<探索>
斯様な仮説を携えて、私は『シャロットの乙女』の実像を暴くための行動を開始しました。もちろん単独で、誰の協力も仰ぐことなく。
まず私は、ここ二年ほど実施していなかった抜き打ちの持ち物検査をやりました。もしかしたら、我らがランスロットの写真やシャロットの会員証などが見つかるかも、と淡い期待を抱きつつ。
しかし予想通り、何の成果も得られませんでした。職員室で取り敢えず没収したアイドルの写真を取り出して、彼らの形押ししたように似ている虚ろな微笑いを眺めていると、たとえ僅かでも期待を持った自分に対する空しさと苛立ちで笑い出しそうになります。
全く、これで偶像だなんてよく言えるものだ。彼らは、消費され続けることが唯一のアイデンティティであると自覚している冷めた道化に過ぎない。しかし私が探しているのはある種のカリスマなのだ。
“彼”は穏やかで高踏的な笑みと憂いに翳った瞳、明晰で且つ含蓄のある言葉、冴えた知性で少女たちの間に磁渦を引き起こす。
私は想像する、恐らく“彼”は十八歳ぐらい、独りで行動することを好む、感情を面てに出さない、もちろん少女たちの熱い視線も無関心の鎧で跳ね返す、バッハとピラネージとポオに心酔し、ちょっとした空想癖がある。
容姿を描いてみるのは難しいけれど、強烈な何かが備わっているに違いない。それが美なのか神秘性なのか知性なのか、或いは邪悪や頽廃の陰翳なのかは分からないけれど。
それから私は授業でテニスンの詩を取り上げ、『The Lady of Shalott』の全文を朗読させました。そして一スタンザずつ訳させてから、“解釈を深める”ために幾つかの質問を試みました。
何故シャロットは掟に背いてしまったのだと思う?
─それは、ランスロット卿を見たかったからです
鏡で見てるのに?
─やっぱり、自分の眼で見たかったんだと思います
今までは我慢してたのに、何故彼だけを?
─それは……彼を好きだったからです
ひとめぼれってやつね(教室内、笑い)。ランスロット卿はどんな人だと思う?
─強くて勇敢な騎士です
鹿嶋さんはそういう人は好き?(再び、笑い)
─騎士の知り合いがいないので分かりません(教室内、爆笑)
もちろん、こんな遣り取りでは何も明らかになりません。但、その後他のクラスで類似の質問を仕掛けたところ、シャロットの乙女は皆同じ答えを返してきました。行動様式からは互いの不干渉と個人主義を遵守しているように見えるけれど、その結束と連絡網は存外に強固なものであると学ぶことができたのが、唯一の収穫と言えるでしょう。
さらに私は、最近シャロットになったと思われる生徒を捕まえて、じっくり、ねちねちと尋問しました。その結果判明したことといえば、シャロットになって日が浅いからといって、その忠誠心と沈黙の誓いも浅いというわけではないこと。それだけでした。
私が教師の権限と正義を振り翳して、決して正攻法とは言えないやり方でこそこそと嗅ぎ回っていることは小百合も知っていたはずです。しかし妹は何も言わず非難の眼を向けることもなく、私たちを放っておいてと請願する素振りも見せず、薄翅色の殻に閉じこもって何かを温めていました。
何を? 沈黙を? 情熱を? 愛情を?
私はあらゆる手を尽くしてしまい、と言っても大したことはできませんでしたが、仕方なく、小百合の留守を狙って部屋を探ることにしました。何か見つかればいい。でも私ももう、何を捜しているのかよく分からなくなっていました。
ランスロット卿の写真、誓約文、秘密の暗号、護符、動物の死骸、血痕のあるシャツ…。私はそれら輝かしい証拠たちがこの部屋に隠れているなどとこれっぽっちも信じていませんでしたが、惰性から、ふやけかけた義務感から抽き出しをひとつ開けては閉め、閉めては開けてを繰り返しました。
さらに、壁に嵌め込まれた白木の飾り棚も一応調べようと近付いてみると、そこには私が贈ったプレゼントが、小百合が喜びと興奮に震える手で受け取り、いつしか小百合の博物館と呼ぶようになった飾り棚に陳列して飽きずに眺めていたプレゼントが──白いチュチュを着たプリマがくるくる回るオルゴオル。ガラス玉の中に石でできた惑星を閉じ込めた太陽系儀、確か地球はラピスラズリ、火星はガーネットで冥王星は黒曜石、木星は縞瑪瑙、そして太陽はトパーズ、だったかしら。その隣には、美しい細密画が施された陶製の指貫。アンティークの香水瓶、顕微鏡のように上から覗く万華鏡──それらが埃の薄皮に覆われて、現実と虚夢の境でぼうっと微睡んでいたのです。
無関心の澱の中に沈められた、私の贈り物たち。今や私自身も、妹にとってはこれらのがらくたと同等の存在なのです。
しかしその砂を噛むような認識は、私に新たな気力を与えました。こうなったら何だってできる。私は自分のしぶとさに半ば呆れながらも、次策のシミュレーションに没頭しました。




