初めて私が動物を殺した時は
大きな音と水しぶきを上げるや否や、めちゃめちゃに固まった団子の中に侵食してきた冷たい水の流れは、彼らを冷静にさせるには十分だったようで、水中に落ちたオキアミの寄せ餌のように、ゾンビと骸骨と私が固まった団子はゆっくりほどけて散らばっていった。
しかし、団子のちょうど真ん中にいた私が解放されたのは水面から数メートル落ちたところだったし、最初は何がどうなったのか理解できなかったので、自分が池の中に落ちたなんて全くわかっていなかった。
自分に分かっているのは息が出来ないのと、ようやく体が動かせるようになった事。ゾンビたちが襲ってきたから逃げなきゃいけないという事。そのため暗い場所に隠れようとでもしたんだろうか。私はなぜか水面の明るい方でなく、暗い池の底に向かって必死にバタ足をしていた。
池は汚くてよく見通せなかった。たぶん5mも先を見通すのが限界な汚さだった。
でも引っ張られるような感覚に逆らって必死に更に二メートルほど進むと、池の底に骸骨たちが立っているのが見えた。骸骨たちは池の底で必死に手や木の棒を振るっており、底の泥がかき回されて煙幕みたいになってた。
ぎょっとしたが、私を狙っているわけではないようだった。泥の煙幕の切れ目から、明らかに池の泥や流木とは違う物体がにゅっと突き出し、動き回っているのが見える。よく見ると、でかいカニのはさみのように見え、それが骸骨の武器や骨をがっちりつかみ泥の中に引きずり込んでいるため、少しずつ見える骸骨が減っていっていた。ここでようやく、自分が池の中に落ちていることを悟り、底に向かって泳いでいたことを認識した。
周囲にいたゾンビは骸骨と違い肉があるため浮力がそれなりにあるのか、池の底には骸骨しかいないようだった。
水面に向かおうと思い、水面がどちらか探ろうとあたりを見渡すと、池の底の一角からすごい足がいっぱい生えた巨大なカニみたいな生き物が、数十本ある足をすごい勢いで動かしながら泳いできているのが見えた。
私は思わずガボガボと空気を吐き出した。その気泡を追って水面に向かい必死に足をばたつかせる。先ほどまでは浮力に逆らっていたためか全然進まなかったけど、今度は逆なためにすごい勢いで私は浮上していく。上がりながら底の方を見ると、何匹もの巨大カニが私に向かってそれぞれ必死に足をばたつかせ浮上してきていた。
数メートルの深さを浮上し、私は水面に頭を出した。呼吸をするのもそこそこに、私は一番近い岸に向かって泳ぐが、着ている白いケープコートが邪魔でなかなかスピードが出ない。どうやら毛皮は毛が密集しているため水に落ちても毛皮の中に空気を閉じ込める作りになっているようだった。
さっき水中で引っ張られるような感覚があったのはコート自体がすごい浮力を持っていたせいだろう。それで浮上も早かったのだが、浮上した今は水の抵抗を増やすだけのお荷物でしかなかったし、クロールや平泳ぎも出来ず、犬かきみたいに泳ぐしかできない。脱ごうかと思ったが、浮き輪代わりになっているので、犬かきで頑張ることにした。
ゆっくりと近づいてくる岸の上では一足早く池から上がった濡れたゾンビたちがこちらを憎々しげに見ている。
明らかに池から上がったらなぶり殺しにしてやろうと怒りに燃える手に武器を持っているが、そんなことを気にしていられない。
「お願い、引っ張り上げてー!」
というと、槍を『どすっ』と普通に突き刺してきた。
肩に衝撃を感じ、痛みを覚悟したが、意外なことに槍は私に刺さらなかった。どうやらケープコートの毛皮が厚すぎて貫通できなかったみたい。逆にチャンスとばかりに槍をつかんで引っ張った瞬間、水中のスニーカーを『カリっ』と何かが引っ掻くような感触がした。あと一秒、槍で刺されるのが遅かったら池の底に引きずり込まれてたに違いない。
そのままゾンビの持つ槍をロープ代わりに引いて、私は岸にすごい勢いで近づいていく。持っているゾンビは槍が奪われそうと思ったのか、足を踏ん張り、周りのゾンビは彼の腰に手を回して一生懸命に引いている。『なんか大きなカブの童話みたいだなっ』と焦りとは裏腹な言葉が頭に浮かぶ。
岸までたどり着いたところで、槍を放す代わりに、腰を引っ張っていたゾンビのうち一匹の足に手をかけて引っ張ると、態勢を崩して下半身が池に落ちる。だが必死に岸にしがみついて何とか耐えていて、なかなか私が上がる場所が開かない。
もう四の五の言ってられない私はゾンビの服を掴み、桟橋がわりに彼の体を足蹴にし、無理やりゾンビたちが待つ岸に上がりこんだ。
「お前ら何してんだ!叩き殺すんだよぉ!」
ババアが怒りを込めた声で叫ぶと、ゾンビたちが座り込む私に向け、一斉に武器を振り上げる。
「いや、もっとヤバいの来てるから!」
私の話を聞こうともせずに振り下ろされる剣。慌てて左手でコートの端をつかんで顔の前にかざし剣を受け止める。やはり槍と同じように刃は毛皮で無効化できるけど、棒でぶっ叩かれたような衝撃が私の左手の骨まで響いてくる。
「痛っ、ちょっと聞いて!」
「早く小娘をぶっ殺せーーー!」
ババアの叫び声にかき消され、次々と剣が振り下ろされる。
私はあわてて座り込んだまま亀のようにケープコートの中に頭を引っ込めて、それをガードする。
全身をバットで殴られてるような衝撃の中、少しでも岸から遠ざかろうと座り込んだまま、よちよちと少しずつ水辺から遠ざかっていると、後ろで悲鳴とともに水に何かが落ちた音がした。
「おい、タンバだ!横からも上がってきてるぞ!」
「街の中だぞ!ここ!」
「外の川とつながってるのか?」
コートの外でキシュキシュというカニが鳴く音とゾンビの悲鳴が交錯し、バットで殴られてるような衝撃が急になくなった。
「お前ら逃げるんじゃない!水にも近づくんじゃないよ!」
代わりにババアの指示のもと、どたばたと走り回る音や剣戟の音がそこら中から聞こえてくる。
ケープコートの外がどうなっているか気になるが、あくまでも足元の隙間から見える地面だけを見て、しゃがんだままコソコソとゆっくり私は進んでいく。
しばらく行くと、地面の枯れた葦がなくなり、緩やかな傾斜の土の地面になった。それでも態勢を変えず、茶巾袋状態のまま歩いていくと、やがて傾斜もなくなり、舗装された道に上がることが出来た。
―――――
ゾンビはすごい数が減っていた。地面にばらばらになって落ちてるのもいれば、手や足だけ池に浮いているものもいる。立っているゾンビは6体で3匹のカニとそれぞれ相対していた。
みんなもう私の事は頭にないようで、残りは地面に横たわって『足を繋げてくれ』と叫んでいたり、『食わないでくれ』と懇願しながら水の中に引きずり込まれていく上半身だけのゾンビもいたりした。
「…何やってんだい!逃げ回っても掴まってやられるだろぉ!いっそのこと仲間が食われているところを後ろから刺しな!」
叫ぶ声の主は私から20mほど東の道の上に立っているババア。
私が道まで戻った事は気づいておらず、四つん這いの裸の男たちを盾にするように前に並ばせて眼下のゾンビとカニの戦いに熱中している。
もうこの隙に逃げれるだろう。と、こそっと逃げようと考えていたら、
「あんたたち!もしタンバがこっちに来たら、私の盾になるんだよぉ!」
と言っているのが聞こえて、思わず振り返ってしまった。
一番こっち側にいる男の子と目が合った。
でも彼はしゃべれないようで、目だけで何か言いたげにこちらを見ていた。
助けてと口に出すことはできなくても、広場の時みたいに口だけで助けを求めることも出来るだろうに、まだ10代前半ぐらいの男の子はおびえた目でぐっと口を結んで助けを求めようとはしなかった。
さっきも、私に向かって『逃げて』と口で教えてくれたり、優しい性格なんだろう。
思わず目線を切って、そんな事を思った。
ゆっくりと目立たないように、足音を立てないように道を歩いていく。
後ろから、またゾンビがやられたのか、ババアの怒り狂う声が聞こえてくる。
助けを求めても、私には無理だってあの子もわかってるから、助けを求めなかったんだよね。
だって、さっきから犬の真似して命乞いしてたり、逃げ回ってばかりだし。
弱そうだから助けてもらえそうとか思わないだろうし。
実際、私弱いし。
だから、このまま私行くけど、責めたりしないよね。
そう言い訳しながら振り返ってみると、男の子はもうこちらを見ておらず、ただ地面を。下を向いていた。
さっきみたいに顔の向きで気づかれるかもと、気を使ってくれたんだね。
ごめんね。
わたし、何にも助けにならなかったね。
私も彼と同じように下を向いて、ゆっくりと歩いたけど。
スニーカーからガボガボ水音がして、これじゃ気を引くかと思い、脱いではだしになった。
着ていたケープコートも真っ白で目立つし、毛皮の内側の布が水を含んで動きにくいので脱いでそっと道端に落とす。上着も重いから脱いでシャツだけになる。
両腕がアザだらけで、あまり力も入らない。
そうやって、身軽になって、また自信なくて下を向いて歩く。ゆっくりスピードを上げていく。音がしないからスピードを上げる。路上をたったっと走り出す。景色がすごいスピードで横に流れていく。
「ほらね、死ぬ気で戦えば、倒せるじゃないか!あと少しだよ!」
ゾンビがカニを倒したのか、ババアが喜ぶ声が耳に届く。
「わかった!くたばれババア!」
ババアがこちらを見た瞬間、全体重がかかった私の飛び蹴りがババアの脇腹のぜい肉に突き刺さった。
―――――
デブは防御力が高い。
昔、冗談のように語られていたその言葉を私は思い出していた。
自重を支えるために筋肉が発達してるから体幹がしっかりしているし、贅肉の鎧をまとっているから、どんな打撃でも衝撃が分散されてしまうからと。
自信満々に話す男の子は学年一頭がいい双子の弟で、私はそんな彼の言葉に半信半疑で聞いていたのを覚えている。
ババアのぜい肉は私の右足をくるぶしまで柔らかく包み込み、まるで水を入れたビニール袋を突いたかのような不安さを感じさせた。しかし、話の通りに贅肉の下には筋肉があったようで、しっかりした反動が足の裏に伝わり、ババアは吹き飛んだ。
ババアが路上に転がったのを確認し、眼下のゾンビたちを見てみると、ゾンビと巨大カニは3対1のラストバトルに突入していた。あまり時間は残ってないようだ。
「お前ら、逃げるよ!早くたって!」
四つん這いの5人に声をかけるが、彼らは全く反応しない。
「何ぐずぐずしてんの?怖いの?」
発破をかけても、池の方を向いて並んだまま動こうとしない。
「この、アバズレがぁ・・・」
脇腹を押えたババアが怒りに燃えた顔で地面から私をにらみつけてくる。
起き上がられたら厄介だと、寝ているババアの背中のあたりを思いきり蹴飛ばすが、贅肉が『パァン』と派手な音を立ててゴム製品みたいに揺れ動いただけだった。
「その小さな脳みそ吹っ飛ばしてやる!」
ババアがたすき掛けしていたポーチの中に手を入れながらそんなことを言うのを聞いて嫌な予感を感じ、ポーチを両足ジャンプからのスタンプ踏みつけしてやると、派手に叫んで手を抜いた。ポーチを拾い上げて逆さにして振ってやると、ごとりと大きな拳銃が転がり出てきた。
あっと思う間にババアがデブとは思えないスピードで無事な左手で拾い上げて、『ズドン』と発砲するが、利き腕でないためか45度ぐらいズレた方向に銃口が向いている。1mも離れてないのに。
そのまま焦ってバンバンと連射するが明らかに銃口がこっちからずれてるので、運動会のよーいドンぐらいの脅威しか感じない。銃を持つ左手に飛びついて、噛みついてやると地面に落としたので、左足で蹴っ飛ばすとからからと音を立てて、どこかに消えた。
ババアは怒り狂っていた。拳銃はなくなったが私が飛びついたのを幸いに私のシャツをつかみ、動きを止めると体重を生かしてのしかかってきた。這い蹲って逃げようとしたが、両足がババアのぜい肉の下敷きになり私は逃げられなくなった。
「ねえ、チャンスじゃない!助けてよ!」
そっぽを向いている男たちに声をかけるけど、首だけこっちに向けるのみで立ち上がろうともしない。
「このヤリマン売女が!人の男に声かけやがってぇ!」
ババアは右腕こそ怪我をしているのか殴ってこないが、無事な左手は私のシャツの裾をつかみ、完全に馬乗りになろうと足の先から少しずつ這い上がってきていた。
「ねえ、お願いだから助けてよお。」
のしかかるババアの下で悶えながら、私は男たちに懇願するが、やはり反応はなかった。
ん、違う。よく見てみると、みんな首をこっちに向けながらも、目は同じところを見てる。私でもなくババアでもなく、5人の首輪から伸びたひもがつながってる銀色のリングに。
「ハイ捕まえたぁ!」
ババアが完全に私のお尻の上に座り込んだ。もう体はババアの体重で動かないし、抵抗しようにも手も足も届かない。バチンと後ろからババアが私の頭に平手打ちをしてくる。脂肪の塊で殴られるのが予想以上に芯に響いて、首が引っこ抜けるかと思うぐらいだった。
「売女が!このアバズレが!ちょっとぐらい、顔がいいからと、男に、媚びやがって!」
バチンバチンと脂肪の塊が頭に打ちつけられる。頭が揺らされてふらふらと意識が飛びそうになる。
脳みそが揺らされてぐわんぐわんの視界の中で私は助けを求めるように手を伸ばす。
だれか、この脂肪の塊を私の上からどけてよ。とおぼろげに思いながら、必死に手を伸ばして、リングを掴もうとするが、指の先がかかるだけで握りこめない。何度やっても指の先から動かない。
指の先でなんとか動かそうとしていたら、ババアの体重が一瞬軽くなった。チャンスとばかりに体を抜け出そうとしたが、ババアは私の服を掴んでうつぶせから仰向けにひっくり返すと、腹の上に座りこんで再び私の動きを止める。
「自慢の顔をつぶしてやる。」
そういったババアの顔面に均整の取れた男の足が円を描いて吸い込まれた。
――――――――
ぶしっと猫のくしゃみのような音を立てて、ババアが仰向けに倒れる。
そのまま、地面を転がり、一回転したが、気を失うでもなく、すぐに立ち上がった。
ババアの1m前に私は立っていた。
両横に裸の男たちを従え、手には銀色のリングを持っている。
「あ、あんた人のものを取ったりしたらいけないよ」
ババアは睨みつける私と男たちに、鷹揚だが媚びるような声色でそういった。
リングを手にしたとき、全部分かった。
さっきの男の子がなんですぐに下を向いたのかも、リングをもてば、すべて一瞬で理解できた。
男たちが見ているものも、考えていることも、それまでどんな目にあってきたかも、どれだけこの脂肪の塊を憎んでいるかも、まるでパソコンのマルチモニターを見るかの如く、すべて伝わってきた。
「この人たちは、物じゃない。」
私は五人分の怒りと憎しみをその身に集約されていた。
終わることのない拷問のような日々。
助けに来た家族が目の前でゾンビに食われていく悲しみ。
隠れて親切にしてくれた世話係の体の一部が食事として出された時の衝撃。
少しでも自分が考えたら、リングを通して伝わってしまうから。
男たちは感覚も考えも消して、心を殺していた。
悲しいとも人に感謝することも、助けてと思うこともやめ、
心を殺すことで男たちは精いっぱいの抵抗をしていた。
ただ主人がリングを通してこう動かそうと思えばその通りに動くだけの
人形になろうと完全に心を殺していた。
「わたし、たとえ悪いことしてても人を殺すのはよくないって思うわ。」
私は目の前の人間の暗い、本当に暗い性質を醜い脂肪で固めたものに、ゆっくりと語りかけた。
「どんなに私が悪いことしてると思っても、それは他の人から見たら正しい事だったり、実際は仲間を助けるためだったりするもの。私の判断でアイツは悪い奴だからって怒って殺したら、他の人からすれば私が悪いことしてるって見えると思うの。いろんな人が助け合って、社会を形成している中で主張が違ってくる事なんて当たり前だと思うわ。そういう主張が違う人とか私の常識で悪い奴を殺すのはよくないと思うの。わたし、あんまり頭よくないし、間違ってることが多いから。」
私の言葉に安心したのか、脂肪の塊の顔が緩み始める。
「でも、私たち、お肉が食べたくなったら動物を殺して食べるでしょ?なんで人を殺したら駄目なのに、動物ならいいのかって聞かれたら、とても困るの。犬や猫を飼ってた記憶があるけど、どっちも悲しいとかさみしいとか楽しいとか、人間と同じように感じてると思うわ。他の動物だってそうでしょ。だったら、人間は殺しちゃいけない特別な存在かというと、あのカニみたいに人を襲って食べる動物なんていくらでもいるわ。」
私たちの右手側、道路下の池のほとりでは、指揮するものが居なくなったゾンビが巨大カニに大敗し、身動きが取れなくなったゾンビたちが池から新しく上がってきた小さなカニたちに次々と池に引きずり込まれていた。
「おかしいよね。人は人を殺しちゃいけないけど、動物を殺して食べるのはよくて。動物が人間を殺して食べるのも世界では普通にある事なの。ごめんね。私あたまあんまりよくないから、よく説明できないけど。動物を食べるにしても人間は無駄なことをしないし、あのカニも狩った獲物を無駄にしないでしょ。」
目の前の脂がそうだねとばかりに同意して肉を揺らして頷く。
「動物と、人間の違いって何かしらね。どこが違うのかしらね。」
右手の池のほとりでは最後のゾンビが池に消えて、うめき声がなくなった。私の話声だけがあたりに響いて、再度上がってきた巨大カニが子ガニとこちらを見ていた。話している時間はもうなかった。
「でもわたし、あたま悪いけど、お前は人間じゃないって思うわ」
さっきまで無風だった通りに冷たい冬の風が吹いた。
脂肪で垂れ下がった目が鋭さを増していく。私の本意は伝わったようだった。
風が落ち葉を巻き込んで1mほどの隙間を抜けていく。
落ち葉が吹き抜けるのが合図かのようにぶよぶよな手がリングに延びた。
掴む寸前に私の髪をたなびかせるほどの勢いで男の腕が伸びる。
パアンと軽い音が響き、肉の塊がよろめく。
私は微動だにせずに目を閉じて、その光景を見ている。
倒れずに何としてもリングを奪おうとするが、よろめいた両足の膝に男たちの足が突き刺さり、関節がおかしな方向に曲がって地面に倒れる。
それでもあきらめまいと伸ばす両腕をつかみ、5人がかりで両肩を脱臼させる。
耳にキシュキシュと獲物を狩りに来た狩人の声が入る。
目を開けて、5人とともに西に向かって歩いていく。
後ろから動物が私を呪う声が響く。
自分でやれない意気地なしの偽善者と
精いっぱいの動物の抗議の声が背中に投げかけられる。
やっぱり動物でも殺すのは嫌な気分だった。
ねえ食べるわけでもなく、遊び半分で殺してそのまま放っておく私は、つまるところあの動物と同じなのかな?
リングを通して聞いてみようかと思ったけど。
彼らの隠せない本音を聞くのが怖くてやめておいた。
⇒To Be Continued…