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無能な三十路ニートだけど異世界来た  作者: ガイアが俺輝けと囁いてる
~レズセはおやつに入らない~
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猫の目博士と不思議なリング

前回のあらすじ


ボコボコにされてマフィアに拾われた


そんな感じだったと思う。

――猫の目博士のもとへ――


「博士は今、忙しいからすこし、いや、かなり待っててくださいニャ」


器用に後ろ足で立ち、どうやってかペンを握ってカキカキ私の要件を書き留めると、そのサビ猫はぺこりと頭を下げ、受付に戻っていく。

ぴょんと猫のように、というか猫らしく受付の机に飛び乗るとボードを『診察』と書いてあるボックスの一番手前に差し込み、そのまま机の上でくるりと丸まって眠りについた。


…猫って喋れる生き物だっけ?

最初は疑問に思ったが、普通に話しかけてきたし、私と同じように診察を待つ人々は疑問に思ってないようなので、自分がおかしいんだろう。


もとは冒険者の登録をしていたという中央ギルドはこの街の災害や戦闘の混乱で負傷した人の診療所になっており、前の席には首に包帯を巻いた中年のおじさんや、両手にギブスをつけて茶色の髪をピンピンに立たせた男の子が可愛らしい女の子に付き添われて座ってたり、患者や猫やがひっきりなしにうろうろしていたりかなり混んでいた。


「あの二人恋人ですかね」


私の隣に座る男の子が私の視線を目ざとく察知し、口に出す。


「あ、どうだろうね。微笑ましくはあるけど。」

思わず首をかしげてしまうと、間髪入れずに

(オルミアさんの首筋。白くてきれい)

と隠すことが出来ない純粋だが明らかな男の目がダイレクトに私の心に響いてくる。


思わずケープコートを引っ張り首筋を隠すが、恥ずかしさで赤面してしまったようで。

(かわいい。きれい。髪が流れてさらさらだな)

連続する偽りのない称賛の嵐が連鎖的に巻き起こされ、思わず席を立った。


「ちょっと、トイレ行ってくる。」

「はい手が動かないと困るでしょうし僕もついていきます。」

「いらないから!絶対いらないから!」


そう言ってふらつきながらトイレに駆け込むが、止まることのない彼の私への思慕はどこに逃げても止む事はなく、むしろ私がそばにいなくなったことで、より想像は性的な色を帯び、それが私の背筋をぶるぶると震えさせた。


ここ三日、私はずっとこの関係に困り果てていた。


――――


彼らとつながるリングは両手に挟んでひねると少し径が大きくなり手首を通すことが出来る作りになっており、元々はブレスレットのようだった。ババアはデブすぎて通らなかったから、犬の散歩用具みたいにしてたんだろう。私は通るので左腕につけていた。


このリングがモトマノさんの家で唯一の、私の悩みの種だった。


持ってると、5人の感覚を切ることが出来ないのだ。ON・OFF出来ないのだ。


市場に帰った日に恋人や妻と出会った彼らはババアとの思い出を打ち消すがごとく愛し合っていた。当然、リングを持つ私には女の人が笑顔でとろけるような顔をして揺れ動いているのが目をつむっても延々と見えていて、私は当てられて体がなんかこう、ずっとむらむらしていた。


更にその時気づいたのだが、私は男性よりも女性の裸に興奮しているようだった。


一応、彼らがトイレとか行くときに男のそれそのものを触ってたりするのを見る機会はあるのだが、正直うわっと思うだけで、興奮はしない。むしろ嫌な気分になる。


しかし、彼らの恋人がゆっくり服なんか脱ぎだすと食事中でもスプーンを止めてそちらに集中して何もできなくなっちゃうし、極まって事が始まっちゃうと女の姿態に異常に興奮して、夜は彼ら全員が終わるまで眠れなく、正直終わってもそれを見せられてた私は体があてられてて、まるで寝付けなかったりする。


これまでは腫れ上がる全身の問題もあったり、生理中だったためそれどころではなかったのだが生理が終わり、また傷の痛みも慣れてくると、死にかけて生存本能が刺激されたのか。あの、言いにくいんだけど、サカリのついた猫みたいにすごくしたくなって、たまらなくなっていた。


なお都合が悪い事に、コウサは明らかに発情してる私の事に気づいているようだった。


男に性的にみられるのはいい。他の4人もある一定以上綺麗な女性を見ると、胸や顔やケツに目がいっているし。それに奥さんとかよりその女性がいいと思ってるわけじゃない。男の本能みたいなものだ。商家の若旦那の兄ちゃんも私を妄想で裸に剥いたり、したけど、そこまでならまあ褒められているようで悪い気はしない。でも少年。てめーはだめだ。ガチすぎる。正直、自分をオカズにされると一線を越えた感じがして身の危険を感じるのだ。いつ間違いを犯されるか気が気でない。寝てる間にケツの穴が掘られないか心配になって来るのだ。


普通は女ならカッコいい年下にオカズにされたら喜ぶんだろうか?だとしたら、わたしはやっぱりそっちなのかな?と余分なことまで悩んでしまう。


そんなこんなで悩んでいたら、裸5人組の男の一人(市場まとめ役のサハとかいう一番年上の人)が怪我した私のために医者を紹介してくれた上に、その人はこういう変わった道具にも詳しいというのでやって来たのである。


猫の目博士というその医者はふざけた名前に反して腕が良く、災害後、突如として現れ苦しむ人達をボランティアで救っている聖人のような人らしい。タダで治療とか奇特な人も居るものだ。タダより高いものはない。大抵宗教か人体実験目当ての裏があるに違いないと思うが、歩くのも難しいほどの怪我を治せるヒーラーは全員先約が詰まっているので、しょうがない。


果たしてどんな人かな。怪しい奴だったらすぐ逃げよう。と待っていると、ようやく呼ばれたため、私は診察室に入った。



――――


「全身軽度の打撲、です。お姉ちゃんは塗り薬で十分です。」

猫の目博士はアザだらけの私の体を一通り見て、丁寧に薬を塗ってきた。

助手に作業着を着た老齢の男性を伴っているだけで、ナースの一人もいなかった。


「医者なのに、ずいぶん若いですね」

私が探るようにそう言うと、満面の笑顔で答えてみせる。褒めた訳ではないのだが、子供がテストの出来が良くて褒められたかのような笑い方だった。


「私はまだ、見習いみたいなモノなのです。もともとは、おじいちゃんが名乗ってた名前です。」

人差し指をピンと立て、首を傾けあごをやや反らして自慢げにする様子はまるで学校で出来の良い絵を見せびらかすかのようだ。まだ二十歳ぐらいの見た目だしどうやら医者の家系で修業のつもりらしい。コイツは裏がないタイプだなと判断した私はリングの相談もする事にした。


「ちょっと拝見」

手にした猫の目博士は最初キョトンとしていたものの途端に『ひっ』と声を上げ、顔を真っ赤にしてリングを取り落とした。


「あ、今まっ最中でしたからね」

私は耳まで髪の色と同じくらい真っ赤に染まったうぶな博士が面白くて、拾い上げるとグイと博士に押し付けた。

「ああっ!やめるのです!」

「どうしたんですか?セ・ン・セ!」

「ちょっと待つのです!」

「一緒に見ましょうよ。セ・ン・セ!ホーラ、こういうのが見えて困ってるんです!」

「押し付けるのやめるのです!」

「でもこの女の人より先生の方がいい体してません?」


真っ赤になって逃げ惑う博士だが、足が悪いようで私から離れる事が出来ない。見るに見かねた助手が引き剥がしてようやく落ち着くと、呼吸を整え『こういうのが仕事の人も居るのです。動揺したら医者失格です。』と独り言をいい、今度は落ち着いてリングを手に取った。


「これは、やっぱりおじいちゃんが作ったdeviceです。」

「デバイス?」

「店に登録されてないレアスキルを取る装置です。おじいちゃんは、お城でこれ作ってたのです。」

「スキル?」

「スキル知らないのですか?」


そんな人は久しぶりだと驚く博士に、自分が記憶喪失であることを説明すると納得してうんうんと頷いた。

「このデバイスはもともとスキルブレスレットを改造したものだから、ちょっといじれば…」

いろいろ触って私に再び取り付けるとブンっと緑色のボードみたいのが出てきた。


『情報を登録してください』か。


「登録すればいいの?」

「前にスキル覚えたことがあれば、スキルの表示が出るはずです。」

なるほど。やっぱり博士と言われるだけあって頭いいな。


名前はオルミア。性別・女。年齢・わからん。

適当に入力していくとボートが水色に変わりパラメーターが表示された。


【登録者】オルミア 【年齢】―― 

【基本職】ニート 【サブ職業】ヤクザ・部屋住み

腕力  47(普通)

体力  80(強靭)

器用さ 16(貧弱)

敏捷  70(高い)

知力  66(やや高い)

精神  14(貧弱)

愛情  36(やや弱い)

魅力  39(やや弱い)

生命  89(接続切れ)

運   ――(計算を放棄します)


「うわっバランスわるーい。体力・敏捷・知力キャラって。」

「やっぱり体力がすごいのです。全身打撲から数日で歩けるぐらい回復してるからそうだと思ったのです。」

「…いやいろいろ気になる所があるけど、なんで魅力やや弱いなの?自分で言うのなんだけど、わたし結構美形に見えるんだけど」

「魅力は性格も入るのです。嫌がる私を捕まえて無理やり卑猥なシーンを見せようとするお姉ちゃんは見た目がたとえ100点でも性格でマイナスされて低くなるのです。」

「わたくしが先生にそんなはしたない事をいたすわけありませんわ。」

「表面だけ言葉使い変えても、変わらないのであきらめるのです。」

「ちえっ」


なんで、私、性格いいじゃん。

壊れてるんじゃないのこの腕輪。欠陥品だろ。

ぶつくさ文句を言っていると、博士は私の腕輪をいじって表示を変えさせた。


スキル

【高等教育】Lv.27

【不快様相】Lv.12(無効)

【鈍器術】 Lv.14

【盾術】Lv.13

【device:絶対服従忠臣】

称号スキル

【空気な存在】


「ほら、やっぱり前にスキル覚えてたみたいです。」

「なんか、少ないね。このデバイスとかいう項目がさっき話してたの?」

「………」

「先生?博士?」

「……そんな偶然、あるわけないのです。」

「博士?大丈夫?」

「ん、そうです。deviceと書いてあるのが、他人のスキルを取ったやつです。」

「ふーん。どうやったらなくせるの?」

「なくすのは無理なのです。でもdeviceを改造して切り替えができる機能をつけることはできます。でもすごく時間がかかるのです。7日後の昼なら手術や診療の予定もないからその時来てください。」


博士は突然、早口でそういうと、そういえば採血を忘れてましたといい、私の血を取っていった。私はさっきのやり取りで怒らせたか、次の患者がいるのを思い出したんだろうと思い、礼を言ってそれ以上聞くのはやめておいた。


――――


「あの、また遊びに来てほしいのです。」

脱いでいた上着を着なおして診察室から出ようとしたら、博士が引き留めるようにそう言った。遊びに、来てというのが、まるで幼い子供が親戚にねだるような調子で、つい吹き出してしまった。


医者の家系なら、勉強ばかりで遊ぶことなんて出来なかったんだろう。だからさっき私がじゃれて遊んだことがそれなりに楽しかったんだろうな。お大事にと言いたかったけど、言い間違えたんだろう。


そういえば、私もさっきまで体が火照ってむらむらしてしょうがなかったけど、博士と話しているうちにいつの間にか落ち着いていた。コミュ障な私でも古くからの友達のように話せてたって今更ながらに気づいた。

「ああ、また遊ぼうね」

笑ってそう言って、外に出た。


「あれ、ずいぶん顔色よくなりましたね。」

外に出ると、待ち構えていたコウサがすぐに寄り添ってきた。相変わらず私の体に目を走らせているのがわかり、浮ついた気分が現実に戻っていく。


「うん、いいお医者さんで。コートありがとうね。」

なるべく傷つけないようにやんわりと接する。彼も被害者の一人であり、私の拒否の仕方によっては一生トラウマが治らなくなる可能性もある。心の奥に汚された暗い影が残っているのもわかるのだ。


もし今、普通の女性が彼を穢れたものとして扱ったら、その暗い影は真っ黒に染み付いてこびりついてしまうのだ。それが一番わかってる私だからこそ、私は彼に女神のように接しなければいけない。


彼に全く魅力を感じていないのに、普通の女性として。

それが私の精神にとって過大なストレスになっているとしても。


―――――


私の限界はそれから4日目に訪れた。


三食昼寝つきにおやつまでついて、至れり尽くせりで順調に回復していく体。

毎日毎日、こちらに遠慮なく昼夜入れ替わりのノンストップで猿のように盛り続けるモテ男4人組。

あてられて体が出来上がっているのに、コウサの目を気にして何の処理も出来ない私。


明らかにのぼせ上った顔でモトマノさんの家をうろつく私は気が狂ったかのようにでも見えるのか、前に家の外であったことのある白髪の着流しの幹部が家に来るなり幽霊を見たような顔で去って行った。


「あんた、目の焦点がおかしくなってへん?」

おやつを持ってきたサカキさんが熱がないかと体に触れるだけで、びくんと体の芯まで響いて反応してしまう。

「はい。私に、問題はないです。」

ロボットのように答え、サカキさんが作ったいつもの甘いお菓子をたべる。

お菓子は、サカキさんにはやることがいっぱいで忙しいにもかかわらずいつも凝っていて、息子を助けた私への感謝の気持ちが詰まっていて、それが優しく感じて。食べている間に涙が零れてきた。


「オルミアちゃん。あんた、どうしたん?」

明らかに普通じゃない私の様子を見咎めて、サカキさんが声をかけてくるが、何も話せず、そのまま自分の部屋に戻り閉じこもった。



―――――


「だいぶ辛そうやなぁ」

サカキは逃げるように部屋に引きこもった女の子が何も物音を立てていないのを確認すると、まだ残ったお菓子の皿に手をやり、口に運んだ。手に入る材料は少し心もとないが、若いころから娼館の女の子を虜にした両親仕込みのお菓子作りの腕前は鈍っておらず、自信作と言っていい出来栄えだ。


「コウサじゃ不満なんやろかなぁ」

親の欲目があるとはいえ、そこらの男より見栄えもいいはずだし、年下で父親譲りの馬鹿正直さで、火遊びにはもってこいと思うのだが。両方とも一向に手を出す気配がない。下手な女が近づかないように過保護にしたのがここで悪く働くとは人生は本当にうまくいかないと苦笑する。


このままじゃ壊れてしまう。いっそ一度あのリングを引き受けようかとも考えるが、この微妙な政情で人を操れるあのリングを私が手にすれば、どうなるかわからない。何より息子が自分の事をどう思っているのか。それがわかるのが本能的に怖かった。


洗い物をして、帳簿をつけ、納品を行い。夕飯を作り家族で食べる。

女の子は今日は降りてこなかった。


「…食えるかもしれへんな」

培った生来の感がそう告げていた。最近退屈だったところだ。ちょうどいいとばかりに、階段を上がり、部屋の前で入ろうかどうしようかとうろうろしていた息子に『今日はうちが面倒みるからあんたは自分の部屋にいきぃ』と追い払う。何か察した目をしたが、そう見られるのはもうとっくの昔に慣れた事だ。


「オルミアちゃん。寝とるかな?」

後ろ手に鍵をかけ、暗い部屋に明かりを灯さず入っていく。二つ並んだベッドに腰掛け、様子をうかがう。細かく布団が揺れており、呼吸が荒いのが見て取れた。


「うちな、最近さみしいんよ。娼館とられて女同士で話すこともなくなってな。ちょっと話し相手になってもらいたいんやけど」

言いながら、寝巻きに着替える。


「オルミアちゃんは何にも喋らんでも、ええよ。私が勝手に話するだけやから。いやだったら嫌って言ってくれればやめるしな。せやけど、夜やし、声響くからオルミアちゃんの布団に入らせてもらっていい?」


ゆっくりと布団をめくり、体を滑り込ませる。

しっとりした布地が温まっていて、冷えていた足に心地よい。冬はこの瞬間が一番たのしい。

「さ、お話ししよか。」


やっぱり、私は話す方が好きだ。とサカキは思った。

話題を振って、返るトーンが明るければ、自分も楽しくなる。

相手の話題に答えるのもいいけれど、自分の話したい事じゃないから少し物足りない。

今日の相手はずいぶんと聞き上手で、話すのがとても楽しく、気が付くと相手は話し疲れていつの間にか眠ってしまっていた。

付き物が取れたかのように安心した寝顔にサカキも満足して意識を暗闇に沈めていった。

気が付けば生家を失って以来の久しぶりの安眠だった。




わたしのステータス

【登録者】オルミア 【年齢】―― 

【基本職】ニート 【サブ職業】禿かむろ

腕力  47(普通)

体力  80(強靭)

器用さ 16(貧弱)

敏捷  70(高い)

知力  66(やや高い)

精神  14(貧弱)

愛情  36(やや弱い)

魅力  39(やや弱い)

生命  89(接続切れ)

運   ――(計算を放棄します)


持ち物


Eスニーカー  …敏捷+3

Eファミリーの服(地味目部屋住み用)…体力+2・敏捷+3

E白のケープコート(白雄猿カスタマイズ:手が出る部分を改良)

     …防御+124・腕力+3・魅力+12・敏捷-2

      市価+1・障壁+1

      (洗濯のおじさんが着やすいように頑張りました)

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