桜
お互いの夢を叶える為、三年間ずっと一緒にいた私達は、それぞれ違う土地に移り住んだ。
春。
大学の入学式も無事終わり、少しは友達も出来た。
高校とは全然違うこの華やいだ空間は、暖かな陽気のせいもあってか、妙な盛り上がりを見せている。
サークルの勧誘だの、お花見だのといった様々な誘いを断わり、私は、ほんの少し前に住み始めたばかりのアパートの近くにある小さな公園へ、一人向かった。それほど人通りの多くないこの街の公園には、子供連れのお母さんや老夫婦が多く、お花見の時期とは思えない程、ゆったりとした時間が流れていた。
風が吹く度に満開の桜から花びらが散り、子供達の歓声があがる。
ふと、彼と一緒に桜を見に行ったことを思い出した。
『桜の花には香りがないんだよ』
あの時、嘘か本当かわからない雑学を口にした彼は、今隣にはいない。
急にに淋しさが募り、涙がこぼれた。
誰にも気付かれないように公園の隅に行き、背を向ける。
周りの喧騒や子供達の笑い声が、今はなんだか切ない。
私は涙を拭い、桜の木の下に立った。
年に一度しか見られないこの花は、目を逸らさせまいとするかのように、青空を背に美しく咲き誇っている。
彼も今同じように、桜の花を見ているだろうか。
バックから携帯電話を取出し、桜に向ける。何回か撮影した内の一番綺麗な画像を、遠く離れた街にいる彼に送信した。
―そっちにもまだ桜は咲いていますか?―