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15:幼女の画力は侮れない!

【前回までのあらすじ】

ラントが手に入れたポーションとクロの治癒魔術によって、ブラントは完全復活!

ブラント絵画工房は大作を完成させ、ケチなギルドから満額報酬を手に入れる。



【登場人物】

俺/ラント

:傭兵騎士の少年。元貴族。現実主義者、だけど人情にもろい。


クロ

:透明人間の少女でラントの幼なじみ。ベルルスベル王国の元第二王女。治癒魔術師。

 「死神ウサミミ仮面」


ブラント

:ブラント絵画工房の工房長。


ロズ

:ブラントの一人娘。人見知りな少女。

 絵画を完成させた報酬として、ブラント絵画工房は十二万ベールをメンデルフェリス魔石採掘ギルドから受け取った。絵画のクオリティを考えると安すぎるくらいだと俺は言ったけれど、ブラントさんによるとこの額は工房の一ヶ月の利益とほぼ同額らしい。


「し、失礼な質問ですけど、やっていけるんですか?」

「完全に赤字だよ。廃業した方が安上がりだな。はっはっはっ!」


 それでも廃業しないのは、技術への誇りをここで途絶えさせたくは無いという強がりによるものだとブラントさんは謙遜気味に語ってくれた。

 工房での仕事だけではブラントさんも画工たちも生活が成り立たないから、時間が空いた時には木製のおもちゃの色付けをしたり、編み笠を作っているという。

 苦労しているはずのブラントさんは、それでも報酬の満額六万ベールを俺に支払うと言ってきかなかった。確かにポーション代は戴くと言ったけれど、苦労話をされた後だと返って貰いずらい・・・・・・。お金に対する俺の小物感が丸出しである。


 悩んだけれど、結局ブラントさんから六万ベールを頂戴した。経営の苦労に同情されるなど、俺だったらまっぴらだからだ。


――ウチが伯爵位を剥奪された時、周りの気遣いの目が辛かったな。


「クロ、報酬も戴いたしそろそろ失敬するぞ」

 工房の隅で、クロはロズが広げるスケッチ帳を覗きこんでいた。

 昨日は俺たちのことを散々警戒していたロズが、今では自分の絵を見せてくれるほど心を開いている。

 嬉しくもあるけれど、そんな時にお別れというのは少し辛いものだ。

 

「あ、ラント、ロズの絵すごく上手いんだよ?」

「ほう。俺にも拝見させて頂けますかな?」

「ごらんめされよ」

 ロズは自信ありげな言い草だ。


 スケッチ帳は傭兵騎士に支給されるような白紙ではなく、粗末な綿ぼろを原料にした茶色味がかった紙で作られている。ざらついて木炭も乗りずらいだろう。それでもロズは見事な筆致で花や植物、田園風景、生け捕りにされた下級モンスターなどを描いていた。


――俺の百倍うめぇ。


 落書きみたいなものを想像していた俺は面食らった。さすがはマイスターの娘。

「すごいよロズ。これなら依頼が受けられるんじゃない?」

「まだまだだよ」

 言いつつ、ロズは満更でもなさそうに身体をくねくねさせた。


 丁寧にめくりながら見ていると、歩兵たちがモンスターの群れと野戦を繰り広げる絵が出てきた。既存作の模写だろう。

 クロはその絵の上部に描かれた、とある人物を指さした。

「これって人? モンスター?」

「ん? ワイズだよ?」

 ロズは「何を当たり前のことを?」といった顔でいる。勿論俺も見てすぐに分かった。


 騎鬼族ワイズはモンスターではない。二足歩行の人型で、どどめ色の肌をした種族だ。

 人間と比較するとやや強靱な身体つきで、戦闘能力も高い。しかし知性に乏しく、戦略、戦術は人間の方が遙かに優れている。もっとも、騎鬼族の方が数的優位を確保しているのが現在の情勢だ。


 絵に描かれた騎鬼ワイズは薄汚い甲冑をまとって、小型のワイバーンに跨がっている。森の影からモンスターと人間たちの戦いを観察しているような構図だ。

「あ、あーほんとだ! なるほどねー・・・・・・」

 クロは手を打って合点がいった様子でいる。けれども実際は知らないことを誤魔化しただけだろう。クロが暮らしていた王宮では風景画や肖像が絵画の多くを占めていたから、騎鬼族やモンスターが出てくる物騒な絵や書物は少ないのだ。

 けれども今は王族ではなく傭兵騎士だ。傭兵騎士で騎鬼族の容姿を知らないというのは、妙という他ない。


 「もっとちゃんとしたやつがあるよ」

 ロズは俺たちを倉庫のような場所に案内して、元になった習作の絵を見せてくれた。古い貴族の屋敷に掛けられていたものを買い取ったらしい。

 オリジナルはスケッチ帳に描かれているものよりもかなり大きい。騎鬼の醜悪な表情や尖った牙、汚い爪先などのディテールもよく分かった。

「ラントさんたちはみたことあるの?」

「直接はないよ。親父から聞いたり、こういった絵を見たりして知ってる」

「じゃあ、クナパッツではじめてたたかう?」

「いやー、俺たちの実力じゃ無理無理」

 無理というか絶対に避けたいところだ。クナパッツに行くのは騎鬼族討伐が目的ではなく、クロを大公に会わせることと、俺の仕事を探すためなのだから。

「またまた、ごけんそんをー」

「・・・・・・どこで覚えてくるんだ? そんな言葉」


 画工たちから手厚い感謝と別れの言葉を貰いつつ、俺とクロはブラント絵画工房を後にした。

 ロズは目尻に涙を浮かべながら「ありがとうございました」と、何度目かになる礼を言ってくれた。

「そんなことより、おやっさんにアレ言ったか?」

「あれ?・・・・・・あっ」

ロズは矢庭にくるっと向き直って、後ろに立つブラントさんを見上げた。

「はたらきすぎないで! みんなも!」

 一瞬きょとんとしていたブラントさんは、全てを悟ったようにふっと微笑む。

「悪かった。今度ママの墓参りに行こう、久しぶりに」


 ロズには将来、俺たちの肖像を書いて貰うことを約束した。社交辞令にするつもりは全くない。


 外に出ると、日の光を久しぶりに浴びたような気がした。それと同時に眠気がどっと出てきた。

 俺とクロは傭兵騎士支部に戻って、受付嬢にスタンプを押してもらった。

 俺は何ヶ月かぶりかの「良」スタンプ、クロはなんと「優」だった。

「初任務で優なんて、素晴らしいですね!」

 受付嬢は自分のことのように喜んでいた。

 

 報酬は既にブラントさんから受け取っている。俺はそのうちの何割かを傭兵騎士支部に預金として振り込むことにした。

 傭兵騎士には大金を稼ぐ人も勿論居る。しかし硬貨の全額をいちいち持ち運ぶわけにはいかない。そのために支部には預金所の機能も備わっているのだ。

 預金をするのは俺も久しぶりだ。新品同様の取引帳には、ゼロが綺麗に並んでいる。

 覗こうとしてくるクロの仮面を押さえて、俺は手帳をそそくさとバッグにしまい込んだ。ロズのスケッチのように胸を張って見せられる代物ではないのだ!


 その後、革鎧を直すために甲冑専門の鍛冶屋に出向いた。

 直すためには新しい革を切り貼りしなければいけないらしく、修繕には二日かかるということだった。

 俺たちは安い宿に泊まって、三日間、この町に滞在することに決めた。ちなみにブラント絵画工房に泊まることも考えたけど、気をつかわせて悪いということで没となった。

 俺はともかく、クロはれっきとした逃亡者なのだ。なるべく人に接することなく、迷惑をかけることなくクナパッツを目指したい。


 夜が深くなる前に、俺たちは泥のように眠った。眠る前まで俺とクロが話していたのは、ドブ掃除と肥だめ掃除だったらどっちがマシかということだった。

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