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33:来賓室

下級傭兵騎士のラントとクロ、そして最上級傭兵騎士のアトネはトスカン州の州都ヴェルンディンに

入った。宮殿の来賓室で待つ三人の前に、ソルグム大公が現れたのだが・・・・・・


【登場人物】


【俺/ラント】

:傭兵騎士の少年。元貴族。

 クロ、アトネと共にルーシア女王を救うための突破口を探るためトスカン州 の大公ソルグムを訪ねる ことに。


【クロ/フィルナ・ワインガルド】

:ラントの幼なじみの少女。ベルルスベル王国の元第二王女。

 姉のルーシア国王を救うためにラント、アトネと共に旅をしている。

 透明人間であることを隠すために黒づくめの格好をしていて、無表情なウサギの仮面を付けている。


【アトネ・ボルザック】

:一流の女傭兵騎士。遺書を書くのが趣味という少しやばい人。トスカン州での案内役として、ラント、 クロと共に旅をしている。


【ソルグム大公】

:トスカン州を束ねる若い女領主。男勝りの性格で、アトネ曰く愛と誠に熱いらしい。


ソルグム大公がどういった理由で来るのが遅れたのかは告げられないまま、アトネさんの簡単な挨拶を終えて俺たちは本題へと入った。

 俺が没落貴族の傭兵騎士。

 クロの正体がベルルスベル王国のフィルナ王女。

 俺たちはクロの姉であるルーシア女王をクルノアン宰相の籠絡から解放したいのだが、実力に乏しいので一時的にトスカンに亡命しようと考えている。

 以上のあらましを俺とクロはつらつら順序立てて話していたのだけれど、話しているうちに俺たちがあまりに矮小な存在であることを改めて思い知って情けなくなってしまった。


「君達はかなりのチャレンジャーだな」


 俺たちの話を聞いて、ソルグム大公はやや呆れ気味の笑みを浮かべている。

「知り合いのアトネが仲介役とはいえ、敵対勢力に身売りするというのは相当な賭けだと思うが?」

「クナパッツさんとアトネさんの紹介なら信用できますので」

「あははっ。そう言われると照れてしまうな」

 口ではそう言っているけれど、ソルグム大公の双眸はどこか冷ややかに見える。

 クロとソルグム大公のやりとりを、俺とアトネさんは雷雲を見つめるような表情で聞いていた。クロはウサギの仮面を付けているからわかりにくけれど、背筋を伸ばしているのはだいたい気を張っている証拠だ。


 予想外の動きを見せたのは、大公の隣に影のように座っている老紳士だった。手で遮音壁をつくって何やら大公に耳打ちしている。「わかってる」と大公はにべもなく言った。

「失礼。ええっと、これは個人的な興味から聞くことだから、無視してくれても構わないのだが」

「なんでしょうか」

「貴女は、なぜそんなにまでして女王を助けたいのだ? 周りの人を巻き込んでまで?」

 ソルグム大公は質問を補強するように、クロの左右に座る俺とアトネさんとに手を差し伸べた。まぁ、

俺もアトネさんも巻き込まれたというか、自ら飛び込んだという感じなんですが。

「どうしてそんな質問を?」とクロは聞き返す。

「少し不可解だったのでね」言いつつ大公は肩をすくめた。

「クルノアンの手腕は私も認めざるをえない。大壊乱を抜けて、王国は良い意味でも悪い意味でも安定している。けれども貴女は、いや貴女たちはその状況をかき回してまで女王を助けたがっている。その点で平和を乱す存在と捉えられても仕方が無いと思うのだが?」

「閣下がそのようなことををおっしゃるとは意外ですね」

「おいクロ」

 一応突っ込んでおいたが、俺もクロと同じ事を腹の中では思っていたりする。トスカン州にもそれなりの大義があることは理解できるのだけれど。

「私は王国の平和を乱すつもりはありません。クルノアン宰相を相手にはしていますが、別に暗殺するつもりもありません。姉を救うのが第一です」

「しかし、貴女が行おうとしていることは実質的な反乱行為では?」

「・・・・・・そうならないために、大公閣下のお力をお借りしたいのです」

「ふぅーむ」

 ソルグム大公は悩ましげに天を仰いだ。


「やぶさかではないのだ。アトネとの忠義もあるし、私を頼ってきてくれたからにはそれに応えたい気もする」

「ほ、ホントですか!?」

「だが、タイミングが悪かったな・・・・・・」

 タイミング?

「遺憾ながら」と言ってソルグム大公の発言を継いだのは隣に座る老紳士だった。

「昨夜、閣下はルーシア王女と鏡信術による会談をいたしました。勿論クルノアン卿も同席の上で」

「お姉様とっ?」

「会談の結果、我々は特別州としての特権を無条件で返上することに合意しました。見返りとして、クルノアン卿はシャンベリス城の開放を約束して下さったのです」

 シャンベリス城。トスカン東部にある関所の役割を果たしている城だ。街道が通るこの城をを閉じられていることが、最近のトスカンにとっては首を締め上げられているのに等しい経済的圧力になっていた。

 しかし、どうやらとうとう音を上げてしまったらしい。

「貴女たちがあと一日早く来ていたら、こちらも別の手を考えたかもしれない」

「私たちをどうするつもりですか」

「しばらくこの部屋にいてもらうが、そのうち分かる」

 ソルグム大公は立ち上がると、後はたのんだと老紳士に申しつけて部屋を出て行った。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! そのうち分かるってどういう意味ですか!?」

 そこだけははっきりさせておきたかったのだけれど、ドアを開きかけた手を止めて振り返った大公は

「面目ない」と言ったきりだった。


 がちゃん――


 後を引き継いだ老紳士によって俺たちは武装を解除させられた。剣、革鎧、スタンプ帳も没収されてしまった。

 俺はクナパッツさんがトスカン州に行く時に、「必ずしも成功するとは限らない」と言っていたのを思い出した。どんな作戦にも言えることだが、まさか頑なに本国への帰属を拒んでいたトスカン州が折れるとは思わなかったな。

 老紳士も部屋をそそくさと出て行って、俺たち三人だけになった時に最初に口を開いたのはクロだった。

「やっばいわー、これは」

 暇つぶしに借りたカードやボードゲームが没収されなかったのは、不幸中の幸いだったかもしれない。

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