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白菜の分水嶺

最近、勝手にキャラが動く。


今回タイトルの仮名称は、戦え!フィフティ『シス』!!って題名だった。


いや、センスがないのはわかってたけど。



 「警護当番の者のうち重層装備のある兵は前面に出て敵を押しとどめなさい!無いものは敷地内の建物に登り、城門を突破されないように、弓などでサポート!他の者は速やかに装備を整え、広間に集まりなさい!」


 シスは鎧姿のまま食堂や廊下を巡りながら矢継ぎ早に指示を出し続けていた。取りあえずは当番の者に時間を稼いでもらい、その間に迎撃するための作戦と小隊間の連携を取ろうという考えだ。彼女は自分の指示が適切かどうかはわからなかったのだが、何となく普段の警護の様子を見たり、日々の業務報告を受けている内に感じ取った経験から、軍隊とはおそらくそういう風に動くものだろうと見当づけての指示だった。


 頭の中には、先ほど窓から見た光景が焼き付いていた。城門から放たれた光に貫かれ、その場に崩れ落ちた騎士。その映像が針で刺されるかのような胸騒ぎと共に、何回もフラッシュバックされていた。


 (なんでこんなに私は怒ってるんだろう。)


 かつて自分たちの住む館にやってきた『姫』の喋り方を真似、急ぎながらも凛然と見えるように歩みを進める。そうしながらも彼女は自分の頭の中を巡る感情に半ば苛立ちを感じていた。


 (だって、別にどうなってもいいじゃない。こいつらなんか・・・)


 そう思いながらも声をかけ続け、途中わかれて召集をかけていたオーマと合流し、ともに広間に向かう。


 自分たちが声をかけて回る時間は5分に満たなかったため、集まってる人数は少数かと思っていたのだが、「軍規が腐っている」と評されている黒騎隊といえどもさすがは軍隊、広間には小隊長以下非番の騎士のうち8割ほどがすでに集まっていた。


 (こんなにいたんだ…)


 居並ぶ面々の中、堂々と玉座の前に立つ。そうすると自然に自分の前に並ぶ騎士達。彼らは隊の半分ほどの人員しかいないが、よく見ればその中には今まで部屋の前で護衛をしていた顔馴染みの騎士もちらほらいた。その中でも居並ぶ列の右端にいつも自分たちに下ネタを言っていく、お気に入りの護衛騎士を発見したシスは、彼が未だ前線に送られていない事に妙な安心感を覚えた。




―――――――――



 「敵は大きく二手に分かれております。一つは正面。もう一つは搦め手」

 広間の床に無造作に広げられた、畳2枚分は優にあろうかという大きな地図を前に白菜は状況を説明していた。


 「面白いぐらいに、正攻法だね」

 地図を挟んで、『姫』の対面に立つ銀の鎧に身を包んだ爽やかな青年が涼しげに感想を述べた。


 「敵はなんなんスか?」

 我慢できずにそう俺が口を出すと、『白菜』は『黙ってろ』とばかりに俺を睨み付けたが、爽やかな青年は笑顔を浮かべながら「この町の冒険者とマフィアが手を組んで攻めてきてるみたいだよ。」と教えてくれた。


 青年はこの城に詰めている黒騎隊の部隊長であり、姫の弟でもあるザナドゥさん。以前、俺がバールに繋がれて泣いているときに華麗にスルーしていったイケメンだ。今回も無視されるかと思ったが、先ほど広間に彼が遅れてやってきた時、わざわざ広間の端っこにいた俺を見つけて「やあ」と挨拶してくれた。どうやら姉の彼氏と思われてるらしい。そのまま彼と世間話していたら自然と俺たちの前に地図が広げられ、小隊長たちが集まり、軍議が始まったのだ。


 「まあ、組んでいるとは言ってもごちゃ混ぜってわけじゃなくてね、裏と表で役割分担しているし、隙はない感じだね。あはは。」

 そう言って軽い感じを醸し出しつつ状況を説明するザナドゥさんがよほど気に障ったのか、『白菜』は一段と声を大きくして軍議を続けた。


 「一番の問題は正面です!」

 いきなりの大声にビビる小隊長たち。


 「いいですか!姫様!!搦め手にはモトマノの配下とみられる集団が攻めてきております!」

 そういうと、そばにいた小隊長の一人が城の裏手に『さっ』と黒い悪そうな顔の人形をポンポンと置いていった。どうやら彼は白菜の部下らしい。到着が遅れてるって聞いた本隊だけど、俺たちが白菜を孤立させた事もあって子飼いの部下だけ先に呼び寄せたんだろう。


 「こやつらは大した人数ではありませんが豊富な物資を持っております!特に銃火器という卑劣な武器を使ってこちらの射手を狙撃しております!」


 白菜の説明に合わせて大砲やら鉄砲のような絵を地図に書き込んでいく白菜部下。彼も騎士の一員だと思うのだが、意外と絵がうまくて感心する。


 「しかしながら城の裏手には堀があり十分な水量もあるため、練度の低い兵であっても十分に持ちこたえられるでしょう!たとえば今、守っている『黒騎隊』のような!!」

 説明に込められた嫌がらせに地図を取り囲む小隊長たちから舌打ちが飛び交うが、白菜は何事もなかったかのように説明を止めようとはしない。ちなみに白菜の説明に合わせて白菜部下が搦め手に置いた『黒騎隊』の人形はマフィアのそれよりも情けなくて弱そうな顔だった。


 「そして、問題の正面!!ここには何の信念も持たない、欲望に穢れた冒険者どもが大挙しております!!!」


 説明に合わせて城の城門付近に大量に置かれる人形。色はバラバラだが、顔は一様に下品な笑顔で、まさに白菜の説明の通りに見える。つうか、わざわざこれ作ったんだろうか…白菜はこの城の中でやる事もなく、よっぽど暇だったんだろうな。


 そう思いながら、並べられた人形を見ていると、どうも並べ方に規則があるようで城門の

周辺には体の大きい人形が、離れた場所や建物などには痩せた人形が置かれていた。


 「正面の冒険者、奴らの何が問題かと言いますと、それは奴らの組織力です!」

 白菜の宣言と共に城門から城の建物周辺に置かれる『黒騎隊』の人形。


 「奴らは城門を攻めてはおりますが、決して突破しようとはしておりません!」

 白菜部下は身体の大きな冒険者人形たちを城門に『ググッ』と寄せた。


 「そんな敵の様子に自分たちが押していると勘違いをした、勢いだけが取り柄の『黒騎隊』が突っ込むとォ!!」

 地図の上ではアホそうに笑う悪意に塗れた人形が城から城門に突っ込んでいく。


 「敵の後方に潜む魔術師やハンターどもが一斉射撃しィ!」

 白菜部下は持っていたアホ人形に小さな矢をブスリブスリとハリネズミのように突き刺していく。


 「哀れ体力だけが自慢の『黒騎隊』は何もできずに死にますッ!!」

 白菜の演説に調子づけられたのか白菜部下は楽しそうにハリネズミとなったアホ人形を地図外に放り投げた。さすがにこれには周りが怒ったようで、白菜部下に殴りかかろうとする小隊長もいたが、爽やかな笑顔のザナドゥさんに止められていた。


 「また、奴らは城を取り囲む城壁から入ろうともしておりません!そのため、先ほどの姫様の指示通り、黒騎隊は城壁の上の弓狭間から城門の周辺にいる敵兵に向けて弓を射っておるのですが・・・」

 荒れる軍議をまったく気にする様子もなく、説明を続ける白菜の指示通り、城門の横から延びる城壁の上に並べられる黒騎隊の人形。そこに矢の絵がかきこまれる。


 「奴らは、この射手に向けて謎の『怪光線』を放っており、『黒騎隊』は城壁ごと打ち抜かれて死にますッ!!」

 言った瞬間、黒騎隊人形を放り投げようとした白菜部下はそばに立っていた黒騎隊の小隊長に殴られていた。



 「じゃあ、何もせずにおけばいいんじゃないスか?」

 『俺』は喧嘩を始めた小隊長たちをあえて気にせず『しれっ』と軍議に参加した。


 「いや、それはどうかな。」

 白菜は俺を完無視する気満々なので相手にされず、返事をしたのはザナドゥさんだった。


 「あの謎の『怪光線』、結構破壊力あるみたいでね。城壁を貫通しただけじゃ止まらなくて、近くの獣舎も破壊してるぐらいだからね。」


 「つまり!今すぐに!あの『怪光線』を止めなくてはいかんのですわ!!」

 白菜はザナドゥさんの言葉を引き継いで、『姫』に向かい高らかに宣言する。


 「それにはッ!こんな明らかな挑発にも乗ってしまうような低レベルな黒騎隊には不可能ッ!」

 そう叫びながら白菜は白菜部下を殴り続ける『黒騎隊』小隊長を指差した。


 「敵の連携の裏を掻く頭脳と経験を持ちッ!敵の集団を跳ね除ける随一の力を持ちッ!何より敵を畏怖させる圧倒的な存在感が必要ッ!!そうでございますな?姫様!!!」


 「そ、そうであるな・・・」

 急に話を振られた『姫』は若干震え声であったが白菜は自分が『姫』を怯えさせてることにも気づかずに絶叫し続ける。


 「なので!姫様ァ!どうか儂に!!どうか、この儂にィ!!正ォー面の突破をお命じくだされェ!!!」


 …以前、『姫』から老人扱いされた事がよっぽどショックだったんだろう。それでどうしても汚名返上したいんだと思う。子供じみた人形を使ってわかりやすく姫にプレゼンテーションする準備をするぐらいに。


 そういう事情をみんな薄々は感じていたのだが、それでも必死に叫ぶ、あまりにも芝居じみた老剣士の行動に、笑顔のザナドゥさん以外のその場にいた全員が若干引き気味に老人の絶叫を聞いていたのだった。





    ⇒To Be Continued…




ジジイが好き勝手やったせいで、途中から展開がまったく変わっちゃった

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