『あの人』は今!
前回のあらすじ。
騎士達のトップはむっちゃいい人だった。
最初はシスさんが敵に突っ込むはずだったのに
書いてる内になぜか白菜が突っ込むことになった。
まあいいやと思ってガイアは原稿を上げた。
そんな感じだったと思う。
――中央通り沿いの商店から マギー&ケミー ―――
その時、私は城門から1ブロックほど南に位置している建物の窓から、身を乗り出すようにして、ソルド達の様子を見ていた。
その建物は3日前の会議で私たちの班が『社長』から割り当てられた建物で、城門から遠いわけでも、近いわけでもないという、これと言って利点もなく、また欠点もないという微妙な位置にある。また建物自体も左右を大きなアパートメントに挟まれた、それほど大きいわけではない3階建の狭い個人商店で、今、私とケミーがいる3階はたった2部屋しかない上に住人の家具が所狭しと並べられて、とても生活しやすいとは言い難い状態だった。まあ、大通りに面する1階は商店という事もあってか、頑丈な扉と外壁をしていたので、私たちを残して前線に参加しなければならないソルド達は喜んでいたんだけれども。
「大丈夫かなぁ…」
私の横から外を覗きつつ、ケミーが呟く。彼女の手にはこの作戦のために『社長』から支給されたロングレンジ・クロスボウが下げられているものの、滑車は引かれていない。どうやらまだ扱いに慣れていないみたい。かくいう私も支給されたロッドを持ってはいるものの長さや重みがいつもと違うため扱いづらく、さっき敵が城門に突っ込んできた時も、『こそっ』と左手に持っている馴染んだ短杖で申し訳程度の魔法を撃ち込んでいた。
そうはいっても、私の正面の大きなアパートメントに陣取っているベテランの冒険者たちは同じように『社長』から支給された強力な武器で問題なく『狙撃』できていたので、自分たちが力不足ってだけかもしれない。
「攻めろって言われてるわけじゃないし…ウォードたちだけじゃないし…」
そう、ケミーと『自分』に言い聞かせるように呟く私の目には城門を遠巻きに取り囲むウォードたちの後姿が映っていた。
――城門周辺 ソルド&ウォード 他――
そんな風にマギーに心配されていたソルド達だったが…
「ソルドくーんの!ちょっとイイとこ見ってみったい!!」
「OK!」
「あ、そーれ、シュートォ!シュートォ!!」
…意外な事に彼らは実に楽しそうだった。
沸き起こるヤジと手拍子に応じるかのように、彼は手に持った石を大きく振りかぶると城門に向け、思いっきり投げつける。
投げつけた石は(彼が軽鎧姿のため)勢いのない緩やかな放物線を描いて『ひゅるひゅる』と飛んでいき、前で矢弾を防いでいた仲間の頭を越え、門のへしゃげた石造りの城門に吸い込まれて、その奥に槍を構えて行く手を阻んでいる全身鎧の騎士の兜に『運よく』あたり、『ペケン』っと情けない音を上げた。
途端に広がる大歓声。
「あーのバッカに当たったぜェ、当たるよゥwww」
「逃げてもイイ↑ンダヨゥ↑ww」
飛ばされるヤジの盛り上がりも、さらに勢いを増した。
まあ、当てられた騎士は別にどうという事もなく、仲間たちと列を組んで長槍を構えており、騎士に当たった石もそのままに床に落ちて、同じように無意味に転がる矢や石や手斧などの仲間入りをしただけだったのだが。彼らにとってはそんなことはどうでもいい事だった。
彼らは単純に騎士たちを煽っていたのである。
だからソルドの隣にいるイカツイおっさんは上半身裸になり、同じように胸をさらけ出した女冒険者とイチャつきながら飛んでくる矢を棒切れで撃ち落としていたし、ソルドに続くかのように横にいたウォードは、友人から渡された胡椒袋(馬鹿にするんじゃない。魔物相手にだってよく効くし、何より結構高い)を全身鎧にもかかわらず一生懸命に投げていた。(さすがにコントロールが定まらず、これは横の城壁に当たって『ベトリ』と落ちた。)
それにソルド達から少し離れた後ろでは、『籠り』が始まってから『ヤジ要員』として動員された彼の知り合いの初級冒険者達が盾などで矢を防ぎつつ、『よわっ!騎士弱っww』や『騎士どーもビビってる!!ヘイヘイヘイ!!!』などの大合唱をしている。ちなみにヤジのうちいくつかは『社長』直伝のもので、かつて社長がこの町に来る前の地で覚えたものらしい。
今、こうして城を取り囲んでいる彼ら。
攻め始めた最初は敵の騎士たちと城門を挟んで行ったり来たりの攻防を繰り返していた。当然にソルドとウォードも敵と切り合ったりして、上手く敵を誘い出し、マギーたちの集中砲火で葬っていたのだが、5人ほど倒したところで、敵がこちらの作戦に気づいたらしく攻めてこなくなったのだ。
だから、彼らはこうして挑発をし続けている。
彼らが会議でこの『ヤジ』作戦を聞いたときには
「そんなの上手くいくわけねーwwww」
と思っていたのだったが。若い彼らにとっては、仲間同士で大さわぎできる楽しい事でもあったのでノリノリで実行している。
そうはいっても、所詮は子供の遊びみたいなものなので、はたしてこんな事で効果があるのかと言われると…
これが意外なほどに、ものすごく効いていた。
時折我慢できなくなった騎士が勢い勇んで突っ込むのだが、その体に矢や魔法が面白いぐらいに吸い込まれ、炸裂し、数秒後には城門の外で何もできずに転がっている。時々、怒り狂った騎士が集中砲火に耐え抜き、ヤジを飛ばした初級冒険者に切りかかろうとする場合もあるが、その時はソルドや先輩方が止めてるから彼らは時折飛んでくる矢以外には騎士に対しては何の危険も感じていなかったのである。
…あくまでも『城の騎士に対しては』なのであるが…
その時、騎士を馬鹿にしていたソルドはふと胸騒ぎを感じた。後ろを見ると大さわぎする仲間たちのはるか彼方。大通りを大きく2ブロックは下がったところにある天幕。天幕の内部から光が漏れだしているのが見えた。
「やべえっ!また来るぞっ!」
「なんでこのタイミングでっ!」
「逃げてっ早く逃げてっ!!」
同時に周りの誰かが叫ぶのが聞こえ、さっきまでの大さわぎが嘘のように、降り続ける敵の矢も気にせず、全員がクモの子を散らすかのようにその場から逃げだしていく。
そしてワンテンポ遅れて天幕から真っ白い人の頭ほどの太さの光線が城門に向けて放たれ、城門を守っていた騎士を貫通し、その奥の城に吸い込まれるように撃ち込まれた。
「よかった…今回はまっすぐ飛んだね」
ソルドと共に大通りが交差する角の建物に逃げ込んだウォードが安堵をこめて言った。天幕の中にいる『あの人』が初陣で緊張していることもあってか、今日のコントロールは今まで付き合った練習の中でも見ない位に『最悪』と言えるものだったが、今の一発は珍しく、上手く敵に命中したのだ。
そう彼らが気を抜いた瞬間、急に光線がぐらついたかと思うと横向きに滑るようにずれ、城壁をバターナイフのように切り裂きながら移動していった。光の筋は見ているソルド達が『逃げろ』と叫ぶ暇もなくズルズルと目標からずれて動き、彼らとは逆の角の建物を巻き込んだところでようやく光線は途切れた。
「勘弁してほしいぜ・・・」
「挑発で普通に攻めていけそうだしね、もう止めてほしいな・・・」
自分たちの幸運に感謝しつつ、ソルドが死の恐怖にバクバク鼓動を止めない心臓を落ち着かせて光線に巻き込まれた対面の建物の様子を伺うと、建物の内部で天井でも落ちたんだろう『ガラガラ』という音と共に中に逃げ込んだ仲間のの阿鼻叫喚な叫び声がこちらまで聞こえてきた。どうやら何人かが巻き込まれて犠牲になったらしい…
その嫌な現実から目を背けるように、敵がいるであろう城門の方を見てみると、城壁は東側の壁の真ん中あたりを十メートルほど光線に『えぐられ』て上半分が崩れ落ちていた…
「・・・・・・」
「・・・・・・」
その様子を見てベテランの冒険者も含む全員が圧倒されていた。
人間の到達できる限界を明らかに超越している『超級兵器』の恐ろしさに。
上級冒険者である先輩方とソルドたちのような初級冒険者の能力には絶対的な差がある。彼らの中には素手で岩を割る事もできる戦士もいれば、はるか先を疾走する魔物を狙い澄まして穿つ狩人もいる。また局地的ではあるが大雨や雷と言った自然現象を操る魔導師だっている。
でも、そんな彼らであってさえ、厚みが5メートルはある城の城壁を瞬きするほどの『一瞬』で半壊させるほどの力を持つ者はいない。
また、彼らの基礎能力だけであってもスキルを駆使したソルドの斬撃に余裕で耐えることができるし、たとえ雷や大火球の直撃を食らっても、次の瞬間には立ち上がり戦闘を続けるだけの体力と防御力を持っている。しかし、そんな先輩方であっても、
『あの人』の光線の前には恥も外聞もなく逃げ出すほどなのだ。
「・・・帰れるものならもう帰りてえよ・・・」
ソルドはこの時初めて、自分をこの組織に紹介してくれた尊敬する先輩の泣き言を聞いた。ソルドにとってそれは2重の意味でショックだった。
彼らは冒険者だ。冒険者は基本的に自由業だ。気も荒い人間が多い。だから本来なら前に仲間がいるにもかかわらずそんな光線を使われた時には「仲間をなんだと思ってるんだ!この糞!!」と文句をいいながら天幕に突撃し、使用者をタコ殴りにして仕事を放棄してしまうのが普通なのだ。生家が子だくさんの農家であり、生活に追われる両親の愚痴を聞き続けて育ったソルドにとって、その自由さと強さにあこがれて冒険者になったのだ。
そんなソルドの理想であった冒険者の先輩の『強さ』が揺らいだ上、仕事の放棄という自由な行動まで『いろいろ理由』があってできないでいる。
――俺がなりたかった冒険者ってこんなもんだったんだろうか?
頭に芽生えた疑問と社会の現実に悶々としながらも彼が建物から出ると、城の城門から敵の騎士たちが引いていくのが見えた。どうやら騎士達もあれの恐ろしさに気づいたらしい。
どちらにせよ、敵が引いたのなら、これからは作戦通り、城内での戦闘に移るころになる。
これでようやく普通の戦闘ができると、外に出たソルドがふと後ろを振り返ると、大通りに『でん』と設置された天幕からは空気の読めない光が再び漏れ出していたのだった・・・
今は削除済みのガイアの過去作品を見たことがある奇特な人なら、あの人が誰かはわかるはず。
追記:なんか書き方に足りん気がする、でも何が足りんかわからん。
あとで読み返してなんか嫌だったらここ書き直すかも。