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23:クナパッツ城 【3】フィルナのプレゼンテーションをご静聴下さい

衛兵隊のボルザックに案内されて、二人はクナパッツ城に入城できた。城の地下の筋トレルームで

ラントとクロはクナパッツ大公と出会う。


【登場人物】

俺/ラント

:傭兵騎士の少年。元貴族。クロと共に目的地のクナパッツ城を目指している。到着!


クロ

:ラントの幼なじみの少女。ベルルスベル王国の元第二王女。治癒魔術師。

 透明人間であることを隠すために黒づくめの格好をしている。「死神ウサミミ仮面」


ボルザック

:一流の女傭兵騎士。遺書を書くのが趣味という少しやばい人。実家は田舎の羊飼い。


クナパッツ公

:クナパッツ州の大公。ラントとクロの旧知の仲で、英雄的存在。乙女の心を持ったマッチョマン。

 何の躊躇もなくローブを取っ払うクロを見て流石に俺も慌てた。

「おいおい」

「いいの。この方が手っ取り早いから」

 黒ウサギの仮面も取っ払って、さらにはマスクを脱いでいく。クロの頭部は透明になっているから見ることはできない。


「やっぱり脱いだほうが楽ね。他の人たちが羨ましい」

 そのとき、クロは久しぶりにフィルナに戻った。


 奇妙な絵画を見るようにクナパッツさんは腕を組んでクロを眺めている。やがてため息をつくと、大きなまな板のような器具に座ってウンウンと頷いた。

「なるほどねー・・・・・・分かったわ」

 太い首を何度も頷かせているクナパッツさんがどこまで俺たちを「分かって」いるのか不安だ。

「ここまで大変でしたでしょう?」

「ラントのおかげでここまで来れました。そのために傭兵騎士になっちゃいましたけど」

「無茶するわねぇ・・・・・・ここではなんですから上へ参りましょうか」

「大丈夫です。お時間は極力取りませんから」


 積もる話もあるけれど取捨選択が必要なので、フィルナはこれまでのいきさつを簡潔に説明した。俺と出会ったこと、傭兵騎士になったこと、治癒魔術が使えること、クナパッツに入ってボルザックさんと出会ったこと等々。作り慣れた焼き菓子の作り方を説明するような語りだった。

「で、ここからが本題なんですけど、はじめに言っておきたいのは、私はクナパッツさんと一緒に軍勢を率いて都を覆そうなんて物騒なことは考えてませんってことです」

 フィルナは前置きした。いいぞ。そういう語りはちょっと頭がよく見える。

 

 元老院に働きかけてクルノアンを罷免させる。

 この計画を俺がフィルナからはじめて聞かされたのは十日程前だった。


 クナパッツの南にある小村で川に出る牙の鋭い小魚の群を退治した後、噛まれた俺の足を治癒してもら

っている時に何気なく言ってきたのだ。出血のせいかも知れないけれど、聞いててめまいがしたね。

 けれどもクナパッツさんに会えばなんとかなるだろうとそれまでの俺たちは漠然と考えていたから、具体的な計画(現実的かはさておき)に発展したという点は喜ばしいことだった。

 クルノアンを罷免させるためには彼の触手が張り巡らされて機能不全になっている元老院を、ルーシア国王と共に団結させなければいけない。団結のためにはリーダーと理念、そして「勝てる見込み」が必要になる。そこでクナパッツさんに登場してもらうというわけだ。国王と権力を二分する元老院への働きかけを、英雄的な指導者であるクナパッツさんにやってもらいたいとフィルナは訴えた。


 傍らでフィルナのプレゼンテーションを聞いていた俺はといえば、なんというか手作りの芝居を見ているような気分だった。台本シナリオが完成したときは俺天才って思うのだけど、人に見せた後その台本を八つ裂きにしたくなるような経験。詩でも絵でもいい。あるだろう? 

 クナパッツさんを登場させる台本を練ったのはフィルナだけど、俺も旅をしているうちにフィルナと精神的に同化する点が多くなってしまったようだ。・・・・・・誤解されては困るが「一線を越えた行為」は一切やっていない。

「・・・・・・私が元老院をねぇ」

「クナパッツさんの力があればきっと人が集まってくれますっ」

 そういうフィルナは、既にウサギの仮面を付けなおしてフードも頭にかぶっている。

「ラントも今の話に賛成なのね?」

「さぁ・・・・・・どうでしょう。今俺たちが考えつく中でベターなものだとは思いますけど」

 この計画以外に血を流すことなくルーシア国王を救える手があるなら教えてもらいたい。金はいくら払ってもいい。

「そう・・・・・・なんだか世知辛い世の中になったわね。私もその一部になっちゃったわ」

「どういう意味ですか?」

「大壊乱の頃はもっとシンプルだったもの。たくさんの人が死んで、皆悲しくて、騎鬼族やモンスターがいるから駆逐する。白か黒かの世界だったけど、大公になった今はそうはいかないわ。もう近衛騎士団員じゃないし、私がクルノアンに反旗を翻しても領民たちやこの城にいる人たちは反対するわ」

 クナパッツさんは俺に向けてでは無く、フィルナに向けて語っているのだろう。


「殿下、恐れ入りますが今の私には荷が重すぎる話です」


 とどめの一言だった。

 面と向かって言われたフィルナは無言のまま屹立している。

「私を頼ってきてくれたのは嬉しいですけど・・・・・・私一人の身体じゃないんです。鈍らないように今でもこうやって鍛えてるんだけど、最近は剣を振るうことも少なくなっちゃっいました。アトネたちが頑張ってくれてるから」

「じゃあ私は・・・・・・どうやってお姉様を救えば・・・・・・」

「一日だけ時間をいただけませんか。私も何か手段を考えてみます。・・・・・・といっても抜け道はほぼ塞がれたような状態だけど」


 こうして俺たちが一縷の望みをかけた計画は静かに爆散した。門前払いを食らわなかっただけでも僥倖と言うべきだろう。

 宿はあるのかとクナパッツさんに聞かれたので無いと答えると、ボルザックさんの宿舎に泊めて貰うようにクナパッツさんは勧めてきた。「彼女なら大丈夫よ、よくしてくれるわ」


 俺たち三人が地上の御殿に戻るときの足取りは通夜の帰りのように沈鬱だった。

 螺旋階段を上りきったところにはボルザックさんがなんと親衛隊の制服に着替えて俺たちを待っていてくれた。

 細い足と健康的な太ももを強調するタイトなパンツ、浅黄色の制服が蒼い髪との絶妙な共演を果たしていて、非常によろしい。俺のざらついた心に浸みる色彩だ。けれどもクロとクナパッツさんのことを思うと俺だけ和んでいる場合じゃないわけで、むしろ自分が益々情けなくなる・・・・・・。

 クナパッツさんから俺たちを一日泊めて貰いたいと打診されたボルザックさんは、気の合う友達からパーティに誘われたような笑顔で、

「分かりました! 案内しますね。お客さんなんて久しぶりだなぁ!」

 その笑顔を見たクロが仮面の奥でどういった表情になっていたかは分からないけれど、少なくともウサギの仮面を付けていて正解だったと思う。

「お世話になります」の声が医者の診察を受ける病人のような返事だったからな。

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