小林チロルの出世ストーリー
俺、小林チロル。軍事政権国、ジャパニ国の軍隊の一人だ。
俺の家族は、皆、軍隊の仕事をしている。もちろん俺もそうだが、四十五歳にもかかわらず階級は二等兵。
俺の家族は四人の男系で核家族だが、妻、チェリー(45)は中尉、息子達は、次男、トム(12)は大佐、長男、ブー(15)なんか、戦地で恐ろしいほど勲章を貰って、とうとう大将にまで出世しやがった・・・。
軍事政権国の場合、国に一人しかいない『大将』がいる家族は、自動的に王族になる。なので、俺達は国で一番素晴らしい家(城)に住んでいる。でもなあ、俺、何か物足りない感じがするんだよね・・・。
俺が小学校を卒業するころ、卒業文集にこんな事を書いてしまった・・・。
『俺は絶対、三十までに大将になって、お札に載って見せます。中学進学でばらばらになってしまっても、お札を見て、俺のことを思い出してください。』・・・・・・。
でも、今の俺はお札どころか、新聞紙にも名が載った事がない・・・・。息子達や妻はバンバン実績を上げて新聞に載り、それをスクラップする人も出てきている。世の中、不公平だよ、まったく。
そーんなある日・・・
この日は大将会議という姉妹国のそれぞれの大将が集まって、これからの姉妹国以外の国同士の平和をどのように維持していくかについて話し合うという会議がある。
国に一人しかいない大将は、必ず参加しなければならない決まりである。義務である。
「二等兵、中尉、大佐、大将会議に行ってくる。」
ブーは軍服に着替えてゲートルを履き、外へ出た。
「大将にいちゃん、いってらっしゃーい。さ、中尉かあさん、そして、二等兵とうさん、大将にいちゃんが留守の間に、腕立て伏せ一万回、腹筋五百回しよう!!特に、二等兵父さん、お前は階級がいまだに上がっていないんだから、その倍、よろしく。」
トムは腕立て伏せを始めた。
「階級が下のやつに、指令されて、ちょっと複雑な気分。まあいいや。」
チェリーも腕立て伏せをはじめた。
「くそっっ!!」
俺は外へ出て行った。
「ああっ、あなた。どこへ行くの?」
チェリーが叫んだ。だが俺は、
「ランニングへ行ってくる。腹筋や腕立て伏せは帰ってきてからやるから、その間、お前らだけでトレーニングしていろ。」
俺は外へ出て行った。新鮮な空気が俺を癒す。俺がこの空気を吸うと、今までの家族に、二等兵、二等兵と馬鹿にされていた辛い思い出を一瞬、忘れ去る事ができた。
俺がリラックスして散歩していると、ブーが大将会議をしている建物、『国際ビジネスホテル インタレスティド』が見えた。
そこは高い塀で覆われていたが、俺は今まで鍛え上げられていた筋力でジャンプした。学生時代は、『蚤のチロル』というあだ名がついていたほど(悪口かもしれない・・・)ジャンプ力があった俺だから、これくらい、軽い軽い。
すたっと塀を降りた俺は、サササッと戦地にいたときのようにすばやく歩いた。途中、大きな窓に気付いた俺は、そこを覗いた。
そこは、多国の大将が集まっており、インターナショナルな雰囲気になっていた。
彼らはすでに大将会議を行っていた。
「おおっ、ブーじゃないか・・・って、おい!!寝るな!!」
なんと、他国の大将が発言している中、ブーはにんまりして居眠りをしていたのだ。親として恥ずかしく、俺は注意しに行こうとしたが、ホテルの周りには赤外線があった。(特殊眼鏡で分かった。)
もし、赤外線にあたれば・・・命は無い。それほど、大将会議は神聖不可侵な事なんだ。
俺は窓から覗いた。
キャメリア国の大将、『セイタン』がホワイトボードを黒ペンで叩いている。
「では、他に意見はありますか。」
この発言に、サイス国の『スィンゴ』が挙手し、
「はい。私は、姉妹国以外の国の事を知り、それぞれにあった付き合い方をするべきではないでしょうか。そのためにも、その国のことを知るため、今は電子メール、インターネットを活用するべきです。」
セイタンはホワイトボードに書き留めた。
「では、他の大将にも聞いてみよう。では、タンプル。」
キリス国の大将、『タンプル』が立ち上がった。
「はい、私は、私達のような軍国主義を捨て、共和国制度を採るのがいいと思います。私、昨日布団の中で考えたのです。私達、大将は、自分達が起こした戦争によって、その度に自国の国民が苦しみ、死に、さらには生き残った国民の豊かだった心が、それによって貧しくなり、空き巣、スリなどの犯罪も起こっているのが現状です。私の国、キリス国の治安が悪くなっているのはそのためだと、私は、にらんでおります。考えてみてください。自分達の国も、当てはまっていないか。」
この発言が、後に大きな事件につながるとは、タンプル本人も夢にも思ってなかった・・・。
「????????????」
他の大将が、びっくりした顔でタンプルの顔を見た。俺、何か嫌な予感がしてきた・・・・。
セイタンが抗議した。
「タンプル。君はふざけているよ。もし私達の国が『軍国主義』を捨てたら、私達の仕事がなくなるんだ。この中にも、軍隊でしか食べていけない人だっているんだ。大将というのは、今まで平民だった人が、血、汗を流し、自分達の青春を捨てて、努力した人が始めてなるものなんだ。そう、俺達も・・・・・。つまり、お前の発言は、自分と、ここにいるブー、スィンゴ、そして俺、セイタンの三人の努力を踏みにじる発言なのだぞ!!!!!!」
「ふん・・・・・・。」
タンプルは鼻で笑った。
「平和主義か・・・・・、フッ」
俺はため息が出た。軍隊の禁句、『平和主義』・・・・・・・。
その言葉にポッ、と憧れが出た俺だった。
スィンゴも抗議を始めていた。
「そうだ、セイタン大将の言うとおりだ。私は、軍隊になる前、父を亡くし、肺ガンが体中に転移して病弱な母を田舎に残してきた。それでも、私がサイス国の大将になった時、母は喜び、また生きる希望を持ってくれました。」
「フッ、だから?」
それでもタンプルの考えは変わらない。
「私の母を殺すつもりかー!!!」
スィンゴが怒鳴った。俺はその威力に飛ばされそうになった。
「ううん、何だ・・・・?」
ブーが起きた。
「こいつが!!鬼畜タンプルが、俺達を失業させようとしている!!!」
「むっ?」
ブーがカッとなった。そりゃそうだ。ブーが大将を失えば、今まで取れた勲章はどうなるのだろう。
「てめえ!!けんか売っているのか!!」
ブー、スィンゴが拳骨でタンプルを殴ろうとした。もしも、俺だったら腰に挿してある銃で殺してるな。相手を。
「殴りたいのなら、殴れば!?」
そのときだ。
「静粛に!!大将会議だぞ。まじめに取り組みなさい!!」
セイタンの鶴の一声でいったいは静まり返った。さらに発言を続ける。
「では、タンプルの意見に賛成の人。」
誰一人、手を挙げなかった。
実は俺、表面では軍隊の一人としてトレーニング、敵国に遠征に何度も行ったけれど・・・・。
「ちょっと待った!!!俺はタンプルの意見に賛成だ!!!」
何と俺は、窓ガラスを割って神聖不可侵な大将会議の会場に乗り込んでいた。
「二等兵父さん!?」
俺の息子がびっくりしている。当たり前か。
「いきなり、二等兵の俺が乗り込んできてすまなかった。だが。俺は本気で言う。俺はタンプルの意見に賛成だ!!」
「なぬ!?」
一同が、俺のほうを凝視している。
「父さん!!どうして!?」
ブーが目を丸くしている。俺は続けた。
「確かに、平和主義の国家にすれば、俺達は失業する。
だが、よく考えてみろ。息子の国、ジャパ二国は、国の方針は息子が独裁している。俺、以前散歩していると、平民のヒソヒソ話が聞こえたんだ。
『この国の大将は、十五歳のくせにえらそうに、私達庶民の話しなんて全然聞かずに、勝手に政治を進めてしまう、そこがいやだわ!!』
『そうそう、それよ。二十年前、ペンタゴラス戦争があったでしょう。あそこで、准士官だった兄と、中等兵だった父が、敵の弾に当たって即死したの・・・・そんな戦争って、あのクソ未成年大将が、宣戦したのが悪いのよ。うううううっ、ペンタゴラス戦争が無ければ、今頃父も兄も元気に働いていたはずなのに・・・・。』
『この国に、平和は訪れないのかしら・・・ああ、イエス様・・・』
その時、俺は思ったんだ。平和な国家を築くためには、俺達のような軍隊や、兵器はいらないという事を。
人を殺して、何が平和だ。自分達が無力な国民からの税金の一部をもらえて得するだけじゃないか。
君たちは、大将として国を治めているんだよね、じゃ、国民の事を考えた事があるかい?」
「う・・・」
ブー、セイタン、スィンゴは首をすくめた。
彼らはもう、後戻りは、出来ないのは、自分達にも分かっている。今まで彼らは、主に戦争で他国の国民、さらには自国の国民までも殺害して、生活してきた。
さらに、スィンゴの国、サイス国では、一瞬で十万人を殺傷する事が出来る、新型爆弾まで開発中だという。ちなみに研究料金は五億ペヌらしい。(日本円で約5000万円)
「ちょ、ちょっと待ってください!!俺、兵器を買うための、国民からの募金が八十万キャメリアポンド(日本円で約三百五十億円)あるんだぞ!?」
セイタンが叫んだ。
「国の平和のために使いなさい。兵器も、爆弾、焼夷弾、さらには軍隊も無い、本物の平和のためにな。」
それでも、皆、そわそわしている。とうとう俺は我慢の限界が来た。
「力が無い奴も守れない奴に、『長』になる資格など無い!!!」
前から言いたかったこの言葉を叫んだ時、何か俺、心のもやもやがすっきりした感じ。へへッ☆
その時、平和の象徴で有名な、白いはとがたくさん飛んでいるのが見えた。
「わあ、なんて美しいんだ。」
皆、われを忘れてうっとりしていた。
「平和はいいなあ。軍事政権の国家には、絶対こんな事はないんだぞ。」
俺は、みんなに諭した。するとセイタンはくるりと後ろを向き
「ブー、セイタン、タンプル、軍隊を解散しろ。そうして一から、姉妹国同士で平和について考えよう。」
誰一人、反対しなかった。うれしい事だ。
息子は、セイタン、スィンゴ、タンプルを空港まで送るとすぐに、自分の城へ戻った。
家来に国民を集めさせ、自分は軍服に着替えた。
集まった国民は、うーっと唸っている。そりゃそうだ。今まで国民の大切な人を、息子は戦争で殺していたからな。
だが、ブーはニコニコしながら国民の前に立った。そうして・・・
「ジャパ二国民に告ぐ。この、ジャパ二国は建国当時から500年の伝統であった『軍事政権』を捨て、『平和主義国家』に生まれ変わる!!」
その時だ。今まで唸っていた国民が、「わーっ!!」と叫び、飲め、歌えの大騒ぎをおこした。
俺、嬉しかった。自分が望んでいた国家を、息子が作ってくれて。
俺も、国民の大騒ぎの仲間に入って、踊りまくったぜ・・・・。
・・・アノ出来事から、一年半後・・・・
聞いてくれ。何と、俺、小林チロルは・・・
国の代表、国王になってしまいましたっ!!
ん?どうしてって?
あの時、ジャパ二国の憲法を作り直す時・・・・軍事政権時代の長だった息子が、信じられないことを俺に言った。
『二等・・・いや、父さん。父さんが憲法を考えてよ。僕、父さんには、これからの平和主義国家を作り、約3000万人の国民を幸せにする力があると見込んでいるんだ。
だって、平和主義国家を望む軍人なんて、なかなかいないもん。あ、そうそう!!
あの時、父さんかっこよかったよ。』
・・・ってことで、俺、国王になったってこと!!
憲法には、『平和主義』を当然、『国民主権』で、選挙が出来マース。
ン、もう一つ質問?じゃあ、ブーはどうしたって?
ああ。実はブーは、『自分は無力だった』と嘆いて、もう一度勉強をやり直すため、ここから遠い国、『シェブリーナ共和国』の国立高校、シェブリーナ大学付属高等学校(ちなみに男女共学)という、全寮制の高等学校に通い始めたのさ。
勉強が忙しいとかの理由で、新年以外、ほとんど帰ってこない。寂しいけど、息子がエリートになって帰ってくるのが楽しみと思えば、それも大丈夫。
あ、今更だけど、俺の自慢は(まーあ あんまり大したものじゃないけど)ジャパ二文化の一つ、『書道』が達者なことさ。
建国記念日、俺は記念に建国目標を書いた。
それは・・・
他国に負けないような、
平和国家を創る
君主 小林チロル
この技法を使って、自分でもきれいにさらっと書けたときは『うれしー』って思ったぜ。
これが実現するまで、額に入れて城の大広間に飾っておくから。それが実現したら、みんな、ジャパ二国に来いよ☆
THE END
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