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36:たらい回しの俺たちの日々

ラントたちは【鏡の間】でルーシア女王と宰相クルノアン卿と出会う。会談は終わり、ソルグム大公は

ラントとクロを巡る確執について話し始めた。


【登場人物】


【俺/ラント】

:傭兵騎士の少年。元貴族。

 クロ、アトネと共にルーシア女王を救うための突破口を探るためトスカン州 の大公ソルグムを訪ねる ことに。


【クロ/フィルナ・ワインガルド】

:ラントの幼なじみの少女。ベルルスベル王国の元第二王女。

 姉のルーシア国王を救うためにラント、アトネと共に旅をしている。

 透明人間であることを隠すために黒づくめの格好をしていて、無表情なウサギの仮面を付けている。


【ルーシア女王】

:ベルルスベル王国の現役女王。クロ(フィルナ)の実の姉。クルノアンに権力を牛耳られている。


【クルノアン】

:ベルルスベル王国の近衛騎士団長。「宰相」と呼ばれていて、ルーシア女王をしのぐ権力を持ってい  る。

「なるほどなるほど」

クルノアンは嘲笑をすることはあっても、何かに喜んだりして笑顔を造ることは珍しい。こんな顔もするんだなと俺は意外に思った。けれどもクルノアンがその表情を見せたのはほんの一瞬のことで、ため息をつくとすぐに元の冷たい、呆れたような顔に戻った。

「悪いが君のような亡霊を相手にしている暇はない」

「おい、待・・・・・・」

 クルノアンの「閉鎖」のかけ声を合図にして、鏡に映し出されていた女王とクルノアンの姿は川面のように揺らめく。映像はやがて渦を巻くようにして消えていった。それに代って、鏡信術が解除された鏡には俺たちの呆気にとられたような姿が映し出される。

 

映像が消える間際まで、女王は俺たちを名残惜しそうに見ていた。


 やるせない気持ちが怒りに変わって頭のてっぺん辺りまで登ってきた。座っている椅子を目の前の鏡にぶつけてやりたい気分だけれど、よそ様のお宅でそんな事も出来ないよな。

「大公閣下・・・・・・じゃなくてソルグムさんと呼んででよろしいんですか?」

「構わないよ。そっちの方が気楽だからね」

 俺はソルグムさんに鏡の値段を聞いてみた。ほんの戯れ言だ。

「高価は高価なんだが、それよりも造り直すのに二年もかかっていたな」

「二年ですか・・・・・・ん? かかったとは?」

「あぁ・・・・・・前の鏡は亡き父がクルノアンにぶち切れてしまって・・・・・・」

 なるほど。気持ちは分かります。

 それが何年前の出来事なのかは知らないが、今回の会談も終始クルノアンのペースですすめられて終了した。


「緊急の通信だった。こちらからの呼びかけでクルノアンはかなり不機嫌そうだったが、女王の妹さんらしい人が来てると言ったら流石に黙り込んだよ。その後なんて言い出したと思う?」

「部屋に乗り込んで切り捨てろ。とかでしょうか」

「まぁそんな類いの命令だ。だが君たちはトスカンに助けを求めてきた亡命者だ。だから卿の要望には従えないと突っ返したよ」

 ソルグムさんの抵抗を受けて、クルノアンはシャンベリス城の開城は無しにすると言いだした。会談が平行線を辿ろうとしているときに、ジッとしていたルーシア女王が妹を還して欲しいと藪から棒に言い出したという。

「そう言ってくれることに賭けたのだよ。無口な女王だが、流石に実の妹である貴女フィルナを手にかけたくはないだろうからね」

「その時のクルノアンはどんな様子でした?」

「驚いていたさ。よほど女王を手玉にとっているつもりなのだな。あの近衛騎士団長は」

 俺の蓄積された鬱憤が幾分蒸発してくれた。すんでのところで自我を表明したルーシア女王のおかげだ。フィルナを救いたい、と。

 ソルグムさんは蒸留酒をぐいと吞んで「嬉しいだろう?」と聞いてきた。もちろん嬉しい。

 

 大公の執務室に隣接する一室で、俺とクロ、そしてアトネさんはソルグム大公から会談のプロローグを聞いていた。客と歓談するための部屋で、品の良い小さな棚やカップなどの調度品が揃っている。

 【鏡の間】での会談を終えてまだ時間はそれほど経っていない。

 ソルグム大公は会談が終わるやいなや没収していた剣とスタンプ帳とを俺たちに返してくれた。正式に来客としてもてなしてくれるらしい。その後案内されたのがこの部屋だった。

 いつの間に言いつけていたのか、部屋のテーブルにはボトルに入れられた酒と陶器のグラスとが置かれていた。ソルグムさんはそれをさっきから自分でついではグビグビ吞んでいる。

「殿下の明け渡し場所をシャンベリス城に指定したのは、何か理由があるんですか?」

 アトネさんが聞いた。ちなみにアトネさんは酒をソルグムさんから勧められたけれど、「この前ちょっとトラブルを起こしてしまって」と言ってやんわりと断っている。

「シャンベリスにした理由はだな・・・・・・こう言ってはなんだが、メンツだっ」

 ソルグム大公は紅い唇を尖らせて、どこかおどけて言った。

「私が都に行くのがシャクだったのだ。屈服した私の姿を想像して、民たちを失望させるわけにはいかないだろう!」

 郷土愛溢れるトスカン州の人たちのことだ。リーダーたるソルグム大公が遠い都に行って忠誠を誓うようなことをすればガックリするだろう。俺とケンカした村の若者などはどんなことを思うだろうか。

 幸い、シャンベリス城で会いたいというソルグムさんの打診をルーシア女王はのんでくれた。

「だがそこでクルノアンが言ってきたんだ。そもそも証拠を見せろとね」

 そして俺たちが呼ばれたというわけだった。それならもっとしたり顔で堂々と登場すればよかったな。

 

 いつまで話していただろう。夕陽がヴェルンディン湖の向こうに沈んでからだいぶ時間が経っている。 俺たちは表向きは本国から来た使節団の一員という立場で扱われることになった。宿泊場所はそれに相応しく衛兵達の詰所の空き部屋をあてがわれた。快適だけれど、宮殿の中でも警護が特に厳重らしいことがアトネさんからの話で分かった。どうやら俺たちが宮殿から逃げられないようにしているらしい。まぁ仕方ない。

 

 俺はヴェルンディンの宮殿で五日間のぼうっとした日々を過ごした。アトネさんは諸国の勢力についての講義を頼まれたらしく、意外と忙しい。クロも宮殿で栽培している薬草を潰したりこねたりするのに夢中だ。俺だけやることが殆ど無いぞ・・・・・・

 身体の動きが段々鈍くなっているようだと感じた五日目、クロが傭兵騎士の仕事をやろうと言い出した。本分を忘れかけていた俺だったけれど、誘われてやる気がふつふつと湧いてきた。

 その旨を来賓室でソルグムさんの隣にいたおじさんに言うと、

「では薪割りでもやっていただきましょうか」

「薪割ですか」

 んなの誰でもできるじゃねぇか。もっとこうモンスター退治とか無いんすかなどとは口が裂けても言えないし、言おうとも思わなかった。城から出ないことはお互いに暗黙の了解だ。俺たちが居候だということは痛いほど自覚している。

 薪割りでも傭兵騎士の仕事としてカウントされるように、その後ソルグムさんは計らってくれたらしい。


「たらい回しっていう言葉、知ってる?」

 俺は薪割りの最中にクロに聞いてみた。積まれた木に座って、クロは俺が薪を割る様をぼうっと眺めている。「あまり聞かない言葉だけど」

「俺がいた地方の言葉だよ。面倒な頼み事を受けると、自分じゃ無理だからってことで頼みを聞いてくれそうな他の人を紹介するんだ。で、それがどんんどん繰り返されていく現象」

「今の私たちが、そのたらい回しなの?」

「俺は、そう・・・・・・思うっ!」

 パギャッっという音を立てて、薪が真っ二つになった。俺は満足して次の一本を定位置に据える。

「というかクロの目的を聞いた俺が、どうしようもできなかったのが原因だよ。そのせいでクナパッツさん、アトネさん、ソルグムさん、今度はルーシア女王を頼ることになった。別にその人たちに文句を言うつもりじゃないけど」

 俺は斧を振り上げた。「ただ俺が無力だったなぁって思って!」

 パギャッ・・・・・・今度の一本は少しずれてしまった。

「力が無くてもここまで来れたんだからいいじゃない。ほんとに無力だったら、ラントはもっと早い段階で私から離れてたでしょ?」

「できるわけないだろ」

 クロは俺を慰めてくれているのか? 話の発端が俺の愚痴だったから着地点が無いのはしょうがないけれど、結論として何が言いたいのか自分でも分からない。

「と、とにかくこのたらいを誰かが止めないといけない。俺が出来なくても結末を見届けるつもりだよ。もうすぐクロもお姉さんに会えるんだから、案外その時期は近いかもしれないけど」

「だといいんだけどね」

 憂鬱そうにクロは呟いた。


その日の夜にシャンベリス城で開かれる会談が九日後に決まった。俺たちは三日後にこの宮殿を出ることになった。

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