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25:クナパッツ城 【5】気絶するほどの驚愕、俺もしてみたいよ

ボルザックの宿舎で一夜を過ごすラントとクロ。その夜、ラントはボルザックに呼び止められて自分たちの正体を問われるが・・・・・・


【登場人物】

俺/ラント

:傭兵騎士の少年。元貴族。クナパッツ大公には子供の頃にお世話になったらしい。


クロ

:ラントの幼なじみの少女。ベルルスベル王国の元第二王女。

 透明人間であることを隠すために黒づくめの格好をしている。クナパッツ大公に蜂起を打診するも断ら れる。


アトネ・ボルザック

:一流の女傭兵騎士。遺書を書くのが趣味という少しやばい人。実家は田舎の羊飼い。


クナパッツ公

:クナパッツ州の大公。ラントとクロの旧知の仲で、英雄的存在。乙女の心を持ったマッチョマン。

 次の朝、日の光が低く差し込むアトネさんの宿舎にて――

 アトネさんは子供のように慌てふためいていた!

 

「い、い、一体あなたは・・・・・・なんなんですか!?」

 目の前の人物がウサギの仮面を取ってみせると実は透明人間だったなんて現象を目の当たりにすれば、誰だって似たり寄ったりの反応をするだろう。

 けれどもそれは紛うこと無き現実なのである。申し訳無い。


 助けを求めるようにアトネさんが振り向いた先には、クナパッツさんが泰然としてテーブルの椅子に座っている。その隣に座る俺はというと、慌てるアトネさんを前にして少々居心地が悪い。

「分かったかしら? この方の正体が」

 細い目をいっぱいに見開くアトネさんはクナパッツさんの質問には答えず、再びクロにゆっくりと視線を戻していく。

「ふ、不可視の魔術を掛けられている・・・・・・それはつまり・・・・・・あなたは・・・・・・」

「アトネさんが想像している通りだと思います。驚かせてすみません。・・・・・・ご存じだとは思いますが、私の本当の名はフィルナ・ワインガルドといいます。元々はベルルスベル王国第二王女として都に・・・・・・あっ? ありゃぁ・・・・・・」

 小動物が鳴くような断末魔を上げてアトネさんは椅子から転げ落ちてしまった。

 クロの正体がこの王国の王女様だというのは確かにインパクトがあったかもしれない。けれどもまさか気絶するとは思わなかったな。

「んもー・・・・・・ラントが私に話を振るからー」

 まぁそれもそうなんだけど・・・・・・必要なプロセスだったからしょうがないよ。

 

 一体なぜこんな事態になってしまったのか? ちょっと前に遡りたいと思う。


 クナパッツ城に朝を告げる鐘が鳴り響いて、俺とクロは目を覚ました。

 テーブルがある土間に行ってみると、木こりのような軽装のクナパッツさんが然も当然であるかのように椅子に座っているではないか。驚いたおかげで俺とクロは一気に目が覚めた。


「おはようございますー。お二人ともよく眠れましたか?」


 間を置かずにナイトキャップをかぶった寝間着姿のアトネさんも登場。テーブルに着いているクナパッツさんを見るや「え!?」と驚いて後ずさった。良いリアクションだ。嫌いな虫を見たときもこういったリアクションをするのかもしれない。いや別にクナパッツさんが虫ってわけじゃないけれど。


「ど、どこから入ったンですか!?」

「勝手口よォ。そこの」と、クナパッツさんは裏庭に通じる土間の勝手口を指さす。

 門から入れば人に見られた時に怪しまれるからというのが、クナパッツさんの奇妙な寝起きドッキリの理由だった。

 午前中は大公の公務で忙しいから、朝一の鐘が鳴る前に起きて身体を鍛えるのがクナパッツさんの日課らしい。朝活というやつだ。模擬の大きな鉄剣で毎朝五百本を振っているというから驚いた。しかも既に化粧をバッチリ決めている。・・・・・・角刈りだけど。

「そういうわけで寝起きの所悪いんだけど、今しか時間がとれないのよ」

「全然構いませんよ。むしろありがたいくらいです。それで、何か妙案が!?」

「二人が受け入れてくれるかは分からないんだけども」

 そう言うとクナパッツさんはアトネさんを一瞥して、

「アトネ、悪いんだけどあなたは向こうで待っててくれるかしら?」

 アトネさんは迷ったように視線を泳がせる。「ま、・・・・・・またですか?」

「すいませんアトネさん」と俺も詫びた。

 クルノアン宰相からクロの姉であるルーシア国王を解放するなんて計画、第三者に漏らす訳にはいかないのだ。

 アトネさんはかぶっていたナイトキャップを徐に取って、クナパッツさんに向き直った。蒼い髪の一本一本がが朝日を受けて輝いている。


「閣下、私にも皆さんのお話に同席させていただくことはできませんか?」

「えッ」

 俺は思わず声を上げてしまった。

「お二人にもお願いします。公にはできないようなお話だと思いますけど、私にもできることがあれば協力したいんです! ラントさんたちにはお世話になりましたから」

「・・・・・・クナパッツさん、私は構いませんけど?」

 クロは即答に近かった。おいおいマジですか。

「あらそう。じゃあラントは?」

 腕を組んで泰然とするクナパッツさんは、目だけを俺に向けて聞いてきた。

 そう言われても正直迷うところだ。たしかにアトネさんの実力と経験は文句なし。俺たちの味方になってくれる話はとても魅力的だけれど内容が内容だ。俺たちの計画を話せばアトネさんを騒動に巻き込むことになるし、安全の保証もできない。・・・・・・って、傭兵騎士最弱層の俺が心配するだけかえって失礼かもしれないけど。

「脅すつもりじゃないんですけど。普通の人だったらやっぱり聞かなきゃよかったってなりますよ?」

「そ、そこまで言われると余計に知りたくなります!」

 墓穴を掘った! 双眸がキラキラと輝きを増してしまったぞ。

「肩すかしかもしれませんよ?」

「そんなこと無いです!」

「僕たちのことが嫌いになるかも」

「そういうこと言う人に悪い人は居ません!」

「・・・・・・わかりました。話します。話しますとも!」

 こうなりゃヤケというやつだ。それではまず予備知識として知ってもらいたいことが一つあるから、注目していただこう。

「予備知識ですか?」

 アトネさんは小さく首を傾げた。

 

 ややあって場面は冒頭へと戻る。

 アトネさんは気絶して床にのびているままだ。


「今から話す計画はアトネにも参加してもらおうと元々思ってたのよ」

「え!? そうなんですか。ならはじめから同席してもらえばよかったのに」

「まず二人に聞いてみたかったのよ。この子を巻き込むことになっても構わないか。まさかアトネ本人から首を突っ込んでくるとは思わなかったわね」

 その兆候は昨日の夜からあった。

 アトネさんは豆をむきながら俺に「クロさんって何者なんですか?」と訊ねてきた。あの時既に俺たちのことが気になってしょうがなかったのだろう。

「けどアトネさんは傭兵騎士を引退したがってたんじゃないんですか? 今更新規の仕事なんて・・・・・・」

 クナパッツさんは素敵なイタズラを思いついた子供のような笑みを浮かべて、四角い顔に皺を広げた。

「だからこそ、この子にうってつけなのよ」

 そう言ってクナパッツさんはアトネさんを揺すって覚醒させた。

 

「どど、どうして王女殿下が、こ、こんな所に!?」

 まっとうな疑問です。  

 完全に萎縮してしまったアトネさんを落ち着かせるために、ウサギの仮面を付け直したクロはこれまでの経緯を懇切丁寧に説明した。昨日既にクナパッツさんに同じような話をしたばかりだったからか、俺が聞いていても分かりやすい話し方だった。吟遊の才があるのかもしれない。

 一方のアトネさんは怪談でも聞くかのようにはじめは肩をすくめていたけれど、徐々に冷静さを取り戻し、やがて双眸に真剣な光が蘇った。

「つ、つまり殿下は・・・・・・宰相閣下を弑し奉るおつもりなのですか?」

「もちろん血は流したくありません。平和裏に姉を救いたいのです」

「左様ですか・・・・・・なんと言えばよいのでしょうか、想像以上にスケールが大きいお話なのですね」

 丁寧な言い方だけど、俺には「話が規格外すぎて私には手が出せません」と言っているように聞こえなくもない。

「ここまで話して頂いて恐縮なのですが・・・・・・私などが殿下のお役に立てるのでしょうか? プラチナラベルといえども、私は一人の傭兵騎士に過ぎません・・・・・・」

「話したように、私とラントはここにきて手詰まりの状態なんです。そこでクナパッツさんに何か策を求めたんですけど・・・・・・この時間帯に来るとは予想外でしたね」


 クロにつられて、俺とアトネさんもクナパッツさんへと視線を移す。クナパッツさんは何か面白い話を勿体ぶるような表情だ。

「トスカンよ」

 街の食堂で酒のつまみを注文するほどになんのことはない一言だった。どこかで小鳥の鳴き声が聞こえる。そのせいで良く聞こえなかったのかもしれないな。

「「今、なんて?」」

 俺とクロの美しいハモりだった。


「あなたたち三人でトスカンに行くの。そこでソルグム大公と合流するのよ」


 俺は今相当なアホ面でクナパッツさんの話を聞いているに違いない。このままアトネさんよろしく気絶できないものだろうか? 気絶のコツというものがあるのなら是非教えて頂きたい。


やっと投稿できました。遅くなり申し訳ございません。頑張ります。

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