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黒衣の女神は男の娘  作者: マチカネ
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第14章 鶚

 『第9章 スタンテングの倉庫』の内容を少し変えました。

 翌朝、広場に斬首された遺体は飾られなかった。

 レジスタンスたちは囚人と接触しないように注意していたし、囚人たちもレジスタンスを遠ざけていたので三日連続の斬首刑を阻止でき良かったと、レジスタンスたちも囚人たちも胸を撫で下ろしたのだったが……。


 広場に呼び出された囚人たち、かなりの数が集められた。特にレジスタンスは全員が集められている。

「さてッ腐った囚人の諸君、本日はインサンシャ収容所の所長であられるコリンーシから、直々お達しがあられるので心して聞くがいいッ」

 手に剣を持ったウィンは、広場全域に届くように叫ぶ。

 ずっと閉じ込められている囚人たちにとっては、猛毒体形の女所長、コリンーシが前に出てくる。

 猛毒と言っても神鎧族(じんがいぞく)に対し、そっちの意味で襲い掛かる命知らずな人間など、この世界には1人もいないけど。

 所長と副所長の周りには、看守たちが立ち並ぶ。

「悪名高き人類軍のリーダー、ジーニアス。あなたには右腕切断の刑を言い渡すわ、処刑しない、とても慈悲深い私に感謝しなさいね」

 騒然となるレジスタンスたち、非常に楽しそうなコリンーシとウィン。

「そこのあなた」

 コリンーシに指差されたのは、ジーニアスの着いてきた護衛の1人。

「あなたに刑の執行を命じますわ」

 自身のリーダーの腕を切り落とせと命じられ、さしもの護衛も青ざめた。

 とっととやれと言わんばかり、ウィンは護衛の前に剣を投げる。

 剣は石畳に当たり、金属音を響かせた。金属音は苦痛となり、護衛の心にも響く。

「そんなことは出来ません!」

 はっきり自分の意思を示す。尊敬し敬愛するリーダーの腕を切り落とすことなど、到底出来ない行為。

「そう、それなら仕方がないわ」

 最もそれが解っていて、コリンーシは命じたのだが。

「代わりにあなたの両腕を切断することにしましょう」

 ニンマリ笑うコリンーシ。

 絶句する護衛、彼だけではない、ここにいるレジスタンス、囚人全員が絶句して、何も言えなくなる。

 自身の両腕かリーダーの右腕か、残酷極まりない二者択一。

 青ざめ震えている護衛を見て、愉快でたまらないコリンーシとウィン。

「かまいません、やりなさい」

 護衛の前に行き、ジーニアスは袖をまくる。

「私の腕一本より、あなたの腕の方が大切なのですから」

 笑うわけでも強がっているわけでもなく、顔色の一つとして変化させず、淡々と右腕を差し出す。

「とっとと、やりなさい、人間!」

 それが気に入らなかったコリンーシがヒステリックに命じる。

 震える手で剣を拾い上げ、

「ジーニアスさん、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 何度も何度も謝り、泣きながら剣を振り上げた。

 レジスタンスや囚人は、思わず目を背けてしまう。

 今にも護衛が剣を振り下ろそうとした時、

「じ、人類軍です、人類軍が大挙して、陣を取っております」

 外を見張っていた看守が、慌てて報告をしてきた。



 マリナを筆頭に、インサンシャ強制収容所の前に陣を取る人類軍。それぞれ“漂着物”である重火器を装備。



 待ち望んでいたことが訪れた。これでもかと言わんばかりの歓喜に、コリンーシは身を捩じらせる。

「皆殺し皆殺し皆殺し皆殺し皆殺し皆殺し皆殺し皆殺し皆殺し皆殺し、1人残らず皆殺しにするのよ」

 意気揚々と命令を下す。

 人類軍が皆殺しにされ、絶望にもがき苦しむレジスタンス。その光景を想像して興奮のあまり、涎を垂らす。

 コリンーシの命を受け、看守たちは人類軍を殲滅するべく出撃しようとした時。

 この世界の誰もが聞いたことの無い風切り音を響き渡らせ、何かが訪れた、天空に。

 またも絶句する、上空を見たインサンシャ強制収容にいた全員が。

 鳥でもないのに上空に浮かび、両翼の部分には風車の様な物が付いていて、高速で回っている。鳥よりも遥かに巨大な黒い飛行体。

「何なのアレは……」

 驚きと共に、コリンーシは飛行体を見つめている。

 看守も囚人も生まれて初めて見る飛行体に、行動することすら忘れていた。

 何故、あんな鉄の塊が飛んでいるのか? 一体、どこから飛んで来たのか? アレは一体、何なのか?

 疑問で頭の中を一杯になる。

「オイオイ、ジョークなのかよ、こんな物があるなんて……」

 ウィンの口から、声が漏れる。



 V-22、愛称はオスプレイ、意味は(ミサゴ)

 アメリカ軍の垂直離着陸機。ヘリコプターと同じ垂直離着陸能力を持ちながらも長距離飛行ができ、速度は約2倍、航続距離は約5.6倍、行動半径は4倍、飛行高度約3.5倍、輸送兵員数は2倍、物資積載量約3倍の性能を持つ。

 ローターを折りたたむことにより、コンパクトに収納することも可能。

 スタンテングの倉庫の中央に置かれていた黒い機体こそ、このオスプレイ。



 黒い飛行体、オスプレイから、コンテナが落とされる。

 パラシュートが開き、ゆっくりゆっくり落下して着地。

 広場の真ん中に着地したコンテナの戸が開いたかと思うと、重火器を持った人類軍の戦士たちが飛び出し、オスプレイの登場に呆然としている看守に発砲した。

 咄嗟にウィンは物陰に隠れる。

 今だ混乱中のコリンーシ。弱い相手ばかり踏み躙ってきた彼女は、こんなにも目の前で行われる反撃の対応に着いて行けない。

 ようやく、正気を取り戻した看守の1人が反撃を行おうとした途端、額を撃ち抜かれる、正確にど真ん中を。

 コンテナの中にあった愛用のソーコムを入手したジーニアス、

「反撃の時が来ました、さぁ、今こそ立ち上るのです」

 コンテナの中には、まだまだたっぷり武器がある。

 真っ先に応じたのは、やはり護衛とレジスタンスたち。

 コンテナの中に飛び込み、思い思いの武器を引っ掴む。

 銃火器のような“漂着物”の他、剣や槍や斧や鉈などもある。

 “漂着物”を手にしたレジスタンスには、既に戦っている人類軍の戦士がレクチャー。元から戦っていただけあり、あっさりと使い方を呑み込む。

 外のからの攻撃に対しては万全の対策を持ち、返り討ちにしてきた看守たちも、内からの攻撃に対しては十分な対策を持っておらず、混乱も手伝って一方的にやられていく。

 それに伴い、囚人たちの中にも戦闘に加わる者が出てきた。

 筋肉マッチョの人類軍の戦士がコンテナの中から出てきた。肩に担がれているのは、説明書を読めば客室乗務員も使えるかもしれないロケットランチャーのM202。

 それを見たもう1人の人類軍の戦士は、発煙筒のキャップを取り外して擦り着火、壁に向けて投げた。



 インサンシャ強制収容所から上がった赤い煙を見つけたマリナ。

「来た来た来たぜ」

 ニヤリと微笑んでM202を肩に担ぐ、ちゃんと前後を間違わずに。

 傍にいた人類軍の戦士も発煙筒赤い煙を立ち上らせる。

「1、2――」

 マリナは数字を唱える。



 インサンシャ強制収容所内の筋肉マッチョの人類軍の戦士も、外から上がった赤い煙を確認して数える。

「1、2――」


 3のタイミングでマリナと筋肉マッチョの人類軍の戦士はインサンシャ強制収容所の中から上がった赤い煙を目掛け、M202の引き金を引く。


 発射されたロケット弾は壁を外側と内側、殆ど同時に破壊。


 インサンシャ強制収容所を難攻不落の監獄にしていた二重の壁が、このような方法で破られた。

 これが悠也(ゆうや)の考え着いた妙案。



 破壊された壁を通り抜け、一気にマリナ率いる人類軍が雪崩れ込んでくる。

 雪崩れ込んで来たのは人類軍だけではなかった、他のレジスタンス組織も参戦。

 自らを囮に使い、インサンシャ強制収容所側の注意を人類軍だけに集中させ、他のレジスタンス組織の存在を気付かせないようにしていたのだ。

 おまけに“漂着物”の銃火器まで、提供されているではないか。

 ここまで攻め込まれたことも、あまつさえ、こんなにも“漂着物”の銃火器を装備した集団との戦闘はこれまで無かった。

 看守たちは応戦するものの、今も上空に留まっているオスプレイの威圧、囚人の決起、破壊された壁の心理的外傷が蓄積し、とことん圧されていく。

 完全に勢いは人類側が乗っていた。

 このまま勝敗が決まるのかと思われた矢先、ヒュンと風が鳴り、中肉中背のレジスタンスが右肩から右わき腹まで切り裂かれる。

 傍にいた囚人が驚くより早く、またもヒュンと風が鳴って、首が落ちた。

「よくも好き放題、やってくれたわね」

 やっと呆然状態から立ち直ったコリンーシ。その手には物凄く似合い過ぎ、これ以外の武器は似合わないであろう革製の鞭が握られていた。

 コリンーシの振るう鞭は唸るように風を鳴らせ、年配のレジスタンスの上半身と下半身を両断。

「アタシの手で、皆殺しにしてあげるわ」

 ベロリ、血の付いた鞭を舐める。



 落とさないよう悠也は、しっかり【骸空】を腰に差す。

 これからやろうとすることに対し、全く恐怖が無いと言えば嘘になる。だがオスプレイに乗っている状況、臨戦への気持ちが恐怖を上回っていた。

「オイ、ユウ、準備は終わったか」

 操縦席のパティ。彼女は悠也の懸念だったオスプレイの操縦をぱっぱのさっさで会得してしまった。本当にどうやったのだろうか?

「ハイ、準備は万端です」

 ばっちり準備は終えている、震えているのは100%武者震い。




 最初はセスナ機でコンテナを投下しようと思っていたのですが、天啓のごとく、オスプレイが思いつき、オスプレイに変えました

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