エピローグ うどん
悠也くんが人類軍のみんなに、手打ちうどんご馳走します。
小麦粉に塩を溶かした水を加え、もみもみ捏ねて大きな玉状に。
大きな玉状にした生地を布で包み、足踏みマッサージの感覚を思い出しながら、悠也はふみふみ。特に感覚が似ているのはパティ。
よく踏めば踏むほど、コシが出て美味しくなる。
こうして出来上がった生地を十分に寝かせておく。
人類軍のみならず、人間たちはお祭り状態。何せ、今度こそ、本当に、人類の天敵、最強の神鎧族神鎧族の神を倒したのだから。
これで人類と神鎧族の勢力図は、大きく変わることになる。
そのお祝いというわけではないが、以前から企画していた手料理を悠也は、人類軍に振舞うことにした。
生地を寝かしている間に出汁作り。
マリナとの買い物の際、購入した鰹節を薄く削り、海岸で採取した昆布を乾燥させたものと、悠也自身で釣った鰯を乾燥させて作った煮干し。正確には鰯に酷似した魚だけど。
これらの材料を煮込んで出汁を取る。
無論、この世界には醤油は無いので、似た調味料を幾つか組み合わせ、薄口醤油の代用品を作成、味を調える。
十分に寝かせた生地を工房で作ってもらった専用の包丁を使い、手ごろな太さに切り分け、グラグラと沸き立つ熱湯で茹でる。
早すぎず遅すぎず、絶妙のタイミングでメンを熱湯から引上げ冷水で締める。
メンを器に盛り出汁を掛け、こうしておばあちゃん直伝のうどんの完成。
「これが黒衣の女神様の作ってくださったお料理」
「素晴らしいです」
「大変美味しいです」
ただメンに出汁をぶっかけたものだけど、人類軍の戦士たちに、おおむね好評。
「へー、変わった食いもんだが美味いぜ」
本当に美味しそうにマリナはうどんを啜り、お代わりを要求。
何も感想を言わないジーニアスなれど、不味いものを食べている表情はしていない。
「このもちもち感、まるでユウのお尻じゃねぇか」
「あの~食べ物の例えをお尻というのは……」
パティを窘めるジュニス、2人とも悠也の作ったうどんをお気に入りに認定。
好評なのは嬉しいことながら、悠也の心の中には一つの重りがあった。
光の粒子になりながらも悠也に迫ってきたウィン。その瞬間、彼のメッセージが入ってきた直接、頭へと。
悠也が秋葉原で真っ赤に燃える巨大な隕石を見た、あの日、ウィンもクールジャパンを求め、あの場所に来ていたのだ。
そしてウィンも、この世界に飛ばされた、それも百年前に。
ウィンはコリンーシと出会い、お気楽な生活環境を手に入れるまで、この世界をさすらい、暇つぶしに調べ、一つの答え、この世界の秘密に辿り着く。
地球とは、全く違う世界に見えなながらも、どこかしら似ている世界。
インサンシャ強制収容所の中心に建つ、あの管理塔はサンシャイン60であった。
『この世界は、異世界じゃなく、もう一つの地球なんですよ』
ウィンは、そう伝えてきた。
悠也やウィンがこの世界に転移した時、世界は分岐した、隕石で破壊された地球と、今もスマホで繋がっている隕石の落ちなかった地球へと。
真っ赤に燃える巨大な隕石の衝突により、世界の何もかも作り変えられた、今いる世界。
さらに衝突の際、生じたエネルギーが神鎧族を誕生させる。神鎧族の外骨格は、元は隕石を構成していた物質。
“漂着物”も2種類ある。一つは隕石の衝突前からあった物が発掘される場合と、文字通り、破壊されなかった地球から流れてくる場合。いわば悠也やウィンと同じように、転移してきた。
隕石の落ちなかった世界から、隕石の落ちた世界へ転移する場合、ただの道具でさえレベルアップする。例えば悠也のスマホの様に、電池切れなし、世界を跨いでネットに繋がるなど。
これが悠也やウィンのような人間だと、最強の神鎧族、神鎧族の神となる。
つまるところ、悠也も最強の神鎧族、神鎧族の神。
『オレッチも百年、この世界をさまよったけど、人間の転移者は君以外、出会わなかった』
それがウィンが最後に伝えてきたメッセージ。
この先、変わる勢力図は人類と神鎧族の間だけではない、人類同士の勢力図も変わる。誰がどこの組織が世界のイニシアティブを取るのかと。
きっとジーニアスは最強の神鎧族、神鎧族の神を倒した悠也、黒衣の女神を前面にアピールするだろう。
『オレッチも百年、この世界をさまよったけど、人間の転移者は君以外、出会わなかった』
でも確実にいないとは言えない。
このまま黒衣の女神の名が広まれば、向こうから接触してくる可能性がある。
悠也、ウィン以外の転移者、すなわち最強の神鎧族、神鎧族の神が、敵か味方かは解らないけれども。
今回は、一旦、ここで締めくくります。




