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無能な三十路ニートだけど異世界来た  作者: ガイアが俺輝けと囁いてる
~レズセはおやつに入らない~
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猫の目騎士とクソレズの秘密の経験

前回のあらすじ。


クソレズがお姉さまに紅茶をプレゼントするために歓楽街に向かいました。


そんな感じだった。




「オールミアさん、オルミアさん♪お腰につけたカニ団子。一つ私にくださいな…」

先導する猫たちを眺めながら私は右手にカニをもって、自嘲するかのように口ずさんだ。


博士が桃太郎を読み聞かせたんだろうか。猫たちは歌を知っているようで、ピンと尻尾を張り、勇ましさに拍車がかかった気がする。露払いは俺たちに任せろと言いたげな雰囲気だが、いきなり掴まってその場でゾンビの餌になる気がしてならない。


せめて、先導するこいつらも逃げる時間が稼げるようにと、ゾンビが出たら餌として投げるためにカニを持ってきてるのだが、こぶし大のカニでは量に不安がある。池の東側を歩いているときに、岸辺に結構大きめの巻貝が群生しているのを見つけたので、左手に持てる限界の4つほど拾っておいた。


そんなこんなしている間に、歓楽街の入り口についた。

ひょこっと顔だけ出して様子をうかがうと、前と違って、歓楽街の通りには人が集まってない。この前はお祭りだったのか、もしくはババアが死んだからか。あの時はよほどタイミングが悪かったのかもしれない。赤黒く汚れた元お立ち台の処刑場も誰もおらず、ゴーストタウンみたいだ。


中に歩を進め少し進んでボードを見る。光点は固まってるのが3つに分かれている感じだ。割と近い点があるが動いていて明らかに誰かが持ち歩いている。盗まれたという事だし、話して返してもらえそうにないしなー。だから他の止まっている一つの点を目指すことにしよ。


そのまま歩いていると、何か気配を感じた。目線を上に挙げたところ、二軒前の店のベランダにゾンビが一体立っているのが見えた。危なっと慌てて建物の間に滑り込んだ。


どうやら主要な建物の上から外の通りを見張っているらしく、遠くの建物の窓や入り口に人影が立っているのが見える。これでは奥の方に進むのは難しい。

そういえば、猫たちはと思うと、あいつらは普通にテクテク道を進んでいた。ゾンビも猫には食指を伸ばさないのか目の前歩いていても無視してる。


それ自体は、目の前で猫が死ぬとこ見なくていいってことだから、望ましいんだけど、結局自分だけが狙われる事がわかって、私は憂鬱になった。


―――――――


このままでは猫がいってしまい一人だけになると、慌てて猫たちを呼び戻す。彼らがたたっと走り寄るのを待ってたその時、ガチャっと後ろのドアが開いた音がした。

見ると、ガラの悪い強そうな男が立っていた。

「なんだお前?」とガラの悪い男。明らかに不審者を見る目で私を見ている。


ドキッとしながらも、えっと、どうしようと思ったが、何も考えつかない。

拳銃はスカートの帯に引っ掛けてるし、持っているはカニの死骸と巻貝。

そして走り寄ってくる猫二匹は手助けになりそうにない。


「あの、こ、これどうぞ」

仕方無しに慌てて死骸を差し出すが相手はゾンビじゃない。人間だ。生き物の死骸を渡されて、その場でバクバク夢中で食うような奴は見たことない。でも私はそれしか考えつかななかった。


「なんなんだ。お前。」

「あ、あげます。バクバクいっちゃって下さい。」

「はぁ?手前ナニモンだ」

「たぶん、おいしいからどうぞ。貝も付けます。殻割ってずるっとどうぞ。」


男は執拗にカニを食べさせようとする私にキレかけてた。私だって家の勝手口を開けたところに知らない人がいて、『ヘイYOU!カニを生でいっちゃいなよ。』って言われても受け取らないから当然だと思う。


そんなふうにもめてたら、扉から新しく女が顔を出した。

「その子私が頼んだ手伝いだよ。ずっと言ってたろ。左手の指を切られたから、手伝いが欲しいって。食材を取らせに行かせてたのさ」


女は黒髪の緩いパーマがかかったボブカット。ビール祭りで女が着るような服を着ていた。

「なんだよ。最初からそう言えよ。俺は小間使いじゃねえぞ」

男がぶつぶつ言いながらそのまま外に出ていくと女性が話しかけてきた。

「私、メイファ。あなた迷い込んだんでしょ。早く入りな。」

言われて、急いで猫たちとするっと扉が閉まる前に滑り込む。


「猫に餌でもやりに来たの?でも今そんな女丸出しの格好でここいら歩いてたら、犯されるか、攫われるか。何されるかわかったもんじゃないよ」

メイファさんは包帯に包まれた左手を避けるように、手首の部分で果物を抑えながら器用に皮をむいていた。包帯の形が少し歪で、おそらく親指が無くなってるようだった。


「はい、ありがとうございます。」

と気の利かない返事をしてまごついていると、『手伝ってもらえると助かるんだけど』と言われ、慌てて果物剥きを替わる。

やりながら、沈黙が怖くておそるおそる『手どうしたんですか。』と聞くと、知り合いの子に隠れて食事を分けてたら切られたのだと恐ろしい事を話してくれた。


そんな目にあったのに、危険を犯して私を助けてくれるなんて、この人大丈夫だろうか。私が手伝いじゃないとバレたら何されるかわかったもんじゃないのに。

助けてくれたこともあって、少し心配になる。それが伝わったのか、気にしなくていいよ。昔からこんな性格でさ。女同士で助け合うのが私たちのやり方だしと私に笑ってみせた。

しばらく、彼女の指示に従って、皿を用意したりしていたが、そのうちにさっきの男が勝手口から戻ってきた。


男は家の中の猫を見咎めて、外に出すようにメイファに命令し、彼女がドアを開けて外に出している隙に、私の後ろを通り抜けながらガシッと私の腕と腰をつかみ、中へ連れて行こうとした。いきなりの事で、ふえっと情けない声を上げて、思わず抵抗する。


「おい、ちょっと相手しろよ」

どうやら、男は私を犯すつもりのようだ。

「イヤだ。ヤだ!」と叫びながら足を踏ん張ってテコでも動かない私。

猫たちは外からその様子に気づいたのか、ドンドンとドアにぶつかる音がする。

男が抵抗する私をイラつきながら引っ張っていると、メイファさんが割って入ってくれた。


「あー。すみません。この子へたくそで凄いクレーム来ててさ。すぐ血がでるし、こうやって泣き叫んでうるさいし、トークも気が利かないし、歯は当てるしって。私がやるから勘弁してくれないかな。この子連れていかれると、料理終わんないのよ。」


そういわれて、男は暴れる私を放し、『じゃあいつもの部屋に来いよ』と捨て台詞を残して去っていった。


「チクショウ、アイツいっつも飯前に盛りやがって…ほんとムカつく。ちょっと行ってくるから料理頼むね。6人分。もう7割がた出来てるから。」

メイファさんはドアにぶつかり続ける猫を再び家に入れると、慌てる私にヤーという穀物が炊いてある事と野菜煮と果物がある事を教えてくれる。ヤーと言うのはモトマノさんの家でも毎日出る米、というか米より粒が大きくて麦飯みたいなの。

後はメインを作れば終わるからと、残った食材を見せてくれるが、でっかい変色した肉の塊と私が持ってきたカニと貝しかない。

「あなた料理ぐらい出来るよね、最悪、肉焼いとけば文句言われないけど」

「あっと、料理、はい。じゃあカニと貝を蒸すか茹でてヤーにまぶして丼にします。」

そう私がカニ蒸し丼にしますと伝えると、メイファは、『料理終わったら逃げていいから』と言うなり行ってしまった。


「危なかったなオルミア。」

「すまない。オルミアこれは俺たちの不徳の致すところだ。」

メイファが居なくなると、猫たちは私を守れなかったことをしきりに詫びてきた。

「いいよ。もとから期待してなかったし」

何の気なしに私がそういうと、猫たちは猫ながらも悔しそうな表情をする。彼らは彼らなりにお姫様を守るナイト気どりだったのかもしれない。

「でもありがとう。助けようとしてくれたよね。」

慰めるようにそういうと、しょんぼりしていた彼らの尻尾がまたピンと空に向かって立ち上がる。口では『暇だからついて行く』と言いながらも、私の事を心配していたんだなと少し心があったかくなった。


「それでどうするオルミア。帰るか?」

猫に言われて一瞬逃げようかとも思ったが、多分私がこのまま逃げたらまたメイファさんが罰を受けるんだろう。せめて料理だけでも作って逃げようと思い直す。


「ううん。料理だけでもやらないと」

そう言って早速料理を作ろうと、鍋に水を入れ、火にかけようとして気づいた。


この家、火打石と木がない。


私は、一般的にみんなが使える家庭用の火魔法が使えないのだ。

一番最初にいた家はなぜかガスコンロがあったが、この街の一般的な台所の釜は中が空洞になって、中に手を入れて火魔法を使うスタイルだ。だから、火魔法がないと火が使えない。魔法の才能に乏しい人のために、一応は火種と木材で火を使うことも出来る材質だけど、燃料を入れるのも一般的じゃない。


モトマノさんの家では、私のためにわざわざ火打石や中に入れる燃料の木を用意してくれてた。

でもこの家にはありそうにない。


「ね、あんたたちさ。火、出せる?」

喋るぐらいだし、マッチでももってないかな?とダメもとで猫たちに聞いてみる。


「すまないオルミア。俺が出せるのは視界1mの濃霧か木の板を穿つ毛針ぐらいだ」

「俺は透明になったり、100m以内なら何でも見えたりするだけだ。」

白も黒も再びしょんぼりと尾っぽを下ろして謝罪の言葉を口にする。

「あ、うん。そっかごめんね。ないならいいの。」

思わず謝ったけど。ちょっとまって。二匹ともすごい能力あるじゃん。そもそも濃霧に紛れて侵入してれば見つからなかったんじゃないの?と思うが、今更である。今は火が欲しいのだ。


ちょっとどうすんのよー!バリアフリーにしてよ。私みたいなのに配慮しなさいよーと猫と一緒にいろいろ探していると、さっきとは違う大柄で偉そうな男が台所にやってきて、メイファはどうした。飯はまだかと催促された。

私が代わりに作ってますと説明すると

「早くしろよ不味かったら、ゾンビの餌係な」

と有難い言葉を頂戴して、男は去っていった。



もう、火なしでやるしかなくなった。

もう肉は明らかに変色してるのでカニと貝を生のままぶち込むしかない。


せめて見た目だけ良くしようと、カニと貝の殻を叩き割り、色が黒い内臓らしき部分は引きちぎる。


「オルミア。この貝大丈夫か?ちぎったとこから小さいミミズみたいのが出てきたぞ。」

白が言う通り、ちぎった部分は糸を引いてるし、なんかドロっと筋みたいなのがニュルニュル出て気持ち悪い。しかも今まで生きてた貝だからその筋が手の中でプルプル少し動いてるし。普段だったら触るのなんてお断りだけど、そんなこと言ってられず見なかったことにして、吐き気を我慢し、手でより分けてゴミ箱に捨てる。


「なあオルミア。カニも肉の中から白い糸みたいなのが出て動いてるぞ。」

黒に言われて改めてまな板の上を見ると、生きが良いのかカニも殻を外した足の肉から白い筋がミチミチと動いてる気がしたが四の五の言ってられない。無言で包丁を数十回叩きこんで、肉をぶつ切りにして黙らせると、そのまま温かいヤーにぶち込んで、ヤーの熱で蒸されますようにと願いながら刻んだ野菜煮や果物も入れて混ぜ込みチラシみたいにした。


「オルミア。そんな料理で大丈夫か?」

明らかに食材が不味そうなチラシを心配そうに見つめる猫たち。

「大丈夫じゃない。問題だらけよ」

不味かったら、何されるかわかんなくても、時間ってものもある。だからこれを出すしかない。


早くしろよー。これから外出なんだぞー。と聞こえる声に、はいただいまと返しつつ、ドキドキしながらも6つ作ってお盆にのせて持っていく。

猫たちは空気を読んで、食堂の入り口から入らず、こっちを覗いていた。


テーブルにはガラの悪い奴らが5人揃ってた。一人はメイファさんを抱くのに夢中なんだろう。テーブルについてない。あぶれた彼らは性欲をもて余してるのか、私が配膳している最中に『新しい奴か、いいケツしてるな。』とパァンと尻を叩かれたり軽く胸ももまれたりした。私が嫌がりながらも、黙って下を向いて文句も言わないでいると反応が面白くないのか、セクハラは止み、すぐに料理に興味がうつった。


「なんだこれ。」

彼らは目の前に置かれた丼を見て胡散臭そうに聞いてきた。

なんだろう、それ。私も知りたい。

よく知らない池のカニと貝の殻を割って、生のままヤーにぶち込んだものです。なんて言えれば楽なんだけど、そんな事言ったら多分ゾンビの餌にされる。


「か、海鮮丼と言います。」

私は普通に嘘をついた。


「このソースをかけて食べてください。」

そう言って、小皿を一人一人に渡していく。中身は醤油がなかったから適当に酢みたいな匂いのする調味料と塩とよくわからないものを混ぜたヤツだ。


不味かったらどうしよう。味見なんかして無いし、するぐらいなら死んだ方がマシな中身だったので不安で一杯になりながら、私の苦労と妥協の産物が口に運ばれるのを見守るしかなかった。



 うまいじゃねえか。


生のカニ貝丼は予想を裏切った高評価だった。


 ソースの塩辛さと野菜が匂い消しになり、果物の酸味とプリプリした肉の歯ごたえが織りなすハーモニーが絶品過ぎる。

 いつもの料理と違って、丼一つで食いやすい。

 俺初めて焼いた肉以外の料理好きになれそう。

 野菜が食える。今まで不味いとしか思えなかった野菜が食えるんだよ!


5人が5通りの表現で私を褒め称えてくる。

最初は半信半疑だったが褒められてる内に、自分がやり遂げた事を確信し、心の中で小さくガッツポーズ。ニコニコ私が機嫌よくなったのを見て、上座に座る男が褒美だとばかりに私を呼び寄せた。


「気に入ったわ。また来いよ。見た目もいいしな。さっきの嫌がり方、お前素人か?もし絡まれそうになったら俺の名前出せ。警備隊長のフリードの予約済みと言えば手を出されないからよ。今日は忙しくて抱いてやれねえけど次は俺の相手になれよ。」

今日は行っていいと言われ、メイファさんも戻ってこないし、そのままへらへらへつらいつつ、頭を下げて食堂から出た。

出ると猫二匹が待っていた。


「…私、天才かもしれないわ!」

誰一人と2匹も予想をしなかった結果に私は鼻高々で二匹を抱き上げてくるくる回って喜ぶ。


「あれを美味く出来るとかオルミア凄いな!」

「料理って面白いなオルミア!」

白と黒も私の両手の中から賛辞の言葉を惜しまない。


そのままミュージカルみたいにクルクル、ルンルンと猫を両わきに抱え、スキップしながらドアから出ると、「もういいわ。」と二匹を路上にぽいと投げ、ボードを開く。

「よし!帰るかオルミア!」

「面白かったぞオルミア!」

「いや、帰らない。これで、サカキさんの紅茶がもらえるわけじゃないもの。」

当初の目的を忘れちゃいけない。デバイスを持って帰らなきゃ、博士は紅茶をくれない。

運良く通行フリーパス券が貰えたのだ。近くの点限定でなく好きなだけ選び放題になったのを喜ぼう。


一つだけ離れている点が人気のない東の壁際にあるな。


ここなら孤立してるし、一人かもと様子見に行く事にした。




書いてたら戦闘途中で1万文字を越えていたので、前部分を切り離しました。

ちなみにガイアはアホですが、基本無駄なことは書いてません。

ちゃんと次につながることを書いてるつもりです。たぶん。きっと。maybe…

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