私はあの瞳と共にある 2
おじいちゃん。こーたが本当に喋ったわ!
ひざにのりたいって。外に行きたいって。
外に出していい?
うん。
すごくうれしい。
でも私の言う事、は聞いてくれないの。
いいんだけど、すこし寂しいかな。
それしたら危ないとか言ってもわかってくれないの。
外出て怪我しないかとかちょっと心配かな。
やっぱり、こーたにはそういうルール理解するのは難しいから
さすがにこれはおじいちゃんでも、なんともできないよね。
―――
少し感傷的な気分になり、片っぽだけの女の子の靴を触る。
少しだけ暖かい。脱いで少ししか経っていないようだ。
そのまま進み、部屋に入る。
変電機のブウンという音が耳に入る。私が入るのを見て、研究員が話し始める。
「来たか。」
「脳波安定中です。」
「スキルの実行を切り替え開始。代行機への安定移行まで20分です。」
「問題は?」
「無いな。嬢ちゃんも大人しいもんだった」
「そうだろうな」
椅子に座り、とろんとした目で中空を見ている子に近づき、手を握る。子供特有の、温かみのある、柔らかい手だった。靴を脱ぎ、素足となった足にふれる。足首の裏がわにあの引っ掛かりがあり、少しだけ唇を噛む。
頭に手をやると柔らかな赤毛が手に触れるとともに、電極を付けるために少しだけ剃られた部分のザラザラとした感触がした。
「それでは博士も用意して来るでよ」
「ふむ」
促されて、赤毛から手を放す。
とろんとした顔。唇から涎が溢れそうになっているのを見て、置いてあるガーゼでふき取ると私は歩き出した。
―――
『博士、ちゃんと見ていなかったのか?』
女児を右腕に抱えて立つ女は私が部屋に入ると冷静な声でそう言った。
『見てはいた』
『逃げ出そうと中庭に出ていたぞ』
『それは出したのだ。私が』
『勝手な事をされては困る』
女は困ったとばかりに眉をしかめて、女児を地面に下す。しかし、肩に手を置いたまま、自分から離そうとはしなかった。
『いう事はきかせているだろう。数も増やしておる。指示通りにも動かせているはずだ。』
『今はな。』
『いう事を聞いた。その事へのご褒美で出しただけだ。』
『そんなことは頼んでいない。』
『子供じゃぞ。休ませねば集中力も持たん』
『持たせるのが博士の仕事だった。どんな事でも言いなりにできる方法があるという話だった』
『こんなに若いとは思わなかった』
『相手によって条件を変えるなどの約束はなかった。』
女はふうとため息をつくと胸元から短剣を取り出した。
『どちらにせよ、逃げ出そうとした罰は与えねばならん。』
女が屈み、手を動かすと、女児が体勢を崩した。
『これでもう逃げる事もない。博士、仕事をする時はこのように確実にするのだ。』
女は短剣の血を拭きながら女児から離れて去っていく。
『クーリー!包帯と消毒液を持ってこい!』
私は傷口を見る。丁寧な事に切り取られている。
クーリーより早く、研究員の一人が医療器具を持ってくる。
器を傷つけられた苛立ちに唇を噛みながら、麻酔を打つ。
手当てをしている間、女児は叫びもせず唇を噛んで耐えている。