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29:蛆食い共 前編

ラントとクロ、そして新たに旅の仲間に加わった最上級傭兵騎士のアトネ。

三人はクルノアン宰相からルーシア王女を救うべく、本国と対立するトスカン州へと旅立った。


【登場人物】


【俺/ラント】

:傭兵騎士の少年。元貴族。傭兵騎士を辞めるつもりだったけれど、クロ、アトネと共にトスカンを目指 すことに。


【クロ/フィルナ・ワインガルド】

:ラントの幼なじみの少女。ベルルスベル王国の元第二王女。姉のルーシア国王を救うためにラント、

 アトネと共に旅をしている。

 透明人間であることを隠すために黒づくめの格好をしていて、無表情なウサギの仮面を付けている。


【アトネ・ボルザック】

:一流の女傭兵騎士。遺書を書くのが趣味という少しやばい人。実家は田舎の羊飼い。

 ラント、クロと共にトスカンを目指して旅をすることに。

 元王女のクロに対してはかなり腰が低い。

 クナパッツを出て三日目。水車小屋や家々の色がどうやら違ってきているらしいことに俺は気がついた

。なじみ深い黄色みがかったレンガの代わりに曇ったような白灰色の土塀が多くなり、やがてそれが普通の風景になっていった。

 建物だけじゃない。それまで見慣れたベルルスベル本国の風俗が段々と変化していく。行き交う人の格好、言葉、自生する植物、諸々だ。


 五日目に俺たちはクナパッツ州の北端の村に入った。村の畑にはトスカンの人たちが主食にしているポニカという穀物が栽培されていた。最初は物珍しかったけれど、やがてポニカ畑ばかりになって建物同様に慣れてしまった。アトネさんによると収穫時期はまだまだ先らしい。


 その日のうちに俺たちはクナパッツとトスカンの州境にやってきた。


 州境の関所は森の奥のひらけた場所にあって、他の地域の州境とは違って物々しい空気であることが一目で分かった。州境に沿って堀を穿っているなんてトスカン州くらいのものだからだ。先を鋭利に尖らせた逆茂木まで備えてある。本気で戦争をおっぱじめる気概が感じられるね。他人事ではないけれど。

 関所に入った俺たちは、まずクナパッツ州兵に傭兵騎士のスタンプ帳を見せて門を通過。次にトスカン州側で再びスタンプ帳を広げて通行手形の判を押してもらった。

 州兵を見れば分かるけれど、トスカン人たちは本国(あえてそう呼ぼう)の人たちと比べるとやや浅黒い肌の人が多い。一般的な服装は着心地に余裕のあるものが多く、色彩も豊かなことから都では物好きな人たちに一定の人気がある。俺も嫌いじゃない。

 

 さて、関所を抜けた俺たちはついにトスカン特別州に入ったわけだけれど、歌がいろんなところから聞こえてきたのは驚いたね。あとポニカ畑で働く農民達の朗らかな笑い声もよく響いてくる。たまたまその村が朗らかなのかと思ったけれどそうではなく、アトネさんによるとトスカンのお国柄らしい。

「その地域について何も知らないと、得体の知れない恐いものだと思い込んでしまいがちですから。実際に見てみるのが一番ですね」

 流石アトネさん。この大東原グラン・オストで十年も傭兵騎士の旅をしていると含蓄がありますね

「けど昼間のあれは危なかったわね。ヒヤヒヤした」

「すみません。私の不手際で・・・・・・」

「いやいや、アトネさんに落ち度は皆無ですよ。けど稀な経験でしたね」

 俺はこめかみをポリポリとかきながら苦笑した。

 7日目の夜。俺たちはとある村の宿屋の部屋に集まっている。


 この村には小規模ながらも傭兵騎士協会支部があって、昼間は久しぶりに傭兵騎士の仕事を請け負って外に出ていた。なぜ先を急がずに仕事をしているかというと、否が応でも俺とクロは傭兵騎士としての活動をしなければいけなかったからだ。

 傭兵騎士は休業を届け出ずに十日以上にわたって仕事をしないでいると自動的にその地位を剥奪されてしまうばかりか、全財産を没収されてしまうというペナルティを受けることになると定められている。俺とクロが最後に傭兵騎士として仕事をこなしたのがクナパッツに入る前だったから、今日で九日目。無職直前だ。決してサボっていた訳じゃ無いよ?

 ちなみにアトネさんのようなプラチナラベル級は規定の限りでは無い。というのもプラチナ級になると傭兵騎士の枠に収まらない大規模な業務や役職を任せられるのが普通だからだ。アトネさんもクナパッツ大公の親衛隊として、いわば凄腕の用心棒だった。

 幸いなことにトスカンでも傭兵騎士協会はちゃんと機能していた。傭兵と衛生兵に国境なし。昔の偉い人は言ったもんだ。

 ただし受付嬢は俺がよく知っている清楚系のお姉さんでは無く、人当たりのいい元気なオバチャンだった。嬢? 或いは受付嬢の最終進化形なのかもしれない。

「らっしゃーい」なんて挨拶、他の地域の受付嬢から聞いたことがないけどね。なんだかメシ屋に入った気分だ。

「最近は依頼も少ないのよォ」というオバチャンの言うとおり、掲示板に貼り出された依頼はどれも喫緊とは言いがたいものばかりだった。逆に言うとトスカン州の治安維持が今のところ上手くいっているということだ。大壊乱の際には他の州と比べて人的被害が少なかった事情も大きいだろう。

 貼り出されているドメスティックな(と言ったら語弊があるけれど)依頼の中から俺とクロ、そしてアトネさんとで話し合って決めたのは

【橋梁建造の妨げになっている巨石の破壊および撤去作業】

 というものだった。

 地元の人たちで事足りるのでは? と最初は思ったけれど、村から少し離れた現場の渓谷に行ってみると、なるほど巨石が「俺は一歩も動かんぞ」と言わんばかりに崖にめりこむ形で鎮座ましましていた。

 ガタイのいい公営の土木作業員たちが見守る中、アトネさんは借りたツルハシで巨石をこんこんと叩いて仔細に調べた。やがてその双眸を見開く。


「ここです!」と言うのが早いか、アトネさんは巨石めがけてツルハシを横殴りにぶち当てた。


 巨石の表面に、まるで卵を割ったような亀裂がピシッと走った。と思うと、土煙と轟音を上げて崩壊する。それまで地元の人を困らせていた巨石の呆気ないほどの最期だった。相手が悪かったね。

 巨石が崩れた後の崖には綺麗な空洞が出来た。邪魔な親知らずを抜いたあとのようだ。抜くと言うより粉砕だったけど。

 アトネさんの大役は果たされた。後は俺とガタイのいい公営の土木作業員たちが割れた石を河原へ運んでいく肉体労働が待っていた。

 クロは滋養強壮の薬草を煎じて皆に配っていた。決して美味くはないけれど、それが効くらしい。

 底抜けに良い天気だった。野外労働日和である。

 ガタイのいい(以下略)のトスカン人は訛りが独特だから時々何を言ってるか分からなかったけれど、休憩中にはどこから来たのかとか、向こうの二人は変な奴だけどかなりの凄腕じゃないのとかそれなりに楽しい会話だった。


 こうして依頼は首尾良く達成された。けれども本当に大変な事案は村の傭兵騎士協会支部に帰ってきてから起こった。


「お前ら本国の人間かよ」

「へ?」


 任務達成のスタンプを押し終えた俺たちは、いつの間にか複数の男に取り囲まれていた。

 共通する赤い腕章から推測するに自警団のような組織の構成員だろう。服装は他の村人とさして変わらない。ただ、俺に本国の人間かと聞いてきた先頭の男だけは腰に剣をぶら下げている。歳は俺よりもやや上だろうか。丸刈りの頭が印象的だ。

 ふと声をかけられて阿呆みたいに振り向いた俺も、男の腰に差された剣を目にして神経が硬直した。

「・・・・・・本国? そうだけど」

「トスカンに本国の傭兵騎士は要らねぇ」

「ちょっと、あなたねぇ」

 クロが言いかけた言葉は丸刈りの男の「失せろっつってんだよッ!」という一喝にかき消された。ついでに始まりかけていた体中の筋肉痛も、意識の彼方に飛び去ってしまった。


 ここで自慢じゃないけれど、俺が先程の依頼を達成して押されたスタンプが珍しく【良】印だったことを忘れないうちに言っておきたい。オバチャンも「頑張ったねー」と褒めてくれた。あぁ、やっぱり受付嬢だと俺はしみじみ思った。

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