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黒衣の女神は男の娘  作者: マチカネ
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第1章 “漂着物(オーパーツ)”

 プロローグでの悠也の髪型を姫様カットに変えました、。

 また祖父を祖母に致しました。


 ここから本編が始まります。

 西条悠也は17歳の高校生。自分が死ぬなんて、ちっとも考えたことはなかった。

 例え、いきなり死ぬことがあったとしても、交通事故ぐらいしかありえないなと。

 それが、まさか隕石の直撃で死ぬとは埒外。

 ネットでは隕石に当たって死ぬ確立は160万分の1だそうで、1600000、アラビア数字にしたら7桁になる。ちなみに交通事故に遭うのは90の1らしい。

「こんなレアな死に方、あるんかよ」




「……」

 意識がしっかりしてくると、悠也は自分が広々とした草原に立っていることが理解できた。

「どこやねん、ここ?」

 悠也は辺りを見回してみる。全く見覚えのない景色。ここがどこかは解らない。少なくとも秋葉原でないことは確か。

 風の感触が違う、気温も違う、何より秋葉原には、こんな大きな草原はない。

「死後の世界ともちゃうみたいやし」

 三途の川を渡った記憶はない、花畑で手を振る祖母も見てはいない。

 ここはどこなんだろう? 考えていると、女性の悲鳴が聞こえてきた。

「またか」

 そう突っ込みながらも、声の聞こえてきた丘の上を目指す。




 自分の置かれた状況から、悠也は異世界に飛ばされたんだろうと判断した。それがこの状況に一番、ぴったりなので。

 だから丘に上がり、軽自動車を見かけた時には一瞬、自分の判断が間違ったのかと思ってしまった。

 でもその軽自動車は、悠也の知る限りではピクシスに似た車種。しかしながら、端々に違いがあり。

 そんな事よりも、問題なのは軽自動車はまきびしでパンクさせられ、運転席のドアは開いたまま。

 ひのきの棒、棍棒、ナイフで武装した人相の悪い3人の男がメイド姿の大きな眼鏡をかけた女性に襲い掛かっているところ。

 この状況を見て、100人中99人は3人の暴漢がメイドを襲っていると判断するだろう。その99人のうちの1人に悠也もいる。


「そこの3人。やめなさい」

 ビシッと言い、3人に向かっていく。

「仲間がいたのか!」

 棍棒を振り回し、襲い掛かってくる。

 棍棒の一撃を躱すと同時に、相手の手首を絡めとってバランスを崩させ、投げ飛ばす。

「あれ?」

 内心、悠也は違和感を感じる。普段よりも技の切れがいい。

 ひのきの棒で飛びかかってきた男に、ゴスロリスカートの裾を翻しながら、一気に間合いを詰める。

「あ、可愛い」

 今にもひのきの棒で殴りつけようとしていた男は、つい悠也の姿に見とれてしまう。

 大地をしっかりと踏み込み、体重を乗せた掌打を放つ。

 咄嗟に男はひのきの棒で防御したものの、ボキンとへし折れ、顔面にヒット。

 ひのきの棒がへし折れたことは、掌打を放った悠也本人も驚く。

 いくばくか威力はそがれた掌打をくらい、鼻血を撒き散らしながら倒れた男の顔は恍惚としていた。

「ああ、黒衣の女神様ぁぁ」


 最後の1人がナイフを構えた。それを見た悠也には解った。素人ではないと。

 ナイフだけでなく、足運びにも注意しながら、間合いを図る。

 勢いよく地面を蹴って、男が切りかかってきた。ナイフの動きは獲物を狙う蛇のよう。

 一撃目の攻撃を躱しても、容赦なく、二撃三撃四撃五撃と斬り付けてくる。

『やっぱり、変や』

 攻撃を躱しながら不自然さを感じていた。悠也には“見えて”いた急所を狙ってくるナイフの攻撃が、前もって。

 祖母から聞いたことがある。達人となれば相手と対峙しただけでも、相手の全ての動きが“見える”と。

 祖母レベルならまだしも、悠也はその領域に達していないはず。

 それに、なんだか体も軽い。

 襲い来るナイフの縁を弾き、遠くに飛ばす。

 男の手から離れたナイフは地面に刺さった。あの距離なら、ナイフの回収は不可能。

 反撃を試みるも、男は間合いから飛びのいていた。戦い慣れている。

「何故、神鎧族に魂を売った。人類の面汚しめ」

 男の目は怒りと憎しみ、蔑みの火がチラチラと燻ぶっていた。

「神鎧族?」

 神鎧族、悠也には全く聞き覚えのないフレーズ。

 憎しみに満ちた男が懐に手を入れた。

 殺気が覆う、まだナイフを隠している。警戒を強める悠也。

「カストの兄貴、あれ……」

 鼻血を流す男が指さした遠方には土煙。

 ナイフ使いの暴漢、カストは懐から手を引っこ抜き、上着のポケットからオペラグラスを取り出し、覗く。

 たちまち男から殺気、怒りと憎しみ、蔑みが消え、代わりに怯えに支配されていく。

「スタンテングだ……」

 悠也もメイドも無視して、慌てて逃げ出す。

「待ってくれ、カストの兄貴~」

 鼻血を流す男は、投げ飛ばされた男を担ぎ、急いで後を追う。

 どこかに隠していたハンヴィーに似た車が走り去っていく。

 追い掛けようとはしない、第一、走り去る車を足で追い掛けるのは無理だろう。




 土煙を巻き上げながら、やって来たのは馬に乗った男。馬に乗った男という表現には誤りはない。

 ただし男は2mを越える身長、それを支える頑丈すぎる筋肉の付いた体。顔は獅子を思わせ、首回りも胸も胴も腕も足も、どの部位も頑強な筋肉で形作られている。見るものに、巨大だと印象を与えるには十分な体躯。

 そんな巨大な男を乗せても平気な馬も尋常な大きさでなし。

 一番、悠也を見とれさせたのは巨大すぎる体格ではない、肌の色。まるで鋼のような肌の色。

 そのため、見るものに全身が鍛え上げた鋼で出来ているのではとの錯覚さえ与える。

 腰に巻いたベルトのバックルは、当人のイメージとぴったりと合う、獅子のレリーフが彫り込まれている。

「スタンテング様~」

 暴漢に襲われていたメイドが駆け寄っていく。

「帰りが遅いので心配したぞ、ジャニスよ」

 この巨大な男がスタンテング。その姿から、悠也は暴漢の話に出てきた神鎧族も彼だろうと。

「怖い人たちに襲われたのですが、あそこのお人が助けてくれたのでありますです」

 メイドのジャニスはスタンテングに、簡潔に起こったことを説明。


「そうか……」

 話を聞いたスタンテングは馬から降り、悠也の方に歩み寄ってくる。ズシンズシンと音が聞こえてきそうな迫力。実際には聞こえてきてはいないけど。

 何かされるのではと悠也は身構えたが、巨大な体でお辞儀。

「我はこの地域の領主を務める、神鎧族のスタンテングと申すもの。我がメイド、ジャニスを救っていただき、主として感謝いたす」

 心配は杞憂に終わる。見た目のド迫力とは打って変わり、物腰は丁寧。

 やはり、スタンテングは神鎧族だった。

「僕はユウと申します」

 先に丁重に相手が名乗ったのだから、こちらも丁重に名乗らないのは失礼に値する。お辞儀するとき、少し角度を付けることで可愛く見せることも忘れてはいない。

「ユウと申されるか、この辺りでは見かけぬ娘であるな。どこから参られたのかな」

 問われて困ってしまう悠也。異世界から来ましたと言っても信じてもらえないだろう。そこで、

「遠くから来ました」

 と答えておく。決して嘘は言ってはいません。

「スタンテング様、悪い奴らにぶーちゃんの足をぺちゃんこにされてしまいました。お買い物の品も潰れちゃいました、ごめんなさいです~」

 くすんと、ジャニスは涙をこぼす。お芝居ではない、本気で泣いている。

「心配するでない、あの鉄亀(てつき)は、すぐにでも直させよう。買い物は、またすればいい」

 スタンテングは大きな手で頭を撫ぜてやる。嬉しそうなジャニス。

「ぶーちゃん? 鉄亀?」

 一瞬、悠也は何のことか解らなかったが、すぐにパンクした軽自動車のことたと解った。

「遠くから来た御方には、珍しいですかな、あの“漂着物”のことですぞ」

 スタンテングが指し示したのはパンクさせられた軽自動車。それは解っているのだが、“漂着物”また不思議な言葉が出てきた。

「こんなところで話をするのも悪いですし、ジャニスを助けてもらった礼をしなくてはならない。我が屋敷へと参られよ」

 少々、強引な招待を受ける。

 まだこの世界のことを良く知らないので、悠也は招待を受けることにした。察するにスタンテングは権力者のようだ。状況を知るにはいい相手。


 街までは悠也もジャニスも馬に乗せてもらった。大きいだけあり、3人乗せても重量オーバーにはならない。ひょつしたら、人間サイズならば100人乗せても大丈夫かも。




 街に到着、レンガ造りを基本にした西洋風の大きな街。

 でかい馬に乗って、町の中を進みながら、悠也は辺りを様子を見回す。

 しっかり区画は整備されていて、機能的かつビジュアル的にもいい作り、商店、露店も並んでいる。

 文明は、だいたい中世ぐらい。よくRPGやファンタジー作品で見かける街並み。

 外で見たような車の類は見当たらず。

 街を往来する人々。スタンテングほどではないが人よりも体格いい、金属のような肌の神鎧族も歩いている。

 人間も神鎧族も街を行かい、商店や露店で買い物をしているものも。

 一見、平和そうに見える街。でもRPGやファンタジー作品でみられる、街特有のはなやかな活気が見られない。

 神鎧族を見る人の目は恐怖と怯えがあり、人を見る神鎧族の目には嘲りと侮蔑がある。

 神鎧族の目に宿る嘲りのと侮蔑の色もスタンテングとすれ違うたび、引っ込んでいくが。

 なんとなく、この世界のことが解ってきた悠也。

 支配者階級の神鎧族。支配される階級の人間。それだけにしては人々の漂わせている雰囲気は重すぎる。

 例えるなら、死刑判決を受けた囚人のよう。




 街の中で、一際、大きな屋敷が見えてきた。

「ユウ、あれが我が屋敷ですぞ」

 スタンテングの屋敷は大きさに比べ、装飾もなく、質素な作り。


 屋敷の庭には、でっかい馬と普通サイズの馬、一台の車が止めてある。

 車種までは解らないが、悠也の見たことのある車と同じ形。フォルクスワーゲンのミニバンだったはず。

「あれも鉄亀、“漂着物”ですぞ」

 またも出てきた“漂着物”の言葉。

「話はお茶でも飲みながら致しましょう」

 スタンテングに促され、屋敷の中へ。




 応接間に通され、紅茶とクッキーを乗せたトレイをジャニスが持ってきた。

「うっ」

 思わず悠也は戸惑ってしまう。

 紅茶からはいい香りがするのだが、クッキーに問題があった。

 動物をデフォルメした形をしたクッキーで、可愛いのだ。

 クッキーが可愛くて、どうしても悠也は食べられない。

 食べようとしてもクッキーが『やめて~』『私たちを食べないで~』と訴えているような気がして、口に運べない。

「またこんなクッキーを焼いて、ユウが困っているではないか」

 助け船を出してくれたスタンテング。

「可愛い方が喜んでもらえると思ったありますです。まことに申し訳ないでないのでありますです」

 大きな眼鏡をかけた顔を何度も上げ下げして、ジャニスはぺこぺこと謝る。

「気にしないでね、僕は気にしてないから」

 こんなに謝られたら、悠也の方が悪いことをしてしまったのではないかと、罪悪感を持ってしまう。

「ジャニス、ワッフルがあるから、それを持ってきなさい」

「ハイ、ただいま、待ってまいりますです」

 スタンテングの命を受けて、ワッフルをキッチンに取りに行く。

「いい子なのですが、少々、抜けていましてな」

「全然、問題はありません」

 問題なし、むしろドジッ娘はメイドの萌えポイントちの一つ。




 ワッフルをサクッと齧り、カップを両手で持ち、ふーふーと息を吹きかけて冷まし、一口飲む。

 秋葉原にて悠也もワッフルを食べたことがある。ここのワッフルも寸分違わず美味しさ、紅茶も美味しい。

 異世界に来ても、こんな美味しいワッフルが食べられるなんてと、ほくほく幸せそうな笑顔。

「話を始めても良いかな、ユウ」

「はい」

 姿勢を正して、聞く体制。

「地方から来た者は見かけたことは無いかもしれませんが、時折、不可思議な技術で作られた遺物が見つかることがある。鉄亀も、その一つですぞ」

 それは鉄亀じゃなくて、自動車だよとはややこしくなので、悠也は言わないで置く。

「あの不可思議な技術は明らかに、この世界にはない技術。ならば遺物は異世界から来たものと断定される。それ故に“漂着物”と呼ばれておるのだ」

 つまりはオーパーツことだなと悠也は解釈。地球ではオーパーツは超古代文明の遺産だとか、宇宙人が作ったものだとか言われているけど、この世界では、異世界から漂着したものと判断した。所変われば品変わるとは、よく言ったもの。

 鉄亀はどう見ても自動車。異世界から漂着したものというのは正解だなと、悠也は思った。

「殆どは壊れた状態で見つかるのでな、修復し、または複製して使用しておる。そう言えば以前、パティという修復と複製の名人がおったな、どこへ行ったのやら……」

「見つかる“漂着物”は鉄亀みたいな大きなものばかりなんですか、人間なんかは?」

「大きなものだけではない、小さなものや武器類、書物なども見つかることがあるぞ。しかし生物が見つかったとの報告は耳にしておらぬ」

 話を聞いた裕也。だとすれば自分も“漂着物”になるんだなと。なんだか微妙な気分になる。

 しかも人間の“漂着物”は悠也だけらしい。




 屋敷に泊まらないかと、スタンテングに言われたが、丁重に悠也はお断りして、街に泊まることにした。宿の手配だけしてもらう、何せこの世界のお金を持っていないので。

 人々の雰囲気が気になり、悠也は街を見て回ることにした。この世界のことはあまり知らないので、調べるのは必要なこと。


 夕暮れの時間が訪れた街の中をうろつく悠也。

 仕事帰りの人、買い物をしている人、遊び回って泥だらけになって家に帰る子供たち。夕暮れの景色はこの世界も変わらない、この時間も平和そうに見えている。

 スタンテングの話では、街の中の治安は行き届いているとのこと。

 人間の大人たちには悲壮感が漂っている。すれ違う人たちの中には怯えや恐怖、中には暴漢が見せた怒りと憎しみの目を悠也に向けてくる者も。

 スタンテングのでかい馬に乗って、街の中を闊歩するゴスロリ様は目立つ。

「やっぱ、身分の違いだけやないんやな」

 誰にも聞こえないような呟き。

 この世界の神鎧族と人間の間には身分制度以上の何かがある……。

「おい」

 唐突に声を掛けられた、声は女性もの。

 顔を向けると、路地の闇の中にフード姿の女性が立っている。フードで顔はよく見えない。

「お前は“漂着物”か?」

 いきなり直撃、ど真ん中。

「だとしたら?」

 それを打ち返す悠也。フードの女性は街の人たちとは雰囲気が違う、暴漢たちとも違う。

「お前が“漂着物”なら来い。この世界の真実を見せてやる」

 その言葉には強い力が込められている。嘘や罠ではない証。

 返事を待たずに、路地の奥へ。

 正直な気持ち悠也は面白いと感じていた。だから、

「謹んで、ご同行させてもらいます」

 その誘いに乗り、フードの女性の後を追う。


 街の裏から外へ。

 フードの女性は茂みの中に隠してあったハーレーダビッドソンを引っ張り出す。

「こいつはお前の友達か?」

 フードの女性に言われ、悠也が返答に困っていると、

「冗談だよ、冗談」

 笑いながら、フードを下す。

「私はマリナだ」

 悠也より、少し年上の美人。100%肉食系女子。どんな動物に例えると質問したら、みんなが答えるのは狼。

「僕はユウです」

 お辞儀をするような仕草で名乗る。

「僕……」

 狼のような肉食系女子の顔が緩む。それも一瞬、元の顔に引き締まった。

 フードの女性、マリナはヘルメットを被り、もう一つのヘルメットを悠也に投げてよこす。

 キャッチした悠也に、

「乗れ」

 またも返事も聞かず、タンデムシートに跨る。

 拒んでも何の意味もないので、素直に悠也は跨る。

「こいつは暴れ馬だ、しっかり使っておかないと責任は持たないぜ」

 ハレーの馬力は言われなくても解っているので、しっかりとマリナの腰に掴まる、これは役得な悠也。

「行くぞ」

 夕暮れの道をハレーは疾走する。




「ちっ、始まってやがる」

 夜通し走り、明け方、マリナはハレーを止める。

「な、なんやあれ」

 降りた悠也は呆然となる、その場所を表現するならば地獄以外にはありえない。


 大きな窪地で、多くの人が逃げている。

 逃げ回る人間を4人の神鎧族が追いかける。とても楽しそうに、まるでゲームかスポーツのように。

 人間を捕まえると、自身の外骨格に覆われた部位を美味しそうにを喰う、乱暴に貪り喰う。

 喰い終われば、ポイと投げ捨てて、次の人間を捕まえに行く。

 喰われた人が命を取り留めることは不可能な食べ方。

 坂道を駆け上がって、窪地から逃げようとする人間の足を掴み、引きずり下ろし、神鎧族は喰らいつく。


 吐き気を堪える裕也。

 他の3人より、一回り大きく、右腕が外骨格に覆われ、人間の右腕を喰っている神鎧族をマリナは指し示す。

「あいつがボンカー、奴らのリーダーだ。奴の趣味は人間狩り」

 その声は怒りに満ちていた。

 ボンカーの顔は狂気の喜びに色づいている。

「この世界の人間は神鎧族の食糧なんだよ、奴らは外骨格に覆われた部分を喰らいやがる。これがこの世界の真実だ!」

 やっと悠也は理解できた。何故、街の人間が恐怖に怯える目で神鎧族を見ていたのか、悲壮感が漂っていたのか、スタンテングと一緒にいた悠也に怒りと憎しみの目を向けていたのか。暴漢の言ったことも納得できた。




 突如、窪地に何台ものハンヴィーが降りてきて、重火器を手にした軍服姿の男たちが飛び降りると同時に、4人の神鎧族に向かい、掃射をかます。

 その一方、追いかけられていた人たちを安全な所へ避難誘導。


「私たちは人類軍、人間の解放のために立ち上がった」

 マリナがフードを脱ぎ捨てた。下に来ていたのは迷彩色の軍服。

 再びハレーのエンジンを掛ける。

 マリナは乗れとは言わなかった。それでも悠也はタンデムシートに跨る。どこへ向かうのか解っていて。

 走り出したハレーは窪地へ向かい、一気に坂道を降りる。




 ハレーを降り、ヘルメットを脱ぎ捨てるマリナ。悠也も降りて、ヘルメットを脱ぐ。

 悠也1人だけが場違いなゴスコリ衣装。

 人類軍は神鎧族が倒れても掃射を止めず、手榴弾を投げ、火炎放射器まで浴びせかける。

 容赦なく、徹底的に。

「ああしないとダメなんだ。神鎧族は不老不死でね、倒すためには奴らの防御力と回復力を上回るダメージを与えなくてはならない」

 マリナも懐からデザートイーグルを取り出し、戦闘に参加。


 3人の神鎧族はミンチになり、こんがり焼かれて、やっと動かなくなった。なんという生命力。

 まだボンカーは暴れていた。リーダーだけあり、他の神鎧族よりタフネス。

 攻撃力も侮れない、捕まったらそこで終わり。

 ボンカーが襲ってくれば、牽制しながら後退。一定の距離を保ちつつ、掃射を途切れさせない。

 弾切れになれば後方へ下がり、後列にいた部隊が前に出て、掃射。その間に弾丸を装填。

 こうやって交代を繰り返しながら、攻撃を緩めない。

 それでも倒れないボンカー。

 体格のいい男がハンヴィーからロケットランチャーを取り出し、肩に担いだ。

「あ、SMAW ロケットランチャーだ」

 悠也も映画でしか見たことはない、対戦車ロケットロケットランチャー。

 発砲音ともに撃ちだされた対戦車弾 HEAAがボンカーに直撃、爆発した。

 ついにボンカーが倒れた。それでも重火器による掃射は止めず、手榴弾を投げつけていく。

 デザートイーグルをマガジンの中が空になるまで、マリナは撃ち続ける。


 爆風により、巻き上がったガンスモークと土煙と粉塵で視界を遮られ、ボンカーの姿は見えない。

 沈黙、人類軍は戦闘態勢を維持しつつ、状況を観察。

 反撃は起こらず、動く気配すらなし。

「……やったか」

 誰か言ったその台詞を引き金に戦っていた人類軍に歓喜が起こり、それは保護された人たちにも広がる。




 ガンスモークと土煙と粉塵を払いのけ、ボンカーが起き上がった。全身の傷は見る見るうちに、治療されていく。殆どダメージは受けてはいない。

 歓喜は絶望へと変換。

 一番近くにいたマリナに、ボンカーは襲い掛かった。

 既にデザートイーグルは弾切れ、逃げる余裕なし。

 他の人類軍もショックのあまり動けずにいた。




 誰かの言った『やったか』を聞いた時には悠也は走り出していてた。『やったか』はやれてないのはお約束だったから。

 マリナを助けに向かう悠也の耳に、はっきりと聞こえた。確かに聞こえた。【骸空】の鞘がカチッと鳴ったのを。

 祖母の言葉【骸空】は抜ける時に抜ける』が脳裏を駆け巡る。

 柄を掴むと、一気に引き抜く。

 抜けた、今まで一度も抜けなかった【骸空】が。しかも短刀のはずなのに刃は光輝き、太刀の刃渡りになっていた。

「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 気合一閃、光の太刀【骸空】で、マリナに襲い掛かろうとしていたボンカーを斬り付ける。

 たった一回、斬っただけだった。なのにあれだけ、重火器を撃ち込み、SMAW ロケットランチャーを直撃させ、手榴弾をばら撒いても、大したダメージを与えられなかったボンカーが消滅した。

 斬られた部分から、光の粒子となって消えて行き、最後は外骨格に包まれた右腕が消滅した。外骨格の下は肉も皮もついておらず、ただの骨。

 後には何にも残っていない、そこにボンカーがいた形跡は、何にもなし。

 鞘に収めると【骸空】は光の太刀になったことが幻のように、ちゃんと鞘に入った。




 あまりにも展開に、みんな唖然となる中、1人の男、逞しい男、戦う男を絵にかいたような男、それでいて眼鏡をかけているので知的に見える中年の男が悠也の前に行き、

「私は人類軍のリーダーを務めています、ジーニアス。貴方の降臨をお待ちしておりました。黒衣の女神様」

 片膝をつき、深々とお辞儀。

 一度は静まった歓喜が、再び巻き起こる、さっき以上に。

「こ、黒衣の女神~」

 おろおろして、戸惑っている悠也。全く状況が掴めない。




 この世界には伝説がある。いつの日か黒衣の女神が現れ、神鎧族を倒し、人間を救ってくれると。

 そんな伝説を悠也は知る由も無し。


 歓声を上げ、喜びに満ち溢れている人たちは知らない、本当は悠也が男の子だということを。




 悠也くんが男の娘なので、マリナは肉食系オオカミ女子です。

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