しっかりして!」
シャラボラが叫んでいる。
「治して!」
男の子はデドロに言った。デドロは首をかしげるように傾く。男の子はデドロを持ったままルタナスの元へ歩み寄った。血管の修復が終わり傷口を縫合している最中に痙攣したようだ。
男の子はルタナスの胸の上にデドロをおろした。デドロはシュルシュルと足を伸ばして縫合しきれていない傷口から心臓に絡みついた。
「な、何てことを!」
フォラスがデドロを引き剥がそうと手を出す。
「やめて。クロは傷を治せるの」
男の子は皆に聞こえるように言った。デドロの足から緑色の光が放たれる。その光が消えると同時にルタナスの痙攣が治まる。シュルシュルと足を引っ込めてデドロは再度男の子の腕に飛び込んだ。
「し、信じられませぬ……まさか、こんなことが」
ブルエはルタナスの脈を取って驚いていた。ブルエだけではない。フォラスもレフォルもシャラボラもイポもベリスも。驚いていた。男の子だけは得意になってニコニコしていた。それを見たデドロも歯をカチカチ鳴らしながら笑っていた。
ルタナスは一命を取り留めたのだ。眠ってはいるものの命に別状はない。フォラスがホッと胸をなでおろした。
そのときブルエの後ろの草むらからガサリと音がした。皆がそちらを向く。鎧を着た化物が一斉に飛び出してきた。騎士団のメンバーだった。ブールとアビゴイルもいる。
「チッ、追っ手かよ。仕方ねぇ」
イポは言うなり翼を広げて飛び上がった。だが、すぐに飛行を止めてその場に着地する。
騎士団の様子が変だった。身体を痙攣させて苦しんでいた。そして吐血。ルタナスと全く同じ症状だ。吐き出された血の中には黒い塊――デドロが混じっていた。
「またデドロです!!」
フォラスが叫ぶ。吐き出されたデドロはルタナスの身体にいたデドロより幾らか成長していた。どれも歯が生えておりガチガチと音を立てながら互いに合体して大きくなっていく。
サッカーボールほどの大きさになったデドロは別段暴れるわけでもなく口を開くわけでもなくジッと男の子の方を見ていた。何故か男の子を見て大人しくしている。そして問うのだ。
「なかま……?」
「おいで」
男の子が首を横に振り仲間ではないことを主張しながら手招きをした。サッカーボールほどの大きさのデドロは男の子の方へ這いずりながら近づいていった。
男の子の腕からデドロが飛び出すとサッカーボーほどの大きさのデドロと合体し少しだけ大きくなり、それが男の子めがけて飛びかかる。
男の子はそれを受け止めたかったが、あまりの重さに身体ごと後ろへ倒れた。頭を打ち涙目になる。デドロはそんなことは気にする様子もなく嬉しそうに男の子に頭をなすりつけた。
「……何なんだよこいつ」
シャラボラが警戒しながら言葉を漏らした。だが、襲ってくる様子はない。一方の騎士たちは倒れたままピクリとも動かなかった。
読了お疲れ様でした。
いかがでしたでしょうか。
ルタナスの身体から現れたデドロらしき黒い塊は重症のルタナスを治癒しました。
デドロは不安定さゆえに忌み嫌われている化物ですが、不思議な力があります。
しかし、その力を使ったのは男の子が命令したときだけ。
他の化物に対しても警戒した様子を見せており、最終的には呑み込んでしまったのに。
男の子にだけは何故か懐いています。
一体これが示すものは何なのか。今後の展開に注目です!!
続きは46話で!!
それではまた次回お会いしましょう!!