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ŪNDER WΦRLD  作者: 赤神裕
Scene 06:Φmen ―前兆―
49/85

Episode 42:守れない約束

みなさんおはこんにちばんわ

第42話になります


それでは続きをお楽しみください

 弾き飛ばされた刀の先にはデドロが纏わりついていく。ブールはこれほどにもない恐怖を覚えた。

 目の前にはランスを振り回すドリウス。自分は丸腰。刀もデドロに蝕まれている。アビゴイルは負傷している。それに加えて人間の子も守っている。勝ち目などなかった。


 足元にグニグニとした感覚がある。デドロがブールを蝕んでいる。


「気を確かに持て。闇を抱えてはいかん、ブールよ」


 そう叫んでいるアビゴイルの足元にもデドロが纏わりついている。声では叫んでいるものの心が負けていた。騎士団総長にやられたルフェル隊長を思うとどうしても憎悪を抑えきれなかった。


 男の子はどうしたら良いのか解らなかった。恐怖で身体が震える。もだえ苦しむブールとアビゴイル。狂ってしまったドリウスを目の前に、そして恐らく殺されてしまったルフェルと騎士団総長の高らかな勝ち誇ったような笑い。その全てに恐怖していた。


 男の子の目に涙がこみ上げてきた。胸が窮屈だった。悲しくなって、苦しくなって、とても窮屈だった。その窮屈はお腹から上へとこみ上がってきて喉を通って外に出た。


「もうみんなやめてよ!」


 ありったけの声で叫んだ。虚しい叫びだった。叫んだって何かが変わるわけではない。デドロが男の子の声に反応してゾロゾロと集まっていく。変わったことと言えばデドロが男の子の負の感情に引き寄せられていることくらいだった。


 男の子は自分を悔いた。アストロとの約束を守れなかった。誰も恨まないという約束。強く生きるという約束。そのどちらも、男の子は守れなかった。騎士団総長を恨んでいる。蝕まれていく化物を見て、死を覚悟している。


 何一つ約束を守れなかった。男の子はブンブンと首を横に振ったが、溢れ出る涙は負の感情を増加させていくだけだった。


「おがあざん、おにいぢゃん、ごめんなざいぃぃ」


 大泣きした。男の子は声を大きくして泣いた。とにかく泣いた。


「えぇい、うるさい。貴様ら何をしている。あのガキを黙らせろ! 間違っても殺すな」


 痺れを切らした騎士団総長の命令に騎士たちが男の子の方へと走り出す。男の子は走ってくる騎士団を見て更に泣いた。騎士団総長が男の子の方を向きながら耳を塞ぐ。とてもイライラしていた。


 後ろで音がする。騎士団総長が振り返るとそこには醜いアヒルのような化物――イポの姿があった。鋭い爪で騎士団総長の顔面を掻き斬り飛び去っていく。冑を被っていたため顔面に傷はつかなかったが、冑と爪が擦れる嫌な音が騎士団総長の耳元で鳴った。騎士団総長が叫びながら耳を塞ぐ。


「うがあぁぁああぁああぁあああくそッ! この鳥野郎ッ!!」


「ぐはぁっ」


 騎士団総長がイポに怒鳴ると後ろから、男の子のいる方から騎士団の声が聞こえてきた。騎士団総長はそちらを見る。


 そこにはツルのような化物――ベリスが騎士たちを脚蹴りし、クチバシで突きまわし、泣き叫ぶ男の子を背に乗せていた。


「おい貴様らァ。そのガキを渡すんじゃあないぞ」


 騎士団総長は叫んだが、ベリスは大きな翼で騎士たちを吹き飛ばしながら飛び立った。騎士団総長は頭を掻き毟るように冑を引っ掻き立ち尽くす。


「なんということだ……」


「ねぇ、おじさん」


 騎士団総長がベリスの飛んでいった方を呆然と見ていると後ろから声をかけられた。イライラしながら振り返ると、そこには褐色肌で釣り目の人間の子供のような化物が腕を組みながら立っていた。


「何だ貴様は。殺されたいのか?」


 騎士団総長はイライラしながら言った。不意に全身の力が抜けた。騎士団総長はその場に尻餅をついてへたり込んでしまった。


「ボクはシャラボラ。おじさんの濃くて美味しそうなの、ちょうだい?」


 そう言うとシャラボラは騎士団総長の鎧のスキマから見えている首筋にカプっと噛み付き血を吸った。騎士団総長は戦意を喪失していた。騎士団総長がぐったりとしているのを見た騎士たちは、シャラボラを斬り付けようとしていた。


 シャラボラはプハッと満足そうに口元を拭うと右手を前に突き出して左手を腰に当てて騎士たちを見た。


「ケンカは止めようよ。ボクはケンカが嫌いなんだ」


 シャラボラがそう言うと足元から黄色い波紋が徐々に広がっていき、その波紋に入った騎士たちの動きが鈍くなった。更にその波紋を追うように白い波紋が広がっていく。


 その白い波紋に入った騎士たちは剣を捨て、手を組みシャラボラに祈りを捧げた。騎士たちは全員戦うことを止めていた。シャラボラは腕を組んで得意げに騎士たちを見据えた。傍らでブールやアビゴイルが悶えている。


 流石のシャラボラでもデドロやデドロに影響を受けた化物を止めることはできなかったようだ。ドリウスがシャラボラに向かって走ってくる。祈りを捧げている騎士たちをバッタバッタとなぎ倒しながら向かってきていた。


 シャラボラは焦った。急いで逃げようとするがドリウスの方が遥かに速かった。ランスがシャラボラの小さな左翼を掠める。シャラボラは小さく唸るとその場で転んだ。ドリウスがランスの先をシャラボラに向けている。


 シャラボラは目を背けた。ランスが振り下ろされる。シャラボラは死を覚悟した。覚悟したがやはり受け入れられなかった。ズリズリと少しでも遠くへ逃げようと地を這う。大して進んでいない。進んでいないがそのランスはシャラボラの両足の間に振り下ろされた。


「ひゃうっ!」


 変な声が出る。もう少し上だったら確実に痛かった。シャラボラは片手で股を抑えて身を地面に翻し四つん這いで逃げるように進んでいく。


 風を切る音がした。ランスが再び振るわれたのだ。ガキンと金属音がする。シャラボラはその音に吃驚して飛び上がった。


 恐る恐る振り返るとボロボロの両刃剣でドリウスのランスを止める男がいた。

読了お疲れ様です。

いかがでしたでしょうか


さて今回は皆さんのお待ちかね

絶世の褐色男の娘シャラボラについてです


 シャラボラはソロモン72柱に登場するグラシャ=ラボラスから来ています。グラシャ=ラボラスは36の軍団を指揮する大総裁であり、ネビロスの支配下にあります。召喚されるとグリフォンの翼をもったマルチーズの姿で現れ、人間に化けると悪魔の羽を持ち、犬牙の生えた中年男性の姿になります。殺人の知識を持ち、現在・過去・未来を見通す力があるとされ、人間関係に愛憎を起こすことができます。また、人間の姿を消すこともできるとされています。


 本作では褐色肌の小さな羽が生えた男の娘として登場しており、殺人の知識ではなく戦意を喪失させる術を持った姿で描かれています。


 戦意を喪失させる方法としては「1.相手の血を吸う」「2.波紋を起こし忠誠させる」「3.戦意を失わせる空気を纏う」などがあります。騎士団総長の場合は3→1の順で戦意を喪失させました。普通の騎士たちに対しては2の方法で自身に忠誠させ、戦意を失わせました。

 いや、可愛いなぁシャラボラ……。噛みつかれるのは勘弁ですけどね(汗)


 さて、男の子がついに泣き出してしまい負の感情が増幅していきます。絶望しかないこの状況に現れた男。この男は救世主となれるのか!!

続きは43話で!!


それではまた次回お会いしましょう!!

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