よほどのことがない限り外には出ないように
前回のあらすじ
エリートに報告をしなかったので呆れられて怒られました。
そして、現在の勢力状況等の描写に9話使いました。
最初から書きたかった描写なので反省してません。
ビービービービー!
せっかく人が気持ちよく寝ているというのに、そのうっさい音が鳴り響くので俺は仕方なしに目を開けた。学校に行く時間か、仕事に行くのかどっちだ。と思いながら目覚まし時計を止めようとするが、何やら視界が濁っているし、あったかい感じが体中からする。
――あァ?過負荷で電圧低下してるのかい?
――発電機の容量が足りてな――ないか。
――いや、違うねェ。発電機はあくまでも―――不足分を継ぎ足して――、多くは系統からとって――城の発電機が止まっちまってるね。
――おい、――が目を覚ましてないか?
――あーめんどくさいねェ、まだ作り変えてないのに。どっちみち系統から――なきゃ無理だよォ。
濁った視界の向こう側から男と女が言い合う声が途切れ途切れに聞こえる。
なんだ。誰かいるのだ。なら俺が仕事に行く時間ギリギリになったなら、起してくれるな。じゃあもうちょっと寝よう。
そう思っていると、パチッと音がしてぼんやりと明るかった視界も暗くなる。
どうやら俺のあと五分睡眠のために、電気を消してくれたらしい。なんていい人たちだろう。
感動のあまりに眠くなってきたわ。そう俺はやいやいと暗闇で騒ぐ男女に感謝の気持ちを持つとともに、ゆっくりと温かく居心地がいい空間に沈んでいった。
―――――
感覚的には5分間睡眠だったんだ。
俺は急に息苦しさを覚えて身悶えする。
暖かかったはずの体は妙に寒く、布団をかぶりなおそうとするのに、手がなんか重くて布団はつかめない。というか布団がない。布団はどこだと、手を動かしまくるが、なにか動きが重いうえに、息がまったく出来なくなってきた。
猫でも顔の上にのってるのか!このくそ猫が!
とくわっと目を開けると薄暗い室内がゆらゆらと揺らめいているのが見えた。
なんだこれ。てか苦しい。息が出来ない。口に手をやると、なんか飛行機が緊急の時に天井から落ちてくるようなチューブがつながったマスクが俺の口につながっている。なんじゃこりゃ。と手でつかんで引きはがす。強力なゴムか何かで頭に固定化されているのか、俺の首が単純にぐにゃっと引っ張られた。
ふざけんな。がっちり締め付けるんじゃねえ。死ぬだろうが。マスクをつけた誰かにマジギレしつつ、俺は後頭部に手をやる。なにか浮いている大量の糸みたいなものが手に纏わりついてきて気持ち悪い。それにイライラしながら探ると、ホックみたいなものを発見。うまく剥がすとマスクがぽろっとはずれたため、俺は助かったとばかりに深呼吸した。
ガボガボガボガボガボッ!
瞬間、俺の肺にすごい勢いで液体が流れ込んできた。どうやら俺は水の中に浮いていて、さっきのマスクは酸素マスクだったらしい。なんだよこれ。意味不明な事態にも溺れていることを把握し、水面に出ようとするが、上下左右どっちが水面か分からん。とりあえず、前方に手を伸ばすと、カチンと何かにあたったため、上に手を伸ばす。ジャバっと音がしたため、慌てて水をかいて水面を目指した。
ガヒューゲボッ!ガヒュー…
水面から顔を出し、水槽のふちにしがみついて、俺は大量の水を吐き出しながら、呼吸を整えていた。苦しい胸はかなりの水を吐き出してもまだ重く感じるし、全身が冷えていて、水槽のふちにしがみついているだけでもかなりの苦労を感じる。誰か助けてと周りを見るが、部屋は薄暗く、締め切られた窓から差し込む光だけが部屋を照らしている。
「あのー。もしもし…」
落ち着いたところで声を出してみるが、しばらく待っても誰も来ない。このままだと力尽きて溺れ死んでしまうと思い、水槽から出ようと体を持ち上げて乗り越えようとしたが、なぜか引き戻されるような感覚とともに、ボインと胸がふちに引っかかって失敗する。あれ?こんなに俺は太ってたかな?改めて自分の体を見ると、左の二の腕にチューブが刺さってたり、足にも太めのチューブが刺さっており、そこから少し血が滲んでいた。
「わりと、これやばいんじゃね…?」
そうは思いつつ、体がチューブに引っ張られていたために水槽のふちにしがみついているだけでも体力が奪われているんだと理解して、二本のチューブを引き抜く。途端に体が軽くなり、今度は水槽のふちを乗り越えて、床に落ちることが出来た。
結構大きな音がしたのにやはり誰も来なかった。背中になにか濡れた布みたいなのがへばりついて気持ち悪い。触ると自分の髪だった。ずいぶん伸びてて、腰ぐらいまである。まとめて絞ると、びちゃびちゃと床に水たまりができた。
ふう。そのまま俺は床に寝そべり、空気を堪能していた。いつも当たり前で気づかなかったけど、空気って吸えるだけで幸せ。僕らっていなくなって初めて大切な人に気づくんだよね。空気ありがとう。呼吸、楽しい。うふうふふ。そう地面に寝そべりながら、にやにやと笑っていたが、呼吸が落ち着くにつれて、体の寒さが気になってきた。
立ち上がろうとするが足腰が弱っているのか、つるりと滑りその場でこけてしまう。七転八倒の末に生まれたばかりの仔馬のように四つ足で踏ん張って体を持ち上げ、ハイハイをしながら、前へ進む。何やら機械や俺が入っていた水槽より小さい水槽が並んでいるが、それらは動いてもいなければ、何も入ってない。その横を通り抜けて、金属の扉の前につく。開けようとすると扉に簡単なメモが貼ってあるのが見えた。
『よほどのことがない限り、絶対にこの部屋から外に出るんじゃァないよ』
どこかで見たような綺麗な字は、なぜか迫力ある女の声で再生された。
床にしりもちをついたまま、考えた。
よほどの事?はて。自分の姿を改めてみてみる。今、自分は裸でびしょぬれ。なんでこうなってるのかはわからないけど、すごく寒くて立つことも難しい。
これはよほどの事だろう。つまり出ていいということだ。
そう判断し、扉を引っ張る。すごく重いが何とか開いた。
外に出ると、大量の箱や工具が並んでいた。中央に何かを置くような台座があるが、特に服などは置いてなく、そこも四つん這いで通り過ぎる。半壊した扉を抜けると吹き抜けの階段となっていたので、階段を這い蹲って降り、廊下に並ぶ扉のノブを回して周る。手前三つの部屋は大量の女性用の服がハンガーにかけてあった。そのうち手近な一つをタオル代わりに使い体の水分をふき取り、暖かそうな柔らかい布地のコートのようなものを無理やり羽織る。背の低い女性用なのか、胸が飛び出てしまうが、少し寒さがマシになった。
それでも体力が弱っているため、さらに暖かい場所を探して廊下を進むと、奥の部屋にベッドを見つけ、のろのろと入り込む。少し埃っぽいが、日を受けて暖かな毛布と柔らかい布団に包まれて、俺は即座に眠りに落ちた。
――――――
目を覚ますと、猛烈な腹痛を感じた。
慌てて布団から飛び起き、枕もとのコートも羽織らず、入り口に向かう。寝る前は立つことも出来なかったが、歩くスピードは遅いにしろ、何とか立てるようにはなっていた。固まっている関節をぺきぱきと鳴らしつつ、俺は漏らす恐怖と戦いながら階段を下りていく。寝ている間にクソを漏らさなくてよかった。漏らしていたら――は大激怒してただろう。そう思いながら便器に腰掛け、腹痛の原因を輩出する。水槽に入っている間に入り込んでいたのか、ゼリー状のものが大量に出てくる。しばらくして、出きったのだが、いまだに腹痛は収まらない。なんなんだよ。もう。――に相談しようか。
ん?そういえば――って誰だよ。
ぼんやりと誰かの事を思い出したが、顔も名前もよくわからない。そういえば、普通に迷わずトイレに来たけど、ここどこだ?
考えたけどわからない。
分からないけど、便器に座りながら考える事でもないので、ケツを拭き、風呂場に向かった。
あっためれば腹痛も治るかもしれないし、理由はわからんがうんこしたら風呂に入ってた気がしたからだ。
風呂場をガチャリと開け、お湯を入れる。夕方で薄暗いため電灯をつけようとするが、電気がつかない。○○電力に電話だな。お湯はガスなのか普通に出るな。
電話番号ってどこで調べるっけ。
裸の仁王立ちで考えていたら、太ももの内側をつつっと何かが滴っていく感触があった。
尿漏れじゃんw
パッキン緩んで小便がもれてんじゃんw
苦笑いしつつ慌てて右手でふき取る。小便にしてはぬめっとしてたのでふと手を見ると手が真っ赤になっていた。
血じゃん…
血が俺のチンコから漏れてるじゃん…
視線を血だらけの手からゆっくり下に下ろす。
凸がたに見えるはずの俺の体形を表すチンコはそこになく、
代わりに俺の体形は胸が突き出て、まるで凹型に見えた。
あ゛ぁ?
なんじゃこりゃー!
と首をかしげながら横を向くと鏡があった。
その薄暗い夕暮れの光のをかすかに受ける鏡には均整がとれた美しい女性のシルエットが映っていた。
⇒To Be Continued…
不要不急の外出は控えましょう(戒め)




