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8:ステータス【限りなく不幸に近い幸福】

「フィルナの魔力が人並みだったらどうしようかと思った」

「先輩、これからお世話になります!」

「・・・・・・やめてくれ」

 なんだかマウントを取られた気分になってしまう。もろん被害妄想だろうけど。


 受付近くのテーブルをはさんで、俺とフィルナは傭兵騎士としての今後の立ち居振る舞いについて話していた。

「それと、私の名前はクロウサギだよ」

「わかった。流石にフィルナじゃ正体がバレかねないからな・・・・・・で、クロは詠唱師になるの?」

「うーん、治癒魔法、精神操作あたりを習得したいなって思うんだけど」

「それなら俺も助かるよ。今まで回復薬とか、高いな軟膏を使って自分で治してたから」

 ソロの傭兵騎士の活動は自由だけれど、何もかも自分一人でこなさなくてはいけない。

 フィルナ改めクロウサギがバディとして加わってくれることで、作業分担ができるようになる。エントリーできる依頼にも幅が広がるのはありがたいことだ。

「ねぇ、ラントはどういうステータスなの?」

「あー、そのうちな」俺はそう言って視線を逸らせた。

「そのうち? 私の見たんだから、見せてくれてもいいじゃない。相棒の能力を知ることも大切でしょ?」

 もっともなことを言われてしまった。

「・・・・・・分かったよ」

 俺はバッグをまさぐって、ホルダーからスタンプ帳を離してテーブルの上に置いた。


 所有者:ラント・ヴィヴァル

 【魔力】:177

 【身体力】:184

 【防御力】:148

 【天賦技能】:限りなく不幸に近い幸福


――フィルナは無言のまま、開かれたステータスを凝視している。

「失礼な質問かもしれないけど、魔力が177って、どれくらいの力なの?」

「ブラウンラベルの駆け出しとしては、まぁまぁかな。」

「ふぅん」

 俺は少し見栄を張ってしまった。実際は中の下といったところだ。身体力、防御力も月並みで、たいしたことは無い。けど、正直に俺の実力を教えてしまったら、フィルナ・・・・・・じゃなくてクロも不安になるだろう。多少の強がりは必要なのだ!


「ねぇちょっと」

「は、はい?」

「じゃあ、私の魔力ってかなり凄いの?」

「魔力は1200以上だよな? そこだけ見れば、上位魔術も使いこなせる魔力だよ」

 王族であることも要因だけど、魔力の強さはクロ個人の体質でもあるのだろう。

「ぜんぜん、実感が沸かないんだけど・・・・・・」

 言いつつクロは、黒いグローブの両手を握っては開きを繰り返した。

「クロがどれだけ術式を修得できるか、がんばりにかかってるな。術によっては身体力と精神的な強さも必要だし」

「けど、身体力と防御力はラントの方が上なんだね」

「まぁ変動するけどな。フィルナも傭兵騎士の任務をこなしていれば、自然と数値が上がっていくよ」


 【身体力】は、文字通り身体の活動がどれほど活発かを表す数値だ。病気や疲労で弱っているときは数値も減ってしまって、死をもってゼロとなる。鍛錬を繰り返すことで身体力は上昇する。

 【防御力】は魔力や闇の力に抵抗する力を表している。身体力同様、魔術による攻撃で減ったり、精神的な負荷ですり減っていくこともある。もしも値がゼロになってしまうと、身体力が十分でも些細な攻撃で身体力にダメージを受けてしまうのだ。

「防御力さえ高ければ身体力など不要ッ!」という過激な人もいる。俺はどっちも大事だと思うし、そういう見方が一般的だ。


「この、【限りなく不幸に近い幸福】って、どんな天賦技能なの?」

「クロと同じ運勢系のタレントだよ。けど変わり種で、危機的状況を脱出しやすくするんだ」

「ちょっと、それってかなり良い技能じゃない!?」

 この反応は織り込み済みだ。俺の天賦技能を人に説明すると、クロと同じような反応が必ずと言っていいほど返ってくる。

「て思うじゃん? けど読んで字のごとしで、この技能を身につけていると危機的状況に陥りやすくなるんだよ」

「どういうこと? ピンチ打開の幸運があるんじゃ・・・・・・」

「つまりこの技能には二種類の運勢操作作用があるんだ。一つは俺を危機的状況に陥れる不運を招く技能。もう一つはそのピンチから脱出する幸運を招く技能。故に、【限りなく不幸に近い幸福】」

黒いウサギの仮面をかしげて、クロは納得のいかない様子だ。

「・・・・・・本末転倒じゃない? 幸運を招くために不幸を招くなんて」

「そこは人生哲学的な問題だけどな。俺が毎回ピンチになる代わりにギリギリのところで生還できてるのも、この技能のおかげなのかもな。かわりに殆ど「励」スタンプを押されるんだ。任務に成功して「優」を押されることはない。限りなく不幸に近いってのはそういうことなんだよ」


 こんな奴が傭兵騎士に向いているのかよ? と思う人もいるだろう。

 俺もなりたての時は自分の技能に半ば絶望したものだ。けれども天賦技能は絶対発動するという技能ではない。運勢をほんの少し傾かせてしまう程度のハンデなのだ。・・・・・・そうでも思わなければやってられない。

 なぜ俺がこの天賦技能なのか、原因は分からない。受付嬢によればその人の生まれ育った環境が影響するらしいけど、あくまで憶測の域を出ない仮説だ。


「大丈夫大丈夫!」


 自分の境遇に改めて肩を落とす。そんな俺の頭に明るい声が落ちてきた。

 見上げると、クロはえっへんと胸を張っている。ウサギの仮面はほぼ無表情だから、なんだか可笑しく見える。

「私の技能の【天地人の祝福】、これがあればラントの不幸ナンチャラってのも中和されるでしょ?」

 俺は目を点にしていたけれど、やがて薄笑いを浮かべてしまった。

「やれやれ」

「な、なによ? 人がせっかく親切で言ってるのに」

「それはありがたいんだけど、例えばそうだな・・・・・・アカデミーの席で、背の高い奴の隣に座るとするだろ? だからって自分の背が伸びるか?」

「・・・・・・伸びない」

「そういう話。確かにクロの【天地人の祝福】もかなり高位の運勢操作系タレントだよ。けど大前提として、【天賦技能】は相互不干渉なんだよ」

 つまり俺の不幸も幸福も、他人にはどうにもできないのだ!

 ――そしてしばしの沈黙。


「えぇっと」

 胸を張っていたクロは、背を丸くしてシュンとしてしまった。逆に俺は、開き直ってエラそうな態度を取っている。痛々しいことこの上ないので、俺もシュンとした。

「その、なんだろ、ごめん・・・・・・」

 クロのくぐもった声が仮面の向こうから聞こえてきた。

――だから俺は誰とも組まなかったんだ。迷惑かけるから。

 そう思ったけどクロには黙っておいた。話すのが面倒になったからかもしれないし、これ以上愚痴を吐くのがイヤだったのかもしれない。

「ま、いいってことよ」

 俺は手をパンと叩いて、その場の淀んだ空気を断ち切った。


「この町を出る前に、行きたいトコがあるんだ」

「行きたいところ?」


 スタンプ帳をバッグに入れて、俺とクロは傭兵支部を後にした。

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