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朝目を覚ましたら、昨夜と同じように頭がとても重かった。一昨日からひいている風邪はまだ良くなっていないみたいだ。

「具合はどう?」

お母さんが部屋に入ってきて私のおでこに手を当てる。

「頭重い…。」

「まだ熱が下がらないわね。もう一日学校休みなさい。」

「…うん。」

お母さんは学校に電話をする為に部屋から出ようとしたが、ドアを開けたところで振り向き

「早く治しなさい。今の学校行かれるのも後少しなんだから。」

と言った。


お母さんが出ていくのを見届けた後、私は重い身体をゆっくり起こして近くにあった半纏を羽織り、カーテンを開けた。

雪が降っている。

私しかいない部屋に、静かに雪の降り積もる音が聞こえる。



この降り積もった雪が溶けるころには、私はきっとこの街にいないだろう。

春になってもなかなか溶けない、壁のように積もった雪を見るのもあと少し。

もうすぐ私はお父さんの仕事の都合で、ここからずっと南の方にある、きっとあまり雪の降らないであろう町に引っ越しをする。



「寒っ。」

急に寒さに気が付いて布団に戻ろうとした時、

ゴン

という鈍い音と一緒に窓ガラスに何かが当たった。


雪玉?


再び窓際に戻り雪の積もった地面を見下ろすと、学生服をきた男の子がこっちを見上げて立っていた。

「…西藤くん?」

窓を開ける。

凍えるような冷たい風が吹き込んできて、思わず身震いする。

「風邪治ったかあ?」

ブーツの半分が雪に埋もれながらも立っているその男の子は、大きな声で問いかけてきた。

私は、喉が痛くて大きな声が出せない変わりに、頭がクラクラしながらも首を大きく横に振った。

彼は、少し残念そうな顔をしながらこっちを見上げている。学生服の上に着ているベージュのコートがどんどん白くなっていく。

「風邪ひいちゃうよ。」

私は出来る限り大きな声を出して、彼に言った。

「大丈夫だよ。」

彼は笑い

「早く風邪治して学校こいよな。」

そう言ってゆっくりと歩きだした。



「何やってるの!」

気が付くとお母さんがお盆を持って、部屋の入り口に立っていた。

「早く窓閉めなさい!風邪が悪くなったらどうするの!?」

怒ったような表情に気圧されて、私は窓を閉めた。

お母さんはつかつかと部屋の中に入ってきて、私の目の前に座ってお盆を置いた。お盆の上には、温かそうに湯気を上げているお粥が乗っている。

「これ食べて薬飲んで寝なさい。」

「…はい。」

首を小さく下に動かして、お粥の入ったお茶碗を持ち上げる。

「…お父さんは?」

いつもならこの時間はまだ家にいるはずのお父さんが少し気になり、尋ねてみた。

「もう会社に行ったわよ。今日は雪だから、いつもより早く出掛けたのよ。」

なんとなく嫌そうな表情をして、お母さんが立ち上がる。

「お母さんもこれから外の雪かきに行ってくるから、あんたはおとなしくねてなさいよ。」

面倒臭そうに部屋から出ていくお母さんの後ろ姿を見送って、私はお粥を食べ始めた。


お母さんは、雪、嫌いなのかな。

じゃあ、あまり雪が降らない、新しい町に行くの嬉しいのかな…。

私は、本当は、この町でずっと雪を見ていたい。来年も、再来年も、ずっと。

学校の友達とも、離れたくない。

西藤君とも。

もっとずっと一緒にいたい。

でも…。

どうにもならないってわかってるから、何も言わない。



明日は絶対学校に行こう。


私はお粥を食べきり、お盆の隅に置いてあった苦い薬を頑張って飲んで、布団に潜り込んだ。

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