表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/44

14:絵画工房という名の戦場 後編2/2【改】

【前回までのあらすじ】

急ピッチで作業が進む、締め切り間近の絵画工房。もう少しというところでブラントは倒れてしまう。

 果たしてクライアントが来るまでに間に合うのかッ!?


【登場人物】

俺/ラント

:傭兵騎士の少年。元貴族。現実主義者、だけど人情にもろい。


クロ

:透明人間の少女でラントの幼なじみ。ベルルスベル王国の元第二王女。治癒魔術師。

 「死神ウサミミ仮面」


ブラント

:ブラント絵画工房の工房長。


ロズ

:ブラントの一人娘。人見知りな少女。

 ブラントさんの状態を安静にするべく、俺は画工たちと一緒にブラントさんを中庭の向こうの母屋まで担いでいった

 寝室のベッドに横たえさせて、汚れたエプロンを脱がせた。

 顔は青ざめて、汗が衣服ににじみ出している。

 ベッドのそばにクロとロズもやってきて、ブラントさんの容態を全員が見守っている。

「マ、マイスター、聞こえますか?」

「あぁ・・・・・・悪いな・・・・・・少し寝る・・・・・・後はたのんだ」

「はい・・・・・・えぇ!?」

 ブラントさんの引き継ぎ令を聞いて、画工たちがうろたえた。

「マイスター、つまり絵は・・・・・・俺たちが完成させろと?」

 画工の一人が恐る恐る聞いてみた。

「それ意外に・・・・・・誰が描く」

「無茶です! 俺たちは、殆ど下塗りしかやってないですし・・・・・・」

「工程は知ってるだろ。大丈夫だ・・・・・・風景画や肖像画と同じ・・・・・・でかいだけだ。あそこまで描いて間に合いませんでしたなんて、・・・・・・つまらないだろ?」

 そこに居る誰もが沈黙して同意を示す。

「喋るのに疲れた。・・・・・・寝る」

 その言葉を最後に、ブラントさんは死体のように動かなくなった。

 

 画工たちは気を取り直して自分たちで作品を完成させるべく行動を開始した。

 クロとロズは高熱に冒されているブラントさんを診ることになった。

 高熱の症状からして、恐らく蓄積した過労が一気に溢れ出たというのが俺とクロの見立てだ。


「ポーションを使った複合魔法じゃないと、熱は下げられない」

 いつになく真剣なクロの声に、悔しさがにじんでいる。

「この町に医薬師ポーショニストは?」

「いる。けどおかねが」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

 慌てて声を荒げるクロをロズは何かを訴えるように睨んだ。その目尻には小さな涙が光っている。

「クロ、落ち着けよ。お前の言うことも分かるけど、タダで薬が貰えるなら誰も苦労はしないよ。・・・・・・高熱だけど命の危険がある症状でもない。頑張って看病しよう」

 クロは少し俯いて唸った。「一応、体力回復の術式は張ってみる」

 やにわに部屋を出て行ったのはロズだった。呼び止めようとしたけれど、言葉に詰まってしまった。ここに居ることに耐えられなくなったのかもしれない。

「・・・・・・クロ、俺は戻って画工さんたちの補佐を続けるよ」

「うん、わかった。がんばってね」

「お前もな」

 寝室を出ようとすると、駆けてきたロズが目の前に立ち塞がった。

「なんだ、どっか行ったかと思った」

「・・・・・・これでポーションが買える」

「え?・・・・・・これって」

 ロズが両手で差し出してきたのは、赤い布袋だった。

「おかね」

「お、おい。子供が勝手に金なんて・・・・・・複合魔術用のポーションは高価なんだぞ?」

ポーションにも色々あるが、複合魔法用のポーションは高価な部類に入る品だ。四万ベールはするだろう。

「ろくまんベールある」

「六万?」

 ポーションの相場的には間に合う値だ。まだこの工房に、ポーションが買える程の金があったことには正直驚いた。

「けど、ロズが勝手に決めて良いことじゃないだろ?」

「・・・・・・これはラントさんたちのきゅうりょうだから、ラントさんがきめていい」

「なっ・・・・・・」

「おねがいします」


 ロズは頭を下げたまま動かなくなった。


 つまり実質的には俺が金を出してポーションを買うことになる。

――となると四万が差し引かれて俺たちの貰い分は二万か・・・・・・。

 元の六万という数字を聞いた後だと、やはり怯んでしまう。非戦闘系の報酬で六万は破格の設定だ。それが平均値なのか、最低値なのか、あるいは最高値なのかは分からない。


「鎧も直さなくちゃいけないし・・・・・・」

 腕を組んで俺が現実的な面で悩んでいると、こめかみあたりにクロの「悩む所じゃないでしょ!」という突っ込みが飛び込んできた。

「女の子に頭下げさせて、何悩んでんの!」

「うっ・・・・・・」


 ぐうの音も出ない。しかも相手は幼女である。


 それをクロが言うかと思ったけれど、言ったら火に油を注ぐことになるだろう。けれども騎士道精神だけで食ってはいけないという現実も忘れちゃいけない。

「ロズ、パパには後で治療代も貰っとくよ。オーケー?」

 頭をもたげたロズは驚きに目を輝かせて、こくりと頷いた。


 ロズに薬屋までの道を聞いて、俺は早速ポーションを買いに急いだ。

 まだ開店前だとブツブツ言いつつも、医薬師は店を開けてくれた。

 購入したのは三万八千ベールのポーションで、傭兵騎士のスタンプ帳の提示で二パーセントの値引きになった。ありがたい!


 小瓶には一口で飲み干してしまえる量の、濃い緑色の液体が詰められている。それを水で薄めて、ブラントさんに飲んでもらった。

「まずいな・・・・・・」

「良い薬ほどまずいもんですよ」

 様々な薬草とミネラルが配合されたポーションは身体に吸収されることで魔力の媒介となり、クロの治癒魔術を安全かつ的確に加速させるのだ。

 効果がある証拠に、再び眠りについたブラントさんの身体が薄緑に輝き出した。

「なおるの?」

「治ったら、働きすぎって叱らなきゃね」

 ロズのくすっと笑った顔を、俺とクロは初めて見た。


 俺は画工たちの手伝い。ロズとクロはブラントさんの看病に集中することになった。


 やがて正午の鐘が町に鳴り渡って、俺は目を覚ました。

 画工たち三人は床に寝たままだ。

 視線を工房の中央に泳がせると、そこにはできたての見事な集合絵画が一枚置かれている。ほんの一時間前に、乾燥と最終的な書き足し、ブラントさんのサインなどを残してほぼ完成にこぎつけたのだ。

――メシ作ってみんなで食べるか。そうだ、ブラントさんはどうしたんだろう!?


 看病サイドがどうなったか見に行こうとしたけれど、俺の動きを阻んだのは軒先に止まる馬車の音だった。


「皆さん、起きて」

 俺の呼びかけに、画工たちが例によって不死者のごとく起き上がる。

 ドンドンと、誰かが扉を外から叩いた。

 一番年上の画工が扉を開けると、紅い派手なマントを羽織った男が二人、工房の中にずうずうしく入ってきた。

 先頭の男は若くずんぐりとした体格だ。見るからに成金ギルドのメンバーといった趣で、えりに二重あごが食い込んでいる。苦しくないのだろうか? もう一人の男は補佐だろうか、神経質そうな目つきをしている。

「クライアントですよ。メンデルフェリス魔石採掘ギルド第三騎士隊隊長のシュリトさんです。後ろは副隊長」

 画工の一人が小声で俺に教えてくれた。第三騎士隊隊長ともっともらしく名乗ってはいるが、要するにそこそこエラい役員ということだ。更に言うと描かれた絵画にも登場していない。

「こんにちは皆さん。約束通り、依頼した作品の査定に参りました。絵は、できましたかな?」

「毎度お世話になってます。まだ完全に出来上がってるというわけでは無いのですが、見せられる状態です」

 馬鹿正直になに言ってるの! と俺は心の中で叫んだ。

「ほう? ま、見てみないと分かりませんね」


  隊長殿は絵画を眺めて、流石に感心したらしく「お~」とうなって細部を確認していた。

「なるほど、殆ど完成と認めて差し支えなさそうだ。こちらもやっと報酬を支払うことができますよ。はっはっは!」

 画工たちは苦笑いで応えるしかない。

「ところで、マイスターが居ないようですが?」

「マ、マイスターは体調が悪くて向こうで寝てるんです。ここは画工頭の僕が」

「そうですか、まぁいいでしょう。おい明細と金」

 露骨な言い方だなぁ・・・・・・。


 副隊長は硬貨が入れられた赤い袋と、明細の木札を取り出した。

 木札に描かれた値を見て、画工頭は恐る恐る聞いてみる。

「六万ベールって・・・・・・聞いてた値段と、違いませんか!?」

「違いますよ。私が聞いた話では二回も締め切りを延長したんだから、その分を差し引いてということです」

「そんな・・・・・・。怠けてたわけじゃないんですよ? この前いらした時も契約時と変わらず十二万ベールでって言ってたじゃないですか!」

「でしたら直接、上の者にお聞き下さい。ブラント工房長にもそうお伝え下されば」

 いい加減俺がキレそうになった頃に、頼もしい声が聞こえてきた。

 

「いえー、話は聞きましたよー。ようこそようこそ・・・・・・」


 間延びした声の方向を、俺と画工たちが振り向いた。


 ブラントさんは汚いエプロン姿では無く、真っ白いチュニックを着てマイスターの位を示す胴のような色のマントを羽織っている。

 無精ひげは綺麗に剃られて、髪も綺麗に整えられている。

 そして何より、高熱と過労から全回復していた。

「お待たせいたしました」

「こ、これはブラント工房長・・・・・・」


 クライアントの二人は一歩下がった。理由は血気みなぎるブラントさんではなく、向かって右隣に立っている「死神ウサミミ仮面」だ。


「んあぁ、こちらは今回いろいろとお世話になった騎士の方です」

 ただし「傭兵」騎士だけど。更には治癒魔術師だけど。

 クロは勿体ぶるように会釈した。

「ご機嫌麗しゅう。ギャランティのことで揉めているのでしょうか?」

 泰然とした口調で、クロは隊長殿たちに語りかける。その発声はベルルスベル王室でたたき込まれたロイヤルなもので、高貴さと威厳が濃厚に感じられるものだ。堅っ苦しいから嫌いな喋り方とクロは言っていたけれど、ここで持ち出すとは思わなかった。

「揉めてる!? いやいや、何でもないですよ。ははは・・・・・・。おい、全額出せ」

「え!? シュリトさん後で山分けって」

「撤回だ! ・・・・・・ハイこれ全額です」

「どうも。遅れてしまって申し訳ありませんと、ギルド長にお伝え下さい」

「い、いいってことです! こちとら騎鬼族との戦いで儲かってますからね! 私は貧乏なまんまですけど! ソレに描かれてないし! はははは!」

 最後は愚痴をこぼしつつ、隊長たちは逃げるように帰っていった。


 隠れて事の成り行きを見守っていたいたロズが駆け寄ってきて、「イェイ!」と、クロとタッチを交わした。

 俺とクロの共同初任務【ブラント絵画工房の徹夜作業応援】は、こうして無事達成されたのだった。


誤字、微妙な文章表現等、修正しました。申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ