無能な三十路ニートだけど、恋をした
4日目の未明
怒りに満ちた男の剛腕が唸りをあげ、俺のみぞおちにクリーンヒットする。
そして数秒の沈黙の後、自らの胃液にまみれた冷たい石畳を顔面に押し当てる様に、俺はゆっくりと崩れ落ちた。
立ちふさがる男の向こうではリンチを受けていた茶髪の娼婦が数人の人影に囲まれて座り込んでいる。
倒れ行く俺の目に一瞬彼女の顔が映り、その悲しそうな表情につられて、俺は興奮して頭に上った血がゆっくりと引いてゆくのを感じた。
男は倒れた俺を無視し、彼女に近づくと手を取り、ゆっくりと立ち上がらせる。
俺が始めた彼女を助けるための戦いは、結局、俺が地面に倒れ伏すことで一応の決着を見たのであった。
―――~何かが吹っ切れた後についての俺の回想~―――――
あれから、娼婦の集団に立ち向かったカッコいい俺。
相手は5人。こっちは2人。しかもその内一人は戦意喪失中。まるで本能寺の信長を助けようとする森蘭丸ぐらいの絶望的状況だ。
そんな完全に勝ち目にない戦いに臨んだ俺の狙いは、黒髪ショート。
敵のリーダーを叩いて指揮系統を潰しせめて茶髪だけでも逃がそうという作戦だ。
とりあえず奇襲して相手を混乱させようと考えた俺は、いきなり黒髪ショートを背後から羽交い絞めすると、全力で引っぱって茶髪から引き剥がそうとした。結果は力及ばずほとんど動かせなかったものの、『ひゃいん!』と奇声を上げて黒髪ショートは茶髪への暴行を停止。
振り返る様にこちらを見て、自分が鼻血を垂れ流した浮浪者に抱き着かれている事を理解すると、俺の見た目がよほどキモかったんだろうな。全力で暴れ始めた。
必死に暴れる彼女を全力でハァハァ息切れしながら押さえつけていると、周りの娼婦も俺に気が付いて茶髪への暴行を止めた。こいつらに一気にこられるとそれだけで詰む。これはヤバい…が、あいつらは俺を見てるだけで何かしようとする気配はまるでねえ。どうやら人の指示がないと動けない指示待ち族らしい。
これはチャンスだと思い、そのまま状況が把握できず、呆けて俺を見る彼女らが手が出せないよう、体を黒髪ショートに密着させて彼女を押さえつける内に、俺の手が彼女の豊かな双丘に『偶然』タッチしてしまった。これを読んでいる女性読者にしてみれば『そんなの狙ってやってんでしょ。マジ最低…』と思うんだろう。
しかし、これはホントに偶然だった。信じてほしい。
俺はその時の『むにっ』とした手触りが気になり、知的好奇心をくすぐられ、2・3度さらにタッチして感触を確認する事にした。これは先ほどと違い意識的な行為であるが、あくまで感触を確認するだけの知的で簡単な作業である。
下心は決してなかった。だから女性読者は俺をゴミの様に見ないで頂きたい。
感想としては
『うひゃあああああ、柔らけえええええ
女の胸ってこんなに柔らけーの?』
といった所だったろうか。
俺は感動した。
中学のマイムマイム以降、久しぶりに触れた女性の体の柔らかさに。
そしてどうせ負けてボコボコにされるならと、髪の匂いを嗅ぎながら彼女の体の前でクロスした両手で胸を揉みほぐすセクハラ攻撃を敢行すると、黒髪ショートは『嫌ぁァァァァ!』と嫌がった。それはもう盛大に嫌がった。
その嫌がり方にさらに俺は興奮。胸のドキドキもクライマックスに達し、揉む速度も当社比120%ほどに上昇した。正直に言うと、心なしか俺の体も、ちょっと『おっき』していたと思う。
ちなみにクンカクンカしたショートな黒髪はいい匂いだった。
そうやって後ろから抱きしめる様に揉み続けていると、口では嫌がる黒髪ショートだったが、体は俺のテクニックにメロメロになってたんだろうな。俺に肘鉄を加えようとぶんぶん振り回していた手も、胸を抑えるような可憐なしぐさになり、抵抗を弱めると同時に体を前かがみにして態勢を崩し始める。
その姿はまるで恥じらう乙女。マジ乙女www
おっさんに後ろから抱き付かれてるけどwwwww
彼女の態勢の崩れを感じた俺は、ついでだからこの柔らかい胸に顔を埋めてやろうと、その場に押し倒すべく奮起したが、それを敏感に察知した黒髪ショートは必死で耐える。俺も全力を尽くしたが、惜しい事に力が足りず、ジタバタしてる間に我に返った他の娼婦に引き剥がされ、地面に突き飛ばされた。
黒髪ショートは俺のテクニックで明らかに感じてたのに…今考えても空気の読めない奴らだと思う…
地面に尻餅をつき、痛ててと尻をさすりながら目を向けると、いきなり男に襲われたのがショックだったのか、彼女らのリーダーは俺に怯えて半泣きになっていた。その場に座り込んで両腕で胸を隠すしぐさに俺はさらに興奮。
カワイイ…可愛いよ黒髪ショートたん…
涙ぐむその顔に萌えええええええ!
って気分でダメージを回復。
彼女を守る様にその前に立つ4人の娼婦をものともせず、俺はゆらりと立ち上がると彼女に向かって全力疾走した。
しかし、俺が狂おしいほど愛を全開にしているにもかかわらず、黒髪ショートたんは悲鳴をあげて慌てて逃げた。
彼女を守ろうとしていた娼婦達も、鼻血を垂らしながら笑顔で向かってくる肌着姿の俺に正直触れたくないんだろうな。
俺が近づくと蜘蛛の子を散らすように逃げてったwwwww
チラリと彼女らの顔を見た感じでは、黒髪ショートたんより格段に劣る容姿だった。だからターゲットを変更せずに黒髪ショートたんを追い掛け回していたけど、大通りから少し行った先の住宅街のわき道を追いかけている内に見失ってしまった……
くそう、逃げられたのはあの4人のせいだお!
逆ギレし、あいつらで我慢しようと大通りに取って返したが、姿はすでになく、黒髪ショートたんの叫び声を聞きつけた近隣の住民が外に出てきており、リンチされて倒れていた可哀そうな茶髪を介抱している所だった。
何となく残念な気持ちで俺がそちらに歩いて行くと、なぜか住民にとっ捕まった。
どうやら、俺が茶髪を暴行したのだと思っているらしい。おそらく上半身肌着に鼻血を出している見た目が原因だろう。これは誤解を解かねばと思い。
「いえ違います、茶髪は違う人がやって、僕は黒髪ショートが本命です」
黒髪ショートたんへの興奮冷めやらぬ中、俺は紳士的にそう説明した。でもなぜか理解されずに、おととい井戸で俺を追い払ったゴツイ男に強烈なボディブローを貰うハメになった…
――――――――――――――――――――
俺はそのまま兵士の詰所に連れてかれそうになった。
詰所って事は警察みたいな感じだろうか?
てことは牢屋に入れられる?牢屋と言えば城の中だよな。
そう思い、結果的に城の中に入れるかもと地面に転がりつつも心の中で喜んだ。
頭の中では取らぬ狸の皮算用。
『ひょっとしたら飯も食えるかもウハウハ』
『日本でも食えなくなったら刑務所入ればいいんだ』
『俺はなんて頭がいいんだ』
などと考え、予想外な方法での現状打破に俺は喜んだ。
そしてキラキラと期待するような目でゴツ男(俺を殴った奴)を見ると、薄気味悪そうに視線を逸らされたが、ゴツ男は期待に違わず詰所に連れて行こうと俺を引きずりあげる。
そんな俺の期待に反して、なぜか茶髪が俺を同居人ですと説明した。
どうしようかと思ったけど、茶髪と仲良くなっとけば、黒髪ショートたんとまた会えるかもと思って否定しなかった。
結局すったもんだの挙句解放された。
俺は茶髪のケガが心配だったが、碌に反撃せず防御に徹したのが幸いしたのか腕や足に青あざがある程度の軽傷で済んだらしい。住民が帰っていった後で心配する俺に今まで見たこともない顔で優しく笑って『大丈夫だから』と一言だけ言って、彼女は俺の手を取り歩き出す。
黒髪ショートたんとその取り巻き達は俺が近づくだけで逃げたのに、俺の手をためらいなく握ってくれる茶髪は女神。マジ女神。さっき黒髪ショートが本命って言ってごめんなさい。
でも、やっぱり俺の嫁は黒髪ショートたんだ。
今でもこの手に思い出すのは今繋いでいる茶髪の柔らかな手ではなく、
ショートたんの『たゆんたゆん』の豊かな双丘の手触りだ。
いつか君を迎えに行くよ。
そう思う俺は脳内で新しい力の芽生えを感じるのだった。
―スキル【不快様相】を手に入れました―
俺のステータス
??? (状態・軽傷)
スキル
??? (脳内でなんか聞こえた。どうやらスキルがあるらしい)
持ち物
Eシャツ&パンツ…体力+1
Eスニーカー …敏捷+3
Eチノパン …体力+2
E革ベルト …魅力+1
謎コイン×10
革ジャン …防御+5
ジーンズ …防御+3
ボクサーパンツ …腕力+1
バスケット&布