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無能な三十路ニートだけど異世界来た  作者: ガイアが俺輝けと囁いてる
~レティルブルグの戦い (歴史の分水嶺編)~
34/89

嵐の前の・・・

前回のあらすじ


ガイアがアイデアでなくて、俺たちはシットコムみたいなことしてた。



そんな感じだった。


 シスさんは切り取った金髪を軽く湯で濯ぎ、紐でまとめ簡易なウィッグをつくっていた。それを軽く頭に合わせて、上からフルフェイスな兜をかぶる。体格が姫よりも少し小さいからどうかと思ったが、鎧を着てみればそんなに差は感じれれないぐらいだ。


 「こんなの絶対に上手くいくはずないじゃない…」と明らかに沈んだ声でつぶやく。俺もこんなんでイケるかは怪しいと思うが、他に方法がない。しょうがなしに我慢してもらうことにして、俺は髪がザンバラに切られ、無残な状態となった姫の頭をテレビで見た西洋の死刑囚みたいに布で包み、そのまま死体をカートに乗せる。


 「じゃあ、行きますか…」と話しかけると、『姫』も不精不精と立ち上がり、カートを転がす俺にトボトボとついてきた。



――――――――――



 護衛騎士の襲来から何とかやり過ごした俺ら。あれから俺は即行で逃げようとしたのだが、書斎を出ようとしたところ、シスさんに引っ掴まれるように止められた。


 『なんかまだ用があるんですか?はよ逃げましょうよ』とそちらを訝しげにみると、『ちょっと待ってよ…あたし…死んだ事になってるんだけど…』と言われて気づく。


 正直、この時俺はテンパって自分の事しか考えてなかった。だから、適当に『そうっすね』と答えてそのまま去ろうとしたのだが、服を引っ掴んだシスさんは俺を逃がす気ゼロ。逆に関節を極められて書斎の奥のソファーに押し付けられた。


 正直、俺はもうどうでもよかった。自分さえ助かれば。姫が死んでこの城の奴らが困ろうが、シスさんが逃げれなかろうが、浅野がこの責任を取る事になろうがどうでもいいと思ってた。シスさんもそれを敏感に察知してたんだろう。もし逆の立場だったら俺が見捨てられてるだろうし。


 


 それで、何とかシスさんに逃げる方法を与えて、俺とは別に逃げてもらうことにしようと思った。たまたま部屋の角に置いてある姫の全身鎧(掃除のとき除けたのだがアルミでできてるみたいにカルカッタ)が目に入ったので、適当に姫の振りする?ってフルフェイスみたいに顔が隠れる兜を渡す。


 「無理でしょ」とシスさんは鼻で笑って拒否した。


 俺は「だいじょぶっス。シスさんオーラあるんで、尊大で偉そうな感じで行けば余裕っす。」と答え、なに姫と声質が似てますし何より姫より綺麗じゃないっすか。リーダーシップも持ってますんでイケるっすよ。第一、姫より可愛らしいんで騎士にもモテモテじゃないっすかね。と畳み掛ける。



 当然、自分がやるわけじゃないのでテキトーだった。今考えると可愛いってなんだよ。姫の振りするのに1ミリも関係ねえだろうと思う。



 そうしてたら、間の悪いことにさっきの護衛騎士がまたやってきた。


 俺たちは書斎ソファーに座っていたため、シスさんは脱衣所とかに逃げることもできず、とっさに兜をかぶって誤魔化した。正直、かぶるタイミングが微妙なうえ、服がメイドのままなので、言いだしっぺながらにこれはキツイと思ったのだが、意外なことに騎士はソファーに座るシスさんをみて、あわてて一礼して部屋の外に出て行った。頭だけ具足で首から下はメイドなのに疑問に思わねえ護衛はアホか。そういえば、さっき本来の部下じゃないとか言ってたから、姫の普段着とか知らねえのかもしれんが。


 

 何はともあれ、二人とも逃げる手段ができた。やれやれ、一安心だ。じゃあこれでと思い俺はバックれようとしたら、シスさんにつかまった。曰く、あたしをこんな状況に追い込んで自分だけ逃げようとしたらばらすぞって。


 しょうがなく、俺はシスさんと一緒に部屋を出ることになった。死体を持って。まあ、出た後はそれぞれ自由に逃げればいい。シスさんはそんな俺の心中を知ってか知らずか『あんたと知り合ってから不幸な事ばっかり起こる、どんどんドンドン状況が悪化してく…もうやだァ』とボヤいてた。


 よく考えたら、俺が今まで関わった人間で幸せになった奴いねえな…昔から俺をいじめたやつは事故に会うやら、話しかけてくれた友達はテスト中に腹痛起こすやら、姉の恋人は俺と会ってすぐ実家の会社が倒産して姉と住み込みで旅館で働くようになったりとか…。浅野もこっちに飛ばされたな…会社の同僚もだ。飯くれた女神もリンチされるやら、エリーは監禁されるし、上着を盗った乞食と俺を殴ったゴツ男はゾンビ化してた…。いろいろ便宜を図ってくれたルーキーたちは故郷が町ごとゾンビ化して、姫に至ってはコケて事故死。俺も含めてみんなド不幸になる…。こんなに前科あるのに浅野はよく俺と友達づきあいしてくれるもんだよ…。



―――――――――――――



 しょうがなく、俺とシスさんは外にでることにした。死体持って。部屋をでるその前にふと気づいたのだが姫をエリーに生き還してもらって、死んだ事をないことにしたらどうだろう。姫を操ってエリーを含めて俺らを逃がすように命令すれば全部元通りだ。そう言ったら珍しくシスさんは俺を誉めた。



 部屋を出た俺らは廊下をスルーと通り過ぎた。華麗に。『姫』が出る時、護衛になんか言われるかなって思ったが、姫の振りしてるのに礼儀正しくされん。『ちょ、ちょっとこいつと出かけてくる』に対し、そっけなく『そうですか。』の一言。付いて来ようともせず、扉の前で立ったまま。さっきもキチ○イとか言われてたし、どうやら姫は嫌われてたらしい。


 そのまま姫の死体持って歩いてく。地下に行こうかと思ったが、なんか不安なので浅野に協力してもらおうと思い、待機部屋に行くことにした。シスさんはいい顔をしなかったが、俺たちじゃ地下がどうなってるのかわからん。顔の広い浅野ならいろいろ知ってるだろうし、俺を清掃員として紹介した手前、あいつも共犯みたいなもんだ。手伝いはしても俺たちを売らないだろうと思ったからだ。


 その途中、運の悪いことに白菜爺に会ってしまった。


 白菜の姿が廊下に見えた時、俺たちはとてつもない絶望感に襲われた。さっきの護衛騎士たちは『俺たち姫の部下じゃない』と言っていて、『姫』に対しても適当な態度だったが白菜は姫のお目付け役なんでごまかしが効きにくい。心の底で『向こういけ爺。ボケてろ。老眼で彷徨え。』と願っていたが、奴は死体を積んだ俺のカートの後ろを『コソコソ』と歩く『姫』の姿を見咎めると人の良さそうな優しげな笑みを浮かべてこちらにやってきた。



 「どうしましたかな?」

 と白菜は年少の孫娘に話しかけるかのように『姫』に尋ねた。


 「ちょ、ちょっとな。」

 『姫』は多少挙動不審気味に答えた。それでなくても城の中でフルフェイスの兜をかぶってるんだ。見た目からしてかなり怪しくて、何か隠してるのが丸わかりだ。


 その態度はいたずらを見つかった小学生みたいで、部外者のようにぽつんと突っ立ってる俺から見てもなんだか微笑ましかった。俺から見てもそうだったんだから、『姫』のお目付け役である白菜にしてみたら可愛くて仕方なかったんだろう。


 「いけませんなぁ、いけませんなぁ。ちゃあんと自分のやった事を説明できないようでは人の上に立つ者の資格はございませんぞ」と人懐っこい笑顔を浮かべながら茶化すように言うと、『姫』の背中に手をやって、俺のカートの前に連れてくると死体の前に立たせた。



―――――――――



 シスの胃は急性胃潰瘍状態になっていた。


 理由は自分の横に立つ大柄な老齢の剣士。助けにもなりそうにない目の前の疫病神。それがもつカートの中の全裸に布を頭に巻いた死体。すべてがシスのストレス源だった。あまりにも強大なストレスは、シスの肉体のみならず、精神をも蝕んでいた。


 状況を説明しろですって?


 明らかに人が死んでいるのに笑顔で説明を求めますの?

 どうやって説明したらいいんでしょう?

 素直に言う?それとも誤魔化す?

 何も言わずに突っぱねたら、どうかしら?

 反抗期みたいに思われて、苦笑いされて助かるんじゃないかしら?

 ううん、ダメね。

 そういう態度取りそうにないと思うのよね。

 お姫様だからってそういう事するのはお上品じゃないわ。



 …シスの精神はストレスのあまり、幼児退行を引き起こしていた。奇しくもそれはかつて神王都の城下町において比較的裕福であった両親の元、流民の系譜でありながらも珍しくも『教育』を受け、上流階級に交じって暮らした幸せだった短い日々の記憶だった。


 そんなシスの精神にまともな受け答えが期待できるであろうか。何十もの思考の神経回路が交錯し、選択し、取捨し、最後に選ばれたのはあまりにも稚拙で、シスの持つお姫様のイメージとはかけ離れたものだった。



――――――――――



 「ま、『ままごと』してたら死んだ!」


 その言葉を聞いたとき、俺は血の気が引いた。突っ込みどころが多すぎて。


 姫様はままごとしねえし、ままごとで人は死なねえし。そもそも、ままごとって単語が今まで出てきてねえし。ままごとってまるで幼女の言い訳じゃねえか。エリーでも最近やっとらんぞ。


 そんなこんなで俺はカートから手を離し、もうすぐにでも走って逃げれる体勢だった。




 意外なことに、白菜爺は『ままごと』を疑問に思わなかった。


 『なるほどなるほど』と得心がいったとばかりに苦笑して頷くと、「まあ姫様は悪くありませんぞ」と言いながらカートから姫の体を『よっこいせ』とばかりに引っ張り出す。だらりと垂れた姫の手が地面に擦れてジャリジャリと音を立てたのが印象的だった。


 「ば、馬鹿にされたんだ!」


 シスさんは焦ってたんだろうな。自分の言った事と白菜が姫の死体を引き摺りだした事に。『傷物のくせに、馬鹿にされたんだ』『無礼討ちにしたんだ。』と苦しい言い訳を言い続ける。その言い訳が明らかに何か隠してるのがわかり、逆にかわいく思えてくるほどだ。


 白菜もそんな『姫』様を可愛く思ったんだろうか。


 「無礼ですな。そんな女をわざわざ姫が埋葬する必要ありませんぞ。」と笑顔で話すと、持ち上げた姫の両腕や足を体に巻きつけるように『バキバキ』と音を立てて丸め始めた。いきなりの蛮行に唖然とする俺たちの目の前で、骨をへし折られながら固められる姫の体。ちょっと待ってという隙もなく、白菜は丸めた姫の死体を窓からブン投げた。


 「あっ」という俺と『姫』さまの声を受けながら、姫の体はまるでバスケットボールのように窓から飛んでいき、城壁を超えたところの茂みに『ガサガサッ』っと音を立てて消えて行った・・・。ちなみに白菜は可愛い『姫』のやんちゃな失敗を上手く隠してあげたとでも思っているのか、ちょっと満足げでいい笑顔だった。


 そのまま白菜は『儂は老眼ですから何も見えませんでしたぞ~』と楽しげにいいながら俺たちの元を去って行った。


 俺たちはさらに混迷する事態にしばらく( ゜д゜)ポカーンとしていた。


 ふと気が付いたら、俺の手にいつの間に持っていたのか血まみれの灰皿があった。凶器を捨てようとしてシスさんがカートに入れてたんだろうか。いつの間に取り出したのかわからんが、怖くてこれも窓から投げ捨てた。



―――――――――――――




 俺は引き攣った顔で姫の部屋に戻った。



 俺はあのまま逃げようとしたんだが、シスさんはやってきた部隊の伝令に連れて行かれそうになり、周りに聞こえるように役者がかった声で、『そなたが気に入ったぞ。そなたは部屋住みとして私に尽くすように』と有無を言わさない命令をしたため逃げれんかった。


 俺を部屋まで連れてきた騎士は俺があまりにも悲しそうな顔をしているのを見て同情的になったんだろうな、持っていたウイスキーみたいな酒をくれた。


 騎士が出てくと、俺は姫の部屋に一人になってぽつんと立っていた。なんか所在がなくて殺人現場の書斎に戻った。



 そしたらまた血まみれの灰皿が床に落ちてた…



 意味不明な灰皿に泣きそうになるが、血が付かないように指先で摘まんでそのままゴミ箱に捨てておいた。



 それから俺とシスさんは『姫』の振りとその丁稚という綱渡りの生活をした。

 おおよそ三日ほど。


 その間の出来事を箇条書きにしようと思う。。


 ・俺のブレスレットが壊れて文字化けしてるので、姫のブレスを代わりにつかってみた。姫のブレスレットは白地になんか象嵌みたいな金色の装飾がしてあり、なんか高級な感じだった。ためしに着けたら呪われてたらしく取れなくなって泣いた。文字化けは治ってた。


 ・白菜から聞いた報告。城に詰めてるのはフィフティザナドゥとかいう姫の弟の部隊らしく、白菜と仲が悪い。多分姫とも仲悪い。姫の直下の部隊はあと2・3日で到着。白菜があと少しの辛抱ですぞと嬉しそうだが、俺たちにとってはあと2・3日の猶予しかねえってこと。


 ・エリーはわかんねえ。なんか博士?が研究してるらしい。あんまり話題に出てこない。



 ・浅野は俺の事が気になってるようだが、部屋の外に出ると騎士やら白菜やらがまとわりついてくるので話しかけれんようだった。シスさんも浅野が嫌いなのか進んで呼んだりはしなかった。


 ・血まみれの灰皿は捨てても捨てても戻ってきた。姫が幽霊になって凶器を持ってきてるのかと思い、怖くてシスさんと身を寄せ合って寝た。2日目にブレスレットで情報見ることを思いつき、装備ステータスを見ると【血染めの黒き世界を統べし灰皿『フィフティヌティア』】と大層な名前になっていた。どうやら伝説の武器的なアイテムになったらしい。何度拭いても血が噴き出してくるので普段は風呂場の水桶に突っ込んでおくことにした。







    ⇒To Be Continued…






新しい職業を取得しました


――英雄殺し――


全能力↓(呪い)生命――(祝福)



俺のステータス


【基本職】ニート 【サブ職業】英雄殺し(呪い)




腕力  31(やや弱い)

体力  25(弱い) 

器用さ 16(貧弱) 

敏捷  14(貧弱)  

知力  66(やや高い) 

精神  14(貧弱)   

愛情  36(やや弱い) 

魅力  19(貧弱)  

生命  ――(リンクを開始します)←祝福???

運   ――(計算を放棄します)←呪い???



スキル

【高等教育】Lv.27

【不快様相】Lv.12 ↑(上がりすぎだろ…)

【鈍器術】 Lv.14 ↑

【盾術】Lv.13

【】←なんかかっこだけある。呪いのブレスだから?


称号スキル

【空気な存在】



持ち物


E金縁のブレスレット(外せん…)

E浅野からもらった服一式…体力+2敏捷+2

E【血染めの黒き世界を統べし灰皿『フィフティヌティア』】

  …攻撃+87

  それは伝説の武器だ。

  それは英雄の魂を吸い取った。

  それは聖血を滲ませる。☆☆☆☆☆

  それは生命エネルギーによる障壁を展開する☆☆

  それは生命エネルギーによる障壁を相殺する☆

  それは持ち主のもとに帰還する。


  ~世界を統べえる英雄を道半ばにして葬った鈍器、吸い取られた英雄の嘆きとその魂は魔獣素材でないにもかかわらず灰皿を魔道具として機能させる~



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