第十三話
さて、今日はお茶会の日ですね。
本来は一週間以上前に紹介状などを送るのが礼儀ですが、そこは学生の身ではありますし、そもそも知り合いでワイワイやるのが目的ですから。
アージェンタ=ヴェルン=ルッキラス侯爵令嬢。 西方の大穀倉地帯を領地に持つ大貴族。
アルシュ=ヴィラの食の生命線とも言われ、またさまざまな新しい料理が生み出されているというわね。
”ルッキラスで鍋を振るわぬ者は料理人にあらず”という格言もあるくらいよ。
そんな大貴族のご令嬢であるアージェンタ様だけどと、本人はさっぱりとした性格の気持ちのいい方よ。面倒見もいいから慕われているしね。
ルカを伴ってサロン、今回は上級貴族用の方ね。 に到着し部屋付きの侍女に案内されて中へ進む。
「ようこそおいで下さいましたヴァネッサ様!」
「お招きいただきありがとうございます。 アージェンタ様。」
そうお決まりの挨拶を終えた後。
「なんだか久しぶりねえ。 何時以来かしら?」
「前にお茶会したのは一か月ぐらい前でしたかしら?」
などと言いながら席へ案内される。
席には数人のご令嬢達が座っていた。
皆、気楽なもので座ったまま挨拶してくるが、一人だけ慌てて立ち上がり挨拶をしてきた。
あれ? この方は見たことない方ね。
「はじめましてっ! ヴァンプリージェ公爵令嬢様。 私はルミエラ=ヴェルン=ジュマッカ 。ジュマッカ伯爵家の長女です。」
見事に緊張でガチガチなのは、淡い金髪のかわいらしいお方ね。
なんというか、アリシアよりもヒロインぽいというかはかなげな雰囲気が保護欲をそそるわね。
「初めましてジュマッカ伯爵令嬢様。 私の事はどうかヴァネッサとお呼びくださいな。」
「あ、ありがとうございますヴァネッサ様。 私の事もルミエラと!」
緊張に顔を真っ赤にさせる姿は、本当にヒロインと言ってもいいくらいね。
まあ、このゲームのヒロイン(笑)はアリシアだったけれども。
今回のお茶会は、小規模な物なので使用するテーブルは大きい物が一つ。 そこに参加者とそれぞれお付きの侍女が付いているわ。
そして、学園で雇われている給仕専門のパーラーメイドが数人。
パーラーメイドというのは下級使用人で、このように給仕が主な仕事の人の事ね。
ちなみにルカ達侍女は上級使用人に分類され、その仕事は主人に付き従い主人の世話をする。
洋服や貴重品の管理も専属侍女の仕事だったりもするわ。
だから専属は主人に次ぐ権力がある。 下級使用人や他家の使用人からお嬢様と呼ばれるほどにはね。
(注:この設定は英国のレディス・コンパニオンと侍女の役割を合わせた独自の物となっております。 あしからずご了承ください。)
後、けっこう勘違いをする貴族の子息女がおられるけれども、メイドだからって不当に扱う方が毎年おられるとか。
ご自分の家の使用人なら、よくはないけども問題はない。 風聞は悪くなりますけどね。
しかし、学園で雇われている方や他家のメイドなどに対しては礼儀をもって接しなければいけない。
なぜなら使用人は雇った者の財産なのだから。
お茶会は始終なごやかに進んだが一つ気がかりなことがあった。
「アージェンタ様の御領地は、本当に豊かでうらやましいですわ。」
「本当に、うちもルッキラス領と取引をしだしてからは景気も上々で。」
「ふふ、ありがとう皆様。 でも、少し気がかりがあって……」
そう言うとアージェンタ様は気づかわし気にため息を吐く。
「まあ、なにかありましたの?」
私はそんな彼女に水を向けると、誰かに吐き出したかったのだろう。 すぐに話してくれた。
「いえ、実は我が領地で流行り病が流行しているらしく。 暫くは領地に帰ってこなくていいと言われてて。」
「まあ!」 「なんと恐ろしい!」
「今も続いているんですの?」
「ええ、どうも西方守護のヴァリグ辺境伯領から流れてきているらしく。」
西方、西方…… まさかね。 私がそう考えていると。
「あの! ザインからはどうですか? もしやザインから病人が流れ込んでいるのでは?」
今までほとんど喋らなかったルミエラがそう言いだした。
聖公国ザイン。 サマナンの逃亡を手引きしたと思われる有力候補。
私は王妃陛下とのお茶会で世間話のようにして紛れ込ませてきた話を思い出した。
そういえばザインが兵を集めているらしい、と。
もしやこの流行り病は……
「それは、考えてもみませんでしたわ。 お父様に連絡してみますわね。」
アージェンタ様はお茶会終了時そういってルミエラ様にお礼を言って別れた。
「ではまたお茶会いたしましょうね。」
私はそう言って皆と分かれる。
その帰りしな。
「お嬢様、実はジュマッカ家の者からお手紙を預かりまして。」
「あら? そうなの?」
ルカはなぜか逡巡する素振りをみせたがやがて小声で。
「それが宛名が…… ヴァネッサ=ディオロ=ソレイド=ジュマナン、と。」
その名前は……
ジュマナン帝国の皇帝陛下であるおじいさまが私にプレゼントとしてくれた帝国皇女としての名!
どうしてルミエラ様がその名を!?
私は急いで部屋に戻り、その手紙を取り出し読んだ。
そこには……
”明日の放課後、貴族棟三階の礼法教室にてお会いしたいとあった。
親愛なる皇女殿下と添えて。
続く