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無能な三十路ニートだけど異世界来た  作者: ガイアが俺輝けと囁いてる
~レズセはおやつに入らない~
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女はいつも『嘘』が好き

大切な物を守れる数は限られてる。

両親が死んだとき、サカキのどうしても守りたかった大切な物は三つ。

娼館・店の女の子・自身の貞操


まだ若く後ろ楯も力も無い自分が切れるカードもその三つしかなく、一度切ればもう戻る事が無いのも分かりきっていた。


まるで、追い立てるように迫る期限の中、サカキは冷徹にカードを切り、自身の身を売り渡した。

自身は歓楽街の花であり、カードを欲しがる者は幾人もいた。

街を仕切る顔役もいた。

城勤めで顔のいい有望な貴族もいた。

でも、サカキが選んだのは、粗暴で荒々しく、街の女が抱かれるなら一番遠慮したい男だった。

顔のいい男なんて、出来の悪い女みたいで逆に気味が悪い。

どうせ男相手で不快なのだ。いっそそれならば男の色が強い方が違う事をしていると割り切れて清々する。

幼いころから培った目で将来性を見て選んだ男だが、そういう当てつけがあったのも事実。


それでも、当初は反対した番頭も、顔役がすぐに打首になり、貴族が自身の取り巻きを食いものにする男と知れ、その他の求婚者がいつまでも冴えないのを見るにつけ、男を受け入れて協力するようになった。


カードは年を経ると、切った数より増えていった。

娼館・女の子・息子・組織・子育て


子育てを切り、息子と女の子たちを守る。


息子は懐かなくなったが、更にカードが増える。


増えても、本当に大切な物だけを守ろうとすれば、カードは予想以上に減る事もある。


その内に、カードの中身にも等級をつけ分けるようになる。

女の子の中にも派閥の身内かそうでないか。

組織の外様か、生え抜きか。

新参か古参か。


もし、より等級が高いものを得られるなら、低いものがどうなろうと、切るべきであり、そうしなければ、本当に大切な物は守れない、と分かったのはまだ十代の小娘の時であり、また思い知ったのはつい先日の事でもあった。


そして今、その立場を危うくしている者はグズグズと布団にくるまり、怯えたようにこちらの様子を伺っていた。


『悪い子やないんやけどちょいと目立ちすぎや』


そもそも取り込んだのは、息子や市場の有力者を操るリングを持っていたためだった。何かあった時に切り札として使える傀儡として飼って置きたい。それだけの子だった。


それが何が目的か、ティムソの幹部を狙っては襲撃を繰り返し、こちらに利を運んでくる。周りがそれを自分の指示によるものとして見るようになり、この子が別の価値を持ち始めたのだ。


『こういう時期が一番、大人しう過ごすべきやのになぁ。ほんま何考えて動いとるんやろか』


枕元に近づき、髪を掻き分ける。やはり、帰ってきた時にほのかに感じた煙の匂いが微かに残っている。少しケアしてから誘導しなければならないだろう。


「相変わらず、一人でイジケてるんか?今日は離れて寝る?」

わざと意地悪にそう言うと、行かないでとばかりに袖を掴んでくる。サカキは優しく笑うと温かい布団に身を滑り込ませた。


―――――――――


「今日はな、オルミアちゃんに知らせたい事があるんよ。」

また暗い感じで迎えちゃったから怒られるかも。と思っていたけど。サカキさんは布団に入るなり、楽しそうに話し始めた。

私は昼間の失敗もあって、あまり作り笑いも上手くできず、うんうんと頷く事しかできなかったけど、それでもサカキさんは自分の話に夢中なのか、気にせずに楽しげに話し続ける。


聞いていると、敵対してた歓楽街のグループが手打ちを申し込んできた。という事だった。


「内容は、簡単でな。手打ち以降は互いに手を出さない。歓楽街の連中に市場への店出しを許可する。こっちは逆に歓楽街への出入りを自由にさせる。また市場が関係することとしては捕まって奴隷扱いされてる人を開放する。で、一番重要なのがうちの持ってた全娼館を返させる。」


言いながら、サカキさんの目が暗闇でもわかる程、きらきらと輝きだす。

「わかるか?オルミアちゃん。うちらの完全勝利や。」

よほどうれしいのか、ぎゅっと私を抱き寄せ、頭に頬ずりまでしてきた。

普段だったら狂い死ぬほどうれしいそれに素直に喜べず、なぜだか嫌な感じがした。


「で、でもそれって本当にうまくいくの?こっちが入ったらすぐに捕まえられて裏切られたりしないの?」

気分が暗いと、ネガティブな考えばかりが出てくる。冷や水を浴びせるみたいだけど、そんな事しか聞けなった。


「大丈夫や。仲介に契約神の介入をいれることになっとるんよ。破ったら関係者全員が契約神の名のもとに成敗する条項付きなんよ。まともな頭なら破らへんよ。」

サカキさんは半身を起こし、上から私の髪を撫でながら言い聞かせるように優しく話してくる。


「まあ、市場の関係者はうちら側やし、たぶん、オルミアちゃんに2人幹部が殺されたり、人質逃がされたりして人質上納金や労働力を減らされたせいってのもあると思うんよ。やっていけなくなったんやろな。」

本当によくやってくれたなぁ。と頭を撫でられ、心がなぜかまたずきっと痛む。


「で、でもさ。手打ちしました。これから仲良くしましょうなんて言って、仲良くできないでしょ?コウサなんて、ものすごくひどい目にあったじゃない。」


「うん?そもそも、敵対する相手に捕まるなんてことはよくある事や。だからうちはコウサにも捕まった時はある程度の事をされるのは覚悟して大人しうしとけと言い聞かせてある。大人しうして耐えておれば、後引くような怪我もせずに帰れるもんや。現にコウサは無傷で帰ってきたやろ。せいぜい裸で歩き回されたぐらいで大したことあらへんかったやろ。」

「・・・うん。」

あれ?サカキさんはコウサがどんな目にあってたのか知らないんだろうか。親子だから聞いてたと思ってたから、少しだけ不服そうな返事をしてしまう。


「・・・まあ、コウサはティムソと仲良かったからな。損得勘定で動く奴やし、無駄な拷問なんかはせえへんと分かっとったこともあるよ。」

サカキさんは私が非難するような調子で相槌を打ったのに気付き、少しだけ言い訳するようにそういった。


「まあ、オルミアちゃんももし捕まるようなことがあったら、大人しう耐えるんよ。コウサと違いうちらは女やから、どんな事されるかはわかるやろ。でもその分、殺される事は後回しになる。貞操なんか無くなっても、あんたの価値に何の傷もつかへん。どんなに汚されても、うちが綺麗にしたる。」

頭を撫でられながら、そんなことを言われると、そんなものだろうか、と思えてくる。

でも、何時もなら、私が自分勝手に暗くしていると、お話しは後回しにして『どうしたの?』とか、無理矢理にでも、わざと冷たくしたりしてまでも聞いてくるのに、今日は怒りもしないし、慰めようともしてくれない。まるで私に興味が無くなったみたいで、なんか。なんかおかしいって思う。



「それで、どこまで話したっけな。ああそうそう。あしたからあいつらに試しに店を1つだけ出させることになってる。手打ち前やから、ちょっと揉めるかもしれへん。あんたも一応、身の回りには注意するんよ。」

あくまでもつけたしという軽い調子でサカキさんはそういうと、じゃあとばかりに私に覆いかぶさってきた。


思わず避けるように動いて、微妙な空気になった。


−−−−−−−−−


避けられる、とは予想してなかった。

警戒されるような事を言ったつもりはなかった。

私に用済みと処分されると思ったのではないかという疑念と不安が真白な懐紙に垂れた墨汁のように広がっていく。


少しだけ頭の隅でそれを考えていた後ろめたさがあり、避けられてから間が空いてしまった。もう、誤魔化したりなかった事にするのは無理だった。


「あんた、なんか、うちに気に食わない事でもあるの?」

思わず、かつて息子に初めて避けられた時と同じ言葉を吐いてしまう。

寝かせていたはずの自身のプライドの高さが心の中で鎌首をもたげ、獲物を狙う蛇のように、身をすくめる女に標的を定め始めていた。


「ううん、違うの。なんで避けたんだろ。わたし。」

私に怯えるように気弱に笑う姿に加虐心が煽られる。


「そもそも、あんた今日、なにやっとったんや。昼から姿消したと思えば、煙の匂いさせて戻って来おって。禄でも無いことしてたんやろ。そういえば、今日、火事になったところあったな。繁華街で。」

煽られた加虐心があえて見ないようにしていた怪しい行動を咎めるように詰問し、逃げ場を封じてしまう。

まずいとは思いつつも、止まらなくなってしまった。


「どうにもおかしすぎるわ。コウサやシノたちの事もあって、詳しくは聞かへんかったし、偶然と納得してたんやけどな。街の皆にはうちがやらせてる、て思われとるんよ。あんた、ひょっとしてうちに何か擦り付けようとしてへん?」

そんな事が出来るほど頭が切れる子じゃないのは分かってる。やった目的も、私に気に入られようと、ただ自分がどれだけ私の役に立つか示そうと敵地に無茶しに行ったしただけだろう。依存させてから、少し冷たくした子にありがちな暴走に過ぎないと分かりつつもプライドを傷つけられ、わざと強く圧をかけてしまう。そんなにひどく言われるとは流石に思ってなかったのか、慌てて縋り付くように言い訳してきた。


「やだ。ねえ違うの。ほんとよ。今日のも前に行ったのも、博士に頼まれて行ってるだけ。でも今日は失敗しちゃって。それで落ち込んでただけで、サカキさんが気にくわないとかじゃないの。本当よ。」


予想外の答えに驚きつつも、私のためにした事ではないと知り、なおさら苛立ちが募る。


「ふうん。あの若い女医に頼まれただけなんやね。それで一度死にかけたところに何回も行ったんや。私に手土産のケーキ作って欲しいと頼んだりしてきたし、たいそうな仲なんやね。で医者からどんな報酬貰ったんや。流石にタダで行ったわけやないやろ。」

もうこの子は信用できへん。好きな男が出来た子にありがちな言い訳し始めたわ。そう思い始めると最初に私に近づいたのさえも怪しく見えてきていた。


「あの、博士が盗まれたもの取ってきたら紅茶くれるって言うからやったの。」

目をそらして、考えながら言った言い訳が稚拙すぎて思わず噴き出した。


「あほやな。紅茶なんて市場の店で取り寄せれるやろ。そんな物目的で、行くわけない。うちを舐めるのも大概にしとき」

「ホントだもん。でも私、なぜか怒らせちゃって。挽回しようと頑張ったら、また失敗して。」


「嘘もいい加減に」

「最初は本当にそうだったの。ねえ本当なの!だっていっつもケーキくれて博士の所に持っていったら紅茶出てくるから、サカキさん絶対気に入ると思って。でも嫌われて、貰えなくて。それで。今日も。」


「じゃあなんや。私に紅茶飲ませるためだけにティムソのシマに何回も入って幹部襲って盗品を強奪しようとしたん?」

「そう。でも殺そうとかは思ってなかったし。サカキさんに擦り付けようなんて思ってなかったわ」

「そんなバカなことな。私がどれだけの女の子と接してると思うてるんよ。どんなに上手く嘘つかれて、頭で騙されても女は身体の感覚でわかるんよ。この子は嘘つきやと。あんたも私が疑ってるって感じたから思わず避けたやろ。それと同じや。」

「ほんとなの。」

「そんな女いる訳ないやろ。みんな嘘つき。みんなそうや」

「ほんとだもん。嘘ついてない。避けたのは、確かに今日のサカキさんおかしいって思ってたけど。」

でもでも、と言い訳し続ける姿を見ていて、うんざりしてきた。なんでこんな子供の喧嘩みたいな言い争いをしてるんやろか。いつの間にか相手のペースに引き込まれてた事に気づき、思わず寝ころんでいた態勢を変えた時、下半身にぬらっとした感覚を感じて、さらに憂鬱な気分になる。


「ちょっと水飲んでくるから待っとり。話は終わってへんから鍵は開けたままにしとくんよ」

半泣きで言い訳し続ける嘘つきにそういうと、布団から抜け出し自室に向かう。引き出しから目当ての物を抜き出すと、そのままトイレに入る。


何が、私に紅茶を飲ませたかった。だ。

思い出すと、あまりのバカバカしさに怒りが失せてくる。

今まで聞いた言い訳の中でもダントツに低レベルだし、よしんば飲んだとしても大して珍しいものでもない。それこそ茶飲み話の一つで『おいしいね』とでも言ってすぐに忘れてしまうようなものだ。

せめて他の子みたいに店を大きくしようと思ってとか役に立とうと思ってとか形だけでも言うなら、その嘘に乗っかって話を丸く収めて喧嘩にもならなかったのに。


そんなことを思いつつ、下着を下ろす。ぬろっとした感触で不快になる。


まだ周期的にはずいぶん早いのに。激昂して不順になるほど怒るのはあかん。

なんだかんだで、まだリングを持つオルミアに敵に回られてもこまる。

こんな事で体調崩すとは私も年だろうか。


紙で拭い、薄明かりの中、なんとなしに目をやる。


 あれ血じゃあらへんな。そういえば、痛みもあらへんし。


病気か怒りすぎて漏らしたのかと指先に明かりを灯して見直すが拭った液体に色はついていない。

少し紙をねじると、つつっと糸を引いて少しだけ粘りがある。


 ありえへん。十代前半の未通女じゃあるまいに。

 触られてもおらんのに、濡れるとか。

 若いころから男にも女にもさんざん言い寄られたわたしが。

 あんなので嬉しがっとるとか、ありえへん。

 そこらの店にでも転がってるような物を送ろうと思ってたなんて

 そんな質の悪い嘘にほだされるほど、鈍っとらんやろ。

 何かの間違いや。体調悪いんよ。


 あかん。拭いてもきりないわ。

 体がおかしうなっとる。

 風呂場で水でも浴びて冷まさせよう。


そう思い、トイレから出ると、シノが廊下の明かりを付け替えている所だった。

「おやすみなさい。あれ、風邪ですか?顔が赤い」

言われて触るとぽかぽかと火照ってる。


「何かお薬を用意しましょうか?雰囲気はむしろ元気そうに見えるんですけど。」

と言われた事が、からかわれているようで恥ずかしくなる。

「火照ってへん、変なこと言わずにあんたもはよ寝え!」

八つ当たりするかのようにきつい言葉を吐き、言い間違えにしまったと思いながら顔をそむける。

「ええ?私眠くならないんですが…」

シノの当惑する声を背中に受けながら、自室に逃げかえり、必要のなくなったものを引きだしに入れなおし、そのまま落ち着こうと鏡台の椅子に腰かけて顔を手で仰ぐ。


 あかん。私、喜んどるわ。

 あんな適当な嘘で。

 どないしよう。

 これは誤魔化せへん。

 認めるのは癪やけど、あの子に情が移っとる。

 何で?どこがよかったんよ。


混乱しつつそのまま顔を仰ぎ、しばらく座ったまま。


このまま、あの子のもとへ帰らなければ

これ以上の恥もかくまいとも思ったが。

それじゃ、まるで情男いろにかまける遊女の様で。

さんざん自分が食い荒らし、

面倒を見てきたそんな小娘たちと

同じになるのが口惜しく。


ああ、もうとばかりに立ちあがった。


廊下を進み、扉を開け、布団に滑り込む。


 私に恥かかせてくれた分、今日は寝かせへん。

 二度と勝手な事しないように全力で相手したる。覚悟しい


そう、宣戦布告するかの如く一方的に言い放つと、有無を言わせず唇を奪った。



「うわっ凄。えげつな…」

自分に粗相があったのかとサカキの後を追いかけていたシノは、半開きの扉からそこからの様子を覗き見てそう呟くと、食い入るようにその光景を見続けていた。





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