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22:クナパッツ城 【1】親衛隊員と私服萌え

クナパッツの大公に会うために城を目指すラントとクロ。

ボルザックに遺書を届けた二人は城まで案内してもらうことになった。


【登場人物】

俺/ラント

:傭兵騎士の少年。元貴族。クロと共に目的地のクナパッツ城を目指している。無趣味な男。


クロ

:ラントの幼なじみの少女。ベルルスベル王国の元第二王女。治癒魔術師。

 透明人間であることを隠すために黒づくめの格好をしている。「死神ウサミミ仮面」


ボルザック

:一流の女傭兵騎士。青髪のお姉さん。遺書を書くのが趣味という少しやばい人。

「傭兵騎士になってもう十年になります。スタンプ帳も四冊目です。月日が経つのは速いものですねぇ」


 城への道すがら、ボルザックさんは俺たちに身の上話を聞かせてくれた。嬉しかったこと、悲しかったこと、苦労したこと等々だ。見た目が(こう言ってはなんだけど)幸薄そうな物腰と表情をしているので、俺もクロもなんだか感慨深げに聞き入ってしまった。


 驚いたことに、ボルザックさんは傭兵騎士を引退して田舎に帰るつもりでいるという。

 理由は不自由になりつつある父母を扶けるため、そして家業の羊飼いを継ぐためらしい。

 プラチナラベルでありながら、さらには大公の親衛隊員にも抜擢されたキャリアであるにもかかわらず傭兵騎士を引退しまうというのは勿体無いにも程がある。

 実入りも良いはずだから故郷に金を送ればいいじゃないか。それが羊飼いの娘になるだって? いくらなんでも落差ありすぎだよボルザックさん。・・・・・・と、俺はボルザックさんにやんわりと言ってみた。

「閣下にも同じこと言われました」

「誰だって同じこと言うと思いますけど」

「ふふ、そうですね・・・・・・・けど母からの手紙に書いてあったんです。お金や地位なんて要らないから帰っておいでって」

「・・・・・・」

「ほんとに強い騎士は王国や民衆のために戦って、家族の元には帰らないんでしょうね。けど私はそのへんが弱いんですよ。さっき酔っ払ってたのも気分を紛らわすために飲み過ぎちゃったのが原因で・・・・・・そのノリで遺書も書いたんです。傭兵騎士を辞めて故郷に帰れば、もう遺書を書かずに済みますね」


 ボルザックさんの微笑む横顔はどこか諦観を帯びてさえ見えた。確かに羊飼いが似合いそうな顔だ。


 人間的な強い弱いの価値観は、それこそ十人十色だ。ボルザックさんにはボルザックさんなりの「強い」の基準があるのだろう。

 それにしても親類縁者が皆無の俺から見れば羨ましい悩みだ。俺だったらそうだな、故郷の弟さんに親のことは全部任せて、仕送りは欠かさず・・・・・・

「全然弱くないですよ! ボルザックさんは!」

 クロがやおら叫んだ。人が行き交う通りなんだからもう少し静かにしてくれ。何人か振り向いたぞ。

「要するに、この王国のために戦うことよりも、田舎で羊飼いになることを選んだんですよね? それってすごく勇気の要る選択だと思いますよ」

――まぁ、一理ある。

「しかも親衛隊に属しているのにいきなり仕事辞めて田舎帰るなんて! 常識破りというか、傍若無人というか、破天荒!」

――いや、褒めているつもりなのか? この女は。

「あ、あなたもだいぶ破天荒ですね・・・・・・」

 言いつつ、ボルザックさんは苦笑いを浮かべている。相手が相手なら「生意気言うんじゃねぇ!」とキレられている場面だ。ボルザックさんが温和で助かった。


 破天荒とクロは言うけれど、クロもボルザックさんと同様に「家族の元に帰る」という目的で行動しているので、ある意味同じ「強さ」を持った人種と言える。類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。

 というか罪人の元王女でありながら姉のルーシア王女を救出しようとしている点で、クロの方がよっぽど常識破りで破天荒だぞ。

「んー? ラント、何か可笑しい?」

「なんでもないよ」

 

 そうこうするうちに俺たちがクナパッツ城に入城したのは、日が中天に差し掛かった頃だった。


 結論から言うと、クナパッツ城はボルザックさんの顔パスで万事上手くいった。

 ひとえにボルザックさんの地位と人徳の賜物だ。正門、第二の門、第三の門、御殿への門。全てボルザックさんのお辞儀で済んでしまった。

「そちらの方は?」

「知り合いです。大事なお客様なんです」

「あ、左様ですかぁ」

 そして次の門へ。だいたいがこんな流れて済んでしまった。恐るべしプラチナラベル。

 ボルザックさんを先頭に、俺たちはいくつかの曲輪を経て城の頂上にある石造りの館までやってきた。 大公が公務の場所にしている東御殿だ。

 こぢんまりとした石造りの門の前で、初めて俺たちは足止めを食らった。

「ん? え? ボルザックさん!? 今日は非番だったはずじゃあ?」

 門の前にいる筋骨隆々の男性親衛隊員が驚いた様子で俺たちを出迎えた。隊員は浅黄色を基調にした歩兵姿で、短い槍を携えている。征服がとてもキツそうだ。サイズが無いのかな?

「私服だったから誰かと思いましたよ」

「ちょっと用事ができて来ちゃいました。閣下は?」

「今は・・・・・・地下におられます」

「またですか」

 はぁ、とボルザックさんはため息をついた。それまでの懇切丁寧な人当たりとは違った、どこか面倒くさそうな感情がこもっている。こんな一面もあるんだな。


 俺たちは御殿の前に来て初めて身分確認を受けた。俺とクロがブラウンラベルであることを知って、男性隊員は不思議そうな目で俺とクロを交互に見た。

 また日を改めてもらうわけにはいかないかと言われたけれど、ボルザックさんが粘ってくれて特別に御殿に入る許可が下りた。大公は地下にいるから、業務外のプライベートな時間に会うだけだという理屈らしい。地下がプライベート? よく分からない。


「閣下に何を言われても知りませんよ?」

「大丈夫です。有意義な話になるはずですから」

 御殿に入るにあたって、俺たちは元貴族だから入らせろと言わなくて正解だった。とり潰された元貴族を御殿に上がらせるということはクルノアンの支配に反抗していると捉えられかねない。まぁ実際そうなんだけど、ここは雌伏の時だ。

 御殿に入る許可が下りて、ボルザックさんは俺に向かってウィンクを飛ばしてくれた。どこか親衛隊員としての血気が漲って見える。あれ? こんなに可愛かったっけ?

 後から聞いた話だと、親衛隊は十五人程で構成されていて、地位や身分に差は無いらしい。それでもボルザックさんが別格扱いされていることは想像に難くない。


 御殿の中は質素堅実という言葉がぴったりだった。

 石積みの壁に装飾的なものは殆ど無く、扉や階段も簡素でごつい印象が強い。意外と日取り窓が多く、暗さはあまり感じさせなかった。これで薄暗い空間だったら不気味以上の何かになってしまう。

 ボルザックさんに案内されて、俺たちは井戸のような螺旋階段を下へ下へと降りていった。流石に灯籠が灯されていて、俺たちの黒い影が揺らめいた。

「クロ、お前こういう空間だと凄みが増すよな」

「どういう意味よ?」

「いや別に深い・・・・・・ン?」

 一瞬、耳鳴りかと思ったそれは再び俺の鼓膜を揺らした。


「おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー・・・・・・・・・」


 全身が総毛立ち、俺の心拍は急激に速度を速めた。肝を潰されるとはこのことだ。

 地下の底からこだまする雄叫びは残響を残して消えていく。と思ったらまた聞こえてきた。人間の声だということは確かだ。

「なな何この声!?」

「・・・・・・まさか拷問中か何かで」

「ある意味近いかもしれませんね、あれは」

 ボルザックさんはヤレヤレと首を振って、

「閣下の叫び声です。カテゴリー1のモンスターなら尻尾を巻いて逃げる絶叫ですね」

 更にもう一度。地下で何が起きているか知らないけれど、耳を押さえたくなる音量だ。


「さっさと下に降りちゃいましょう! うるさいから!」


 ボルザックさんは大公の声量に負けじと叫ぶと、足早に階段を降り始めた。

 俺とボルザックさんは耳を押さえられたけれど、クロはウサギの仮面を付けているから構造的に無理だった。同情するぞ、クロ。

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