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無能な三十路ニートだけど異世界来た  作者: ガイアが俺輝けと囁いてる
~レズセはおやつに入らない~
82/89

クソレズは空気が読めないからクソレズなのです。

前回のあらすじ


ハゲと女がゾンビを虐めてたから霧に紛れて女を攫ってハゲを射殺しました。


そんな感じだった。


今回の部分だけでも書いてるうちに文字数3万文字になってたので4回ぐらい書き直して

次の場面で書きたいところにつながる部分のみ残して1万以下に圧縮しました。


日頃の行いがよかったんだろうか。

濃霧を通して輝く光を頼りに進んだ私が女を見つけた時、黒髪ロングは左半身をこちらにさらして、指揮棒のようなロッドから夢中で炎を吹き出している所だった。


「ほらほら!さっさと逃げないと、毛皮に火が付くよ!」


あざ笑う女の炎が霧に溶けていく。建物か何かに火が付いたようで霧が赤く染まっている。それらの炎が熱気と上昇気流を生み出し、少しずつ霧が薄くなって、霧に紛れる黒い大きな影が私からも見えてきた。


「もう火をつけて回るのはやめるんだ!ここらの家の人間が外に逃げれないことも、俺にはわかるんだ!」

白は黒を狙う女の注意を引こうと、両手を横に広げ、女の前に立ちふさがっていた。


「だから?別に奴隷が死んだところでゾンビにすればいいし、死んでも言うこと聞かなければロボに教育させればいいじゃない。」

「なんてことを、命を何だと思ってるんだ。生き物はお前のおもちゃじゃないんだぞ!」

「うるさいわね。ビーストテイマーのペット如きが。」

女は白を無視して、あくまでも霧の中を動き回る黒を狙って火を放ち続けている。


「くそっこのわからずやが!やるなら、先に俺をやれ!」

「はっ。可哀そうにね。安い餌のために命なんてかけちゃってさ!」

白が女の前でぴょんぴょんと跳ねて存在をアピールすると嗜虐心を刺激されたんだろうか、白につばを吐きかけ、ロッドを向けた。


その瞬間、私は振り上げた円盤を思いっきり振り下ろした。

初めて振るったにもかかわらず、円盤はすごい勢いでビュンと振り下ろされ、女の後頭部をしたたかに打ちのめす。


『ごっ』と鈍い音を立てて女は前かがみに倒れた。


「魔法使いが視界が悪い中で叫びまくるとか。この田舎娘馬鹿なのかしら。」

白ならわかるだろうと、霧の中で女を殴るふりをし続けたら、白が注意を引いてくれたのだ。


私は女が落としたロッドを素早く拾い上げると、これはもらっとくとばかりに拳銃とともにスカートに挟み込み、さらに倒れた女を裸に剥くと、奴のブラで両手を後ろ手に縛り付けてやる。女の情けでパンツは脱がさないでおいたが、デニムは没収。シャツは足を縛るのに使った。

冬に半裸で風邪をひくかもしれないが、白とのやり取りを見ていたから、同情する気にはなれなかった。


「さて、とこりゃヤバいね。」

私は薄くなった霧の中、燃え盛る街並みを眺めて思わずつぶやいた。

木々はいいとして、二軒の家が燃えているが、まだ両方とも裏口は無事の様だ。

中に人がいるなら助けた方がいいんだろうけど、私が助けられるとは思えない。

何より火事に巻き込まれて死にたくないし。そもそも私は紅茶が欲しいだけで悪人を倒しに来たのでもなければ、人を救いに来たわけでもない。


銃声もして、人が集まるだろうし、放火犯にされないうちに逃げようか。と思ってたら、白と黒が火の回りをウロウロしていて様子をうかがっている。霧が薄まったせいか、いつの間にか苛められてたゾンビたちも集まってて、みんなでどうしたものかと眺めていた。


「オルミア!俺たちは中の人間を助けに行く!」

「もし死んだら、博士によろしく言ってくれ!」


二匹の言葉を聞いて、ずきっと心が痛む。

飼い主の純粋さをそのまま受け継いだような献身的な心はさっきのやり取りでも垣間見えていた。

この子たちの保身を知らない行動が、暗闇を照らす光のように自分勝手な私の心の醜さを照らすのがチリチリと心を焦がす。


私が白や黒の立場だったら、自分よりはるかに大きな生き物に立ち向かっていけるんだろうか。

何の見返りもなく、何の得もないのに、自分の身を危険にさらすなんて出来るんだろうか。


考える私に助けを求めるでもなく猫たちは近くの防火用のかめに飛び込み、ぶるぶると体を震わせながら水切りをしている。そんな彼らを見てゾンビたちは互いにどうするの?と顔を見合わせていた。



 動物と、人間の違いって何かしらね。どこが違うのかしらね。


死んでも迷う人間の形をみて、私の体の中から悲しむ声が響いてくる。

ううん、わかるんだ。だって、私だって怖いと逃げたくなるもの。

頭が良ければ良いほど、足は止まっちゃうんだ。

そんな時、少しだけ理由があればって言い訳して、

逆にやらない理由を見つけて、足は止まっちゃうものなんだ。

そう考えて思わずキリッと歯に力が入った時、

ふと市場ですいとんをくれた骸骨を思い出して、

変なことを思いついた。



「ちょっと待って。あんたたちじゃ人を引きずってくるのも難しいし。」

私は猫たちを止めると、集まっていたゾンビたちの前に立ち、ぱんぱんと手を打って注意を引く。


「はいはい、ちょっといい?ちゅうもーく!あんたたち、もう死んでるでしょ。だからそれ以上悪くなることなんてないから、ちょっと私の話聞きなよ。長くならないからさ。まず、あんたたちを虐めてた女はこの通り、猫たちが倒してくれました。はい感謝の拍手!パチパチパチ!そのおかげで今、自由に動けるよね。でも猫たちが言うには、この燃えてる家の中に人が逃げれないでいるらしいの。さっきまでのあんたたちと同じだね。で、猫たちが助けに行こうとしてるんだけど。」


私はおどおどと自信のなさげなゾンビたちを見渡して、意図的に溜めを作る。

記憶はないが、大勢の前などで演説をするときにこのように抑揚をつけていた、という謎の感覚があった。


「それでいいの?」

両手をすこし横に広げて、聞きながら見渡すと、ゾンビたちはぼろぼろの格好ながらも、戸惑う顔をこちらに向けていた。

ふむ。やはり性根までは腐ってはなさそうだ。

それでも、尊厳だけでは動けないか。と攻め方を変えることにした。


「私ね。市場で働いてるゾンビ、というか骸骨。見たことあるわよ。普通に市場で受け入れられててね。後から聞いたら、モトマノさんがずいぶん前に借金のカタとして預かった奴でさ。喋れないけど、黙々と働くからって気に入られて、今では炊き出しですいとんを配ってたりなんかして、給料代わりに血を分けてもらってたのよ。」

人が生きるのには誇りがあればいい。しかしそれだけでは前に進めない。


「いま、みんな困ってる時でさ。災害や争いでね。有用な存在なら、ゾンビだろうが骸骨だろうが。受け入れられる下地があるのよね。もうすでに。さ。」

何人かの目に明かりがともった気がするが、さっしの悪い奴が多くて少し焦りそうになる。


「さて、今、燃える家の中で人が逃げられないでいます。猫がいっても助けられないわ。持ち上げられないもの。煙が充満してて、私が入ったりなんかしたら、肺がただれて、すぐ死んじゃう。困ったわ。息をしなくても平気で人を持ち上げられるような存在が居たら、捕まってる人たちを助け出せるかもしれないのに。そんな都合のいい存在って、いないかしら?」


私が心底どうしようという芝居がかったそぶりをして、チラチラ横目で見ていると、女性のゾンビがたたっと裏口に走り寄り、ドアを開ける。途端に煙が勢いよく噴き出したけど、意を決して飛び込んでいく。


未来への希望の扉を開けても、そこが暗闇に閉ざされてることなんてのはざらにある事だ。

そこに飛び込めるのが勇気に私は、少しだけ感謝する。つたない演説に乗ってくれる聴衆は貴重なのだ。

しかし、一人。たった一人が勇気を出してくれれば、十分だ。


「黒!どこにいるか透視してナビしてあげて!」

「なるほど!わかったオルミア!」

いつの間にかヒョウ柄のアーマーを着て体のサイズまで何倍も大きくなった黒がまるで猛獣のような大きな声で叫びだす。

「一番槍のゾンビ女、まずは二歩進んで左手の方だ!」

黒が急げとばかりにそういうと、残っていたゾンビたちもゆっくりと、やがて堰を切ったかのように家の中に飛び込んでいった。



――――――――


「痛い痛い。心臓痛い。心臓に悪いわこれ。」

ゾンビたちが煙の充満する家に飛び込んでいくと、私は仕事が終わったとばかりにその場に座り込んで息を継いだ。いつの間にか心臓はどくどくと音を立てて動悸を激しくしており、冬だというのに汗がだらだらと流れていく。市場でもそうだったが、私は注目を浴びたらろくに言葉も発せなくなるほどの人見知りだったので、当然と言えば当然かもしれない。


「オルミア、お前凄いな。単なるお調子者のレズかと思ってたけど、びっくりだ。」

白が大丈夫かと胡坐をかいて座り込んだ私の膝に乗り、顔に鼻を近づけてくる。


「だって、あんたたちが死んだら間違いなく博士悲しむでしょ。紅茶がもらえなくなるじゃない。」

クソレズと言わなかったから、追い払うのは勘弁してやる。


「そんなことを言っても俺たちが死ぬかもと、思ってやってくれたんだろう?」

白が信じていたとばかりに真ん丸な目で下を向く私の顔を覗き込む。


「そんな事、思ってたわけないでしょ。ただ…」

続く言葉を紡ごうとして、恥ずかしくて黙り込む。


「ただ?」

白が恥ずかしい事でもないから続けろとばかりに純粋な目を向けてくる。


「私じゃなく、他の人はあんた達が死ぬのを見たくなさそうだったし、私よりも優しい人たちだったんだろうさ。私は動く理由をつけてあげただけだよ。」

誤魔化すように吐き捨てると、手持ち無沙汰に白の背中を撫で、家から人を抱えて出てくるゾンビたちを他人事のようにぼんやりと見ながら、私は物思いにふける。


そう、たぶんゾンビたちは迷いながらも人を助けることを考えてた。

でも、私は最初からそんなことは全く考えていなかった。


人とはどうあるべきなんだろう。

もし清くて正しくて人のために生きるのが人の正しい姿なら

それから一番遠いのは猫たちでもゾンビたちでもなく

間違いなく私だわ。


私はどうしても自分の事しか考えられない。

博士やあんたたちみたいに純粋じゃないの。

だからそんな目で見ないでよ。


私はあんたたちみたいになれないってわかってるから辛いじゃない

そう顔をそらしていると後ろからがなりたてるような薄汚い女の叫び声がした。


―――――――――――


「おいロボ!助けろ!こいつらぶっ殺せ!」

脳震盪から目覚めたのか、私と同じぐらい性格の悪い半裸の女が地面に横たわりながら、必死に叫んでいた。ふっと同類にあった気がして急に心が軽くなる。


「ロボって、さっきのハゲゾンビ?あいつなら頭を銃で撃ちぬいたけど。」

白からの純粋な目から逃げようと私はそんな人間じゃないと反発するかのように性格悪くなった私が、何言ってるのやら。と笑って馬鹿にしてやると、女はさらに怒ってロボ!ロボ!と叫び続け始めた。


どうせ私はみんなみたいに清い存在じゃないんだから汚れ役に徹してやろう。

手始めに目の前にハゲが持ってた円盤を投げつけてこの女の希望をへし折ってやろうかとニコニコで円盤を探すが、持っていたはずの円盤が消えている。あれ?と周囲を見ていると、後ろから悲鳴が上がった。


目をやると、頭からとろとろ脳髄を巻き散らしながらハゲが歩いて来ていた。しかもいつの間にか手には私の円盤デバイスが握られている。


「あのハゲ!私のデバイスいつの間に取りやがった!」

こっちが大勢なので何の脅威も覚えず、立ち上がって近づいていく。

しかし、私とは逆にゾンビたちはハゲから逃げていく。

最初に家に飛び込んだ女ゾンビが助けた人間を伴ってこちらに逃げてきたので、なんでみんなで戦わないか聞いてみた。


「あれ、ゾンビじゃなくてゴーレムなんです!人間の死体をそのままゴーレムにしてるんです!ウォーターゴーレムやサンドゴーレムみたいに魔力で固まってるから、骨を折っても肉を裂いても、すぐに塞がって力も弱くならないんです!」


「あの円盤を私が奪ってもいつの間にかあいつが持ってるのは?」

「武器は弾き飛ばしても自動的にアイツのもとに戻るんです。だからみんな逆らうの諦めてて。」


しかも、あれは対ゾンビ特効の円盤で一方的に虐められるんです。と震えながら説明してくれた彼女が無意識にさする左手はひじから先の肉が溶けており骨だけになっていた。ゾンビとは思えない右手のきれいさが対照的だった。


「わかった。あいつは私が止めるから、後ろに下がってて!」

やはり女のゾンビだけあって、死んだ後も手入れを欠かさないんだろう。顔が少し、いやかなり可愛かったので、思わず私は格好をつけて、そんなことを言ってしまった。


「オルミア。俺は!」

白が後ろから、俺も当然行くとばかりに声を張った。

一緒におねがい、と振り返って言おうとしたときに、ばっちり女のゾンビと目が合ってしまった。



女のゾンビは格好をつけて壁になってくれた私を

『すごく頼れるお姉さま♡』みたいな目で見ていた。



「アイツ程度に護衛はいらない!その代わり急いであの女を黙らせて!」

なんでそんなことを言ったのか。

白に今の指示は無視してこっちに来いと心の中で思うが、白は分かったあの女は任せろと走り去っていく。

女の子が恋する瞳で逃げようともせず、そこから動かないので。


しかたなしに、私はきっと振り返ってそのまま流れてくるゾンビの流れに逆らって、ツカツカとハゲに近づいていく。

ドキドキがまったく止まらないが、これがあの女の子ゾンビの私への視線に対する物なのか、武器を持つ無敵のハゲに近づいていく恐怖なのか、全くわからない。


そのままハゲと私は2mの距離で向き合うと、互いに止まり、まるで西部劇のように向かい合った。


―――――――


意外なことにハゲは弱かった。

間違いなく弱い。

だって、大した力もなく、内臓がなかったり、明らかに下半身や左腕が別物。それを繋ぎ合わせてるから重心が狂ってて、前蹴り一発で派手に転ぶ。

最初はでじりじりと間合いを取って戦ってたが、やがて異常な威力の円盤さえ気をつけておけばいいと分かると、私とハゲの闘いは一方的なものになっていた。


なにせ円盤をもつ右腕を注視して足払いでもすれば、派手に転んで何もできないのだ。

これだったら、デブババアの方が100倍強かった。


しかし、終わりがない。離れればゾンビたちを襲いに行くだろうし、何より時間がやばい。

もう面倒くさくなった私は、ハゲを転ばせると円盤を持つ右手をそのまま掴み、ずりっずりっと引きずって白たちのもとに戻っていく。


わたしからすればひ弱な男とビビりながら戦った、少し情けない戦いだが、ゾンビからすれば不死身な上に肉が解かされる恐ろしい武器を振り回す最悪の敵なんだろう。さっきの女の子などはハゲを引きずる私を尊敬する目で眺めていた。


そのまま賛辞の視線を感じつつ白のもとに戻ると、女はさるぐつわをかけられた上に、カーペットで簀巻きにされていた。

「あ、お疲れ。いいね。それ」

ついでにこいつも簀巻きにしようよと話すと、ゾンビたちは喜び勇んでカーペットを取ってきた。

しかし、このデバイスはどうしようかと思いながら掴んでいるハゲの右手を見ると、あれ、私と同じブレスレットしてる。まさかと思って取り外して遠くに放り投げ、ボードを開いてみると、光点が離れたところに表示されていた。


なんだ、こっちがデバイスか。じゃあこの円盤はいらないな。

そう思い円盤をハゲと一緒に簀巻きにして、女とともにゾンビたちに運ばせ、助けた人たちと一緒に北に向かって移動し始めた。


黒の指示のもと、霧に紛れて監視と巡回と火事に集まる警備の目をかいくぐり、歓楽街を抜けて人気のない空き地にたどり着くと簀巻きの女を地面に投げだし、さるぐつわだけを外した。。


「さて、みんなコイツどうする?」

私は何も考えずにつれてきたコイツをどうするか皆に問いかけた。

ゾンビも人間たちも一斉に黙り込んだ。

誰も何も考えてなかったのだ。


なんとなく残しとくと仲間を呼ばれそうで厄介そうだから連れてきたのだ。

そもそもゾンビたちが逃げたのも、奴隷たちが逃げたのも偶然のたまものだし。

女もハゲも無計画に連れてきたのだ。


「逃がすか?」

誰かがぼそっとつぶやく。


「今はダメだろ。俺たちの安全が確保できてからならともかく」

「でも連れて行くところないし」

「そもそも俺たちが住むところもないしな」

「ゾンビたちこの女いる?」

「私たち、まだ直接人間の血をのむのは抵抗あるし・・・」

「そもそも、それで折檻受けてたんだもんね。」


誰も女を引き取りたがらないので、みんな困り果てていた。

女は最初おどおどと怯えていたが、私たちが女を腫れもの扱いしていることに気づくと、簀巻きの中から笑って小ばかにしてきた。


「おまえら、絶対に許さんからな!一人ひとり、見つけ出していたぶってやる。それに、おまえ!オルミアとか呼ばれてたけど、アリア殺して人質奪った奴だろ。サカキとデキてるっていう噂の!だからこれでモトマノとの手打ちも無効!これもう抗争ものだぞ!もし手打ちをやり直すなら最低でもお前のガラは確保させてもらうからな!」


女は馬鹿なことに、自分の今の立場も忘れて怒りをぶちまけていた。

最初にゾンビたちへの罵倒を繰り返している頃は周りも扱いに困っているだけだったが、私が引き渡されたらあんなことやこんなことをしてやると言い始めた辺りから、みんなの雰囲気は完全に決まってしまっていた。


「ああ、これもう。」

「うん、お姉さまの安全もあるし。」

人間とゾンビの代表がそういうと、ぎゃあぎゃあ喚く女の口に再びさるぐつわがかけられる。


そのまま担ぎ上げられて運ばれていく。

みんな一言もしゃべらずに自然と同じ方向に歩いていき、着いたところはあの池だった。

簀巻きは顔まですっぽり覆われていて、外の様子は見えないはずなのに、池につくと急にじたばた身動きが激しくなった。


中で自由になることもあるからと頭の部分だけ先に沈められ、数分して動きが止まると、そのまま水につけられて、簀巻きはゆっくりと沈んでいった。


誰も何も言わずに二つの簀巻きが沈んでいくのを見届けると、私たちは市場に向かって歩いて行った。

猫たちはどう思ったんだろうと、探したが、いつの間にかいなくなっていた。


――――――


「それで市場で誰が逃げてきた人たちを引き取るか揉めててさ、全然来る時間作れなかったの」

2日経ち、ようやく自由になった私が腕輪とブローチを差し出すと、博士はふうんと感心しながらデバイスを受け取った。

ゾンビと人が歓楽街から逃げ出した事は、町の話題となっており博士も知っていたが、その中心に私が居たことは猫たちから聞いてなかったようで、私の自慢話にふんふんと夢中で聞いてくれていた。


「大したものなのです。まさか本当に回収してくるとは思わなかったのです。」

「ね。私もさ。」

実際は白と黒がほとんどやったのであまり突っ込んで欲しくなく、ぼかして相槌を打つ。


じゃあ早速中身を確認するのです。と

博士は先に腕輪の方を弄り、ボードを表示させる。


【情報を登録してください】

と書かれた表示が空中に浮かんだ。


「やっぱ登録しなきゃデバイスのスキル見えないの?」

「ううん、過去の使用者のデータを表示することも出来るのです」

そう言って腕輪をいじるとボードが広がり情報が表示された。


【登録者】フィフティヌティア 【年齢】32 

【基本職】姫武将【サブ職業】英雄ルネヴェラ

腕力  47(普通)

体力  80(強靭)

器用さ 89(強靭)

敏捷  70(高い)

知力  80(強靭)

精神  92(超強)

愛情  50(普通)

魅力  81(強靭)

生命  99(Counter Stop)

運    7(虚弱)


スキル

【乗馬】Lv.82

【軍事教練】Lv.39

・・・etc.


「うわっすごっ」

表示された情報は長すぎて情報が見切れていた。

下までスクロールしていくが、いつまでたってもスキルが終わらない。


ようやく終わったが、デバイススキルは記載されておらず、

最後に【】というかっこだけがあった。


「これはスカなのです。どうもまだスキルをセットしてないみたいです。」

博士は当てが外れたとばかりに気落ちしてみせた。

「何か狙ってるスキルがあるの?」

スカという事はデバイス以外に目的があったのかと思い、それとなく聞いてみる。

思えば、博士がデバイスに執着してるのに違和感があったからだ。


「はい。私が昔持ってたスキルがどれかのデバイスに登録してあるはずなのです。」

危ないスキルなので、回収したいのです。と続ける博士の顔が少し陰っている。

「そっか、見つかるといいね」

もう私は力になれないけど、と思いながらも元気づけようと話題を変えたくなり、ボードをさらにスクロールしてみる。

すると、さっきとは別人のデータが下にくっついていた。


【登録者】オーマ 【年齢】30

【基本職】ニート 【サブ職業】英雄殺し


腕力  31(やや弱い)

体力  25(弱い)

器用さ 16(貧弱)

敏捷  14(貧弱)

知力  66(やや高い) 

精神  14(貧弱)

愛情  36(やや弱い)

魅力  19(貧弱)

生命  ――(再度接続を確認して…)

運   ――(計算を放棄します)

スキル

【高等教育】Lv.27

【不快様相】Lv.12

【鈍器術】 Lv.14

【盾術】Lv.13

【】



「何コイツ。クッソ弱いわ。」

思わず私は笑ってしまった。先ほどの姫武将の後だから、職業ニートに余計にクスッときた。


「コイツたぶんデバイス持ってた禿げたゾンビね。成り行きで一騎打ちすることになったけど、男とは思えないほど弱くてさ。」

笑いながら博士を見ると、あまりにも弱いのに衝撃を受けたのか、ボードを見ながらフリーズしている。


「この人はどうなったのです?」

博士は茫然としながら聞いてきた。


「んっと。人っていうかもう死んでて黒髪の女が操ってたんだ。で、私が倒した後、こいつらが虐めてたゾンビたちが簀巻きにしたんだけど、操ってた黒髪の女がゾンビを脅迫して怒らせてね。」

一気にしゃべるのに疲れ、私はカップを手に取り紅茶を口に運ぶ。

博士は早く続きをとばかりに私を直視してた。


「ゾンビたちが二人とも池に沈めてたわ」


私がカップを口から離すなりそういうと、博士の持っていたペンがポトリと地面に落ちた。


私はかがんでペンを拾い上げ、もうスカデバイスはいいからこっち見ようよとブローチを手にする。


「ね。博士こっち見よう?こっちは博士のスキルかもしれないし。ねえ?博士?どうしたの?」


何回かそう話しかけても、博士は空中のボードを見たまま動かなかった。

わたしのステータス


【登録者】オルミア 【年齢】―― 

【基本職】ニート 【サブ職業】禿かむろ

腕力  47(普通)↑

体力  80(強靭)

器用さ 18(貧弱)↑

敏捷  70(高い)

知力  66(やや高い)

精神  13(貧弱)  ↓

愛情  35(やや弱い)↓↓

魅力  39(やや弱い)

生命  82(接続切れ)↓

運   ――(計算を放棄します)



持ち物

E回転式拳銃銃 …攻撃200(固定)命中等は器用さ依存。

Eスニーカー  …敏捷+3

Eマルガウティスの服 (スリットスカートタイプ):サイズ調整済み

     …魅力+7・敏捷-7

E白のケープコート(白雄猿カスタマイズ)

     …防御+124・腕力+3・魅力+12・敏捷-2

      市価+1・障壁+1

整備してない弾 ×14

デニムズボン…防御+7・敏捷+4

【火焔の輝けるロッド】…攻撃+1

  それは魔道具だ。

  それは使用すると『火竜の息』の魔法を発動する。

  それは使用制限がない。

  それは生命力に依存する。

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