第十話
王城アーゲルヴァイシュ。 王都ヴィ=ランシェの中央に立つ、陳腐な言い方だけどまさに白亜の城ね。
そもそもゲームではドイツのノイシュヴァンシュタイン城をモデルにしていて、右手に一番高い尖塔がありその周りをそれよりも低い塔が立ち、その中を大きな建物が鎮座しているわ。
その外観には白い漆喰が塗られ、美麗な城として有名だわ。
そして私は今、その建物に向かって今朝方迎えに来た王城からの馬車に乗って向かっている所な訳だけど……
「おっ! 見て見ろよ。 綺麗な噴水があるぜ?」
なぜヴィヴィリオ様と同席しているのでしょうか?
いえ分かってますよ。 ヴィヴィリオ様は今だ学生ながら近衛騎士団の副団長を務めていらっしゃる事は!
警護の面からも馬車に同席しているという事も。
でもね? 暇だったから付いていくぜってなんですかね!?
あれー? ヴィヴィリオ様ってこんなキャラでしたっけ?
ゲームだと明るさの中に影が見え隠れするキャラだったような……
気になるのは他にもある。
そうサヴィリス様とラヴィリス様だ。
サヴィリス様はゲームより子供っぽいというかアホの子ぽいし、ラヴィリス様ははかなげな美少年というよりは苦労性の少年といった感じなのだ。
ほかの皆の態度からも、彼らは昔からの性格らしいのよねえ。
……よくよく考えてみたらハルト王子もおかしいわね。
最初の態度は、クールな態度っていうよりはツンデレ王子という感じだったように思うわ。
私の知らない所ですでにゲームとは剥離した物になっていたって事かしら?
しばらくして馬車は城門を抜け、馬車の停留所で停止する。
サッとヴィヴィリオ様が降り、私に手を差し伸べてくれたわ。
ここら辺はまさに貴公子っ! って感じなのだけれど。
馬車の外で待っていたのは、侍女が数人と護衛の近衛の騎士が4名ほど。
「ようこそおいで下さいましたヴァンプリージェ公爵令嬢様。 早速で申し訳ありませんがご案内したします。」
そして素早く四方に近衛騎士が配置に付くと、侍女の先導でしずしずと城の中へ進む。
私はお城に入るのは初めてだけど、これは凄いわね。
城内は肖像画が等間隔に並び、美術品もセンスよく配置されている。
警備の兵はキビキビとした動きで隙はなく、とはいえ侍従たちの表情はにこやかであり喜んで仕事に従事している事をうかがわせる。
ひとしきり感動したり感心してみたりと、飽きることなく進んできたけれどついに目的地へと到着した。
今回は公式の物ではないと言う事で、謁見の間ではなく客室を使うらしい。
その客室の前にはやはり近衛の騎士が警備に付いていた。
「こちらでお待ちください。」
そう言われ客室の中に入り、ソファーに腰を下ろす。
スッと音もなくお茶が置かれ、チラとその相手を見ればすでに壁際に佇んでいた。
出来る!? ルカに勝るとも劣らないその侍女の有能さに内心驚いていると先ぶれが来て、国王陛下のおなりであると告げられたので慌てて立ち上がり頭を下げた。
カチャリとドアが開く音がして数人の足音が聞こえた後、頭を上げるがよい。 とのお言葉が掛かりようやく私は頭を上げその人を見た。
外見は30代後半ぐらいだが、その治世はすでに100年を過ぎている。
顔はハルト王子が歳を重ねればこうなる、といった感じだがよく考えたら逆だったわね。
公式な会見でないためかラフな服装だが、その身体からあふれ出る威厳はすさまじく自然と平伏してしまいそうになる。
そしてその隣に寄り添う女性が一人……
あれ? 誰かしらこの女性。
どことなくハルト王子にも似た女性。
王子に兄弟はいなかったはずだけど?
「初めましてだなヴァンプリージェ公爵令嬢殿。 私はルナヴァリオだ。 そしてこっちが……」
「初めまして! わたくしがハルトの母のアスヴァリテよ。」
……はい?
ハルト王子のお母さん? ホワイ? えっ!? えっ!? なんでなんで?
「フフッ今なんで生きてるのこのオバハンって思ってるでしょ?」
アスヴァリテ様は悪戯っ子のような表情で笑みを浮かべていた。
どう言う事ですかっ!?
続く