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マギーは一人で考える3

前回のあらすじ


みんなで怒られてるときに存在を消そうとして縮こまってる女の子いいよね





逆にすげえ目立つから


そんな感じだった。


 同じ年齢の、いつも一番最初に新しい布地の服を着てきたり、キラキラ光る装飾がついた靴を履いてくる子だったと思う。私は父がそういった派手な装いや一過性の流行りのものを好まなかったから、あまりその子と話が合わず、名前は知ってるけど一緒にいることはそれまであまり無かった。


 「ねえちょっと見てほしいものがあるんだけどぉ」

 少し間延びするような特徴的な言い方で話しかけられた私は、最初は戸惑いがあった。流行に疎い私が彼が好むような嗜好品に意見を述べる事になれば、的外れな事を言うに違いなく、子供心に馬鹿にされたくないと思ったからだ。


 何人もの彼の取り巻きと一緒に学校の裏の空き地に移動すると、彼はどこから持ってきたのか、大人程の背丈に木の枝を組み合わせた人形を引っ張り出して私たちに自分の後ろにいるように言った。何をするんだろうと思いつつ、私はいつも混ざれなかった『イケてる』グループに参加しているという普段感じれなかった喜びと、『また馬鹿なことして』という見下すような相反する気持ちからか『ツン』とした態度で彼の後ろに控えていた。


 彼は私たちが十分離れていることを確認すると懐から小さな金属のロッドを取り出し、大きな声で何かを叫んだ。するとたちまちロッドの先から見たこともないような勢いで炎が噴き出た。いきなりの事に凝視したまま硬直する私たちの前で、彼は人形を焼き払い、完全に炭化させると炎を出すのをやめた。


 「すげえだろぉ。これ。」

 彼は汗だくでふらつきながらもこちらを振り向くとその場にぺたりと座り込んだ。

 「なに?なんなんだよそれ!」

 「すげー杖だ!」

 彼の取り巻きがスイッチを入れられたかのように一斉に彼のもとに走り寄る。質問をし続ける子やロッドを奪い炎が出ないか振り回したりする子など、場はちょっとした狂乱状態となっていた。


 「杖じゃねえよぉ。スキルって言って、店で買える魔法なんだ」

 男の子は汗で服をびっしょりと濡らしながらそう言った。明らかに体内の力の循環が減っていて反動で体調に影響与えているのが私にはわかった。しかしガス欠を起こしたからこそ、その子が自分の力で魔法を使っていることに疑いはなかった。


 「だ、駄目じゃない。そんな強い魔法使うと魔力切れで倒れちゃうよ」

 私は今まで見たことがないほどの魔法の出力に動揺しつつも、物知り顔で彼のもとに近寄ると、ハンカチを取り出し、必要以上に彼の汗をぬぐった。汗をぬぐっても出尽くした魔力が戻ることはないし、その時の私にはどうしたらいいか見当もつかなかったけれど、魔法に詳しいのは自分だからというプライドが虚勢を張らせていた。


 「魔法は使いすぎると倒れるし、コントロールできなきゃ事故にもなるんだよ」

 彼を介抱しながらも、数日前に父の前で指の先から黒煙を吹くだけの中途半端な魔法を使ったために、ここ毎日のようにさんざん家で言われている事をおうむ返しのように繰り返して、私は動揺を誤魔化していた。


 「ああ、正直やばいなこれ。すげえ気持ち悪いし。」

 「でしょう!使っちゃだめだよ!」

 私は自分勝手な子だったと思う。彼を介抱してる理由は、彼を心配しているからではなかった。この学校で魔法が一番できるのは『先生の娘』である私だから、だった。だから私が一番すごい魔法を使えなければならないし、間違った使い方をしてたら間違いといわなきゃいけない。でも私がそんなことを考えているなんて周りは思ってもないようで、みんな私のその場で適当に考えた指示のもと水を取ってきたり、木陰に移動させて寝かせたりなど彼の介抱を手伝ってくれた。


 「ありがとう。やっぱりマギーに見てもらっててよかったよ。」

 彼は屈託なくそう笑うと、親が輸送隊のガードをしていて、そこに来月から就職することになっていること。そのためにスキルを買ったことや、私の銀色の髪が珍しいし綺麗だということから私と話してみたいと常々思っていたけど、魔法の事には詳しくなくてずっと話しかけられなかったことなどを話した。今思えば、彼なりに命をかけた告白していたのかもしれない。


でももしあれがそうだったなら彼の告白は失敗だった。

私はそんな彼にうんうんと頷いていたけど、心はそれどころじゃなかったからだ。



―――――――――――――――



 逃げようと、慌てて駆け出そうとする足に理性でブレーキをかける。

理性と本能からそれぞれ違う指令を受け取ってがくがくと震える足のせいで私の体が揺れた。

こわばった顔をしてる?ふらついてふざけてる様に見えてる?

今の私、社長から見れば、どんなだろう?


 音もなく中年の喉を刺した棒状のなにかと肉の間に血が滲むだけのを確認したわずかな間に、私はそんなことを考えていた。

さっきまで恐怖で過去に現実逃避していた私の脳みそは、私の体の混乱とは裏腹に、昔見た水車小屋の歯車のように規則正しく回転していた。


社長の目的は、何?

最初から感情的に怒りに任せて殺すのが目的なら、外で全員嬲り殺せば十分だ。

でもそれをしなかった。いや、出来なかった。本当はやりたいのに。


出会った時から、策士ぶる男だ。と思っていた。

きざで、プライドが高くて、人から褒められるために

知らないことがあっても知ったかぶりをしそうだと。

理由はないけど、会ったときなんとなく、そう思った。


パーティの参謀として直感で動くのはしないように心がけてきたけど、今は分析する時間もなかった。


吊るした大男には吊し上げてわるかったと言い。

腹を刺した少年は腹を刺された。首を刺した中年は喉を貫かれて縫い留められた。

私には、なんて言ったかしら。まったく覚えてないけど、おそらくは


なんでそんなことをするのか、という疑問とともに考えもまとまらないうちに口が話し始める。



「じゃあ、じゃあどうして私たちの事を考えないの?こんな聞き方をしなきゃそんな事さえ!わからないの?そこの彼やおじさんにだって、ううん、外のみんなに、そうしたいという思いがあったからこんな事になったんだと思う!それを分かろうともせずに、いきなりなんで刺すの?私には力に任せた腹いせで、腹立ち紛れで、痛めつけるための理由を作ってるとしか思えないわ!そんなのがあなたの生き方?」



普段論理的に話すことを決めてる私は自分がそんな感情的になっていることを内心、驚きながら話した。




――――――――――――



私もスキルを買ってほしい。

私は学校の子供たちがこぞってスキルを買い求め、それぞれ楽しそうに使い始めるにしたがって、ことあるごとに父にそう言っていた。


しかし、父は私がスキルを買うことを決して認めなかった。

当然、学校では私は禄に魔法が使えず、人の輪から少し距離をとるようになっていた。先生の娘なのに、みんなより魔法が使えない。なんて見られることは、それまでの、わたしの、わたしが、無くなってしまいそうで、学校に行くのが、怖くて、怖くてしょうがなかった。


しかし、幸いなことに学校の魔法の授業でスキルを使うことは禁止されてたし、あの彼が倒れた時に、冷静に『処置』をしたことで、私の『魔法に詳しい』というキャラはより肉付けされて強化されていた。

ただ、学校のみんなは私がスキルを使えず、魔法もスキルに比べれば大したことが出来ないのはわかっているようで、あちらから魔法の話を振られることはなくなった。


それでもみんなにしてみれば、そんなことは大したことじゃないみたいで。

昼ご飯や運動・帰り道の道草などの遊びには相変わらず誘われて一緒に過ごしていた。


それが、ただもう魔法の話をされないことが、一番、怖くて、悔しかった。

もし、それまで生意気だったと苛められていたら、それを理由にできたのに。


悔しくて父に頼んでスキルを買ってくれるか、せめてもっと魔法の勉強を教えてほしいと言い続けた。



願いは叶って、半年後、11歳になった私は学校を変更することになった。

理由は、スキルのせいで専門の学校の生徒が減り席に余裕ができたためだった。


そこで学び始め、1か月もしないうちに、上流階級の子が父よりランクの高い魔法を使っている姿を目にした。


もう慣れているのだろう。

父は私より2・3歳上の上流階級の子が自分が使えない魔法を使う姿を笑顔で見ていた。


それでも父は生徒から馬鹿にはされていなかった。

たとえスキルで魔法を買っても、使用回数を上げるための体内の魔力の増強などの身体的な鍛錬は父が教える必要があったし、父は博学であったから、魔法の歴史や学問的な体系を教えることに力を入れることで、生徒の興味を引いていた。


ただ、父が本当にしたい魔法の指導は私だけしか受けていなかった。


人は時を経るに従い減っていった。

スキルそのものだけでなく、普及に従って急速に変化していく政情不安。

各地で頻発する反乱や力をつけた民衆の領主への要求の増大。

それにもともと高い学費も原因でもあった。


ただ、卒業する生徒も途中で中退する生徒も等しく卒業礼金はみんなきちんとお支払いして下さっていた。

学校を去るという教え子たちが、正装して持ってくるそれを父は有難く受け取っていた。


 ソルドは、あまり上流階級にいいイメージを抱いていないのか、事あるごとにあいつ等は税金を取るだけで何もわかってないと言うけれど、むしろ型ぐるしいだけで自分にも厳しいからいい人は多いと思うのは私がそういう彼らの姿を見たせいだろう。上に立つ人はそのための努力をしてふさわしくならないと結局立場を失ってしまうんだと思う。

 それにソルドは気づいてないけど、たぶんウォードも上流階級の出身の雰囲気がするのだが。リーダーなのにソルドは意外と人を見てないのが面白い。



4年たった時、学校はなくなった。スキルがあるからもう専門の学校はいらなかった。

最後まで残ってたのは私だけだった。


4年たって、4年学んだ私の魔法は結局前の学校で一緒だった男の子の魔法よりうまくならなかった。

私しかいない部屋の中で父は子弟系譜書をくれた。逆さの樹木状に伸びた枝にはこの学校を卒業した者の名前が記載されており、総じて全員の名前の後ろに学校の卒業生であることを示す『フレイ』の名称が入っている。枝をたどっていった最後にマルガウティス・フレイと新しくなった私の名前が記載されていた。

それをだまって眺めていると父は目の前にトルテ金貨の束を置いた。

「ここを出たらこれで好きなスキルを買うといい」

父は私から目をそらしてそう言った。

いきなりの事に私は系譜書を手に持ったまま、唖然としていた。

それまで父がスキルの事を自分から話すなんてことはなかったからだ。


「ああ、あとこの短杖も一応渡しておこう。本来はこれとともに修練を積みともに成長することが魔道の道だったんだが、もう不要だろうから形だけになるな。」

と私に合わせた修練杖シュラナナを金貨の束の横に置いた。


そのとき、私は自分がどんな事を言ったのか

またどんな顔をしていたかも思い出せない。


でも私が最初に取ったのはトルテ金貨の束だったことと、その数が12枚だったことは覚えてる。

その数は、私がこの学校に入っている間に父のもとを去っていった生徒の数と同じだった。



―――――



おとなしく従ってるだけの家畜が口をきいたのが予想外とでもいうように白けたような顔。

いや、ハトが豆鉄砲を食らったかのような顔。

社長は言う事を聞かなかった罰に苦しませて殺そうとしている私が逆に自分を糾弾してくるという事態に混乱し、そんな顔をしていた。論理的に言葉で感情を込めて反撃してくるとは思わなかった。そんな感じだった。


 「言われなければわからないの?あなたの下にいる人たちの気持ちは!ずっと我慢してきてるのに!そんな風だから、肝心な時にみんな言う事を聞いてくれないの!だからこんな事になってるの!」


 「ちょっと、待て。僕はきちんと金は払ってるし、みんなの待遇も悪くないと思う。仕事への参加も拒否できるし、無理やりやらせてるわけでもない。それなのにみんなの思い?何を言ってるんだ?君たちの仕事は決められたことをしたら、それだけの報酬がもらえるだけで、君たちが理念を持って計画を立てて何かするってことはないだろ?やり遂げたら報酬をもらえるし、無視して勝手に動いて損害を与えてきたら処罰になるよ。」


 感情的だが論理としてかろうじてつながっている私の言葉は社長にとって無視できるものはなかったようで、慌てて怒りの表情をおさめ、罰を与える自分の正当性を主張してきた。


 「だって、だって、私たちだって事情があるわ。受けるのが自由といわれても、病気のメンバーでもいれば嫌でも続けるしかないじゃない、それに」


 「考慮してるよ。負傷したメンバーや病気の家族がいたりすれば、前金で払ったり、薬もほぼ仕入れ原価で卸してる。僕が知る限り、医食住を保証しているギルドはないね。ほかのところは僕より条件いいのかい?他の方がよかったら僕のところに人は集まらないと思うんだ。」

 社長は甚だ疑問とでもいうかの如く純粋な少年のような口調で聞き返してくる。


 論理的に考えれば、私はその正論を前に黙り込むしかなかった。


 「君たちの気持ちを、というが、僕はきちんと考えている。特に君たちにはあの人の世話をしてもらってるから、死にそうで普通なら確率的に優先性のひくい彼らの手当てもリソースを割いてしてる。なんで僕が君たちの気持ちを考えていないなんて言えるんだ?」


 いつもパーティメンバーの参謀になろうと心掛けてきた私の理性が、彼のいうことは正しいと。論理的に正しいから彼に理があると私を黙らせる。


 それでも、ぐるぐると頭で言いたいことが並ぶ。


 ソルドたちと一緒に城を囲んでた夫婦は子供が病気で出稼ぎに来ていて、本当なら町が危険になったときに子供のもとに移動したかったのに、あなたの下なら治療ができると聞いてたからそのまま攻めて奥さんは死んだんだよ。


 ほかの人もそれぞれ事情があって、ソルドやウォードと私みたいなパーティメンバーみたいな助け合う関係がもっと広がると思って参加してる、人生の場とみてる人もいるんだよ。


 あなたは条件がいいと言ってるけど、お金を払ってると言ってるけど、モチベ―ションとかいう制度でみんなの問題はあなたが設定した基準を何度も何度も満たさなきゃ解決できなくて、それで首輪をつけて、断る理由をつぶして、危険なことをせざるを得なくなってるんだよ。


 そうやって次々と私の感情が理性に言い返す。それは細い、細い、本当に細い糸を引きあうような微妙なバランスで、何か別の違う力がかかってしまえば、一気にどちらかに傾いてしまうか、私が千切れてしまうか、もしくはすべてを壊してしまいかねない危ういものになっていた。


 そんな何が起こるかわからない絶妙なバランスの上で黙り込む私を見て、社長は私を完全論破したと思ったのか、加虐心を満たされたらしく清々しい顔をした。


 「でもたしかに僕が敵をそこまで憎んでる君たちの気持ちに気づけなかったのは、悪かったよ。子供っぽく腹いせみたいにこの二人を傷つけたののも謝る。僕、元の世界でもちょっと友達も少なくてさ。ごめんね。僕のミスだったよ。」


 勝ったからには譲歩してやろう。そういう彼なりの親切心だったのだろうか。


そういうと社長は壁に突き刺さった棒を抜き、おじさんを床に卸すと二人に片手で回復魔法をかけ、「まあ、僕、あまり負傷しないから回復魔法は重視してなくて。いま血止めと体力回復のこれしかないけど。あ、そうだ。明日にでも君にスキル屋で重症治癒のスキル買ってあげるから。それで君が治せばいい。それで君も許してよ。」と言いながら整った顔でにこやかに私の肩を叩いた。



 その言葉を聞いて私の感情は爆発し細い糸の綱引きを放棄し、理性を素手で殴り殺した。



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