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卵は雛ですらない

前回のあらすじ。


脇役を活躍させたら、なぜか総合評価が3倍になってたでござる。

不思議だね。


でも、マンネリとの感想も来て、ガイアは感想ページでタイガーリリーから出張してきた編集長と脳内会議をした。

会議の結果、巻末に追いやられ始めたジャンプ漫画のように

トーナメントとか変にバトル方面に行けばいいんじゃね?ってことになった。


ガイアはそれはどうかなって思ったけど、

現に『全然関係ない脇役を活躍』させたら3倍になったので納得した。



編集長は自信満々だった。

ガイアは実は不安満載だった。


でも、『全然関係ない脇役の活躍』で評価3倍は事実なので

トーナメントとか武闘会やってもイイかなって思った。

今は無理だけど。


そんな感じだと思う。


――兄が温めた卵―――



 女剣士が前に出る。【レッグスラッシュ】のスキルを使い、ゾンビの足を切り払う。返すショートソードで自分を狙って穿たれた長槍を撥ね上げる。

 その隙を突こうと、剣士ゾンビが2人で同時に切りかかるが、赤い鉢巻をした拳闘士がえぐるような鋭い動きで女剣士を守る様に割って入り、燃え盛る拳【ヒートナックル】で高速のワンツーを放ち、ゾンビ達の顎をパシュパシュと打ち抜くと、ゾンビ達の顔面は松明のようにパチパチと音を立てて燃え始めた。


 崩れた戦列を見逃すこともなく、ジョセフが旗下のゾンビ兵を集中させ突破しようとするが、それよりも一瞬早く前線を率いる少年が突出した二人に戻るように声をかけると、二人は慌てて戦列に戻り、再び防衛線が再構築された。


 少年の鎧が薄く光る。

 数秒の後、少年の体全体が赤く発光し、その光が集団にゆっくりと伝播する。

 その光を目敏く見咎め、ジョセフが顔を歪ませ歯噛みする。


 【総員奮起せよ】


 それは未だレベル1にも満たない状態ではあるが、まぎれもなく英雄のみが使用できるスキルであった。

 赤い光をまとった一団はさらに力を増し、ジョセフのゾンビ兵を次々と破壊していく。



 「何とも、まあ運の悪い坊主じゃな。」

 ジョセフは一歩踏み出す。

 単なる冒険者であれば、どうでもいい。

 万が一逃がしたとしても、何の影響もない。


 しかし、英雄の素質を持つ者であるなら、どんなに妥協したとしても、結局は『姫』の宿敵となる運命だ。地の果てまでも追いかけて殺さなくてはいけない。


 ジョセフはゾンビ兵をかき分けて進む。

 進んで、頬を上気させた美しい少年の前に立つ。


 「その鎧がおぬしの力を底上げしなければ」

 ジョセフはゆっくりと背中に背負った大剣を引き抜く。


 「もしくはここ以外の戦場であったならば、あるいは。」

 少年はこちらの気迫に気圧されず、槍を左前に構える。


 ジョセフは少年をじっと見る。

 確実に仕留めるため、ジョセフは少年のわずかなアドバンテージをも消し飛ばす。


 「総ゥ員、奮起ィせよォ!!!!」


 ジョセフの叫びと共に、体から少年よりも遥かに強い赤い光が爆発するように吹き出し、居並ぶゾンビ兵に次々と伝播していく。


 「願わくば、苦しめずに」

 ジョセフが醸し出す、圧倒的な『暴』は、彼が戦い始めるまでもなく、その場の形勢を一瞬で逆転させていた・・・




――血は水よりも濃い―――――



 暴剣の王の叫びが聞こえる。


 片腕の騎士は、一瞬声に気を取られそちらを見るが、ソルドは声に惑わされる事なく、辺りを見回す。櫓のそばに、陣地を構築する時に使ったのだろう、丈夫そうな草刈鎌があったので隙を見て拾い上げる。


 左手に折れた愛剣を短刀のように構え、右手に草刈鎌を構えると、ソルドは実家の農作業を思い出し、なんだか自分が子供のころに戻ったかのような感覚を覚えた。


 懐かしい感覚に浸る暇もなく、片腕の騎士が切り込んでくる。さすがに草刈鎌で受ける事は出来ず、体を反らして避ける。剣筋は身体を掠めて過ぎ去る。左手の剣で防御を固めつつ、騎士の鎧の隙間を目がけて草刈鎌を振る。狙いは外れ鎧に当たって『カキャン』と金属を引っ掻く音が響く。


 ――当たった!


 ソルドは狙いが外れたことよりも、初めて片腕の騎士に攻撃が当たった事に喜びを感じた。片腕の騎士は鎌が当たった胴をチラリと見たが、わずかな引っ掻き傷しかついていない事を確認すると安心したかのように剣を構える。


 ――打ち合いでなく、手数。


 ソルドは自分から突っ込む。騎士は予想だにしてなかったのか、ソルドの突撃に合わせて剣を振るう事も出来ず、ソルドの鎌と短剣の連撃が鎧に新たなひっかき傷を刻む。騎士はソルドの連撃を気にもせず剣を振るう。


 ――受け太刀ではなく、回避。


 ソルドは【加速】する。

 長剣や槍といった純粋な戦闘用の武器では使えないスキルだ。

 『剣士』としてのスキルではなく、盗賊や農民が農作業などで使うスキルだ。


 引っ掻く。

 避ける。

 体を反らし、切り返しを紙一重で避ける。

 失敗して皮鎧の紐が切られた。

 体にぴったりと密着していた皮鎧が少し外れ、カパカパと動きの邪魔になる。


 迷ったが、折れた愛剣を騎士に投げつけ、距離を取ると、わずかな間に皮鎧を脱ぎ捨て、厚手の服だけになる。その隙を見逃しはしないとばかりに騎士が突っ込んできたが、落ち着いて斬撃を躱す。


 鎧を捨てると、明らかに何かが変わった。


 振るわれる草刈鎌はさらに【加速】する。

 騎士に接近し、相手が剣を振るう前に鎌は一度、二度振るわれる。

 剣が振り下ろされる。

 その剣筋をまるで止まってるかのように【見切る】、体を猫のようにしならせて距離を取る事なく躱し、引きざまに相手の足を目がけて鎌を振り逃げする。鎧とは違う柔らかな手ごたえが鎌を通じてソルドに伝わった。



 ――後の結論から言うならば。

 ソルドは明らかに『剣士』向きではなかった。


 それでも、彼がそれまで剣士として活躍し、期待のルーキーとして注目されたのは、彼の天稟によるところが大であった。それに、彼の明るい性格と先天的に【リーダーシップ】というスキルを持っていたという事も大きい。


 ともあれ、ソルドの異常なほど優れた身体能力は、それが彼に不向きな職業であっても、先輩やパーティメンバーに違和感を持たせることは一切なく、彼自身もこの時まで剣士以外の職業をすることはまるで考えていなかったのであった。





 ソルドは腰袋からナイフを取り出し、左手にかまえる。

 そして、ソルドはさらに【加速】する。


 片腕の騎士の目に映るその姿は、まるで流水が流れるかのようだった。




――卵は雛ですらない――――



 目の前の老齢の剣士が振り上げる剣。


 ウォードの目にはそれが巨大な塔のように見える。

 塔が振り下ろされるのが見え、槍を肩に担ぎ自分を支点に大剣を地面まで受け流す。


 大剣が槍に当たった瞬間、その衝撃に足がガクンとたわむ。大剣は幸いにもウォードから外れ真横の地面に吸い込まれていったが、それだけでは止まらず地面をプリンのように削ぎ取り、土塊が宙を舞った。


 力を増したゾンビに圧倒された仲間は次々と倒れ、退き、散り散りとなっていた。


 ウォードの周りには彼を逃がさないようにゾンビ兵が円陣を組んでいた。

 その円陣の中で、ウォードはこの老齢の剣士と一方的な命の奪い合いをしていた。

 ただ一つの救いは、円陣のゾンビ達が襲い掛かってこない位の事だった。


 ウォードはよく耐えていた。

 組織の幹部である『剣聖』と双璧をなすほどの剣名を持つ『暴剣』はもうすでに数度振るわれていた。

 しかし、ウォードは土に塗れ、鎧もボロボロにはなっていたものの、彼は未だ身体の動きが鈍るほどの負傷はしていなかった。



 さっきまで隣にいた斧使いが、ウォードを助けようと円陣の外側から斧を振るうが、力及ばず長槍に貫かれるのが見えた。


 彼が崩れ落ちる姿が、先ほどから、何度も見た光景に似ていた。

 円陣の周囲では彼を助けようとした女剣士や重層戦士などの死体が円陣の周囲に折り重なるように倒れており、上空の櫓から見るオーマの目にはまるで戦場に二重丸が描かれているかのように映っていた。



 暴剣王は無謀な突撃を繰り返した彼らの死体を一瞥し、軽くため息をつくと、腰を落とし大剣を真横に構え空手の『息吹』のように勢いよく大気を吸い込む。暴剣王だけでなくウォードまで含めた周囲の空気が凝縮し目の前の空間が陽炎のように揺らいで見えた。


 ――たとえ、どんな攻撃だって耐えてみせる。


 ウォードは次に繰り出されるであろう暴剣王の強力な斬撃に耐えるべく凛然と構えた槍は、先ほどからの大剣の連撃でもうすでに曲がり始めていた・・・



――卵が崩れて割れるとき―――



 【超加速】そして【結末への秒読み(カウントダウン)】


 ソルドがこの戦いで身に着けたスキルを名づけるならば、それはそう呼ばれるのであろう。

 ソルドは片腕の騎士の背後に回り込んだかと思うといきなり身をかがめ、切りつけるかと思えば、逆方向に動き出す。その動きはランダムであるようでありながら、目的を持った動きを繰り返しており、まるで複雑怪奇な機械仕掛けの時計のように着実に片腕の騎士を追い詰めていた。


 片腕の騎士は全身から血を吹き出していた。頬は裂け、額は割れ、鎧の隙間からは絶えず血が滴っている。つけられた傷の一つ一つは大したことがないが、血の吹き出る総量はつい先ほどの戦闘で失った片腕の時よりもはるかに多くなっていた。


 もし、ソルドの持つ鎌やナイフに毒が仕込んであれば、勝負は即ついていたのであろう。しかし、そうではない事が片腕の騎士にとって幸いであった。


 偶然。

 片腕の騎士が振り回した剣がソルドの動きの延長線にあった。


 ソルドはいったん、動きを止め、騎士との間に距離を取った。


 ソルドが離れ、ようやく余裕のできた騎士は此処が最後のチャンスとばかりに、腰を落とし、剣を真横に構え、勢いよく大気を吸い込む。ソルドの目の前で騎士の空気が凝縮し、空間が揺らいで見えた。


 その瞬間、ソルドの全身の毛が逆立った。

 明らかに騎士が放つ次の手は、自分に死をもたらし得るものだと分った。


 頭の中は冷静だった。

 たとえどんな斬撃でも当たらなければどうという事もない。


 しかし、なぜかソルドには次の一撃が躱せる気がしなかった。

 パーティで『壁役』として活躍したウォードと、あくまでも『司令塔/アタッカー』として活躍してきたソルドの差が此処で出た。


 ソルドはゆっくりと騎士の周りを回る。そして、望ましい位置まで移動すると、【超加速】を発動する。


 まっすぐに騎士に突っ込むソルド。

 狙い澄ました騎士も剣を横に構えたまま同時にソルドに突っ込む。

 騎士が動くのに合わせて歪んだ空間がソルドに向かい移動してくる。


 ソルドはさらに【加速】する。

 騎士の目に留まらぬほどの動きで左右に動きながら前に進む。


 騎士の目にはソルドは相変わらず流水のように流れる影として映っていた。

 目を凝らし、タイミングを計っていると、流水が『単なる影』となって自分に向かってきたのがわかった。


 騎士は剣を横薙ぎに振るった。


 振るわれた剣が当たる前に、影は『ひしゃげ』、爆音と共に『千切れ』細かい『屑』になるまでに空中で爆散した。


 剣を振るった騎士の目に驚いた顔で自分を見るソルドの姿があった。

 騎士がソルドだと思った影は、先ほど彼が脱ぎ捨てた皮鎧だった。危機を感じ取ったソルドが投げつけていたのだ。


 奥の手を外した騎士はソルドがナイフと鎌を持ち直すのを見て、死を覚悟した。



 ソルドはそのまま、彼に突っ込もうとした。


 その時、先ほどよりもはるかに大きな爆音がした。


 二人の間を銀色の影が勢いよく通り過ぎて行った。

 銀色の中にわずかな金色が混ざって居るのがソルドの目に映った。


 銀色の影はソルド達のそばの櫓の支柱を吹き飛ばしても止まらず、少し離れた土塁に突っ込んで『ズバァン!』と派手な音を立て、土煙を起こした。

 

 土煙の中で、『ぱりん』と何かが割れて、『カシャン』と崩れ落ちるような音が遅れて聞こえた。



 ソルドはその音が聞こえる前から、もう嫌な予感しかしていなかった。


 ソルドも、片腕の騎士も、数少ない冒険者も、ゾンビ兵たちも。

 全員が静止し土煙を見ていた。


 土煙が引き、そこに何があるのか、誰よりも早く、

 一番早くソルドの目に映った。


 




    ⇒To Be Continued…




前書きはああ書いたけど実はここら辺のプロットは当初と一ミリも変わってません。


ウォードの装飾だらけの鎧とか細身の壁役とか意外と伏線は貼ってあったのですよ。

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