ちょっとカニ殺しに行ってくるわ
ニートは毎日が日曜日。
「ちょっとカニとってくるわ」
そう言って朝から家を出ようとした俺を麗しき女性陣はアホを見る目で見つめた。
「カニってタンバの事?あなたじゃあ無理だと思うんだけど…」
「お兄ちゃん、頭おかしくなっちゃったの?」
明らかに心配顔なアニャーナ。
キチ○イを見る目で俺を見るエリー。
そんな二人とは対照的にいつも通り姐さんはどうでもよさげな態度。
「ほっときな。家でゴロゴロしてるよりはいいじゃないか」
俺を見るのをやめ、テーブルで新聞を読み続けている。
「だめよルネ!タンバなんて普通の男性でも大怪我するのに!」
「どうせ怪我するほどタンバに近寄れやしないさ」
「ビビりだもんね。お兄ちゃんは。」
そう言って、三人とも明らかに俺の事を軽く見てやがる。
まあ、それもこれも俺のステータスの低さと、ここ1週間近くの間の俺の行動が原因なのだが…
俺がギルドで登録をした日から今日で10日目。
あの日から俺は、昼は城門前で浅野が出てくるのを待ち、夜は女神の送り迎えをすることになった。送り迎えでは、娼婦たちが女神に敵意のこもったまなざしを送るのは感じたものの、その後ろでむっつり座り込んでいた俺を見て彼女らは女神を無視。手を出してこようとはしなかった。そんな中、流石の売れっ子女神は、俺が後ろに居ても相変わらずの即売れ。俺はすぐ暇になり、女神の帰りまで夜の街を歩き回っていた。そして城門西側大通りの街灯の下で、黒髪ショートたんを発見。まさに運命の出会いだった。
俺は黒髪ショートたんを見つけると無言で近寄り、話しかけようとした。しかしいざ後ろに近寄るとかける言葉が浮かばない。「あ・・・う・・・」と呟いている内にショートたんはこちらに気づき、逃げていってしまう・・・。
次の日も、また次の日も似たようなことをやっていたんだが、4日目に俺と女神が連れ立って歩いていると、ショートたんとその取り巻きがやってきて、遠巻きに女神に話があるからと言ってきた。しばらく俺から離れ、2人で話をしていたが、最初からなぜか和気あいあいとした雰囲気で、まるで女友達同士のように楽しそうな感じ。どうやら仲直りしたらしい。
それはめでたい。
じゃあ俺も黒髪ショートたんとお友達から始めたいお。
と近づこうとしたところ、女神は急いでこちらに来ると、『おねがい…帰って』と申し訳なさそうに言った。
……どうやらショートたんは女神に客を喰われる事より俺が近くに居る方がよっぽど嫌だったんだな…
ボッチには慣れてるが、それでも拒絶されるとやはり辛いものだ。
一人寂しく家に帰るうちに、なんだか城門の外で浅野を待っていても、浅野が俺を見た瞬間に嫌がられそうな気がして、その日から浅野を待つのもやめてしまった。
以来、エリーの買い物の荷物持ちに行く以外には、家でグータラと寝て過ごしている。
ルネ姐さんには鬱陶しそうにされるが、エリーには遊び相手が出来て喜ばれているのが救いか。
そんなエリーは俺の買ってやった魔法がとても気に入ったらしく、掃除道具にあったはたきをステッキ代わりに【日光乾燥】を洗濯物にかけては喜んでいる。ちょびっと乾くのが早くなると言われた日光乾燥だが、連続で重ねがけしていれば効果も増すらしく、一生懸命魔法をかけ続けるエリーは、10日目で30分もあれば洗濯物が全部乾くようになってしまった。レベルも上がって一気に10になってた上、精神も5ポイント上がって27になったらしい。ルネ姐さんに聞いたが、人の魔法は才能と精神がモノを言うらしく、エリーはそういうのに恵まれてるそうな。
エリー本人も将来は魔法使いになりたいらしく、家事の合間に俺と遊ぶ時には、魔法使いごっこをよくやりたがる。設定は俺が家に埃を撒き散らす悪の怪人で、エリーが正義の変身魔法少女。埃を撒き散らしながら逃げ惑う俺をはたきで叩き、最後に日光魔法で俺を乾燥させてとどめを刺して終わる。
それでびっくりしたんだが、【日光乾燥】って人にも効くんだな。
一昨日は遊びがエキサイトして5分ほどかけられたんだが、唇がパリパリになったうえ、顔面が土気色になってたらしい。たまたま2階から降りてきたルネ姐さんが俺を見て驚愕。俺は慌てて担ぎ上げられ、風呂場の浴槽に叩き込まれた挙句、塩を溶かした水をしこたま飲まされた。
俺は楽しんで『ギャーww』とか『死ぬよぅううwww』とか言ってたけど、実際に脱水症状を起こしてたらしい。
結局、姐さんに遊びでの魔法の使用を禁止されて、エリーはすげえ落ち込んでた。
なんか安全な魔法を買ってやりたいが、俺もお金がない。
ギルド(ハロワ)でバイトでも探せばいいのだが、働きたくないでござるし。
なんかしてあげたいが、なんもできん。ニートの辛い所だ。
そんな中、昨日行った市場で俺は驚くべきものを発見した。
それは俺にこの世界の危険性を真っ先に教えてくれた恩師。
そう巨大な体に、犬の頭ほどの4つの鋏と何十本という足を持つあの『カニもどき』先生との再会である。
久しぶりに会ったカニもどき先生。この前に見たときはやや緑がかった体だったが、市場の先生は熱湯で真っ赤に茹っていた上に、その御身を3つに裂かれていた。売り子のオバちゃんに聞いてみた所、タンバとかいう魔物で、高級食材らしい。値段は1/3だけで10テル(1万)もした。
先生はカニの癖に足がすげえ多いので、見た目がゲジゲジみたいでグロイ。
だから食えるのか疑問だったが、キラキラした瞳で見つめるエリーが物欲しそうな顔をしているのに気付いたのか、オバちゃんが少しだけ試食させてくれる事に。
大量にある足の内、小さい一本を『ぶちり』とちぎって殻を割り、身に塩を掛けた物を食ってみる。
その感想。
ほくほくと湯気を上げる先生は
プリンプリンの触感でむっちゃ美味かった。
エリーもがっつく先生のジューシーな美味しさ。
あのルネ姐さんも好物で、ごく稀に一人で出かけていっては、どこからか先生を持ってくるのがエリーの楽しみなんだとか。
「もっと食べたいのです…」
そう言うエリーだが、ルネ姐さんは気分屋なのでいつ持ってくるかわからないらしく、それに一応エリーと女神は姐さんの奴隷なのでおねだりもしにくいんだと。
買おうにも俺らはそんな金ねえし。
…だったらコレ捕ってこればよくね?
――と言う事で、冒頭に戻って
「ちょっとカニとってくるわ」
の俺の発言が飛び出したのである。
「無理して怪我をしないようにしてね」
「中途半端に怪我する位なら死ンでくるんだよ。手当がめんどうだからねェ」
「お兄ちゃん、もし死んだらエリーがお兄ちゃんの霊を毎日呼んであげるね」
俺がどうしてもカニを取ってくるつもりと知った女性陣は、三者三様に心配してくれた。
特にアニャーナはなぜか俺の事を子ども扱いし、『絶対に行かない方がいい』『無理しなくても、あたしが食べられる分は稼ぐから…』などと最後まで渋っていたが、『試しにやってみるだけで大丈夫だから』と言い貼る俺に最後は折れる形で送り出してくれた。
そうして道を行く俺の心はウキウキ。
自然と足取りも軽く、顔もニヤニヤ笑っている。
一匹20テル(2万)以上の高級食材?
あそこ(橋の下)には大量にいたおwww
女神たちには悪いけど、これで大金持ちだおwwww
ブヒュフュヒュwwwww笑いが止まらんおwww
汚い俺の考えが顔にも出てたのだろう。
通り過ぎる人々に気味悪がられながら、俺は家のそばの東門を通り、川に向かって街道をテックテックと歩いて行った。
俺のステータス
【基本職】ニート 【サブ職業】変質者(痴漢)
腕力 23(弱い)
体力 20(弱い)
器用さ 10(貧弱)
敏捷 10(貧弱)
知力 64(やや高い)
精神 8(虚弱)
愛情 30(やや弱い)
魅力 18(貧弱)
生命 9(不変)
運 ??(算定のための経験が不足しています)
スキル
【高等教育】Lv.26
【不快様相】Lv.1
【鈍器術】 Lv.1
持ち物
Eスニーカー …敏捷+3
E革ジャン …防御+5
Eチノパン …体力+2
Eボクサーパンツ…腕力+1
E革ベルト …魅力+1
ジーンズ …防御+3