売れっ子娼婦だけどピンチに陥った/薄毛な三十路ニートだけどリンチ見た
後で文章の細かい描写とかを直すかも、いつもの事だけど。
三日目の夜半~4日目の未明
いびきをかきながら私を優しく抱きしめる男の腕をそっと外すと、男を起こさないようにベットを抜け出す。立ち上がると途端にトロリと男との行為の残滓が漏れ出し、それが『つつっ』と太腿を伝いやや不快な気分になる。
私は高級そうな絨毯が敷き詰められた床にこぼさないようにやや内股気味に歩き、男の家に備え付けられている浴室に入ると、まだ温かい浴槽のお湯を手桶で汲み、自分の体を隅々まで洗い流す。
今夜の客は『当たり』の客だった。
娼館で囲われていた時からのなじみの客だが、私が娼館から放り出され街角に立つ様になった後も、私を探し出して買い続けている『太客』である。
一般的庶民の家にはこうした浴室はなく、共同浴場を使うかタライに入れたお湯を使って体を拭くぐらいの事が精いっぱいだ。しかし事務方の城勤めでかなりの地位にいると寝物語に話した男の家には浴室も用意されているし、造りがしっかりしているためか防音も完璧で、夜中でも周辺の住民を起こす気遣いをすることなく活動できる。
それに行為自体もタンパクだし、寂しがり屋なのだろう。性欲を満足させることより、私に仕事場で起きた出来事や人間関係などの取りとめのない話をする事を好んだり、優しく抱きしめて背中をさすられることを望んだりとただ甘えてくる事も、私が彼を『好いている』理由の一つだ。
もちろん男が支払う『破格の』報酬も魅力的ではあるけども。
浴室で体を洗い終え、寝室のソファの上に脱ぎ散らかしていた私の服をかき集めていると、男が目を覚ましてしまった。
「ん…行くのか…?」
私に手を伸ばし、寂しそうに男が問いかける。
「ごめんねぇ、ちょっと気になることがあって…」
下着を着ながら、男が私を撫でられるようベットの枕元近くに腰かける。
途端に男は嬉しそうに大きな体を揺らして体を寄せてくる。
「行かないで欲しいな…」
彼は私を行かせまいとするかのように、腰に手を回してくる。
私はただ静かに、優しく笑いながら服を着る。
――ねえ、街角に立つぐらいなら僕の愛人にならないか――
初めて私を探しだした時と同じ言葉を彼は口にする。
――こういう事を長く続ける気はないの――
私もあの時と同じ言葉で彼に返答する。
そして見た目と違った彼の純粋さを思い出してズキリと少しだけ心が痛む。
着替えが終わり、立ち上がった私は彼の額にキスをしてお別れの挨拶をすませる。玄関に向かう途中に彼の『カギは気にしなくていいから』という声を背に受けながら私は扉に手を掛けた。
外に出るとまだ湿り気を帯びている私の肌を、寒い夜の風が撫でていった。
――こんな寒い中でよく野宿なんかできるものだ。
私はここ数日、目にするようになった男の事を考え、そう思った。
初めて見かけた時、明らかにこの世界に来たばかりであるらしい地球の服装をしたその男は、仲間とでもはぐれたのか膝を抱えて一人で泣いていた。
その姿に私は気の毒だなとは思ったが、縄張りに居られると邪魔なので彼に話しかけて移動してもらった。彼は泣きながらも『ごめんなさい…』と呟いてどこかに歩いて行った。すごく悪い事をした気分になった。
次の日、まだ日が昇って間もないころ、客の家から帰る私は縄張りに座っている彼を見つけた。彼は城門を凝視しており、私に気付かなかった。どうやら、城から誰かが出てくるのを待っているらしかった。
そして家に帰った私が昼ごろに市場に向かうと、彼は血だらけの死体を引きずって歩いていた。死体の格好も地球の服装で、彼の仲間の一人かもしれないなと思った。そしてその前の日に彼を追い払った事を思い出して、彼の仲間を自分が殺したみたいですごく嫌な気分になった。
その日の夜、縄張りに行くと彼は血だらけの布にくるまって泣いていた。
私が立っている事に気づいて、場所を移動しようとしたので、『そこにいていいよ』とだけ言っておいた。顔を見ると、死にそうな顔をしていた。『食事もとってないのかな』と思った。
なので今日、仕事に出る前に余っていた食材をバスケットに詰めて彼に渡すことにした。初日に冷たくしてしまったお詫びの気持ちだった。
彼は渡した食事に喜んでいたようだったが、私の仕事の邪魔をしないように話しかけては来ず、食事も私がいなくなるまで手を付けないつもりのようだった。
私は彼をなぜか放っておけない気分になってしまっていた。子供の頃、公園で纏わりついてきたネコにエサを与えたら、愛着がわいてしまった。それに似た感情を持ってしまった。
そしてあの客と一緒に寝ている間に彼の事を思い出し、彼が仲間を見つけるまで、食事の差し入れだけでも続けてあげようと思った。
だから、私が再び縄張りに戻ったのは、彼に渡したバスケットを回収するためで、それ以上の意味はなかった。
シスたちはそうは思わなかった。
――彼女は北の高級住宅街を根城にする娼婦達のリーダー的な存在で、最初私が此処に来た時には、娼館から追い出された私の境遇に同情して縄張りを融通してくれたり、危険な客を教えてくれたりなど、何かと面倒を見てくれた。街角で客を取ることは娼館と違って難しかったけど、彼女に教えられた通りに客を見定めている内に、コツをつかんだ。
すぐに私を見染めた客や娼館時代の客がポツポツつくようになり、私も彼女らに対して、感謝の気持ちから、客からもらった報酬以外の贈り物やデザートなどを分け合ったりするようになり、彼女らからはとても感謝された。彼女らの仲間になれたと思った。
でもそれは長く続かなかった。
きっかけはシスの馴染みだった輸送商会の若旦那が、私を買ったことから始まったと思う。その日はたまたまシスが休んでおり、彼女の普段の居場所にいた私を彼の出した新人の使いッ走りが連れて行ったのは、明らかに偶然が重なった結果だった。
それでもシスは若旦那が私を買ったことに対して、内心面白くない感情を抱いているようで、私に対してよそよそしくなった。
私は彼女に対して心の中で謝りつつ、仕事を続けた。
それからしばらく経って、シスや他の娼婦に客が付きにくくなっている事に気付いた。
秋が深まり、寒くなってきているので客足も途絶えがちなせいだと思うのだが、彼女らにとっては、私が彼女らの馴染みを『奪っている』ように思えたらしい。
実際に私に乗り換えた客が居るという噂まで耳にした。
その内に顔を合わせるたびに敵意に満ちた目で見られるようになった。シスと仲がいい娼婦などは、私が陰で何人も客を取っていないか明らかな探りを入れてくる程だった。
それからというもの、私は『一晩に客を一人だけ』取るとわざわざ遠回りして縄張りを避けて家に帰るようにした。仲間内で許されているのは一晩に2人だが、彼女らをこれ以上刺激したくなかった。実入りが減った分は自分の値段を上げる事である程度補填できた。
シスも私が自制している事に気付いたのか、最近ではそれほど敵意を向けられることはなくなっていた――
私は正直気が緩んでいたんだと思う。
バスケットを回収するため、大通りを北に進んでいった私がふと後ろを見ると、シスの腰巾着で有名な娼婦が私の後をついてきているのが分かった。
彼女も帰り道かなと思いつつ、そのまま歩いて行くと、城門の前のT字路で西側の大通りを塞ぐ様に3人の娼婦が並んで立っており、こちらをじっと見ていた。
それを見て急に怖くなった。
同時に私は彼女らの視線が放つ意味を明確に理解した。
シスは私を許してなんかいない。
さっさとバスケットを取ってここから移動しなきゃ。
そう思い、早足で大通りを東に曲がると、その十数メートル先にある私の縄張りの前に、よく見慣れた黒髪のショートヘアーの女性が立ちはだかっていた。
私が恐怖で足を止めると、周りの娼婦の輪は狭まって来た。
シスは私を手招きして優しそうに笑った。
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――っ加減にしなさいよっ!
まだ真夜中だった。
女の声で目を覚ました。
貰った飯を平らげた満足感と疲れから監視ポイントで惰眠をむさぼっていた俺。
怒鳴りつけるような声に危険を感じ、身じろぎもせずに辺りを窺うと、俺の居るところから5メートルほど離れた大通りの真ん中で人が集まっており、何か揉めているのが分かった。
注意深く見ると揉めているのは数人の娼婦だった。
どうやら5・6人で一人の娼婦を囲んでいるらしく、その真ん中の娼婦に向かって。
「アンタねぇ、売れてるからって一日に何人も客取られたらこっちが困んのよ!」
「ルールってものがあるでしょ。ルールってものが!」
などと集団で詰め寄っている。
糾弾されているその娼婦は、周りの娼婦に怯えているのか小さな声で、
『あたしはただ…』
『…に来ただけで…』
などポソポソ呟いているがその気弱な様子が集団を更にイラつかせているようで、声を出すたびに彼女への罵倒は強くなっていく。
しばらく聞き耳を立てて状況を推測するに、彼女が客を総取り状態だったため、この所お茶引きが続いた娼婦たちがキレたらしい。水商売の話によくあるNo.1へのやっかみと言ったところだろう。この世界の女の嫉妬も元居た世界と似たり寄ったりで恐ろしいようだ。
それにしても、そこまで人気が出る娼婦ってどんなんだろと思い、街灯の薄明かりに照らし出されている彼女の顔を見ると、なんと俺にさっき飯をくれた娼婦だった。
…そう言えばここは彼女の縄張りだったな…
可哀そうだなとは思うが、娼婦にも娼婦の暗黙の了解と言うものがあるので仕方ないかと思った。昔から娼婦と言うのは下賎な職だと思われているため、世間の風当たりが強く、互いに協力しなければ生きていけないため、ルールを破るものはリンチされる事もあったらしい。自由競争に慣れた現代人からすると、理不尽な気がしないでもないが、どんな娼婦だって生活が懸かっており生きるために必死なのだ。客を分け合うという暗黙の了解によって彼女らのセーフティネットは守られているのだ。
そう俺が娼婦のコミュニティについて考察している間にも、娼婦たちの彼女への罵倒は一層激しさを増していった。
「大体ね、アンタ勝手にこっちに来て色々やってるけど迷惑なんだよね」
「元々は娼館で雇われてたのに、そこでも問題起こしちゃったんだって?」
「いるよねー。どこでも行く先々で問題起こすやつ。常識ないのかなー」
「キャハハハ、酷ーいwwww」
彼女は最初から明らかに争う意思がないが、娼婦たちは気が収まらないようで、延々と彼女を罵倒し続ける。
俺に飯をくれた時の彼女の毅然としていた雰囲気はすっかり無くなり、背筋も心なしか丸くなっており、下を向いてポソポソ『ごめんなさい』と言い続ける姿は完全に苛められっこの体勢ですでにライフはゼロ。言い訳もゼロ。もう無条件降伏状態…。
そんな彼女の様子にもかかわらず、ヒートアップした娼婦のリーダーであろう黒髪のショートヘアーが彼女を右手で突き飛ばすと、周りの娼婦も一斉に手を出し始めた。丸まって頭と顔を守る様に蹲る彼女。囲んでフクロにする娼婦。もうすでに反撃するつもりもない女にそこまでするのはさすがにやり過ぎじゃないか?
その様子を見ていて思ったが、もしかして、俺の事もあって彼女が突き上げを食らっているのか?
飲食店で俺が入店を拒否されたように、本質的にはサービス業と同じ客商売である娼婦にとって、居るだけで客が寄り付かなくなる浮浪者は何としても排除したいだろう。なので初日に俺が此処にいた時、彼女は俺に縄張りを主張して退かそうとしたし、実際、夜のこの大通りには俺の他に浮浪者はいない。そんな中、彼女は俺が此処にいるのを許してしまっていたし、彼女が俺に食事を渡して『餌付け』していたので、他の娼婦にとってみれば浮浪者を呼び寄せているかのように思えるだろう。
そうでなければ、ここまで痛めつけられる謂れもない。
そう考えると、彼女に対して本当に申し訳ない気分になってきた。
止めよう、助けようと思って立ち上がろうとして、リア充の事を思い出した。
感情に任せて、無謀な行動をして死んだリア充を思い出した。
立ち上がろうとした気持ちが、自分の中で急激に萎えるのが分かった。
何とか彼女を助けてやりたい。
でも下手に俺が止めても彼女のこれからの立場が悪化するだろうし、何より運動不足ヒキニートだった俺の腕力では娼婦にも負けるだろう。
その内に、あいつらも飽きてやめるさ。
別に殺されるわけじゃない。そこまでやらないはず。
俺が行ったら逆に迷惑になるし。俺は弱いから助けれないし。
頭の中では、言い訳が渦を巻いている。
俺の目の前で彼女は丸まってただ耐えている。
言い訳もせず、手も出さずに、身を守ってただただ耐えている。
俺は彼女から隠れるかのように寝返りを打ち、彼女に背を向ける。
靴先が足元に置いていたバスケットに当たってバスケットはからんと音を立てて転がった。
中身がカラのバスケットは小気味いい澄んだ音を立てた。
俺が見る景色の視点が急に高くなった。
何してるんだ、どうするつもりなんだ?
急に立ち上がった俺に俺が問いかける。
力じゃ敵わないし、俺は一人だぞと問いかける。
力以外に何かできるだろと俺は俺に反論する。
キモイだけが取り柄のお前には何にもできねーよと俺も反論する。
キモイだけが取り柄とかゆーな!
そう俺は俺の顔面に右こぶしを叩きつける。
吹き出す鼻血。のけぞる俺。
自分の中の何かに踏ん切りをつけて
開き直った俺は来ていた革ジャンをその場に投げ捨て
真っ白な肌着とチノパンだけになり、娼婦の集団に向け歩き出した。
禿の恩返し…
俺のステータス
??? (状態・鼻血)
持ち物
Eシャツ&パンツ…体力+1
Eスニーカー …敏捷+3
Eチノパン …体力+2
E革ベルト …魅力+1
謎コイン×10
革ジャン …防御+5
ジーンズ …防御+3
ボクサーパンツ …腕力+1
バスケット&布