第三話
私は新しい紙を取り出しヒロインの事を思い出しながら書き出していく。
アリシア 平民の為苗字は無い。 名前は変更可能のため名前が違っている可能性あり。
王都ヴィ=ランシェにある孤児院で育った。
元気で裏表のない性格で、何事にも前向き。
あたし、あきらめないっ! が口癖 (キメセリフ)
本来、同時代には現れないはずの鮮血の花嫁として学園にやってくる。
そもそものきっかけは、ハルト王子を含めた貴族数人が孤児院の慰問に訪れた時、その案内をアリシアが勤めハルト王子が孤児院の院長の部屋へ案内された後に起こったの。
残った吸血鬼の貴族の一人がアリシアにスケベ心を起こし手を出そうとして、それに抵抗しようとして傷を負ってしまう。 たしか貴族の袖にあった金属製のボタンをひっかけたんだっけ?
その血の匂いを嗅いだ貴族が血の暴走を起こし、(これは花嫁の血に耐えれるのが5公家のみであることの伏線らしい。)アリシアに襲い掛かろうとして、騒ぎに気付いたハルト王子が部屋から出てきてアリシアを救った。
この事件でアリシアはハルト王子に淡い恋心を持つようになる。
そして、アリシアが鮮血の花嫁であることが分かり急遽、宵闇の学園とも呼ばれるヴィ=ラングレン学園へ入学して攻略対象と恋を育むという展開になる。
この子の生い立ちには色々と謎があるのよねえ。
ヴァネッサが処刑され、ヴァンプリージェ公爵家が爵位降格をくらった後、侯爵家であるサワナン家がアリシアを引き取って養女にしてるのよね。 そしてその功績でサワナン家が公爵になってるの。
かなりきな臭いわね…… これは、サワナンにも十分注意しておかないと。
うーむ、時期的にアリシアの発覚イベントは終わってるはず。 というか入学まであとどれくらいあるんだっけ?
私は壁に掛かってるカレンダーを見て見る。
お? これゲームでスケジュール組むときに出てくるカレンダーと同じやつだ。
などと呑気に考えながら見て見れば……
んあっ!? もう明日が入学式じゃないっ!
あーーーーーー!!??
どうしようっ!?
一日でどうしろとっ!?
と、とりあえず明日起きるはずのイベントを思い出さなきゃ。
えーと、明日は入学式がある。
入学式は何事もなく終わるはず。
新入生は、ハルト王子に双子だけ。 ああ、あとアリシアもか。
リーヴィス、アーネリオ、ヴィヴィリオが二年っと。 そしてヴェントールが教師ね。
問題はその後。
学校行事が終わった後、ヴァネッサがこの攻略対象達に呼び出される。
場所は…… 多目的ホールだったかしら?
そこで全員と顔合わせするんだけど、そこに学校内を探検していたアリシアが現れて、まだ鮮血の花嫁とは知らなかったヴァネッサが追い出そうとして、またアリシアがケガするのよね。
というか、この後もかなりあちこちでケガして暴走騒ぎを起こすアリシア……
イベントのためとはいえご苦労様な事ね。
まあそれもあって、ハルト王子以外の攻略対象にも花嫁がもう一人いる事がここで分かるというのがこのイベントね。
その後しばらくは、アリシアと攻略対象達のイベントくらいでヴァネッサが関係する物はないはず。
つまり、明日ヘタな事をしない限り平穏な日常がまってる訳ね!
……まあ実際は裏で色々動いてるヤツらがいるんだろうけど。
現状手を出せないし、しかたないわ。
そういえば、吸血鬼についての色々考える事があったわ。
まずヴァンパイアと言ったり吸血鬼と言ったりしてるのは、これは原作ゲームの設定による物ね。
大体、種族全般を表す時は吸血鬼。 5公家などの上級階級に対してはヴァンパイアと言うのが普通ね。
次に吸血鬼自体についてね。
これは、地球 (前の世界の事を便宜上そう呼ぶわ)で物語などに登場する一般的な吸血鬼像と少し違うのよね。
まず食事で血は吸わない。 十字架やニンニクが弱点ではないし、聖なる武器も苦手ではない。
ニンゲンを超える優れた身体能力と高い魔力を持ち、200年から300年ほどの寿命を持つ種族。
ではなぜ”吸血”鬼なのか? それは人間の血を吸う事で能力が一時的に上がるからよ。
アルシュ=ヴィラが建国される前は吸血鬼達が人間を便利な道具あつかいにして奴隷として扱っていた時代があったの。
まあその時代から存在する大ジュマナン帝国が、人間至上主義になったのもしかたないと言えばしかたないのかしら。
でもある日、異界から今の上級貴族の祖であるヴァンパイア達が現れ圧倒的な力で吸血鬼達を支配下に治め、人間を奴隷から解放したのよ。
そしてすべての吸血鬼と、奴隷解放に恩義を感じた人間を率いてこの国、アルシュ=ヴィラを建国した。
謎なのが鮮血の花嫁なのよね。
花嫁が何時頃現れたのか記録にないのよ。
その血を吸えば普通の人間の血よりも高い効果を発揮し、伝説によれば神降ろしすら可能だったという話もあるわ。
やがて、王の選定に欠かせない存在となり今に至る訳だけど。
後は…… そうね、私的に一番関係のある選定の義についてね。
選定の義は、鮮血の花嫁が王となる伴侶を花嫁自身が選ぶという物ね。
その基準は恋慕であったり、すぐれた王としての資質であったりするわね。
これから一年間に渡って選定の義が行われる訳で、つまり一年乗り切ればなんとかなるっ……か?
まあ裏で貴族達の暗躍があるから油断は出来ないけど、まずは一年乗り切ろう!
私は、長い間机にかじりついて凝り固まった身体をほぐすために伸びをする。
ボキボキと骨が鳴る音を聞き苦笑する。
ふと違和感を感じて肩を回す。
うん……? なんか肩が重いわね…… ハッ!? これが俗にいう大きな胸のせいで肩が凝った現象!?
あれは本当の事だったのか!!
いやーこまったなぁ、むねがおおきいせいでかたがこってこまっちゃったなぁ。
グヘヘッ。
って、そんな事やってる場合じゃなかった!
とは言え今の段階で出来ることはないはず。
後は出た所勝負ね。 まあ私の得意とする所よ。
気合いを入れベッドにもぐりこむ。
まずは顔合わせを乗り切れば……
色々あって疲れたのか、私はすぐに眠りに落ちるのだった。
続く