第13章 火の消えた人類軍
令和になりました。
主人の居なくなったゲルに集まる悠也、マリナ、パティたち人類軍の主だった戦士が集まる。
ジーニアスが捕まり、インサンシャ強制収容所に他のレジスタンス共々、投獄されてしまった、難攻不落の監獄に。
「インサンシャ強制収容所はな高い壁、それも二重の壁で取り囲まれているんだよ。で、神鎧族の看守が24時間、交代で見張っており、脱獄を試みた囚人を喰ってもいいことになっておる。この二重の壁と看守が精神的にも、囚人たちの脱獄の意思を阻害していいるんじゃよ」
チョークを手に取りパティは解りやすく、黒板に絵を描きながら説明。
「今すぐインサンシャ強制収容所を襲撃して、ジーニアスを助けるべきだ!」
若い戦士が立ち上がる。
「どうやって助け出すというのだ。“漂着物”を使っても破壊できるのは、精々、壁一枚。もう一枚破壊する前に、確実に神鎧族が駆けつけてくるぞ」
何せ、24時間見張られているのだ。人間より身体能力、五感に優れた神鎧族、少しでも物音を立てでもすれば、すぐに駆けつけてくる、集団で。
インサンシャ強制収容所を攻略するためには、二重の壁を同時に破壊しなくてはならない。
「では、このままジーニアスを見捨てろと言うのか!」
インサンシャ強制収容所の所長のコリンーシは残酷なサディスト、最低週に一度は楽しむために死刑を執行するという。
いつジーニアスが処刑されるか解らない、もしかしたら、すぐにでも執行される可能性だってある。
人類軍の戦士にとって、それはとても耐えられない。何としても阻止しなくてはならないこと。
「それこそ、コリンーシの思うつぼなのです、きっと、助けに来るのを舌なめずりしながら待ち伏せているのでありますです」
全くその通りであろう、若い戦士何か言いたそうにしていたが、これ以上、何にも反論が思い浮かばず、しかめっ面で椅子に座る。
「どうぞ、飲んでくださいませです」
ジャニスがお茶を淹れ配るが、誰も味を楽しむ余裕なし。
結局、何にもジーニアス救出のアイデアが思い浮かばず、ただ重苦しい空気が流れて行く……。
何の成果が無いまま解散した後、マリナは海岸に出る。
いきなりデザートイーグルを抜き構え、引き金に指を掛けるが引かず、懐のホルスターにしまい込む。
次に走りながら、デザートイーグルを抜き引き金を引く構えを取る。
こんな行為を何度も繰り返す。
何の意味の無い行動だとは解っていても、体を動かしておかないと重苦しい気分に圧し潰されそうになってしまうのだ。
とにかく、今は動き回る。これしか重苦しい気分を吹っ飛ばす方法をマリナは知らない。
後ろで見ている悠也は、マリナの気持ちを察してやらせたいことをやらせておく。
「オイ、テメーら、何サボってやがる、とっとと作業を開始しゃがれ」
ラボに戻ったパティは、落ち込み項垂れている作業員たちをどやしつける。
一度、パティを見た後、作業を始めるが誰も動きがぎこちなく、やる気が見えてこない、頭に全然を付けていい程。
「コラッ、ちんたらしてんじゃねぇ! テメーらのそんな姿を見て、ジーニアスが喜ぶとでも思ってんのかぁ。それとも何か? テメーらのだらけた姿をジーニアスに見せたいのかぁ」
ちっちゃなパティの言葉がハンマーとなって、作業員たちの心を打ち付ける。
こんなだらけた姿、決してジーニアスに見せられない見せてはいけない、作業員とて人類軍の一員なのだ。
やる気を回復させた作業員たちは、黙々と作業を始める、自分たちのやるべきことはやるべき。
「まったく、どいつもこいつも世話のかかる奴ばかりじゃねぇか」
パティも自身の作業を始める。
悠也がキャンプ地を回ってみれば、みんな沈んでいる。悠也を見かければ、いつものように挨拶するが、元気が感じられない、無理もないことだけど、まるで火が消えた様。
中には『黒衣の女神様、ジーニアス様を助けてください』と拝むものまで。
苦しい時の神頼みされても、本当は女神ではなく、男の娘なので困ってしまう。
悠也に出来ることは戦うことだけ。
「あなたたちのことは、僕が必ず守ります」
そう言ってごまかすことしか、出来なかった。それしか出来ない自分が悔しい、何のために鬼殺獄越陰流を身に着けたのか……。
ふと、ジーニアスのゲルを見れば明かりが灯っていた。明かりを消し忘れたのか、それとも、まだ誰か残っているのか、ゲルの中を覗いて見る。
そこではジャニスが箒を手に、せっせと掃除をしていた。
「何しているの?」
掃除の邪魔にならないよう、入り口で話し掛ける。
「これはユウちゃん」
ぺこっと挨拶してから、掃除を再開。
「いつでもジーニアスさんが、戻ってこれるように綺麗にしておくでのでありますです」
掃除を続けるジャニス、そこには必ずジーニアスが戻ってくるとの意思があった。
「ジャニス、君は強いんだね」
「いいえ」
首を横に振り否定。
「私に出来るのは、これぐらいしかありませんから」
にっこりと微笑んで言う。
ゲルに戻ってくると、ハンモックの上でマリナが寝そべっている。寝ていているのか、起きているのか解らないが。
今度は悠也は声を掛けないでおく、どう声を掛けていいのか解らなかったから。
悠也は寝間着に着替え、ハンモックに寝そべる。
寝ても問題は解決しない、だからといって寝て休まなければ体調を崩してしまう。
悪い体調からは悪いアイデアしか浮かんでこないもの。
こんな時こそ、無理をしてでも寝て回復するべき。
悠也は夢を見た。
マリナとジャニスと一緒に、スタンテングの倉庫に行った時の夢を。
悠也は目を覚まし、体を起こす。
「そうや、その手があった」
この時、悠也の中で、ある妙案が閃く。
早朝、悠也はマリナ、パティ、ジャニスたち人類軍の主だった戦士をジーニアスのゲルに集め、この世界の住人には解りづらいかもしけないけれど、出来るだけ解りやすく、自身の考えた作戦を話す。
話し終えても、いまいち理解できていない戦士たちもいるものの、黒衣の女神様の考えた作戦、間違いはないはずと支持を表明。
正しこの作戦には一つ、問題があったのだが……。
「それはワシに任しておけ、ぱっぱのさっさでやってやるさ」
大船に乗った気でいろと言わんばかり、パティはゲル中に笑い声を響かせた。
実際、夢で問題解決の糸口が見つかることはあります。
悠也の考えた妙案とは?