Episode 43:意地と優しさ
みなさん、おはこんにちばんわ
第43話になります
続きをお楽しみください
「おいおい何なんだこの有様は。最悪じゃねぇか」
「オッサン!」
ルタナスだった。戻ってきたのだ。ルタナスは雄たけびを挙げてドリウスのランスを弾き飛ばした。ドリウスがよろめく。その隙にシャラボラを抱え上げてベッドに向かって走り出した。未だ目が覚めない医療団が寝ているベッドだ。
シャラボラは両手でルタナスの服の裾を引っ張り、足を閉じて顔を赤らめていた。後ろからドリウスが追いかけてくる。
「シャラボラ。歯ぁ食いしばれよ」
「んぇ?」
ルタナスはシャラボラをラグビーボールのように前へ放り投げた。先程までシャラボラが寝ていたベッドに顔面からダイブする。シャラボラは鼻を擦りながら涙を流した。
「痛いなぁ。何するんだよ!」
シャラボラがルタナスの方を見るとルタナスは両刃剣でドリウスのランスを受け止めていた。シャラボラはハッとした。助けてくれたのだ。胸に手を当てて顔を赤らめる。そして何か決心したようにルタナスの元へと飛び出した。
ドリウスの背後からしがみつき、首筋を噛んだ。噛んだところから黒い煙が噴出す。シャラボラは吃驚して口を離す。そこにランスが振るわれて柄がシャラボラの頬に直撃する。シャラボラは弾き飛ばされ地面に叩きつけられた。頬は少し赤く腫れており身体は動かなかった。
「何してやがるんだ。お前はベッドにいろ!」
ルタナスが叫ぶ。シャラボラは力を振り絞って起き上がろうとする。ルタナスがランスを弾くとドリウスはよろめいた。すかさず両刃剣を投げつけてシャラボラを抱え上げる。
そしてそのままベッドへ走っていきシャラボラをベッドに寝かせ何か呪文のようなものを唱えた。空間がグンニャリと歪み医療団やシャラボラが寝ているベッドとルタナスがその空間に消えていく。
ドリウスは投げつけられた両刃剣をその歪んだ空間に投げ返した。両刃剣の先だけが空間に消え、残された両刃剣の柄はガシャンと大きな音を立てて下に落ちた。
ドリウスはその歪んで消えた空間をジッと眺めていた。その後ろではジリジリと近づいてくる二つの影と傍らの木の陰からその様子を見据える影があった。その気配を感じ取ったドリウスは後ろを振り返りランスを構える。
二つの影はそれぞれ刀と槍を手に持っていた。ドリウスが走り出す。二つの影もまた武器を前に走り出した。木の陰からその様子を見据える影は巨大な槍を片手にその場を去った。
陽の光を銀色の身体で弾きながら颯爽と走り去って行った。はるか遠くに見える城を目指して走り去っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
陽の光に照らされた金色に光る湖の水を飲む二羽の鳥がいた。イポとベリスである。その傍らにはしゃくりあげながら涙を拭っている男の子とズタズタにされピクリとも動かず倒れこんでいるルフェルがいた。
「ルフェルお姉ちゃん……」
男の子はそう呟き溢れ出る涙を袖で拭って肩を落としていた。ベリスがその様子を見て手を組んだ。まるで祈っているようだ。ベリスはホッと息を漏らすと右足を半歩後ろに引いて膝で立つ。そして首をうなだれた。
「汝に清き安らぎがあらんことを」
ベリスがそう言うとルフェルの陰がベリスの方へと伸びていく。そしてベリスの膝の前で地面から手が出てきた。その手は真黒だった。
真黒な手がゆっくりと上へ伸びていく。手はウネリと方向を変え、地面に向かって下りていき地面を掴むと下へ下へと押し下げようとしていた。その勢いでルフェルの影から真黒な頭が姿を現した。それを見て男の子は目を見開く。
真黒ではあったがそれはルフェルの姿そのものだった。真黒なルフェルはゆらりゆらりと左右に揺れると男の子の方を向いた。ジッと男の子を見ている。次の瞬間、真黒なルフェルは右手をベリスの首に絡めてその手に力を込めていった。
「お、おい、ベリス!」
「な、なるほど……。まだ諦めてはいないのですね……」
イポがベリスの首に絡みつく手を引き離そうとした。ベリスが片目を閉じる。ベリスの首に絡み付いていた手がシュルシュルと縮み、影の中に引っ込んでいった。手だけではない。身体も頭も全て影の中に引っ込んでいった。
伸びた影もルフェルの、元あった場所に戻って行った。ベリスは首を擦りながらルフェルを見据えた。男の子が口を開く。
「何をしたの……?」
「そうですね。転化しようとした、と言えば良いでしょうか。私はベリスですから」
男の子は首をかしげた。
「私は死や栄光に執着して生きる者です。生きる屍とでも言いましょうか」
「いきる、しかばね?」
男の子は更に首をかしげる。ベリスの言っていることが男の子には難しすぎて理解できなかった。ルフェルに何かをしようとしていたのは間違いないが、それは何かまでは解らなかった。ベリスは顔をしかめる。そして解りやすく説明しようと言葉を探していた。
「つまりよ。死んじまった奴の影をベリスが食って力にするってことだ。影抜けの奴は別の物に生まれ変わる。それがコイツの能力だ。すげぇだろ?」
イポが口を挟むと男の子が怒った。ベリスもまたイポを睨みつけた。
「んだよ、間違ってねぇだろが」
「間違ってはいませんよ。ですが、この化物はまだ抗っています。死んでいません」
ベリスは両目をつぶって言い切った。イポが舌打ちをして湖の方を向く。男の子の後ろで空間が歪み、ドサリドサリと音を鳴らしながらベッドや瓦礫やその他色々な機械類が姿を現した。その隣にルタナスとシャラボラが姿を現す。
ルタナスは片膝をついて唸っていた。腹から血を流している。シャラボラはおろおろしていた。シャラボラが周りを見渡すとイポとベリスが目に止まる。
「イポ、ベリス。どうしよう、オッサンが……」
シャラボラは今にも泣きそうだった。イポとベリスがルタナスを支える。ルタナスが吐血した。ルタナスが押さえる腹には錆びた金属片が刺さっていた。ルタナスが持っていた両刃剣の先端だった。
ルタナスがその金属片を抜く。先端と言ってもかなり長くグッサリと刺さっている状態だったようだ。ルタナスが立ち上がろうとする。だが力が入らないようですぐに方膝をついてしまう。
「ダメだよオッサン。動いちゃ!」
「大丈夫だ……。それより。早く。他の奴を治療しねぇと……」
ルタナスはイポとベリスの手を払い立ち上がろうとする。だが、一歩も進むことなく足がもつれて前のめりに倒れしまう。
イポとベリスがまた腕を取ろうとするがルタナスはそれをも払った。そしてまた立ち上がろうとしていた。自分のことはどうでも良い。医療団のカシラとして傷ついた者を放っておくことなどできなかった。
ルタナスは震える脚でルフェルの元へ一歩、また一歩と近づいていく。ルフェルの前で跪くとポケットから針と糸そして薬の入ったビンを取り出して傍らに並べた。
「オッサン、ボクにも手伝わせて」
シャラボラがルフェルを挟んでルタナスの正面に駆け寄る。
「邪魔だ。お前にできることはない。……見張りでもしててくれ」
ルタナスにピシャリと言われ落ち込む。シャラボラはイポとベリスの方を振り向いた。イポは腕を組み、ベリスは手を組んでコクンと頷いた。シャラボラはコクリと頷くとまたルタナスの方を向いた。
「お願い、ボクにも手伝わせて。怪我したオッサンだけじゃムリだよ」
シャラボラは何度も頼み込んだ。だが、ルタナスの答えは変わらなかった。消耗していく体力と目の前にいる患者で頭がいっぱいになっていた。
額に汗が滲んでいた。呼吸が荒くなっていた。息苦しくなっていた。針に糸が通らなかった。薬のビンを膝で倒した。明らかに焦っていた。
シャラボラはそんなルタナスの姿を見て頬を叩いた。ルタナスがよろめいて尻餅をつく。叩かれた頬を押さえながらシャラボラの方を向く。すると、シャラボラはふよふよと飛び寄って、ルタナスの頬に優しく手を添えて唇を重ねた。
ルタナスの中から焦りが消えていく。シャラボラはルタナスの中の焦りを取り除き、同時に安心という名のプレゼントを渡した。シャラボラがルタナスから唇を離すとコツンとおでこをぶつけた。
「オッサン。ごめんね。ボクは医療のことは解らないけど、それでもボクはオッサンの役に立ちたいんだ。一人で焦ってるオッサン見てると、悲しくなるんだよ」
シャラボラがそう言うとルタナスは俯き口を開く。
「焦っていたのは、俺の方だったのかもしれないな。ブルエに顔向けできねぇ……」
ルタナスはそう言った途端、咳をして血を吐いた。その場にうずくまる。シャラボラがルタナスの背中を擦った。
ルタナスにああは言ったものの焦っているのはシャラボラも同じだった。自分には何もできない。それがもどかしかった。もどかしくて悔しかった。泣き出しそうだった。
涙の痕を目の周りにつけた男の子はただ黙って、シャラボラの頭を優しく撫でた。
読了お疲れ様です
いかがでしたでしょうか
遂にルタナスまでも深手を負ってしまいました。
次から次へと崩壊していく男の子のパーティ(?)
これを止める者は現れるのだろうか!?
続きは44話で!!
それではまた次回お会いしましょう!!