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無能な三十路ニートだけど異世界来た  作者: ガイアが俺輝けと囁いてる
~レズセはおやつに入らない~
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クソレズ脱却大作戦! 5

前回のあらすじ


なんだったけ

なんだ?


まあ、覚えてないから大した内容じゃないんだろう。


そんな感じだった。

「危ないっ」

私の叫びが聞こえたのか、オルタは間一髪しゃがみ込み、男の腕は空を切った。勢い余って手すりにぶち当たり、体液がぶしゅっと空中に散る。なかなかの重量の様で、手すりがめきっと音を立てて軋み、衝撃が離れた私の手にも伝わってくる。


「うう…オルミアお前、わざと私を先に行かせたな!」

「そんなわけないでしょ、早くたって。」


這い蹲ってこちらに逃げてくるオルタをたたせて逃げようとするが、手すりから体を引きはがした男がベチャベチャとよってきた。


慌ててオルタの手を引っ張り、食堂を取り囲む吹き抜けの廊下の反対側の階段に走り出すが、オルタがどうにも遅い。きちんと走ってよと言うが、元々運動神経がよくないのか、私が引っ張ってようやく後ろから追ってくる男と同じぐらいのスピードだ。


足手まといだけれど、見捨てるわけにもいかないと思いっきり引っ張って横に並ばせた瞬間、『お返しだ!』という声とともに、足を引っかけられて私は派手にその場に転がった。


「何すんの!」

床に這いつくばりながら、とっとこ走っていく後ろ姿のオルタに文句を言う。


「じゃーなーオルミア!サカキ派の売女は体売るのが仕事でしょ!子宮に線虫ぶち込まれるなり、繭の中でケツの穴から条虫ひり出すなり幸せにね!」

走りながら振り向いた彼女は嬉しそうに笑っていた。


「この裏切り者ー!」

と叫ぶがそれどころじゃない。急いで仰向けになると、男が私を掴もうと手を伸ばしている所だった。

私は必死だった。捕まれば前どころか後ろの貞操も危ういのだから当然だ。


近づく男を寝転がりながらの前蹴りでよろめかせ、蹴った反動で、ぐるんとそのまま後ろにでんぐり返しをし、膝立ちに態勢を整える。

ケツを血だらけにされてなるものかという一念が異常な集中力を生み出しているのか、普段の私からは想像もできないほどスマートな動きをし、男の動きもスローに見えていた。


そのままスカートから拳銃を抜き、全弾射撃。

飛び出た弾丸は腹・胸・頭と6発中3発ヒット。

体液を巻き散らしながら男はのけ反って手すりに寄りかかる。やったか?と思ったのもつかの間。

開いた銃創から白い線虫がうにょうにょと飛び出て傷口を塞いでしまった。


「うそっ!そんなのあり?」

じろりとこちらを見たぶよぶよおじさまに思わず許しを請うかの如く照れ笑いするが、これも効果なし。


おじさんは脳みそが吹っ飛ばされて余分な性欲がなくなったのか、おんなおんなと呟くのもやめて、むしろ先ほどより勢いよく向かってくる。


しょうがなしに持っていた拳銃を思いっきり投げつけると、頭に直撃。これは重量もあるため効果があったのか、男は仰向けに倒れて距離を取ることが出来た。


倒れた今がチャンスとばかりにドア近くにあったスタンド式帽子掛けを手にして思いっきり振り下ろす。

金属の台座は結構な重量で、体にめり込みぐちゃっと体液と肉片が飛び散るが、すぐに白い線虫が傷口を塞いで人型の体裁を再び整えてしまう。


そのままドガドガと振り下ろすが一向にやれる気配がない。

このままじゃ、こっちが疲れて持久戦でやられちゃう。

何か方法はないかと考えていたら、拳銃と一緒にスカートに挟んでいたロッドの事を思い出した。


「この!いい加減!死んでよ!」

帽子掛けをさかさまに持ち、突き立てるかのように男の上に振り下ろして距離を取ると、スカートからロッドを抜いて『火竜の息』を発動。


火力の調整を考えずに全力で使ったロッドから出た炎の奔流は、突き刺さった帽子かけが見えなくなるほどの勢いでおじさんを火に包み込む。


流石に炎は効くのか、おじさんは火のついた帽子掛けを激しく揺らしながら、ギャキョーと南国の鳥のような叫び声で泣き叫び、数十秒もすると完全に動かなくなった。


しかし、喜んだのもつかの間。ロッドから放たれた完全に無制御の炎は威力が高すぎたのか、周囲の手すりや梁に引火して黒煙を上げ始めていた。煙が周囲に籠り、視界が急激に悪くなる。慌てて床に伏せて火から遠ざかる。煙が目に染みて、目を開けるのもつらい。


このままじゃ煙に巻かれて死んじゃうと思っていたら、熱で採光目的の天井のガラスが割れて吹き抜けの食堂におちていき、煙がそこから抜けていく。呼吸が楽になるとともに、視界もやや良くなったが、一番近い階段はもう火が回って使えなくなっていた。回り込んで逆側の階段を使う必要があるようだ。


煙を避けるため屈みながら進んでいくと、火が燃え盛る音に紛れて女の声が聞こえた気がした。

オルタか?と見渡すが、どこにいるかわからない。吹き抜けの廊下は途中で枝分かれして建物の2階の奥へもつながっており、意外と複雑な作りだった。


どうしようかと少し考えたが、結局オルタを探してデバイスを取り戻さなきゃと犬笛を吹く。

すると、建物の二階部分の奥に強い人影の反応を感じた。それは倒れこんでいて、近くにも人影が数体おり、こちらは反応が弱く感じる。

もしやと思い、何も考えずに吹くと、倒れこんでいる人影も他と大差ない強さの反応になった。


「あんにゃろ、機能の説明を端折りやがったな。」

人物指定が出来るならそう説明しろよ。

そう思いながらも、あいつをとっちめてやろうと、私は建物の奥に向かい、廊下を進んでいった。



―――――――――


建物奥の廊下は煙があまり無く、視界は良好だった。


角を曲がると倒れているオルタと団子状になっているフリードたちがいた。

フリードたちは完全に体が溶け合ってくっついており、ところどころから突き出す顔と手足がかろうじて彼らが元は人間であったことを示していた。それらの手の一本がオルタの足を逃がすまいとばかりにがっちりつかんでいる。


その彼らを壁土と同じ質感の大きなゴーレムが抱き着くように押しとどめており、オルタが襲われるのをかろうじて防いでいる。そんな状態だった。


「あら、ずいぶんとオモテになってるわねぇ。」

先ほどとは立場が逆転。けたぐりをかまして逃げた裏切り者に近づきつつ周囲を見渡す。

壁が人型にくりぬかれているが、たぶんオルタが壁に手を当ててゴーレムを作った跡だろう。その他に危険はないようだ。オルタは私に救いを求める目をしてきたが、去り際の一言もあってか、なんて言おうか逡巡しているみたい。下手な事を言えば助けてもらえないと分かっているようだった。しばらく考えていたが、決心したように話し始めた。


「あ、あの。サカキの事。馬鹿にしてごめんなさい…昔、あのグループに入れなくて、それでちょっと目の敵にしてたっていうか。もう、サカキ派の方々を馬鹿にする言動は慎みます…」

えへへと笑いつつの謝罪だが、私の怒りどころを把握してたのは及第点。このままネチネチ虐めてやってもいいが、そんな時間もないので許してやることにする。


「わかればいいのよ。じゃあ助ける代わりにブローチよこしなさい。今すぐ」


「嫌だよ!渡したら見捨てるつもりでしょ!」

オルタは胸元を抑えながら断固拒否した。


「信頼しないなら助けてもらえないよ」

「できるわけないでしょ!信頼なんて!」

まあ、私が彼女の立場でも信頼しないだろうから、わからないでもない。

どうしたら、彼女を信頼させられるだろう?


「じゃあ、もし、ブローチ渡した後、私が助けなかったら…そうね…」

この短い付き合いで彼女が納得するような条件は何だろう。

もし約束を破ったら私が困る事。嫌がる事とか。彼女がそう納得する条件。

悩んで、悩んだ挙句、出たことは。

「サカキさんの事、好きなだけ罵倒していいわ」

無理だろうな。と思いつつそう条件をだす。


「…そんなの。そんなの意味ないでしょ…」

オルタはなぜか悔しそうな顔をしていた。もうちょっとマシな条件を私が突きつけると思っていたようだが、私が考えつく一番自分が嫌なことがそれだったのでそれしか出なかった。自分でもまずかったなと思う。他に何か納得できる条件を出そうかと考えていたら。


「ううっ。このクソレズが!もし裏切ったらサカキの事、徹底的にこき下ろしてやるからな!」

オルタは予想外なことに、自らの胸元に手を突っ込むと、ブローチをこちらに投げてきた。


なんでこの条件で?と驚きつつもブローチを拾い上げる。うん。間違いなくあのブローチだ。

オルタを見ると、こちらを見つつも足を掴む手を振りほどこうと、懸命にもがいている。


私はこの時、なぜかちょっと彼女が好きになってきていた。

私が大切に思っていることを、

一緒に暮らしてるわけでも

一緒に仕事しているわけでも

普段から会う間柄でもないのに

わずかな時間で理解してくれた事で

まるで古くからの友人かのように、愛おしくなっていた。


「これ、偽物じゃない。後で本物をよこしなさいよ」

馬鹿なことをしていると思いつつも、

自分を理解してくれたお礼に投げ返さずにはいられなかった。



投げて、固まったフリードたちに歩み寄る。

体が溶け合って、ぶよぶよの肉は半透明に透けており、その中を無数の線虫が蠢いている。肉にくっついている顔は空を見てこちらに焦点を合わせようともしない。


「ごめんなさい。フリード様。わたし、本日の料理の説明がまだでしたわね。」

私の言葉を聞き、オルタが目を丸くする。言葉のあやで自分を食べさせようとしているとでも思ったんだろうか。声にならない声でパクパクと抗議している姿に、少し意地悪な気分になる。


「でもおなかが減ったからと言って、そんなやせた子をつまみ食いするのはよくありませんよ。ほら、嫌がってるじゃないですか。料理はすぐです。使う器具はこのロッド。食材はすでに皆様の体の中。」


ゆっくりと近づいた私を捕まえようと、オルタから手を放した。

そのすきを逃さず、さっとロッドを出してまっすぐに突きつける。


「今日のランチは条虫と線虫の炙り焼きでございます!」

私の声とともに、ロッドから炎が噴き出した。


――――――――



近くのオルタが火に巻かれない程度の炎が彼らの体を舐め、ギュキギュキと体中から虫の悲鳴が鳴り響く。

先ほどは1体だけの上、最大火力だったので数秒で抵抗しなくなったが、4体が固まっているうえに火力が控えめのためか動きが激しい。バタバタと16本の手足を使い動き回るため、私は少しずつ後退しながら炎をかけていた。


食堂に近づくにつれ、煙が濃くなり息苦しくなる。

少しだけ後ろを振り返ると、食堂の正面扉にまで火が回り、激しい炎を上げているのが見えた。


吹き抜けの廊下に戻ったというのに、フリードたちは一向に動きを止める気配がなかった。効いてはいるのだが、内部まで熱が通っていないようで、明確な意思をもって私に近づいてくる。


焦りつつ下がっていくと、どんと背中が手すりにぶち当たった。


火力が足りなかった。

最大火力ならやれそうだけど、そうするには一度炎を止めなきゃいけない。

もし止めたら、焼け爛れた部分を体内の無事な線虫で修復し、私をすぐさま襲ってくるに違いない。


「早く、焼け死んで!」

一手足りなかった。

あと一押しあれば、押し勝てるのに。

後ろの階段が燃えていなければ、下がりつつ燃やせるのに。

4体が繋がってなければ、この火力でも中まで焼けたのに。

せめて何か振り回せる武器でもあれば。


そう悔しがるが、もう手持ちは何もない。

フリードたちが燃える手をこちらに伸ばしてくる。

8対の手が逃がすまいと取り囲んでて、横に逃げることも出来ずただただ迫るのを見つめるしかできない。


反流する炎による火傷覚悟でロッドを体の中に押し込んで内部から焼いてやろうか。

下手したら腕をダメにするかもしれないが、死ぬよりはマシかもと覚悟を決めた時。

フリードたちが何かに引っ張られるかのようにずるりと後退していく。

何があったと訝しんでいると、高い女の声が勇ましく響いた。


「いいぞ!そのままこっちにこい!」

オルタが手を真っ赤にしてフリードたちの後ろから叫んでいる。


フリードの団子状だった体のうち、半分がこちらに向いたまま、もう半分は人型となって逆向きに歩いていた。


「あーもうアッツ!体は熱湯みたいになってるのに、なんでコイツまだ生きてるのよ!」

左手にフーフー息を吹きかけながら、文句を言うオルタ。右手にはブローチを握りしめている。

フリードの体の半分はもう彼女の思うままになっているようだった。


「えっと、オルタ、ねえ手は大丈夫?」

「イチイチうるさい!このグズレズ!私に遠慮してないで、全力で焼きなさいよ!」

お前なんかに心配されるのは恥とばかりに悪態をついてくる。


「でも、ここで全力で焼いたら、火が回ってアンタが」

「さっさとやれって!」

「もう、知らないからね!」


私はロッドの炎を一度止め、フリードに向き直る。

「申し訳ありません。レアはお気に召さなかったようで。ご不快な思いをさせてしまいましたね。」


一呼吸置き、力を込めロッドを突きつけ限界まで高めた炎を吹き付ける。

「今度はウェルダンだ!」


焼けろ焼けろ焼けろ焼けろ!無遠慮に吐き出される炎がフリードの体を焼き、半透明の体が勢いよく真っ白に染まっていく。やがてボコボコと内部から気泡が出て、皮膚にたまり、巨大な水膨れのように膨れてその体積を急激に膨張させていく。


「ヤバい!これ爆発するやつだ!」


私は炎を止め、フリードに背を向けると手すりに向かって猛ダッシュ。煙が隠す手すりを乗り越え食堂に降り立ち、まだ煙の薄いキッチンに向かって走りだす。

ドアのそばのコート掛けからケープを取り外に出た瞬間。花火が弾けたような音とともに、突き飛ばされるような衝撃を感じ、私は地面に転がっていた。



――――――


「なんとかここまで来れたけど…」

体中に煙の臭いをしみこませ、大通りから振り返ると、あの建物から火が上がって焼け落ちていくのが見えた。


オルタ、最期はありがとう。

もし出会い方が違ってたら、意外と友達になれたかもね。

しんみりと彼女の魂の平穏を願い、黙とうをささげる。

歓楽街でも大きめの建物が派手に燃える様子は、彼女に相応しくないようでもあり、相応しいようでもあり。少し複雑な気分。


オルタはすべて失ったが、私も失ったものは大きい。拳銃はなくなったし、服はぼろぼろ。髪もちょっと熱でカールしてるし、何よりデバイスを失くしてしまった。


なんて博士に謝ればいいんだろうか。

そのまま大通りを北上して中央ギルドへの分かれ道で私は立ち止った。


謝るなら、すぐの方がいいかも。と重い足をギルドに向ける。

たどり着いた診療所は相変わらずの様子なのに、私が入るとむっとした視線が突き刺さる。

どうやら博士が私を嫌っていることは猫たちも知っているようで。

居た堪れなくて、持っていた笛を博士に渡してもらえるように預け、ブローチの事は言い出せず、私は家路についた。


家に帰ると、みんなが集まり大事そうな話をしていた。

私は煙に巻かれていたこともあり、そっとお風呂場に入ると、ぬるいお湯で体を洗い、そのまま自室に逃げるように閉じこもった。


ちょっとメランコリックな気分で、私は前より弱っていた。

こんな時は他人とまともに接するのは難しい。

だから、食事も隠れるように食堂でつまみ人と会わないようにしてたのに。

こんなコンディションの時に限って、サカキさんが久しぶりにきた。

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