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無能な三十路ニートだけど異世界来た  作者: ガイアが俺輝けと囁いてる
~レティルブルグの戦い (歴史の分水嶺編)~
32/89

レティルブルグ殺人事件


 急に立ち込めた雲で薄暗くなった室内を照らす窓に、ぽつぽつと降り出した雨が軽い音を立ててぶつかっている。

 それに呼応するかのように右手に握る、真っ黒な灰皿から『たらり』と液体が滑り、床の絨毯に『ぽたぽた』と赤いしみを残した。


 「何…やってんのよ…」


 床に横たわる白い肢体の向こう側から黒髪ショートの女性が呆然としながらも声を絞り出す。その場の止まりかけた時を動かすかのように、空を切り裂く雷が近くに落ちた。


 「あんた、一体全体何やってんのよ!!!」


 激しい稲光とつんざく雷鳴は彼女の叫びに重なって響いた。






―― レティルブルグの戦い ~姫騎士の仕掛けた王手~―――




 『姫騎士フィフテヌティ』とは『覇者争乱史』の初期に登場する女将軍である。

 好敵手であったレティル公に追い詰められながらも、九陵関の突破やエティチカの争いでの騎馬隊による敵陣分断など数々の武名から根強い人気を誇り、歴史物に強い大手出版社が主催する好きな武将アンケートでは常にトップテンにランクインするほどだ。


 彼女が当時はまだ少なかった人の治める都市であるレティル公の居城『レティルブルグ』を攻めたことに端を発したレティルブルグの戦いは、その後の『覇者争乱史』で活躍する数々の有名人物が『綺羅、星のごとく』登場することにより、歴史家からは『人の時代の夜明け』とも言われている。



 歴史の大きな分水嶺となったこの戦いについては、覇者争乱の初期に行われたこともあり、その詳細が殆ど記録されていなかった。特に戦中での姫騎士の突然の死については諸説あり、


 弟による暗殺

 地元有力者であるモトマノの刺客に殺された

 粒子魔法での狙撃、ないし巻き込まれる事による事故死

 レティル公の残党による復讐


等が言われているもののどれも決定的な証拠があるわけではない。

 『覇者争乱史』においても版を重ねるたびに結末が変化していき、現在では歴史的事実と反し城の中庭で2人の魔人と三つ巴の切り合いの末に非業の死を遂げたことにされている。結果として彼女に対する読者の願望が織り込まれた形だ。


 しかしながら近年、3主神の筆頭であるアシャージャヤ家当主交代に際し、戦いに関する調査文書が一般公開され、新事実が明らかとなった。


 文書に記載されていた新事実はただ二文のみ。


 アーサー、古くからの友人であるオウマを城中に引き入れる。

 (中略)

 オウマ、姫騎士を倒す。


 ただただ、これのみである。


 オウマとはいったい何者なのか。

 歴戦の英雄であり、武芸にも優れる姫騎士を倒せるほどの戦士。

 しかしその後のアーサーの足取りは広く知られているが、それを追えども古くからの友人であるはずのオウマがその後に出てくることはない。おそらく、オウマとは何かの暗喩であり、それはひょっとしたら神々の一人ではあるまいか。私はこの点に注目し…(後略)


 -東タミア大学 歴史学教授 サミュエル・劉の講演より抜粋-




―――――――――――――――――――――




 殺意はなかった。

 もしあったとしても、いわゆる未必の故意と言う奴だ。


 あの時、俺が姫のパンツを穿こうとしたその時。

 俺はいきなり脱衣所の入り口まで蹴り飛ばされた。


 衝撃を受けた脇腹の痛みに混乱しつつ、起き上がると明らかに殺意のオーラを放つ裸の女がずぶ濡れで立っていた。どうやら、姫のようだ。しかも間の悪いことに変質者が自分の下着で遊んでいるところをご覧になられたらしく明らかに激怒。濡れているはずの髪の毛まで怒りのオーラで猫のしっぽみたいに膨らんで広がっている。


 その視線の先には俺。ちなみに上半身は着衣しているが下半身は丸出し。それにいまだに顔面には姫のパンツ。パンツを手に持ってれば言い訳もできたけど顔に被ってるから言い訳が非常に難しい。


 こんな時、イケメンだったら『勘違いだ』っていえば何とかなるんだろう。勘違いだって言わなくても、殴られるだけで済むんだろう。


 でも俺は、単なる無能なニートのおっさんだ。

 だから俺は逃げることにした。姫のパンツをかぶったままで。


 頭の中は意外と冷静だった。

 「姫はマッパ(真っ裸)だから、部屋の外まではこないだろう。」とか

 「すまん、浅野。あとは任せる。ごめんな。おまえなら何とかできるよ」とか

 「パンツ被ってるから、正体ばれてねえんじゃね?って無理かwww」とか

 「他の人に知られる前に城外に逃げよう」とかものすげえ冷静に考えてた。

 


 甘かった。

 脱衣所のドアを開けた次の瞬間、俺は姫に追いつかれて、いきなり後ろから襟首をつかまれた。

 苦しさでその場で立ち止まる俺。

 ふと後ろから危険を感じて首を傾げるようにする。それも急角度で。

 すると、さっきまで俺の頭があった場所を姫の拳が空を切って通り過ぎ、そのまま姫の拳は半開きのドアを『ばりっ』っと貫通した。


 「ちっ」っと残念がる姫。ぱらぱらと空を舞うドアを構成していた木くず。

 俺はそんな木くずを顔に浴び、後ろから延びる姫の拳がドアを貫通して刺さっているのを穴が開くほど見つめる。もうドア穴空いてるけど。


 そんな俺の様子を見ながら、姫はため息をつきながら

 「また、新しい清掃員を頼まねばな…」と気怠そうに呟いた。


 さっきまでの冷静さが嘘のように、俺は暴れた。

 無我夢中で暴れる俺にもかかわらず、姫は微動だにしなかった。

 どうやら、基礎能力が違いすぎるらしい。見た感じ普通の女性なのに。


 そのまま俺は脱衣所(結構広い)の反対側までプロレスのハンマースルーみたいにブン投げられた。

 たたらを踏みながら壁にぶつかる俺。視界の隅で真っ裸の姫が走り込んでくるのが見える。

 壁際の俺にそのままとび蹴りをかまして殺す気なんだろう。

 俺はさっきのドアを貫通した拳の威力を思い出して恐怖のあまり失禁した。


 その時、走り込む姫が床に落ちた何かを踏んでその場で派手にズッコケた。

 ちょうどとび蹴りをかますべく踏切った足で踏んずけたらしく、大股を広げた格好で倒れる。体が濡れているためかその恰好のままこちらに滑ってくる姫。もちろんあそこは丸見えだ。俺の方に来たのであわてた俺が小便洩らしながらジャンプしてかわすと、姫は俺のいた場所におもっきり滑り込んで壁にぶつかった。床にたまってた小便がその勢いではじけ飛んで、黄色い滴をあたりに散らした。感想としては姫が美人だからそれもあってなんかの格ゲーのエフェクトみたいで幻想的だったwww。


 倒れた姫から離れひとまず落ち着いた俺。

 姫が身動き一つしないので、恐る恐る近づいて様子を見る。


 倒れた姫の足の裏には茶色のものがこびりついていた。

 どうやらこれを踏んづけて派手にコケたらしい。

 一瞬、「おれ、小だけじゃなく大も漏らしていたのかな?」と思ったが、それは溶けたチョコレートだった。くすねてポケットに入れていたのが浴室の蒸気で溶けて地面に落ちてたんだろう。


 倒れたまま動かない姫に「いろいろごめんなさい。あと、大股開きありがとう」と思い。

 両手を合わせて拝んでおいた。内訳は謝罪が少し。感謝がほとんど。


 そのまま俺は脱衣所を出た。


 ちょうど、騒ぎを聞きつけたシスさんがリビングからこっそりとこちらを覗いていた。


 俺は何か聞きたそうな顔をしている彼女と話そうとした。


 その時、いきなり俺の真横から野生動物のように姫がとびかかってきた。

 俺は書斎の机の上に倒された。

 姫は真っ裸のまま俺に騎乗するかのようにのしかかり、首を絞めてくる。

 姫の体についてたんだろう。俺の小便の匂いとなぜか血の匂いが鼻を衝く。


 姫の顔は振り乱した髪に邪魔されて見えない。

 だけど、それが余計怖い。

 首を絞める姫の手を外そうとするが、びくともしない。

 

 首を絞められた俺の視界がぼやけ、視界に赤いものがにじむ。

 俺は必死で机の物に手を伸ばす。

 何か固いものに触れた。


 それを右手で握る俺。

 とても必死だった。

 右手に持ったのはさっき見た金属製のペーパーナイフだと思ってた。

 それで姫の手を刺してひるませようと思っただけだったんだ。

 

 そして俺の右手に掴まれた真っ黒な石でできた灰皿は。

 【鈍器術】のスキルを適用され。


 無防備な姫が俺の首を離すまで『何度も』打ちつけられたのだった。





  ⇒To Be Continued…








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