暴剣の王、英雄の卵と邂逅す
今回のあらすじ。
時々、真面目なファンタジー書きたくなります。
そんな感じだと思う。
―――ソルド、暴剣と相対する―――
ソルドは焦っていた。
目の前にいる片腕の男は、思ったより強く、今放った自身の渾身の一撃も楽々と弾かれてしまう。悔しがる間もなく、男が返す剣で逆袈裟に切りつけて来るのがわかり、あわてて身を反らしたが、剣先が皮鎧に傷を刻む感覚が鎧を電撃のように伝わり、ソルドは必要以上に後退してしまった。
新たにつけられた鎧の傷に手をやると、思ったよりも深い傷で、負傷しなかったのは奇跡と言ってもいいぐらいだ。もし、相手が片腕でなかったならば、と考えると、うすら寒い感情が首筋を伝って体中に広がるのがわかった。
相手との間に崩れかけた櫓を挟んで、回り込むように移動する。
そうして、よく相手を観察してみると、相手の鎧の紋章を確認することができた。
――やっぱり、暴剣王の弟子っすか・・・
左胸に描かれた鎧を貫く大槍の紋章を見て、ソルドはブルルと身震いした。先ほどの年老いた大男を見た瞬間に、奴が会議で『お前らは絶対に近寄るな』といわれていた人物だと一目でわかった。だから、あわてて逃げようとしたのだが、暴剣王のそばにいたこの片腕の男がいきなり突っ込んできたため、抜刀してしまい、逃げる機会を失ってしまったのだ。
ソルドは落ち着いて、持っていた長剣を握り直し、ジリジリと櫓を回り込む。
そうして一呼吸。
相手が息を吸う、その瞬間に合わせ、弾丸のように飛び出す。
使ったスキルは【タックル】。
突っ込む自分に相手が斬撃を合わせようとするのが見え、【ステップ】で横に躱す。
間髪入れず、再び【タックル】を使用し稲妻のように距離を詰め、突っ込む体ごと長剣を叩き込む。
相手が片腕だから、
体重の乗った一撃ならと。
受け太刀ごと弾き飛ばせると考えての一撃だった。
しかし、片腕の騎士は次の瞬間、受け太刀をしようとはせず、ソルドの斬撃を『断ち切る』が如く剣を振り下ろす。
相手は片腕だった。
こちらのタイミングは完璧だった。
体重もうまく乗っていた。
練習通りの、先輩直伝の【必殺技】だった。
金属というよりも、石が壁にぶつかるような音がした。
ソルドの体は騎士の横を弾丸のように通り過ぎた。
勢い余って、ソルドは地面に倒れ込んだ。
慌てて起き上がり、剣を構えると違和感を感じた。
ソルドの愛剣は握り拳2つほどの部分を残し、無残にへし折れていた。
それは安物ではなく、マギーやウォードが自分たちの取り分を減らして、資金を貯め、貯めに貯めて購入したパーティ自慢の業物だった。だから、ソルドは自分の剣が折られた事のショックより、マギーたちへの申しなけないような感情が先に出た。
マギーたちが此処に居たら、あいつらなんていうだろうか。
怒るだろうか。『逃げて』って言うだろうか。
あいつらの援護があれば、もっと楽なのにな・・・
そう考えていると、片腕の騎士の後ろに暴剣王、『ジョセフ』の姿が見えた。
――ウォード頼むから逃げていてくれ・・・
先ほど、自分に向かってきた『ジョセフ』を止めるため、奴に立ち向かっていった親友の姿を探す余裕は今の彼にはなかった。
―――ウォード、ゾンビ兵相手に奮戦す――――
ウォード達は、剣王率いるゾンビ兵相手に『よく持ちこたえて』いた。
彼の周りには彼の知り合いの初級冒険者が集まり、一団となって、曲輪の切れ目から突入してくるゾンビ兵を押し留めていた。
「なぜじゃ・・・」
暴剣王『ジョセフ』は気に入らなかった。
ゾンビ兵は曲がりなりにも彼が自ら兵士として訓練したものだ。長槍兵と剣兵2人が一組で動いており、集団としてみるならそこらの民兵とは比べ物にならないほど強い。足りないとすれば、実践の経験位のもので、それさえあれば、自分の部隊として運用するには問題ない。事実、最初の衝突でぶつかった冒険者は何もできずに打倒され、ぼろ布のように串刺しにされた。明らかに場馴れしているベテランが状況に見切りをつけ逃げていくのを確認し、あとは逃げ遅れた初級冒険者ばかりとなった瞬間にこちらの勝利は確定していた。
だからこそ、そこから自分は一歩引き、ゾンビ兵に敵の殲滅を任せたのだ。
それが、明らかな初級冒険者の『群れ』を相手に手古摺っている
じっと、集団を観察していると、先ほど自分に立ち向かってきた少年の、その体格に不釣り合いな全身鎧に描かれた紋章が薄く光るのが見えた。
・・・・・・・・
ウォードは馬が苦手だった。
それに父や兄たちとは違い、母親に似たのか、筋肉の付きにくい体つきだった。
「この子は戦に向きませんよ。残念ですがね」
数年前、家のかかりつけの医師が風邪にかかったウォードを診察した時、ついでともいうように、両親に話した一言が、彼の運命を決定づけた。
ウォードの家は武家として名高い地方貴族だったから、それは(三男坊であるとはいえ)彼が果たすべき義務が履行できないという点からも不名誉な事であったし、何より家の後継ぎとしての可能性がほぼ絶たれたという事も指していた。
それでも両親は頑迷な人たちではなかったから、彼を文官として育てようとした。なぜならウォードは運よく母親に似ていた。女性のような顔立ちと華奢な体は、明らかに魅力にあふれ、官僚として出世するのに向いていたという理由もあった。
ウォードは兄たちのように寄宿舎には入れられず、両親の元で育った。
ウォードはよく両親の期待に応えた。
絵画や詩の朗読も平均以上だったし、何より『華』があった。
文学校の成績も期待以上によかった。
両親も、家系に文官の者が少ない事もあってか、兄達の活躍よりもウォードの成績の方に興味を示すほどだった。
ある時、寄宿舎に行った兄が戻ってきた。
兄はウォードと違い、筋骨隆々としていた。
ウォードは久しぶりに兄と遠乗りに出かけた。
ウォードは馬に乗れなかったから、兄の後ろに乗り、二人で出かけた。
野原を駆け、森を抜け、水辺で涼んだ。
涼んでいる間に、彼はうとうとと寝入ってしまい、
水辺の魔物の接近を許してしまった。
気づいたときにはもう魔物は目の前にいた。
兄が言うには、その時、ウォードは慌てることなく優雅にと立ち上がると
凛然と立ち、ただ魔物を見たらしい。
それは、気高く、アシャージャヤの女神のようなウェーブがかった金髪が風に吹かれて、流れたのが、まるで神々を描いた絵画のように見えた。
気が付くと、兄は魔物を殴り飛ばしていた。
兄だからという理由もなく、体が勝手に動いたという事だ。
それから二人は馬に乗り家に戻った。
ウォードは帰路、馬上で兄に『僕も兄さんみたいになりたい』と打ち明けた。
両親に何度も言ったのだが、ウォードを文官にすることに夢中になっている両親は聞く耳を持たなくなってしまったらしい。
兄は、何日も考えていたが、寄宿舎に戻る日が来ると、黙ってウォードに自分の鎧を貸した。幾ばくかのお金を渡し、知り合いの冒険者に彼の教育を頼んだ。
・・・・・・・・
ウォードは前面に立ち、襲い掛かるボロボロのゾンビが振るう剣を槍で受け止める。ゾンビの力を利用しそのまま剣を受け流すとともに、左手を支点に槍を回し、石突きでゾンビの顎を割り砕いた。
「うおおお!」
ウォードの攻勢を見て取った、横の斧使いが巨大な戦斧を思い切りよく振り回す。戦斧はちょうど伸びてきていたゾンビの長槍を圧し折って吹き飛ばし、折れた穂先は剣士ゾンビの頭に突き刺さり、奴らの進撃をさらに阻んだ。
「全員、ここを死守せよ!」
ウォードの叫びと共に、冒険者の体に力が漲る。
それ自体は、ウォードの持つ全体スキル【激励】の効果であった。
しかし、彼らを活躍させているスキルの効果は明らかに初級冒険者のスキルである【激励】のレベルを超えていた。
ウォード19歳。
兄の手より知り合いの冒険者に委ねられて2年。
明らかに彼はこの戦いで何か変わろうとしていた。
⇒To Be Continued…
あとちょっとだけニートは休み。