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メイド喫茶、メイドカフェというのに昔つれていってもらったことがある。可愛い女の子がメイド服を着て接客する至ってシンプルなものだった。しかし、当時の俺はその至ってシンプルな光景に感銘を受けた。
『お帰りなさいませ、ご主人さま♪』
ただ文字として並べればなんてことない台詞だ。頭の中では解っている。相手は商売、こちらは客。いくら可愛くても、いくら仲良くなろうと、それは営業という名の関係でしかないと言うことを。
なのに、俺は何度も通った。父親が他界し、母親は仕事漬けの毎日、家に帰っても誰もいない、ただいまといっても誰も返事をしない。そんな状況だったから、淋しさを紛らわせられるなら、それが偽りでも良かった。
そうする内に、俺の中で1つの願望が、いや欲望が生まれた。
俺の家にもメイドさんが欲しい!!と―――。
料理も掃除も、お茶を入れることもしなくていい、むしろ俺がやる。ただメイド服を着て側にいてくれるだけでいい!!
そんな堕欲にまみれた妄想をしてた時代もあった。
だから言おう、言っておこう。
昔の俺死ねと―――。
「ただいま~」
委員長と別れ、コンビニでいろいろ買ってから家に帰った俺を出迎えてくれたのはメイド服を着た女の子だった。
「お帰りなさいませ、ご主人さまぁ♪」
もちろん新キャラではなく、我が妹さまのうるうさんだ。
「ご飯にする?お風呂にする?それとも・・・、う・る・う♪」
若干間違ったメイド知識を携えたうるうがねだる様な視線で俺を見つめている。
きっと第三者が見れば誤解してしまうようなシチュエーションなので説明するが、この家はすでにうるうフィールドに覆われている。つまり、こちらの常識も認識も意識も通用しない完全自己中空間と言うわけだ。
だからさっきの言葉を翻訳すると「ご飯にする《お腹減ったよご飯頂戴!!》?お風呂にする《お風呂に入りたいから準備して!!》?それとも・・・、う・る・う♪《暇だからうるうと遊んで!!》」となる訳だ。
つまり、こいつはメイド服を着ただけのただのうるうだ。
料理も掃除もしない、むしろやってもらうが当たり前、生活能力たったの3にも満たないただの妹なのだ。
だから俺は決してリア充などではないのだ。
妹がいるだけで『リア充が!!』とか言うなよな。