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ŪNDER WΦRLD  作者: 赤神裕
Scene 05:Warning ―警告―
39/85

Episode 32:医療団のカシラ

みなさん、おはこんにちばんわ

第32話になります。


続きをお楽しみください!

 ブールは大刀をバンシーの首に押し付けた。


「……やりすぎだ。貴様を殺す!」


 ブールがそのままバンシーの首を刎ねようとする。だが、バンシーは蹴りでブールの大刀を弾いた。ブールが目を見開く。刹那、バンシーの長大剣がブールの白銀の鎧を砕き心臓を貫き、斬り去った。ブールは唸り声を上げてそのまま前のめりに倒れこむ。


「うぜぇ。隊長だの副隊長だのバカじゃねぇの。俺はただ華麗に戦いたいだけ。相手なんか誰だっていい」


 バンシーが笑いながら言った。アストロの中で何かが動いた。それは以前あったものよりも数倍近く激しいものだった。アストロの左目が赤く染まる。悪魔化が進行していた。大地が揺れ、空気が振動していた。


「兄貴! やめろ!」


「俺は怒りが治まりそうにない。悪いな、ドリウス」


 そう言うとアストロの周囲に黒い風が巻き起こり、ドリウスはランスでその風を防いでいた。防ぐので精一杯だった。声をかける間もないままアストロは恐ろしい姿になった。


 顔は黒いヤギの頭骨。頭には巨大な二本のうねりあげた角。背には黒翼が生え、足は太く、ひび割れた鎧に身を包んでいる。そして長い尾を持ったアストロの姿。


 完全なる悪魔化。アストロの怒りが限界を越えて悪魔の牙がむき出しになった姿。見たこともない恐ろしい姿。バンシーは恐怖していた。


「貴様、恐怖しているな。貴様には俺がどう見える!」


 アストロは大声で笑いながら言った。バンシーを掴みあげ、握り締める。ギリギリとバンシーの身体が悲鳴をあげる。


 バンシーはさらに恐怖した。アストロという恐怖。死ぬ恐怖。身体が砕けていく恐怖。様々な恐怖がバンシーの中で渦巻いていた。その恐怖を吸い取りさらに力を溜めるアストロ。そこに居る全員が恐怖していた。


 もう誰にもアストロを止めることはできなかった。アストロが雄たけびを上げて手を握り締める。バンシーの身体がひときわ大きな軋む音をたててバラバラに砕け散った。叫ぶ間もなかった。懇願する間もなかった。一言も発することなくバンシーは砕け散ったのだ。


 バンシーの血を浴びて叫ぶアストロ。血を吸収していた。バラバラになったバンシーの肉片を喰らう。アストロは化物だった。化物以上に化物だった。おぞましく、黒く、怒りに満ちた化物だった。


「もういい、止めろ!」


 ドリウスがアストロの前に出る。聞こえていなかった。アストロは肉片を貪っている。


「ドリウス殿。声は届いておりませぬ。ここは危険ゆえ一時退避しましょうぞ!」


 ブルエがそう叫ぶとレフォルとレイラ、そしてフォラスを回収してその場を去った。ドリウスは家の扉を開けようとした。男の子を逃がすためだ。だが、扉は歪んでしまったのか開かなかった。


 家の中ではダリオンが男の子を連れて逃げようとする。男の子は拒んだ。ダリオンは危険だと諭す。男の子は首を横に振って窓からアストロに呼びかけた。


「アストロ! 元に戻って!」


 その声にアストロが反応する。アストロは男の子に向かって拳をつき出した。


「危ない!」


 ダリオンが男の子を窓から離す。男の子の腕を掴んで家から出ようとする。家が崩れ始めていた。それでも男の子は諦めなかった。手を引こうとするダリオンを押しのけてまた窓に近づこうとする。


 ダリオンは無理やり男の子を引っ張っていった。家の外に出る。ボロボロと家が崩れ去っていく。アストロが男の子の方を見て叫びながら拳を振り下ろす。アストロは完全に闇にとらわれていた。もう誰も止められない。男の子は目を瞑った。


「これはこれは……」


 アストロの背後に立つ影があった。両手に鉄でできた両刃剣を持ち、頭には左右に広がり上向きに生えた巨大な角。そして碧色に輝く鎧を着た男だった。


「ずいぶん物騒な奴がいるなぁおい!」


 男は軽口を叩くと両刃剣を捨てアストロの首すじ目がけて殴った。一撃でノックアウトする。アストロがよろめき、煙を上げて倒れこんだ。ドリウスがアストロに駆け寄る。


「兄貴、兄貴!」


 男の子が目を開けると、倒れるアストロの後ろに男が首をゴキゴキ鳴らしながら立っていた。男の子は察した。この男がアストロを倒したのだと。男の子は男を睨みつける。


「大丈夫か坊主。安心しろよ、気を失ってるだけだ」


 アストロは元の姿に戻っていた。男が指笛を鳴らすとブルエが戻ってきた。


「お兄上。戻られたのですな」


「おうおう、ずいぶんと派手にやられたもんだな。全員治療しろよ。ダリオンも手伝ってやってくれ。それからそこに倒れてるお三方もな」


 そう言って男は二カッと笑った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ダリオンとブルエは返事をすると治療にとりかかった。ダリオンが薬や器具運びを担当し、ブルエは、それらを使って皆の傷を癒していった。


 ブルエに治せない傷は殆どない。彼はこう見えても最上の名医だった。彼に医学を教えたのはフォラスだった。ブルエには傷を癒す不思議な力があった。フォラスが医学を教えたことでそれが開花したのだ。


 だが彼に治せないものがいくつかあった。ひとつは肉片になってしまったもの。もうひとつは損傷が激しすぎるものだ。男はお三方と言ったがそこにバンシーは含まれていない。アストロとブール、アビゴイルの三匹だった。


 ブルエは全員の傷を治療した。心臓を貫かれたアビゴイルとブールさえも治してしまった。ドリウスが感心していると男が口を開いた。


「俺は医療団のカシラ、ルタナスってんだ。お前らのことは噂で聞いてる。よろしくな」


「オレ様はドリウスだ。それより兄貴は大丈夫なのか!!」


「安心しろ。気を失ってるだけだと言っただろう」


 ドリウスはそれでもなおオロオロしながらアストロを見ていた。男の子がジッとルタナスを見ている。


「人間の子ってのはこいつか。まぁ弱っちそうだな。ちゃんと守ってやらねぇと」


 ルタナスが笑いながら言った。姿は先ほどの姿ではなく人間のような姿をしていた。顔に大きな傷があり肌が茶色く、いかにもワイルドで巨大な男だった。ルタナスが先ほど捨てた両刃剣を拾い、家の瓦礫に腰を下ろす。


 両刃剣は何年も手入れが行き届いていないのかボロボロだった。刃は欠け、切先もつぶれてしまっている。到底役に立つような剣ではなかった。だが、ルタナスは剣を大切そうに腰についている鞘に仕舞った。


 鞘といってもそれこそ初めは立派なものだったのだろうが、先は折れ、全体にひびが入っており、とても安全とはいえなさそうだった。下手をすれば歩いている最中にずり落ちるのではないかというほどボロボロで鞘の役目をちゃんと果たしているのか疑問に思うほどだった。


 それでもルタナスはそのボロボロの両刃剣セットを身に着けていた。ルタナスが口を開く。


「お前、人間界ってとこから来たんだろ。こっちと比べてどうだ。やっぱ帰りたいか?」


「……ぼく、お兄ちゃんを探しに来たの。見つけたら帰るの」


 ルタナスはそうかいと頷いた。男の子はまだルタナスのことを警戒していた。

読了お疲れ様です。

いかがでしたでしょうか。


今回は医療団のメンバーについてです。


〇医療団のメンバー

 ・フォラス

 ・レフォル

 ・レイラ

 ・ブルエ

 ・ルタナス


〇モデル

 フォラスはソロモン72柱に登場するフォルカスから来ています。29つの軍団を率いる総裁であり、薬草の効力と石の効能を召喚者に教えます。また倫理学・論理学に優れており、頭の回転が速く、様々なアイデアを出すことができるアイデアマンでもあります。

 本作品では薬草学・医学に優れた医者として描かれており、ルタナスが不在の時は医療団を指揮するほどの実力の持ち主です。ルタナスの右腕と言っても過言ではないでしょう。医学については最高位であり、彼が考え出した薬は実に多種多様な場面で活躍しています。対魔薬や強化麻酔薬もフォラスが考えたものです。


 レフォルはソロモン72柱に登場するヴァレフォルから来ています。10の軍団を従える公爵であり、ライオンやロバなどの様々な動物を組み合わせたキメラのような姿で現れます。人間に対して盗みをそそのかし、大胆さを与えます。召喚者には医学の知識を授けたり、世の中のすべての秘密を教えたりします。

 本作品ではローブに身を包んだ獅子頭の医者として描かれており、フォラスが考えた薬を創り出すため様々な薬品の調合をするのが仕事です。ただ、彼には盗み癖があります。この盗み癖は無意識に起こるもの。だそうです。敵との戦闘では無意識に武器を奪うことができるようです。


 レイラはソロモン72柱に登場するレラジェから来ています。弓矢を持ち、緑の服を着た狩人の姿をしており、30の軍団を率いる侯爵です。敵の傷を悪化させたり、仲間の傷を癒したりする能力を持ち、敵の弱点を狙い射貫くこともできます。

 本作品では緑の服を着た獣娘狩人として登場し、射抜いた傷は治癒することが不可能という能力を持っています。レフォルが調合した毒薬を鏃に塗り射抜くことで、毒に侵されながら死を待つだけという恐ろしい状態に持って行けます。しかし、バンシーの身体は全身が硬く鏃を簡単に破壊してしまったため射抜けませんでした。可哀そう……。医療団の萌えキャラです(殴


 ブルエはソロモン72柱に登場するブエルから来ています。輝く肌をしたケンタウロスの姿で現れ、50もの軍団を率いる地獄の第二階級の長官です。哲学(精神/自然)や論理学に精通しており、召喚者に教えます。薬草学にも精通しており、触れるだけで怪我や病気を瞬時に治す能力を持っています。

 本作品では銀色の肌をした筋肉ムッキムキのケンタウロスの姿で登場し、その見た目とは裏腹に細かく素早い治療ができるキャラとして描かれています。その医療技術を教えたのはフォラスであり、元々傷を癒す能力を持っていたブルエは劇的にその技術が向上して、今や名医となっています。


 ルタナスは地獄の支配者に仕える6柱の内の1柱であるサルガタナスから来ています。ソロモン72柱との関連性は分かっていません。旅団長であり、部下にレラジェ・ヴァレフォル・フォラスを従えています。召喚者の姿を見えなくしたり、瞬時にあらゆる場所へ移動させたり、世の中に存在するどのようなカギも開けたりする能力を持っています。

 本作品では医療団のカシラとして描かれており、レイラ・レフォル・フォラスそしてブルエを従えて医者としてオビリオン中を飛び回っています。ダリオンとは旅の途中で出会い、ネビィ探しを手伝っていました。今回ルタナスがいなかったのもネビィ探しをしていたに違いありません。きっとそうです。多分……そうです(殴


さて、アストロの怒りが爆発し覚醒してしまった所にルタナスが現れました!

一撃でアストロをノックアウトしてしまったルタナスはブルエに傷ついた者を治療するよう命じます。

思わぬアクシデントに男の子たちはどうするのか!?

第33話をお楽しみに~


それではまた次回お会いしましょう!

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